花粉症をはじめ、アトピー性皮膚炎や気管支喘息、食物アレルギーなど、たくさんの種類がある「アレルギー疾患」。今や日本人の2人に1人がなんらかのアレルギー症状に悩まされているといわれるほど、とても身近な疾患です。
一方で、「アレルギー反応が起こるメカニズムについては理解できていない」という声も聞こえてきます。この記事では、発症のしくみや検査のことなど、病院で診察を受ける前に知っておきたいアレルギーの『基本のキ』を紹介します。アレルギーと上手に付き合っていくためにも、まずは正しい知識をきちんと得ることから始めましょう。
そもそもアレルギーってなに?
私たちの体には、ウイルスや細菌などの異物(抗原)が侵入したときに、抗体をつくってこれらを排除しようとする「免疫」というしくみが備わっています。免疫は、一度かかった病気にまたかからないように、敵を覚えていて次から攻撃するようなイメージです。
この免疫が、本来は人の体にとって無害であるはずの特定の異物に対して過剰に反応し、なんらかの症状が引き起こされることを「アレルギー反応」といいます。アレルギー反応を起こす原因物質は「アレルゲン」と呼ばれ、花粉、カビ、ダニ、ハウスダスト、ペットのフケや唾液、食べ物、金属、昆虫、薬物など多岐にわたり、花粉に反応して症状が起こるなら花粉アレルギー(花粉症)、同様に食べ物なら食物アレルギーとなります。
自分を守っているつもりが、過剰な反応によって体にとってマイナスの症状を引き起こしてしまうアレルギー反応は、いわば「免疫反応のエラー」のようなものなのです。
ちなみに、免疫が関与していなければアレルギー反応とはいいません。たとえば、毒キノコを食べてじんましんになったり、呼吸困難に陥ったりする場合は、免疫が関与していない食中毒になります。
アレルギー反応が現れたとき、体のなかではなにが起きている?
アレルゲンが体内に入って2時間以内に症状が現れる「即時型アレルギー反応」には、IgE(アイジーイー)抗体が関わっています。抗体とは、体に侵入してきた異物を攻撃したり、体外に排除したりするためにつくられる物質のこと。
IgE抗体は、鶏卵や小麦、スギ花粉、ヒノキ花粉、ダニなど、一つひとつのアレルゲン(原因物質)ごとに固有のものがつくられ、一度つくられたIgE抗体は、皮膚や粘膜などにあるマスト細胞(※)の表面にアンテナのように張りついて、次に同じアレルゲンが体内に入ってきたら「やっつけてやるぞ!」と待ち構えています。
そして再びアレルゲンを見つけるとピタッと張りつくのです。このときマスト細胞が活性化されて、ヒスタミンやロコトリエンといった化学物質が一気に放出され、かゆみや鼻水などの症状が現れます。これがアレルギー反応です。
※マスト細胞とは…アレルギー反応に関与する組織で、皮膚や粘膜などにある細胞
IgE抗体をつくる仕組みは誰もが持っていますが、どのくらいの種類や量の抗体をつくるのかには個人差があります。
アレルギーになりやすい人って?
