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多様な性を描いた映画5選。作品から得る人生のヒント

性についての悩みを誰にも打ち明けられず、一人で抱えてしまっている人は少なくないと思います。

今回は、ジェンダーやセクシャリティーの面からさまざまな映画評、書評などを執筆されているライターの鈴木みのりさんに、性にまつわる悩みを描いた名作映画を5つ紹介していただきます。抱えている違和感を解く、ヒントが見つかるかもしれません。

鈴木みのりさん

ライター・作家。クィア理論、フェミニズムへの関心から映画評、書評を執筆。『キネマ旬報』『現代思想』『新潮』『すばる』などに寄稿している。近刊に『「テレビは見ない」というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む』(共著、青弓社)、早稲田文学増刊「家族」号に短編小説が掲載。
Twitter:@chang_minori
Instagram:@wshmnrk


INDEX
さまざまな「性の悩み」に寄り添う物語。一人ひとりの生き方に共鳴する5作品とは
家族構成は母2人、子2人。『キッズ・オールライト』
代筆されたラブレターを読み、同性に心惹かれていく『ハーフ・オブ・イット 楽しいのはこれから』
婚姻制度から社会の「生きにくさ」に迫る『ウェディング・バンケット』
トランス女性の友情を描いたコメディードラマ『タンジェリン』
ジェンダー、性的指向、人種、貧困など複合的な差別を描いた『ムーンライト』
あとがき

さまざまな「性の悩み」に寄り添う物語。一人ひとりの生き方に共鳴する5作品とは

今回選んだ映画作品は、同性への恋愛感情、性的な好奇心や、トランスジェンダーの人々といった、一般的とされない、性的マイノリティ(性に関する社会的弱者)に焦点を当てています。

ただ、異性愛と同性愛、出生時に割り当てられた性別のまま生きるシスジェンダーと性別移行するトランスジェンダーのあいだにもグレーゾーンがあります。はっきりとは線引きできない、しかしたしかに性的マイノリティとして社会から見えづらい部分に光を照らすような物語を選びました。

読者の皆さん、特に女性は、「女 / 男らしさ」を期待されたり強制されたりする性別役割規範によって、就学・就労の機会を遮られるなど抑圧を受けやすいと思います。また、「強さ」や「自立・自律」を求められて、苦しんでいる男性も少なくないでしょう。

そんな個々の生き方や悩みと共鳴する部分が見つかることを祈ります。

(※)シスジェンダーとは性別による違和感をもたず、性別の移行を悩まない人と説明されるのが一般的です。ただ、シスジェンダーの人々すべてが性別役割規範を受け入れているわけではありません。なのでより正確には、トランスジェンダーに対する嫌悪に持続的に苦しめられない、または苦しむ可能性のない人といえます。

家族構成は母2人、子2人。『キッズ・オールライト』


ニックとジュールスは女性同士のパートナー。精子バンクを通して同じ人物からそれぞれ精子提供を受け、ニックは18歳の娘ジョニを、ジュールスは15歳の息子レイザーを出産。

レイザーはその精子提供者が誰なのか知りたいけれど、年齢制限があるため、姉に頼んで精子バンクを通して提供者に連絡をとります。そうして知り合ったレストラン経営者のポールと一家は親しくなっていきますが……。

一家が住むカリフォルニア州は、映画が公開された2010年時点で、州法ですでに同性間の婚姻(シビル・ユニオン)を制度化。日本では最近でも、「同性婚を認めると少子化に拍車がかかる」という主旨の、根拠のない発言をした国政政治家がいましたが、非異性愛でも家族を持つことはできるはず。実際、監督のリサ・チョロデンコ自身も女性のパートナーがいるレズビアンで、子どもももうけています。

異性愛夫婦の家庭すべてが順風満帆とはいかないように、『キッズ・オールライト』の一家にも問題はあります。

たとえば、婦人科系の外科医として一家を養っているニックからは、園芸の仕事を始めようとするジュールスに対して否定的な態度をとることによる、「稼ぎ頭が経済性でほかの家族を支配する」という態度がうかがえます。経済性を盾にされると、異論を唱えにくくなる経験に覚えのある人もいるのではないでしょうか?

