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それ、性暴力かも?「見て見ぬふり」をやめるべき基準

ニュースなどで毎日のように耳にする、性的な暴力や犯罪行為。本人が望まない性的な行為を「性暴力」といいますが、「どこからどこまでが性暴力?」と聞かれたら、「じつはよくわからない…」という方も多いのではないでしょうか。

また、「性暴力」には、愛情だと思っていた言動が、性暴力に該当していたというケースも。誰もが自覚のないうちに、加害者・被害者になっているかもしれないのです。本記事では、具体的にどのような行為が性暴力にあたるのか、また、身近な人が被害にあっている場合に取るべき行動などについて説明します。

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INDEX
「性暴力」の定義とは?
それって本当に愛? 気づきにくい性暴力もある
傍観者にも、加害者にもならないために。知っておきたい「同意」について
もし性暴力を受けてしまったら?
性犯罪に巻き込まれないために
性暴力を目撃したり、知人に相談されたりしたら

「性暴力」の定義とは?

性暴力と聞いて、どんなことをイメージしますか? 夜道で女性が見知らぬ男性に襲われる事件や、子どもが巻き込まれるわいせつ事件などが頭に浮かぶかもしれません。しかし性暴力には、ほかにもさまざまなケースがあります。

たとえば、盗撮や痴漢、セクシュアルハラスメント、子どもへの性的虐待(子どもに性的な行為を強要したり、アダルトコンテンツを見せたりすること)、デートDVやSNSでの性的な嫌がらせなども性暴力に該当します。

内閣府のホームページでは「(本人が)望まない性的な行為は、すべて性的な暴力に当たります」としています。そもそも基本的な権利として、いつ、どこで、誰と、どのような性的関係を持つかは、あなた自身が決めていいことです。自分以外の誰かに強要されるものではありません。被害を受けた人が、受けた行為に対して「これは性的な暴力である」「こんなことをされたら嫌だ」と感じたら、それは「性暴力」なのです。

それって本当に愛? 気づきにくい性暴力もある

性暴力のなかには、一見して暴力とは気づかない行為も少なくありません。デートDV(カップル間で起こる暴力)の事例で見ていきましょう。以下のチェック項目(*)に該当する場合、デートDVの可能性があります。

□ ほかの異性と話すと不機嫌になる・無視する
□ スマホの履歴や内容を無断でチェックする
□ 性的な行為をNOと断ると怒る
□ 友達と遊ぶことを許さない / 自分との約束を優先させる
□ 離れていても行動を逐一連絡するように強要する
□ 相手にとって大切なものを壊したり、捨てたりする
□ 傷つく言葉をわざという
□ 避妊に協力しない(コンドームをつけない)
□ 裸の写真を送れと要求する

(*)種部恭子:SRHセミナー資料から

好きな人からこのようなことをされたとき、本当は「怖い」「苦しい」と感じているのに「拒絶したら嫌われるかも」「愛されている証拠」と、気持ちに蓋をしてしまった経験はありませんか? DVは、対等な関係ではなく、「支配-被支配」の関係のなかで起こるもの。相手が嫌がっているのに、思いどおりにしようと無理強いすることは暴力です。

パートナーからの暴力について、友達から相談されることがあるかもしれません。そのときには「あなたは悪くない」と伝えたうえで、専門の相談窓口があることを教えてあげましょう(DV相談ナビ全国共通ダイヤル #8008)。

傍観者にも、加害者にもならないために。知っておきたい「同意」について

性的な行為をする前に、相手の「同意」があるかどうか確かめること。これは、加害者にならないための最も大切なポイントのひとつです。キスやボディータッチを含む、性的行為を行う前に確認されるべき同意は「セクシュアル・コンセント(性的同意)」と呼ばれ、この概念が近年少しずつ広がってきています。