鶏卵や小麦、スギ花粉などのアレルゲンに対し、IgE抗体がどんどんつくられやすい人は「アレルギー体質」だといえます。アレルギー体質は、親から子へ遺伝するといわれていますが、遺伝により全員がアレルギーを発症するかというと、そうではありません。
アレルギーは、「アレルギー体質」だけではなく、「環境要因(自然環境や生活環境など)」「アレルゲン」の3つの要素が重なって発症するといわれています。体質は大きな要素にはなるかもしれませんが、実際に発症し、症状が出るかどうかは過ごす環境によっても変わってくるのです。
たとえば、大人になってから仕事で特定の食物を頻繁に扱っていると、その食物に対するアレルギー反応を起こすことがあります。アレルギーになりやすいかどうかや、症状が重くなるかどうかの違いが生じるのは、アレルギーに対する抗体がつくられやすい体質ということに加えて、アレルゲンにどれだけさらされてきたかといった、生活環境が影響していることも考えられます。
また、アレルギーに悩む人は世界中にいるものの、人種や生活習慣、住環境などの違いによって、どのアレルギー疾患になりやすいかはまちまちです。花粉症に関しても、国や地域によって生育している植物が違うため、かかりやすい花粉症の種類が異なります。
ちなみに、アレルギーの原因や症状は、子どもと大人で違うことがあります。子どもに多い食物アレルギーは鶏卵、牛乳、小麦の3つですが、成長するにつれ7割程度の人は自然に食べられるようになっていきます。一方、大人の食物アレルギーは果物、小麦、甲殻類などがアレルゲンとなることが多く、子どもに比べて治りにくいといわれています。
子どもの食物アレルギーについては下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
- 知っておきたい!子どもの食物アレルギーの種類と特徴
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近年増加傾向にある子どもの「食物アレルギー」。家庭ではどう対処すればいいのか、予防はできるのかなど、日々悩んでいる保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。https://helico.life/monthly/230102allergy-childfoodallergies/
アレルギーは、医師と相談しながら対処していくことが大前提ですが、家族も正しい知識を持っておくことが大切です。本記事では、子どもの食物アレルギーの種類や特徴を紹介しながら、望ましい対処法や医療機関のかかり方などについての情報をお届けします。
アレルギー患者が増えているって本当?
なんらかのアレルギー疾患になる人は、子どもも大人も全体の総数としては増えています。特に、先進国を中心に花粉症や喘息、食物アレルギーなどの患者数は増加傾向にあります。一方で、発展途上国ではアレルギー患者はそれほど増えていません。
こうしたことから、先進国の清潔すぎる環境で乳幼児期を過ごすことが免疫系に影響し、アレルギー患者が増えているのではないかという衛生仮説といった考え方もあります。ほかにも、自然環境の変化などもアレルギーに影響しているといわれています。
知っておきたいアレルギー検査のあれこれ
アレルギー反応が疑われるときには、早めに医療機関を受診しましょう。子どもの場合は小児科や小児のアレルギー専門医に、大人の場合は内科かアレルギー科を受診します。
一般的なアレルギー疾患は、一度かかるとなかなか治りにくいという特徴があり、原因を特定することも簡単ではありません。よって、アレルギーの専門知識と豊富な診療経験のある医師に診てもらうのが望ましいといえます。
発症後、短時間で血圧低下や意識障害を引き起こすアナフィラキシーショックを過去に1度でも起こしたことがある場合には、緊急時にも対応してもらえるように、かかりつけ医を決めておくと安心です。
アレルギーの専門的な知識を持ち、診療経験がある医師を探すには、日本アレルギー学会認定医・指導医をあたるといいでしょう。公式HPで検索できます。
▼日本アレルギー学会 専門医・指導医一覧
https://www.jsaweb.jp/modules/ninteilist_general/
アレルギーの一般的な検査
アレルギー治療では、なによりもまず原因をきちんと探ることが重要になります。そのために行うのがアレルギー検査です。主な検査には、「血液検査」や「皮膚テスト」などがあり、ほかにも喘息の場合には「呼吸機能検査」や「呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)検査」、食物アレルギーでは「食物経口負荷試験」、花粉症では「鼻粘膜の検査」など、各アレルギー反応によってそれぞれ詳細な検査が行われることがあります。
ここでは、一般的な血液検査と皮膚テストでわかることをお伝えします。
血液検査(特異的IgE抗体検査)
花粉やハウスダスト、カビ、ペット、食べ物などのアレルゲンに反応するIgE抗体が、血液中にどれくらい存在するかを確かめる検査です。簡単な検査で便利ですが、アレルギー疾患があると確定するものではありません。
たとえば、食物アレルギーに関する項目の数値が高く陽性だったとしても、あくまでその食物アレルゲンに感作(※)されているだけで、必ずしもアレルギー反応が起きていることにはならないのです。適切な診断をするには、実際にそのものを食べる食物負荷試験が必要な場合が多いのが現状です。血液検査の項目は、健康保険の範囲内では、1回に測定する数に上限があります。主治医とよく相談して検査するアレルゲンを選びましょう。やみくもに検査項目を選んでも、原因が特定されないどころか、前記した理由で混乱の原因にもなりかねません。
