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自分や大切な人が「セックス依存症」かも?と思ったら

「セックス依存症」と聞いて、どんなイメージが思い浮かびますか?

異性関係が派手な人や、浮気・不倫を繰り返す人などを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、そのイメージには誤解が混ざっているケースも。またセックス依存症はデリケートな問題でもあるため、気になる症状があっても周囲に相談できない人は少なくありません。

では、「これって依存症かも」と思ったら、どうすればいいのでしょうか。病気やその症状のことを正しく理解し、自分や大切な人の体と心を守りましょう。

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そもそも「セックス依存症」とは?

テレビなどのメディアでもよく耳にするようになった「セックス依存症」。これは正式な名称ではなく、「性嗜好障害」や「強迫的性行動症」という病名で診断されます。

これらの症状の特徴は、日常生活に大きな支障をきたすとわかっていても、セックスだけでなく自慰行為や性風俗通い、長時間のポルノ視聴などの性的な満足を得るための行為がやめられなくなってしまうこと。なかには、配偶者以外との性行為、痴漢や盗撮、のぞき、強制性交(レイプ)などの犯罪行為を繰り返してしまう場合もあります。

女性に多いのは、相手が不特定多数にわたるようなリスクのある性行為がやめられず、性感染症や望まない妊娠・中絶を繰り返してしまうケース。ほかにも、職場内や友人関係など、性的な関係になれば人間関係に亀裂が入る間柄だとわかっていながら、やめられない事例などもあります。

また、日常生活で優先しなければいけないこと(定刻どおりに仕事をする、人との約束を守るなど)を放棄してでも自慰行為がやめられず、TPOをわきまえない行動を繰り返すというケースも少なくありません。

本記事では、セックスのみならず犯罪行為以外の性にまつわる嗜癖(しへき)行動についてふれるため、セックス依存症も含めた概念である「性依存症」という呼び方を便宜的に使用します。

もしかして性依存症? セルフチェックしてみよう

日常生活に支障をきたしてはいるものの、自分が性依存症であることに気づかない人も多くいます。なぜなら、性欲自体が人に本来備わっている欲求でもあるからです。自分が性依存症かを調べる参考として、以下のリストにいくつ当てはまるか、チェックしてみてください。

性依存症セルフチェックリスト

□ あなたの性的な思考や行動に関して、誰かの助けが必要と感じる
□ 性的な思考や行動をしているときのほうがリラックスできる
□ セックスや性的刺激によって、物事の優先順位がしばしば逆転する
□ 自分自身の性的な思考や行動で制限したいと感じることがある
□ なにかに耐えられず、不安や孤独感をやわらげるためにセックスを用いる
□ セックスの後、罪悪感や自責の念を抱いて落ち込む
□ 性的行動に時間をとられ、家族や身近な人をおろそかにしている
□ 最近、性的行動のせいで集中力や仕事の能率が落ちている
□ 次から次へと性的関係を持つ相手を変えている
□ 性的行動を隠すため、嘘をつくことがよくある

※『セックス依存症』(斉藤 章佳著 / 幻冬舎新書)より抜粋

いかがでしょうか。全然ピンとこない人も、複数チェックがついた人もいるでしょう。自分の性にまつわる行動や習慣、周囲との関係性を見直すきっかけにしてみてください。

性依存症の原因は?

「セックス依存症の人は、強すぎる性欲が抑えきれないことが原因」と思われがちですが、性依存症と性欲の強さには必ずしも相関関係はありません。

性依存症に悩む人の背景には、幼少期に家族からの虐待(性虐待も含む)、ネグレクト(育児放棄)、暴力、家族の依存症問題(アルコールや薬物、ギャンブルなど)、親の浮気・不倫といった「逆境体験」を複数経験しており、安心安全な環境で親から十分な愛情を受けられなかった経験をしていることが多くあります。

子どもの頃のネガティブな事象は、生涯にわたり心身の健康に悪影響を与える可能性があります。その結果、自己肯定感の低さや過剰な見捨てられ不安、怒りや衝動性のコントロールの困難さ、慢性的な空虚感、自殺傾向と自傷癖など、その人の生活全般に影響が表出してしまうケースが見られるのです。

もちろん、機能不全家族で育った人がみんな依存症になるわけではありません。しかし、幼少期に家族や生活に関する困難な体験を多くしていると、性行為のときに「自分は受け入れられている、必要とされている」と錯覚しやすく、結果として相手が誰かはあまり関係なく、誰かに必要とされたいという気持ちを満たすために性行為にのめり込んでいってしまうのです。

また、根底に強い性的嫌悪がある場合も性依存症に陥ることがあります。性暴力・性犯罪の被害者が、「こんな目に遭った自分には価値がない」「自分は汚い存在だ」と自暴自棄になり、まるで自傷行為のように不特定多数との性行為に及んでしまう、というものです。

そのほか、交際相手との性行為によって、それまで知らなかった刺激的なプレイ、道具を使った危険なプレイなどがきっかけとなって性依存症にまでエスカレートしていくケースもみられます。