たとえばあなたが「今日キスをしたい」と思っても、相手は「もう少し時間をかけたい」と思っているかも。嫌だと思う境界線は人によって違います。「つき合っているんだからするべき」とか「嫌と言わないからしてもいい」という勝手な思い込みは、相手の同意を得ているとはいえません。

性的同意において、大事なポイントをチェックしてみましょう。

1.「NO」と言える環境が整っているかどうか。

「NO」と言いにくい状況での同意は、同意ではありません。お酒で泥酔したり、寝ていたりする人は同意を示すことができません。はっきりとした相手の同意がないのに、一方的に同意と判断するのはNGです。

2.社会的地位や力関係に左右されない、対等な関係であるかどうか。

上司や部下、先生と生徒などの力関係がある場合、弱い立場の人は「NO」と意思表示しにくい場合があります。力がある立場の人は十分に配慮すべきです。

3.行為ひとつひとつに同意を取っているか。

キスをしたからといって、その先まで同意しているということにはなりません。また、途中で気持ちが変わることも尊重されることが大切。性的同意は「いつでも取り消すことができる」ものであっていいはずです。(参考:一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション「セクシュアル・コンセント(性的同意)ハンドブック」)

「セクシュアル・コンセント(性的同意)」を学ぶと、相手の意思を尊重する大切さがわかるようになり、「自分の体のことは自分で決めていい」という、「体の自己決定権」についても理解が深まります。互いの心と体、そして人権を大切にするという、当たり前のことを守っていきましょう。

以下は、イギリスの警察が製作した動画で、セックスを「紅茶を飲むこと」に置き換えてわかりやすく説明した作品。性的同意のことを学ぶことができます。

日本語訳版は「函館性暴力防止対策協議会」による動画

もし性暴力を受けてしまったら?

性的な暴力は、年齢、性別に関わらず起こる可能性があります。また、加害者の大半は赤の他人ではなく、顔見知りということもわかっています。

被害者が子どもだった場合、わいせつ行為を受けたときに、ショックが大きかったり、それがどういうものなのかわからなかったりして、うまく伝えられないことがあります。防犯教育として、まず「嫌なことは嫌と言う権利がある」ことを教えましょう。子どもへの伝え方については、「親子で向き合う『性』のこと。子どもにどう伝える?」で詳しく解説しているので、合わせてご覧ください。

そのうえで、3つの行動「NO・GO・TELL」を日常的に伝えておくといいでしょう。

嫌なことや不快なことをされたら
NO:拒否する。嫌なことは嫌と言っていい。
GO:とにかく逃げる、人の多いほうへ逃げる。
TELL:信頼できる大人に打ち明ける。加害者に「人に言っちゃダメだよ」「内緒だよ」と言われたとしても、信頼できる人には話してもいい。

これらは性暴力に限らず、犯罪に巻き込まれる確率を下げるための対策です。どんなに気をつけていても被害にあってしまうケースはありますが、いかなる状況であったとしても、被害者本人を責めないということも大切です。

性犯罪に巻き込まれないために

バーで知人とお酒を飲んでいて意識を失い、気づいたときにはホテルで裸になっていて、体を触られていた。お酒に薬を入れられて、知らない間に乱暴されたのかも……。といった、お酒や薬物を悪用する性犯罪も最近は増えています。

悪いのは加害者であって、たとえ酒の席で気を許したとしても、被害者に非はありません。ただ、こうした犯罪に巻き込まれないようにするための防御策はあります。身を守るためにも、お酒の席では次のようなことに注意するといいでしょう。

  • 身近な人であっても、他人が準備した飲み物・食べ物はなるべく口にしない
  • 席を外す場合は必ず飲み干してから席を立つ
  • 席に戻ったら新しい飲み物を頼む
  • 被害にあったときには、証拠を残しておく

そして、もし被害にあってしまったら、できるだけ早く、性犯罪被害相談電話全国共通番号「#8103(ハートさん)」や、ワンストップ支援センター全国共通番号「#8891(はやくワンストップ)」を活用し、必要な支援を受けてください。どこに相談したらよいかわからないという方は、内閣府のホームページも参考になります。