また、ジュールスはセクシュアリティの揺らぎを持ち、バイセクシュアリティがうかがえますし、子どもたちも思い通りには育ってくれません。それでも関係性を築いていく、希望を示す映画といえます。

代筆されたラブレターを読み、同性に心惹かれていく『ハーフ・オブ・イット 楽しいのはこれから』

画像左が主人公のエリー(The Half Of It - Leah Lewis, Alexxis Lemire - Photo Credit)

主人公のエリーは、中国からアメリカに移住した父と暮らす高校生。同級生からレポートの代筆を請け負って、お金を稼いでいます。ある日エリーは、アメフト部のポールから、同級生の女の子アスターへのラブレターを代わりに書いてほしいと頼まれます。一度は断ったエリーですが、料金を払わないと電気が止められる事態に陥り、引き受けることに。

裕福な家庭出身のトリッグとつき合っているアスターは学校の中心にいるように見えますが、文学、アート、カルチャーについて話が通じる友達がおらず、聡明なエリーが代筆する手紙を通して、ポールに惹かれていきます。

男性としてのポールの体や見た目だけでなく、女性のエリーが書いている手紙、つまり内面も他人への好奇心や好意に影響するということがコメディーを通して描かれていきます。

また、文字を読める、文章が巧み、読解能力が高いといったエリーの「言葉ができる」キャラクターは、女性が教育を受ける機会への奨励と解釈できます。

「男性的」とされる振る舞いに、相手に尋ねる、相手の声に耳を傾けることなく自分の言いたいことだけぶつける、という一方的なコミュニケーションがあるのではないかと示唆する(もちろんすべての「男性」がそうであるという意味ではなく)、あるスポーツを通しての描写もとてもおもしろく、活き活きと楽しい作品です。

邦題のとおり、人は成長し、変化していけるのだというメッセージを軽やかに投げかけてくれています。

婚姻制度から社会の「生きにくさ」に迫る『ウェディング・バンケット』


舞台は1990年代初頭のアメリカ・ニューヨーク。恋人のサイモンとマンハッタンで暮らす、20代後半の台湾人男性ウェイトンは、故郷の両親から女性とのお見合いをセッティングされるなど、結婚を急かされるも、自身がゲイであるとは告げられずにいます。

あるときウェイトンは、所有する雑ビルに間借りしている中国人の女性ウェイウェイと偽装結婚することに。絵は売れず、貧乏で家賃を工面するのもままならない画家のウェイウェイは、米国籍を持つウェイトンとの結婚で、永住権を得たいのです。

同性愛と聞くと、異性愛を「当たり前」とする社会で息苦しさを抱える物語を想像するかもしれませんが、この映画はときにコミカルで、異性愛主義の婚姻にまつわるあれこれの抑圧を、「おかしさ」としてあぶり出します。

当時のニューヨークは、再開発による地価高騰で低所得者層が立ち退きにあい、居住環境の悪い場所への転居やホームレスも生む、ジェントリフィケーションの政策が進められていました。ウェイウェイはまさにそのような地域に住んでいるとみられます。

性的指向において同性愛のウェイトンとサイモンはマイノリティですが、居住権を持たない貧困女性のウェイウェイと比べると、経済的にはマジョリティともいえます。

移民かつ女性である人がひとりで生きていくのが困難だからこそ、婚姻制度に頼らざるをえないという問題点も想起させられます。ジェンダーや性的指向と、経済性、その地域の福祉や都市計画など政治からも影響を受け、「生きにくさ」は複合的な要因によるのだと示唆しています。

トランス女性の友情を描いたコメディードラマ『タンジェリン』


舞台はクリスマス・イヴのハリウッド。ドーナツショップでおしゃべりするシンディ・レラとアレクサンドラの二人は、ストリートでセックスワーカーとして生計を立てるトランスジェンダーの女性。

シンディは、恋人の男性チェスターの浮気に怒り、彼とその浮気相手の女性を探して回り、歌手志望のアレクサンドラはその日の夜にカフェでのライブを控えています。

そんな二人の一日を追っただけといえる映画ですが、トランスかつ非白人の女性たちの友情を活き活きと描いた魅力的なコメディードラマです。iPhoneで撮影された低予算の映画ながら、アメリカ西海岸の日差しの強さと美しさも見応えが。

監督・脚本のショーン・ベイカーは、シスジェンダーの白人男性というマジョリティです。しかしトランスのコミュニティーに取材をし、トランスかつアフリカ系、ラテン系というエスニックマイノリティの当事者を俳優として起用し、複合的なマイノリティに光を当てました。

結果、アレクサンドラ役のマイア・テイラーは、アカデミー賞の前哨戦のひとつといわれるインディペンデント・スピリット賞で、トランスの人物として初めて助演女優賞を受賞。

近年ハリウッドでは、マイノリティに焦点を当てる物語や、制作現場でのマイノリティの人々の就労に力を入れはじめています。ですが、テイラーのように能力が認められながらも、配役・物語に乏しいため、仕事に恵まれないという課題もあります。

ジェンダー、性的指向、人種、貧困など複合的な差別を描いた『ムーンライト』


2017年の第89回アカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演男優賞を受賞した『ムーンライト』は黒人のひとりの男性シャイロン(※)の、子どもから大人になるまでの3つの時代を描いた作品です。

