セックスをするときに痛い、気持ちよくなれない……といったお悩みは、とてもセンシティブな問題。それだけに「誰にも相談できない」「情報をどうやって探せばいいのかわからない」など、人知れず悩んでいる方も多いと思います。
そこでHELiCOでは、性交渉の時のお悩みや対処法を、「女性編」「男性編」に分けてご紹介。「女性編」の今回は、女性が悩みを抱えやすい性交痛や不感症について、原因やメカニズムなど知っておきたい基礎知識を解説します。当事者の女性だけでなく、男性にもぜひ知ってほしい、性交渉時のお悩み。まずは知ることから始めてみませんか?
セックスするときに痛い……。何が原因なの?
「性交痛」とは、セックス中に感じる腟の痛みのこと。痛みを感じる理由はさまざまですが、挿入時に痛む場合、その多くは腟が十分に濡れていないことが原因です。また、大きく分けて「腟の入口付近が痛む」場合と、「腟の奥のほうが痛む」場合があり、それぞれ原因が異なります。
腟の入口付近が痛くなる原因は?
女性の体は一般的に、キスや優しい愛撫など心地良い刺激を受けると、性器周りの血流が増し、腟は体液で潤います。さらに、腟の中も充血して弾力が増してくるため、いわゆる「濡れた状態」となり、ペニスを受け入れやすい状態に。
しかし、性反応(興奮)が不十分なうちに挿入していたり、ホルモン分泌の低下によって潤いが不足していたりすると、性交痛の原因になります。性反応が起こるためには、行為に没頭することもポイント。過去に痛い思いをしていると、その記憶が障害になって行為に没頭できないという問題も起こります。
そのほか、外傷や出産による傷、外陰部の手術の後遺症、感染症などによる腟炎、先天的な外性器の形態異常に加え、女性性機能不全のうち「骨盤・性器の疼痛と挿入の障害」などが、入口付近の痛みの原因になることもあります。
腟の入口付近が痛いときの対処法
腟の潤い不足で痛みが生じている場合には、潤滑剤(水溶性潤滑ゼリー)を試してみましょう。潤滑剤が多めについているコンドームもあるので、それらを使うのも手です。ただし、オイルベースの潤滑剤はコンドームを傷めてしまう可能性があるので注意が必要。コンドームの選び方については、「どう選ぶ?どう使う?コンドームソムリエAiさんが伝授」で詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
入口部の粘膜や皮膚に傷があって痛みが生じているなら、患部にワセリンやバームを塗って保護すると有効な場合がありますが、くれぐれも無理は禁物。女性器の形状が原因で痛みが生じている場合には、治療によって改善できることもあります。
腟の奥が痛くなる原因は?
腟の受け入れ準備が整っていないうちに、無理やりペニスで腟の奥を刺激されると、痛みを感じることがあります。そのほか、セックスの体位によるものや、子宮内膜症や膀胱炎といった病気によるもの、手術やがん治療(放射線治療や化学療法)の影響によるものなど原因は多岐に渡ります。また、パートナーとの関係性や性虐待の経験など、心理的な要因から性的興奮が起こらなかったり、性行為への不快感から痛みが生じたりすることも。
腟の奥が痛いときの対処法
セックスのときに腟の奥のほうが痛い場合、体位を変えることで解決できるケースも多くあります。一般的には、騎乗位よりも正常位から始めるとペニスを受け入れやすいとされているので、試してみてください。また、二人の体格や体力、ペニスの大きさ・硬さ、子宮の位置やかたち、求めている快感、興奮の度合いなどによっても、痛みの強さや痛む位置は変わってきます。脚を開くか閉じるか、曲げるか伸ばすかなど、バリエーションもたくさんあるので、二人が「気持ち良い」と感じられる体位を見つけてみましょう。
痛みを我慢し続けていいことはありません。「痛いから、もう少し優しくしてほしい」など、正直に伝えられるような関係性を、パートナーと築いておくことも大切です。
ほかにも、奥を突かれると痛い場合には子宮後屈、下腹部に痛みが走る場合には子宮内膜症など、病気が原因の可能性も考えられます。対処法をいろいろと試してみても改善しなかったり、セックス後に出血したりする場合など、不安なときは婦人科で相談してみましょう。
出産後や授乳中、更年期以降に性交痛があるときの対処法
出産後や授乳中、更年期以降の時期は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が低下することで、腟が乾燥しやすくなり、性交痛も起きやすくなります。潤滑剤を使ったり、エストロゲンの腟剤(処方薬)や塗り薬を使ったりすると、腟が潤い性交痛が和らぐことが多いです。婦人科で処方してもらえるので、相談してみるのもひとつの手です。
セックスで感じない……。「不感症」の定義とは?
