「ヒリヒリする」「性交痛がある」「においが気になる」など、人にはちょっと相談しにくいデリケートゾーンの悩み。このようなトラブルは、放っておくと日常生活に支障をきたしたり、深刻な症状を引き起こしたりすることも少なくありません。特に、腟の粘膜が乾燥する「ドライバジャイナ」は、40代以降の女性に多く見られ、意識しておきたい症状のひとつです。今回は、そんな「ドライバジャイナ」の原因と対処法について詳しく解説します。
- 教えてくれたのは…
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- 喜田 直江先生
- 美容婦人科治療専門クリニック「なおえビューティークリニック」院長
京都府立医科大学卒業後、産婦人科医として多数の分娩や手術症例を経験。2003年、形成外科医として勤務開始。2006年からは大手美容外科に勤務し、美容外科や美容皮膚科の経験を積む。婦人科系の美容手術は日本で有数の症例数を誇る。2011年に現在のクリニックを開院。
すべての女性にとって他人事じゃない「ドライバジャイナ」とは
ドライバジャイナとは、「腟の粘膜が乾いている状態」のこと。原因の多くは、40代以降の女性に生じる女性ホルモンの分泌量の減少です。また、腟の乾燥によって自浄機能が落ちるため、雑菌が繁殖しやすくもなります。その結果として強い痛みやにおいを伴う場合も。また、20~30代であっても、不規則な生活、ストレスなどによるホルモンバランスの乱れによって、同様の症状が起こることがあります。
女性ホルモンの分泌量の減少以外としては、全身の分泌腺が破壊されていく「シェーグレン症候群」という自己免疫疾患などの病気が原因となることも知られています。シェーグレン症候群は女性に多く、主に中年期以降に発症する病気で、腟以外にも目や口など、体の各部位が乾きやすいという方は注意が必要です。
まずは、自分の腟の状態をチェックしてみよう
□ ヒリヒリ感やカサカサ感がある
□ かゆみがある
□ 下着やトイレットペーパーが擦れると痛い
□ 排尿時に尿がしみる
□ においがきつい
□ セックスのときに痛み(性交痛)がある
□ 出血がある
ドライバジャイナの症状の現れ方や感じ方には個人差があります。なかには、かなり症状が進んでいても自覚症状がないケースも。数年ぶりにセックスをしたら予想外の痛みが起き、そこで初めて気がつくケースもあるといいます。
しかし、ドライバジャイナは放っておくと「細菌性腟炎」などの病気の原因となる可能性もあるため、できるだけ早い段階で対処することが大切です。特に出血がある場合は、早めに婦人科を受診することをおすすめします。
予防や症状の緩和に。簡単セルフケア
ドライバジャイナは適切なケアをすることで、予防や症状を緩和させることが可能です。自宅でできるケア方法をご紹介しますので、ぜひ試してみてください。
まずは腟に意識や関心を向けることが大切
腟は、乾燥などの具体的な症状を自分で認識しづらいこともあるので、意識的にケアをしたい部分です。鏡を使って見てみる、実際に触ってみるなど、日常的にチェックすることが大切で、おすすめなのは入浴時、きれいに洗った指で腟の入口周辺の粘膜の状態を確認すること。毎日確認していると、状態の変化にも気づきやすくなるでしょう。できれば若いうちから始めてほしい習慣です。
専用ソープで丁寧に洗う・腟内の酸性をキープする
腟周辺を洗う際は、丁寧に洗浄をすることが大切。顔を洗う際に洗顔フォームを使うように、デリケートゾーン専用ソープを使用するのがおすすめです。腟が持つ自浄作用をキープするには、腟を酸性の状態にすることが望ましく、ボディーソープやシャワーなどで洗いすぎると状態が悪くなることがあるので注意を。また、においが気になってビデなどを使用した後は、腟内が中性になっていますので、乳酸入りのジェルなどで腟内の状態を整えるとよいでしょう。
日常的に保湿ケアを意識する
腟にも保湿ケアは有効です。専用ソープと同じく、デリケートゾーン専用の保湿ジェルやオイルなどを活用して日常的に保湿ケアを行うことをおすすめします。
アンダーヘアのお手入れも忘れずに
アンダーヘアは雑菌の温床になることも。ムダ毛を整え、丁寧に洗浄することで、デリケートゾーンの雑菌が増えるのを予防することができます。ドライバジャイナが気になる方は特に、こまめなお手入れを心がけるとよいでしょう。
うるおいつづけるために重要なのは「腟の血行」
40代以降、発症しやすくなるドライバジャイナですが、症状の進行には個人差があり、腟の血行が良いと症状が出にくいともいわれています。たとえば閉経後であっても、パートナーと定期的にセックスをしている場合には、腟がやわらかく、うるおいが十分というケースも。セックスだけでなく、マスターベーションやセルフマッサージを定期的にすることでも、腟周辺の血行は良くなります。
セルフマッサージは、オイルを使って腟内までしっかりとほぐすように行うのがポイント。清潔な指にオイルを塗り、腟内に指を挿入します。このとき奥まで挿入する必要はなく、指の第1関節くらいまでを挿入して、1~2分ほど優しくクルクルと回すようにほぐしてください。オイルは、妊婦さんが会陰マッサージで使うものなど、腟への刺激が少ないものを選びましょう。入浴時などに1日1回行うと、腟が刺激されて血行が良くなり、うるおいがキープされやすくなるでしょう。
すでにドライバジャイナに悩まされている方も、このマッサージを行うことで症状が和らぐ場合があります。ただし、腟の乾燥や萎縮が深刻な場合は、指を挿入すると痛みを感じるかもしれません。痛みを我慢するとかえって症状がひどくなることがあるので、無理のない範囲で優しくマッサージをしてください。
また、腟のうるおいが足りないときは、潤滑ジェルを使用するのもおすすめ。最近では、タンポン型潤滑ジェルなどさまざまな種類が販売されているので、ご自身にあったものを利用してみましょう。
つらい性交痛……どう対処すればいい?
ドライバジャイナの深刻な症状のひとつが性交痛。痛みがつらい場合には、我慢せず、潤滑ジェルを使うのがおすすめですが、なによりも必要なのはパートナーの理解と協力です。閉経に伴い腟に変化が起こることは、ぜひ男性にも持っていてほしい知識。無理な行為を繰り返すと、心身に大きなダメージを受けることになりかねません。よく話し合って、お互いに負担にならない性行為を心がけることが大切です。
また、ドライバジャイナが進行している場合は、乾燥だけでなく腟壁の萎縮もあるため、潤滑ジェルの使用だけでは痛みが抑えられないことも。そのときは、挿入をせずに愛撫のみにするなど、別の方法を考えてみる必要があるでしょう。
婦人科で治療を受けることもできる
ドライバジャイナは、重症化するとセルフケアだけでは改善しないことも少なくありません。つらい症状に悩まされたときは、婦人科で専門的な治療を受けることが可能です。
一般的なドライバジャイナの治療は、不足した女性ホルモンを補うためのホルモン療法となります。また、近年では萎縮した部位へのヒアルロン酸注射や、腟壁の新陳代謝を活性化する炭酸ガスレーザー治療なども行われています。症状が重くなるほど治るまでに時間がかかり、治療に伴う痛みも強くなる可能性があります。セルフケアをしても症状が改善しない場合は、できるだけ早めにかかりつけ医や専門外来に相談してみましょう。