※感作とは…IgE抗体がつくられて待機している状態のこと。感作だけではアレルギー反応は起こりません
皮膚テスト
アレルゲンの成分が含まれるエキスを腕の内側に1滴垂らし、針で皮膚に小さな傷をつけてアレルギー反応の有無を調べる検査です。もし赤く腫れたら、アレルギー反応が出ていると考えます。血液検査では調べられないアレルゲンも調べることができます。また、アレルゲンが含まれるエキスがなくても、果物や野菜などそのものに専用の針を刺して、そのまま皮膚に刺すことで調べる検査方法もあります。しかし、皮膚テストも血液検査同様、アレルゲンによる感作の状況を見る検査であり、診断を確定するものではありません。
どちらの検査も数値だけを見て一喜一憂せずに、専門知識を持った医師のもと、適切な診断と治療を受けることが大切です。アレルギーは誰もがかかる可能性のある疾患。だからこそ、基本的なアレルギーの知識を身につけておいて自分や家族の健康のために役立てたいですね。
今回の特集「うまく付き合うアレルギー」では、さまざまなアレルギー疾患にフォーカスした記事を公開しているので、ぜひあわせてご覧ください。
- 成長とともに複数のアレルギー疾患が現れる、アレルギーマーチ
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多くのアレルギー疾患は子どものころに発症しますが、小児アレルギーは大人のアレルギーとは違った特徴があります。成長にともなって自然と症状が改善していくケースもあれば、もともとかかっていたアレルギーとは別のアレルギー疾患が現れる「アレルギーマーチ」という現象が起こることも。https://helico.life/monthly/230102allergy-march/
そうした小児アレルギーの特徴を知っておくと、子どもの様子の変化に気づきやすくなったり、対処もしやすくなったりします。本記事では、アレルギーマーチとはどういうものなのか、典型的なパターンや症状改善のために家族ができることについて解説していきます。
- 食通・さとなおさん「アニサキスアレルギーになって見えたもの」
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『ファンベース』などの著書で知られるコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之さんは、2018年に突如「アニサキスアレルギー」を発症しました。一過性の食中毒である「アニサキス症」ではなく、基本的に魚介類や出汁が食べられなくなるアニサキスアレルギーの発症は、地方の食文化に関心を持ち、食にまつわる本も多数執筆してきた食通の「さとなお」さんの人生を大きく左右する出来事でした。発症から現在までのさとなおさんの内省と再生の日々、さとなおさんを支える周囲の人々についてうかがいます。https://helico.life/monthly/230102allergy-interview-anisakis/
- 意外な大人のアレルギー。発症のきっかけや症状は?
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子どものころはなかったのに、ある日突然くしゃみや鼻づまりの症状が現れ花粉症になった……。ある特定の食べ物を食べたら急に肌がかゆくなった……。というように、大人になってからアレルギー症状が突然現れることがあります。なぜそのようなことが起こるのでしょうか。本記事では、大人のアレルギーの特徴とその対応、注意すべき点などについて解説します。https://helico.life/monthly/230102allergy-adultallergies/
- 家族みんなで楽しくおいしく!食物アレルギー対応レシピ
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鶏卵、牛乳、小麦など、食物アレルギーを持つ家族のために、食材を除去したり、別のもので代用して調理したりするのは想像以上に大変なもの。お子さんのアレルギーをきっかけに、さまざまな代替レシピを考案してきた料理研究家の阪下千恵さんは、「食べられないものがあってもマイナスにとらえるのではなく、別の食材をうまく活用して、料理の楽しさやおいしさを経験してほしい」と話します。今回は、そんな思いのこもったレシピを3品教えていただきました。https://helico.life/monthly/230102allergy-recipe/
- 教えてくれたのは・・・
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- 今井 孝成先生
- 昭和大学医学部小児科学講座 教授
東京慈恵会医科大学医学部を卒業後、昭和大学小児科学講座に入局。独立行政法人国立病院機構相模原病院小児科を経て、2019年より現職。専門は小児アレルギー全般、特に食物アレルギーやアナフィラキシー。診療や後進の指導に当たりながら、厚生労働科学研究班「食物アレルギーの栄養指導の手びき」の作成委員長を務め、日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」の作成委員や、自治体の食物アレルギー対応マニュアルの監修にも携わる。近著に『こどものアレルギー基礎BOOK 心配になったら一番先に読む本』(日東書院)などがある。