内閣府 男女共同参画局HP

性暴力を目撃したり、知人に相談されたりしたら

性暴力が起きそうな現場や、実際に被害にあった人を見かけたとき、力を貸せる人になりましょう。ただし、自分の身の安全を第一に。先に紹介した3つの行動「NO・GO・TELL」は、大人にも役立つ対処法です。第三者としてどんな関わり方ができるのかを知っておくだけで、いざというときに行動できる人になれますよ。

1.目撃したら止める? 止めない?

性暴力を目撃したときには、周りの状況を見て判断します。止めに入ることで、自分が被害にあう可能性もあるので冷静な判断が必要です。「知人のふりをしたり、関係のない会話で割り込んだりして、加害者の注意をそらすことで被害を防ぐ」、「周りの人や店員、警察官、駅員などに助けを求める」など、自分の安全を確保しながらできることをしましょう。また、子どもの性被害については、周囲の大人が気づいてあげることが大切です。

2.被害にあったと相談されたら

まずは「どうしたの?」「できることはなんでもするよ」と声をかけ、話しやすい環境をつくります。被害者が話せたら、「話してくれてありがとう」「あなたは悪くないよ」と声をかけ、あなたができることを伝えましょう。そのときに気をつけたいのは、被害者の話を否定したり、疑ったり、無理に聞き出したりしないこと。それらはセカンドレイプ(二次加害)にあたり、被害者をさらに苦しめてしまうからです。

まずは、相手の気持ちを尊重し、寄り添うことを心がけて。そして相談できる窓口があることを伝えることで、必要な支援につながる手助けをしましょう。緊急の場合には警察に連絡を。

性暴力をなくすために大事なことは、「暴力は許されない」「悪いのは加害者であって、被害者ではない」という考え方が社会に定着していくことです。人が嫌がることをしない、他人の気持ちを想像しその気持ちを大事にするという当たり前のことを、みんなで心がけていきたいですね。

<知っていると役立つ相談先>

被害にあって間もないときには、ショックでどうしたらいいかわからなくなる場合もあります。そんなとき、一緒に考えてくれるのが支援センターです。全国47都道府県には性犯罪・性暴力被害者のための相談窓口「ワンストップ支援センター」があり、警察に相談する際のつき添い支援が受けられたり、医療機関を受診して緊急避妊薬や性感染症の検査、人工妊娠中絶費用などの費用を公費で負担してもらえたりします。被害から72時間以内であれば、緊急避妊薬を服用することによって、ほとんどの場合、意図しない妊娠を防ぐことができます。

※ワンストップ支援センターとは……性犯罪・性暴力被害者に対し、医師による心身の治療、相談・カウンセリングの心理的支援、捜査関連の支援、法的支援などの総合的な支援を1か所で提供できるように支援するところ。

▼被害にあって間もないときの相談先
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター「#8891(はやくワンストップ)

▼性暴力被害にあってしばらくたった方のためのSNS相談
Cure Time(キュアタイム)
毎週月・水・土 午後5時~午後9時

教えてくれたのは…
北村 邦夫先生
一般社団法人 日本家族計画協会 会長

1977年自治医科大学医学部卒業。その後、群馬県職員として群馬大学医学部産科婦人科学教室で臨床を学ぶ。保健所や群馬県庁での勤務を経て、1988年から日本家族計画協会クリニック所長、2014年から日本家族計画協会理事長。性教育や経口避妊薬・ピルの第一人者として、テレビ番組への出演や新聞での連載など、メディアを通じての発信も積極的に行っている。『新版 ティーンズ・ボディーブック』(中央公論新社)、『いつからオトナ? こころ&からだ』(集英社)、『カラダの本 誰にも聞けない性の疑問に答えます』(講談社)など、著書・共著多数。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部 イラスト:Osaku
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