つらい冷えに悩んだとき、「漢方薬」は頼れる味方。ドラッグストアなどで気軽に購入できるのも嬉しい点です。一方で、たくさんの製品のなかから、どれを選べばよいか悩むこともあるのでは? そこで今回は、自分に合った漢方薬の見つけ方をご紹介。漢方薬・生薬認定薬剤師の資格をもつ薬剤師さんに聞いてみました。
まずは漢方薬のことを知ろう!
漢方薬は、中国を起源とする日本古来の伝統医学(漢方医学)に基づいて、生薬を規定の割合で調合した薬です。生薬とは、植物の根や種子、動物の角や殻などの、天然成分そのもの。それゆえに「体にやさしい」というイメージをもっている人も多いと思いますが、漢方薬も薬であることに変わりはありません。次の点に注意したうえで服用してください。
「つらい冷え」の影に病気が隠れていないか確認を
冷えの原因はさまざま。生活に支障が出るくらいつらい場合や、症状がなかなかよくならないなどの異変を感じるときには、なんらかの病気が冷えの原因になっている可能性があります。まずは、健康診断などで定期的に医師の診察や血液検査を受け、病気の心配がないことを確認することが大事。そのうえで、セルフケアの手段のひとつとして市販の漢方薬の活用を考えましょう。
場合によっては、主治医やかかりつけ医に相談してから
薬の飲み合わせによって思わぬ副作用が生じたり、飲んでいる薬の効果が弱まってしまったりすることがあります。持病がある人やほかに薬を飲んでいる人は、主治医やかかりつけ医に相談してから漢方薬を活用しましょう。
購入するときは、店頭の薬剤師にぜひ一声かけて
ドラッグストアなどで手軽に購入できるイメージがある漢方薬。しかし本来は、その人の体質や体調、症状の出方などを詳しく確認したうえで処方されるものです。自分に合った漢方薬を選ぶため、ぜひ店頭の薬剤師に声をかけ、アドバイスを求めてみてください。
自分の判断で複数の漢方薬を併用しない
漢方薬は通常、複数の生薬を特定の割合で配合したものです。2つ以上の漢方薬を自己判断でいっしょに飲んでしまうと、そのバランスが崩れ、効き目を失ったり、予期しない副作用が現れたりすることがあります。2つ以上の薬を併用したいときには、必ず事前に医師や薬剤師に相談してください。
冷えの症状別でおすすめ! 自分に合う漢方薬は?
冷えの主なタイプは、大きく分けて4パターン(※詳しくは、別記事「温めるのが逆効果な場合も?冷え症タイプチェック」を参照)。自分にあてはまる冷え性のタイプを確認したうえで、これから紹介する漢方薬の服用を検討してみてください。
手足の先が冷える「四肢末端型冷え症」の人へのおすすめ
典型的な冷え症ともいえる四肢末端型冷え症は、若い女性ややせ型の人に多くみられます。いつも手や足の先が氷のように冷たい、手足が冷たくて寝つけない……という方には、次の漢方薬が改善の一助となるかもしれません。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
体を温め熱をつくる手助けをし、血流を改善する働きがあります。冷えに悩む人に古くから使われている代表的な漢方薬です。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
血のめぐりに支障がある場合(女性では生理痛が強い、生理周期が不順、むくみやすいなど)には、こちらがおすすめです。やせ型の人に合うことが多いです。
下半身だけが冷える「下半身型冷え症」の人へのおすすめ
下半身型冷え症は、中高年以上の男女に多いタイプ。上半身や顔はほてったり汗をかきやすかったりするのに、腰から下は冷える……という人には、次の漢方薬がおすすめです。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
とどこおった「血」のめぐりをよくすることで、足の冷えの症状を緩和する漢方薬です。比較的体力がある人で更年期くらいまでの人におすすめです。体力のあまりない更年期くらいまでの人は当帰芍薬散のほうが合うこともあります。
八味地黄丸(はちみじおうがん)
「血をめぐらせる生薬」と「体を温める生薬」の計8種類が組み合わせられた八味地黄丸は、腎(漢方で、腎臓、副腎、膀胱、生殖器を含む)を保護してくれるので、特に高齢の人におすすめです。頻尿や尿もれなどに用いられるお薬でもあります。
体のなかが冷える「内臓型冷え症」の人へのおすすめ
手足は温かいのにお腹が冷えていたり、冷えとともにお腹が張ったりする内臓型冷え症の人には、次の漢方薬がおすすめです。
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