パートナーのことは好きなのにセックスで感じない、イクってよくわからない……。「不感症」とは、医学用語や病名ではなく、俗語として使われている言葉です。
前述したように、通常はセックスの過程において脳が興奮すると、女性の体はいわゆる「濡れた状態」に。さらに興奮が最高潮に高まると「オルガズム」(=イクと表現される状態)に達したあと、幸福感のなかで興奮と快感は緩やかに引いていき、平時の状態に戻っていきます。
しかし、この過程においてまったく性的興奮が高まらず、濡れてこない女性も。こうした状態を医学的には「性的興奮の障害」といいます。また、セックスで感じないという状況を、現代では「性的興奮が起きない」場合と、「オルガズムに達していない」場合と分けて治療法や対処法を考えることが一般的です。
不感症のさまざまな原因と対処法
性的興奮の障害には、どのような原因があるのでしょうか。ここでは、「感じにくいことをなんとかしたい」という人に向けた対処法を、原因ごとに解説します。
1性欲が強くない、セックスに関心がない
「イチャイチャするのは楽しいけれど、セックスはそんなにしたくない」「義務感でなんとなくしている」という場合。もし「セックスを楽しみたい」という気持ちがあるのなら、自分はどうしたら気持ちよくなれるのか、セックスや性的興奮に興味を持つことから始めてみましょう。セルフプレジャー(一人エッチ)から始めてみるのもおすすめです。
2十分な性的刺激を受けていない
性的興奮が高まる前に挿入に至るようなセックスを繰り返していると、「セックス=気持ち良いもの」と感じられなくなってしまうのは当然で、あなたに原因はないのかも。十分な性的刺激があれば感じられるという場合には、不感症ではありません。次の(3)に記載している内容を試してみると良いでしょう。
3気持ちの良いポイントがわからない、性的なことに嫌悪感がある
女性には、自分の性器を触ったことがない、一人エッチの経験がないという人もじつは少なくありません。あるいは、思春期に性的なことを避けてきたり、汚らしいという偏見を持ったりしたまま大人になると、性欲にも影響してきます。
このようなケースでは、自分はどうしたら性的興奮を得られるのか、気持ち良くなれるのか、まずは自分一人で積極的に探求してみるのもひとつの対処法。セックスは、カップルの重要なコミュニケーション手段であり、心身が満たされる素敵な時間、知的な行為でもあります。ドラマや小説のセックスシーンで性的興奮を感じてみたり、ラブグッズを使って一人エッチを楽しんだりしながら、「セックスは気持ちの良いこと」というポジティブな感情を育てていきましょう。
4エストロゲンの不足で性的興奮を感じにくい
性交痛のところでも解説しましたが、エストロゲンが不足した状態では腟の潤いも不足し、性的興奮を感じにくい状態になることがあります。更年期の影響であることが一般的ですが、ストレスや出産といったライフイベントで一時的なエストロゲン不足になることも。婦人科に相談してみましょう。
5性器の形状など、体に感じにくい原因がある
ごく稀に、女性の性感帯の一つであるクリトリスや腟の形状の問題から、性的刺激を受けにくくなっている場合があります。気になる場合は、美容整形外科で手術をしてもらうことも可能です。
自分の快感ポイントを知ろう ~セルフプレジャーのススメ~
セックスは義務感から我慢してするものではなく、本来はお互いが楽しむもの。そして段階を踏んで、徐々に興奮や快感を高めていくものです。もしパートナーが間違った先入観を持ったまま行為をしていても、無理に感じているふりをする必要はなく、やめてほしい場合には思い切って話してみてください。
コミュニケーション不足は、感じ方にも影響してしまいます。どんな刺激で気持ちよくなるのか、痛い・気持ち良いなどを自分の言葉で伝えられるのが理想です。そのためには、まずは自分の体や性的な反応に関心を持つことも大切。一人で楽しむセルフプレジャーの時間を持つこともおすすめです。最近は、手に取りやすいラブグッズもたくさん販売されているので試してみてください。
性のお悩みは、人にはなかなか話しづらいものですが、だからこそパートナーとのコミュニケーションを大事にしてみて。お互いの悩みごとや困りごとを話してみれば、二人にとってよりよいセックスをするための解決策が見つかるかもしれません。
- 教えてくれたのは…
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- 宋 美玄先生
- 産婦人科専門医、医学博士、丸の内の森レディースクリニック院長
一般社団法人ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事。大阪大学医学部医学科卒業。周産期医療、女性医療に従事する傍ら、テレビ、書籍、雑誌などで情報発信を行う。ベストセラーとなった『女医が教える本当に気持ちいいセックス』、近著『女医が教える オトナの性教育 今さら聞けない セックス・生理・これからのこと』など著書多数。