性依存症の治療に重要なポイント

依存症から抜け出すために、行動を変えられるかが問題になります。依存症とは、ストレスへの不適切な対処が習慣化した状態。いわば生活習慣病といえます。

人が好ましくない習慣を変えるためにはいくつか重要なポイントがあります。やめる目的(理由)を明確にすること、「今日からやめよう」という主体的な覚悟をもつこと、そしてやめ続けるためのスキルの学習と、同じ問題をもった仲間とのつながりをもつこと。そして、それらが機能していけるよう、定期的にメンテナンスを行うことです。

依存症を専門的に診療しているクリニックでは、上記のポイントをもとに症状の程度に応じてさまざまなプログラムで治療を行っています。ただ、アルコールや薬物、ギャンブルといったほかの依存症に比べると性依存症に対応しているクリニックはまだそれほど多くありません。

専門の治療にアクセスすることが難しい場合は、「自助グループ」を訪ねてみましょう。自助グループとは、当事者やその家族などが主体的に集まって交流し、お互いの体験を共有する場です。

依存症は、完治が難しい病気です。そのため治療の目標は、完治ではなく「やめ続ける」こと。「今日はやめることができた」という日々を重ねていくことが重要なのです。

「やめ続ける」ためには、定期的なメンテナンスや、一緒に伴走してくれる仲間の存在が欠かせません。例え再発した日があっても、それを仲間にカミングアウトすることで、自分が再び行動してしまうことを避けることにつながります。また、自分より回復が進んでいる仲間がいる場合は、将来自分が目指すべきロールモデルにもなります。

性依存症の自助グループ

  • SA-JAPAN:配偶者以外との性行為、自慰行為を禁止とするルールがある
  • SCA-JAPAN:自分で「性的回復計画」を立てて、性依存症から回復するための再発の定義を自ら設けるルールがある

「大切な人が性依存症かも」と思ったら

自分ではなく、家族や大切な人が性依存症になってしまったら、どうすればいいのでしょうか。親身になって助けたいと思う一方で、知っておきたいのが「共依存」の関係です。

例えば夫が性依存症になってしまった場合、「妻は夫の性欲を受け止める存在であり、夫が問題のある行動を起こしたのは性的に満たされていなかったためだ」という女性を性の吐口としてみる男尊女卑的な価値観を妻がもってしまうと、夫が依存症の本質と向き合えないケースがあります。

当事者の問題を周囲が肩代わりしてしまうと、当事者が自分の問題に気づけず、結果として依存症の回復を後退させてしまうのです。

しかし、大切な人がつらい状況にある場合、立ち直ってほしいと手を差し伸べる感情はごく自然なもの。依存症の問題を抱える家族にとって「共依存」は苦しい関係ではあるものの、それを未然に防ぐことは困難かもしれません。

大切な人との共依存関係に気づいたら、それぞれが自分の抱えている課題や困難と向き合い、そもそも「どう生きていくのが自分らしいのか」を考えてみてください。それがお互いにとって大切な、回復における最初のステップになります。

前述した自助グループには、当事者だけでなく当事者をサポートしている周囲の人のための自助グループである家族会(S-Anon)もあります。苦しい状態に陥ってしまった方で、その根っこに共依存の問題があるかもしれないと思ったら、参加してみるのもいいでしょう。

正しい知識を身につけて、心と体を守ろう

性依存症の予防として、幼少期から親子で「包括的性教育」を行うことも有効です。性教育といってもセックスや性器の話だけではありません。「包括的性教育」とは、ジェンダーの平等や性の多様性を含む人権尊重を基盤とした性教育をいいます。
自分の体は大切であること、口や水着で隠れる場所(プライベートゾーン)は人に見せたり触らせたりしないこと、体を見られたり触られたりして嫌だと感じたら「嫌」「やめて」と言っていいこと、または信頼できる大人に助けを求めることなど、自分自身を守るために大切なことを日頃から伝えておくといいでしょう。

また、男性(男の子)だから / 女性(女の子)だからこうあるべき、といった偏ったジェンダー観を植えつけない教育も、「包括的性教育」に入ります。記事『親子で向き合う「性」のこと。子どもにどう伝える?』や、こちらのサイトなどが参考になります。

日本では、子どもに限らず大人でも、「包括的性教育」を受けてこなかった人がほとんどです。そのため、子どもに適切な性教育を行うには、子育て世代の大人がまず正しい知識をもつことが重要です。私たち大人世代が性の知識を正しくアップデートし、子どもへと伝えていきましょう。

教えてくれたのは…
斉藤 章佳先生
精神保健福祉士・社会福祉士

大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大卒後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど様々なアディクション問題に携わる。その後、2020年4月から現職。専門は加害者臨床で、現在まで2500名を超える性犯罪者の治療に携わってきた。

著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『万引き依存症』(イースト・プレス)、『小児性愛という病-それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)など。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部 イラスト:あなんよーこ
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