体の中心である腹部を温め、「気」や「血」の流れを乱す冷えを取り除くお薬です。冷えからくる頭痛などにも用いられます。お腹周りの冷えを感じる場合には、こちらを試してみるのがよいでしょう。
六君子湯(りっくんしとう)
呉茱萸湯で体が十分に温まらないようであれば、胃腸機能をサポートするタイプの漢方薬のほうがマッチするかもしれません。六君子湯は、胃腸の働きを高めてくれるお薬です。
手も足も体も冷える「全身型冷え症」の人へのおすすめ
手足だけでなく体全体が冷える全身型冷え症は、慢性的な疲労やストレスなどによる自律神経の乱れが背景にあることも。そんな人には、次の漢方薬がおすすめです。
加味逍遥散(かみしょうようさん)
自律神経を調整し、イライラやのぼせをしずめるとともに、血行を促進する漢方薬です。体力が中等度以下の人(女性など)によく用いられます。
男性でがっしりした体格(体力が中等度以上)の人で強いストレスを抱えがちな人には、「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」のほうがマッチする場合も。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
病み上がりなどで疲れてだるく、活力がわかずに体が冷えている場合には、胃腸など体の内側から気を増やす作用がある補中益気湯がおすすめです。
また、同じように「活力がない状態」といっても、原因によっては別の漢方薬のほうが効果的な場合も。たとえば、ダイエットの後などで体力が落ちて冷えているようなときには「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」のほうがマッチすることもあります。
いずれも、体に気をめぐらせ、活力を取り戻すのに役立つ漢方薬です。
「良薬、口に苦し」じゃない!? 漢方薬の豆知識
最後に、漢方薬について知っておきたい豆知識をお伝えします。漢方薬を用いる際には、ぜひ参考にしてみてくださいね。
どのくらいの期間、飲むとよいの?
冷え症の場合、具合がよくなるのを実感するのに、だいたい1か月くらいはかかることが多いです。まずは、2週間から1か月を目安に飲んでみてください。
ただし、その漢方薬が自分に合っていない場合、なんらかの違和感があると思います。飲み始める前と比べて、「よい感じがしない」「何か違う気がする」と感じたら、無理に続ける必要はありません。また、服用中に「副作用かな?」と思う症状があれば、服用を中止して様子をみたり、医師や薬剤師に相談したりしましょう。その際に、別の漢方薬を試したい旨を伝えてみるのも◎。
もちろん、1か月ほど続けて、以前より調子がいいなと感じられたら、引き続き服用しても大丈夫です。ただし、漢方薬だけに頼らずに、日々のストレスの発散、運動や食事などの生活習慣の見直しも合わせてやっていきましょう。
体に合っている漢方薬はおいしいって本当?
錠剤タイプでは薬の味はわかりませんが、顆粒タイプなどの場合、口に含んでおいしく感じるものは、いまの自分の体に合っている漢方薬と考えてよいでしょう。「苦いけどまずくはない」とか「苦くても飲める・まずくても飲める」というのも同様です。
一方で、「苦くて嫌な感じ」「苦すぎて・まずすぎて飲めない」と感じたら、その漢方薬は合っていない可能性があります。「良薬、口に苦し」といいますが、実際には「良薬、口にうまし」であることが多いのです。
服用のタイミングは? 飲み忘れたらどうする?
漢方薬の服用のタイミングは、原則として食前から食間がベスト。ちなみに食間とは、ご飯を食べている最中、という意味ではありません。食後2時間ほど経った時間(食事と食事の間の時間)のことです。
食前に飲もうと思っていたのに忘れてしまい、食事中に気づく、ということもあるかもしれません。こうした場合には、その食後に服用してもかまいません。1回抜けてしまうよりはよいと考え、あまり気負わずに続けていきましょう。
つらい冷えには、漢方薬の力を借りるのも一つの選択肢。あなたに合った漢方薬をぜひ見つけてみてくださいね。
※ここでは、市販薬として一般的に入手しやすい代表的な漢方薬を紹介しています。医療機関などで処方される漢方薬とは異なる場合があります。
- 教えてくれたのは…
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- 北澤 泰代先生
- 株式会社アイセイ薬局 漢方薬・生薬認定薬剤師
アイセイ薬局 南千住店 店長
研修認定薬剤師/小児薬物療法薬剤師/臨床検査技師/放射線取扱主任1種
漢方は古方の傷寒論・金匱要略の原文解釈塾に参加。同じ流れで朴庵塾に参加。以来25年ほど漢方に携わる。