幼いシャイロンは、小さい体やおとなしい態度を理由にいじめられ、同級生から「おかま」と呼ばれて侮辱されますが、近所のドラッグ売人男性フアンは「いますぐ(性的指向がなんなのか)決めなくてもいい」と伝えます。

また、ティーンエイジャーに成長したシャイロンは同級生の男の子ケヴィンと性的な接触を持ちますが、はっきりと「ゲイ」とは名乗られていません。

ケヴィンも、女性への関心をも示しています。同性との親密な関係を描いていても、必ずしも同性のみに恋愛感情や性的欲求を抱く「ゲイ」「レズビアン」とは限らず、周りが勝手に決めるものではないはず。

シャイロンは「男らしさ」のジェンダー規範を理由に苦しめられているはずなのに、むしろ「強さ」を体現していくようになります。この背景には、黒人の男性が「暴力的な存在」という偏見にさらされ、警察権力によって不当に逮捕されて刑務所に入れられ、「普通の仕事」に就きにくくなるという差別的な構造が存在しています。

日本ではジェンダーの不均衡は単なる「男 /女」の格差だけが問題にされがちですが、エスニシティー、肌の色、貧困といった複合的な属性が折り重なって生まれる困難もあります。シャイロンをめぐる「男らしさ」の向こうには、そうした社会問題がうかがえます。

(※)日本語字幕では「シャロン」となっていますが、正確な発音はこちら。英語圏でシャロンは主に女性につけられる名前のため、「男らしくない」名前が主人公につけられていた場合、規範的ではないといじめの理由になって、物語自体に影響を及ぼすはずです。そのため、本稿では「シャイロン」と書いています。

あとがき

自分がマイノリティでなくても、きっと接点があるはず

今回挙げた5作品は、ジェンダーや性的指向に関する軸だけではなく、民族的・出身国などのルーツ、経済性、就学・就労機会などの軸においてもマイノリティという、複合的な差別にさらされやすい立場の人々を意識的に取り上げました。

近年日本で聞かれる「ジェンダー平等」では、男 / 女の非対称性のみが取り上げられがちですが、ジェンダーや性的指向以外も含むさまざまな要素に基づく悩み、苦しみ、差別をとらえようとする概念を「インターセクショナリティ」といいます。

複合的なマイノリティの人々は、差別や偏見が、そのどの属性からくるかわからない、あるいは同時にくるかもしれないといえます。ただし、インターセクショナリティは、複合的なマイノリティの人の困難を「特別な経験」とするためのものではありません。

たとえば、レズビアンのアジア系女性、という複合的なマイノリティの困難を、「女性の悩み」「性的マイノリティの苦しみ」「アジア系への偏見や差別」などの各課題に収め、ともに考えたり解決したりするためのものです。

自分自身のことを「マイノリティではない」と思っている人でも、なんらかの悩みはあるはずで、それは社会的な弱者だからかもしれません。そうした接点から、マイノリティの物語とされる作品を観ることができれば、インターセクショナリティの視点からきっと共鳴する何かが得られるのではないでしょうか。

「誰しも生きる権利がある」。映画から学べる大事なこと

近年アメリカの映画産業では、これまで不均衡だったマイノリティを表象する機会、俳優や監督やスタッフといった労働の機会が是正されようと取り組まれています。

その動きのなかでは、黒人の映画監督、テーマとされた映画作品が軽視されてきたという声が広がり、非白人という意味では同じようなマイノリティといえるアジア系の俳優が主演する作品や、アジア系の移民の物語が紡がれる機会も増えています。

たとえばNetflixでは、中華系の女性でレズビアンだと公表している『ハーフ・オブ・イット』の監督・脚本のアリス・ウーだけでなく、フィリピン出身のアメリカで活動するトランスジェンダー女性の映画監督イザベル・サンドバルの『Lingua Franca』という作品が配信されています。

『Lingua Franca』(予告編)。本編は日本未公開

ただし、このように「活躍」という言葉による価値づけがされなくても、誰しも生きる権利があるというのが大事な点です。「ジェンダー平等」でも主に、女性が会社などでの主導的な立場に就いたり稼いだりすることに焦点があたりがちですが、特定の「能力がある」人ばかりがこの世のなかに存在するわけではありません。

そうした人々の困難はもちろん、厳しいなかでも豊かな生活が営なまれている様子を、映画や小説などフィクションはとらえることができます。

登場人物が自分の人生や属性と丸ごと同じでなくても、どこか自分とは違うと思う存在であっても、生き方の可能性にふれられる機会にきっとなるのではないでしょうか。

CREDIT
文:鈴木みのり イラスト:佐々木聡
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