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シャワーだけじゃだめ?専門医が教える正しい入浴法

気温がグッと下がる冬は、とくに体の冷えが気になるもの。厚着をする、暖房器具を使う、ホットドリンクを飲むなど、体を温めるためにいろいろと工夫されている方も多いのではないでしょうか。
気軽に始められる毎日の工夫でいえば、お風呂も冷え対策によいとされています。しかし、間違った入浴方法を続けるとかえって逆効果となることも。入浴に関する正しい知識を身につけて、寒い季節を快適に過ごしましょう。

なぜ、入浴で冷えを改善できるの?

私たちの体は、周囲の気温にあまり左右されることなく、基本的に一定の体温を保つことができます。その体温調節のカギとなるのが、体内をめぐる血液。血液は、筋肉や内臓などでつくられた熱を運び、体中を温める機能をもっています。

気温が高いときは体に熱がこもらないよう、皮膚近くの血管を広げて血液中の熱を発散させますが、逆に気温が低いときは血管を収縮させて熱を逃がさないようにしています。しかし、寒い場所で血管が収縮してしまうと、血液の流れが滞ります。その結果、血液の行き届かない部分が発生し、そこから冷えを感じるようになります。

そんなときに役立つのが、毎日の入浴です。湯船につかることで皮膚から温かさを感じ、血管が広がります。すると、手や足などにもしっかり血液が循環し、全身が温まるのです。

収縮した血管に対してお湯でダイレクトに温める入浴は、冷え対策のなかでも手軽で効果の高い方法の一つといえるでしょう。

冷え対策に効果的な入浴のポイント

せっかくなら、冷え対策に効果的な方法で入浴したいもの。入浴時間やお湯の温度など、具体的なポイントをみていきましょう。

38℃から40℃のぬるめのお湯で全身浴を

冷えた体を早く温めようと、42℃以上の熱いお湯につかる方もいるでしょう。しかし、これはおすすめできません。たしかに体温は一時的にグッと上がりますが、私たちの体は急激な体温上昇を「異常」と感知し、すぐに冷やそうと体が働いてしまうのです。

一方、38℃から40℃ぐらいのぬるめのお湯はじわじわと体が温まるため、体温の下がり方もゆるやかになり、入浴後も温かさが長続きします。湯船につかる時間は10分程度が理想的ですが、浴室が冷えている場合は15分を目安にするとよいでしょう。半身浴ではなく、肩までつかり、額にじんわり汗をかいてきたら体がしっかり温まったサインです。

入浴剤を使って温浴効果アップ

夏用のクール系のものでなければ、入浴剤・入浴料をプラスすると温浴効果がさらに高まります。医薬部外品や浴用化粧料の表示がある入浴剤・入浴料は基本的にどれを選んでも冷えへの効果が期待できるので、好みの香りのもの、使用感がよいものを選びましょう。

ちなみに、入浴剤・入浴料の効果をさらに上回るのが温泉です。いろいろな成分が溶け込んでいるため、温かさの持続も期待できます。寒い時期は温泉に行って、ゆっくり過ごしてみてはいかがでしょうか。もちろん感染対策は十分に行って、会話を控えた「黙浴」を心がけましょう。

冷え体質の改善には、温冷交代浴がおすすめ

足や手など部分的な冷えが気になる方には、温冷交代浴がおすすめです。温冷交代浴とは、温かいお湯に浸かる温浴と、冷水を浴びる冷浴を交互に行う方法のこと。体に温と冷の刺激を交互に与えて、血管を広げたり縮めたりすることで、血管がポンプのような作用を起こし、血流をよりよくすることができます。

手順としては、まず38℃から40℃ぐらいのお湯をはった湯船に3分ほどつかります。そのあと、冷えが気になるところに冷たいと感じる程度のぬるま湯を30秒~1分ほどかけましょう。寒い時期なら、30℃ぐらいでも冷たいと感じると思います。

これを3回ほど繰り返し、最後は温かい湯船に入って終了です。冷たい状態で終了するとかえって冷えを招きますので、最後は必ず湯船につかりましょう

時間がないときは、シャワー浴に足浴をプラス

忙しいときは湯船につかるのが面倒になり、シャワーだけで済ませてしまうこともあるのではないでしょうか。じつは、40℃の湯船に10分つかると体温は0.5℃ほど上がりますが、シャワーだけの場合は上がっても0.2℃程度なので、さほど体も温まりません。そもそも、シャワーでは体の一部分しか温めることができないのです。

とはいっても、どうしても湯船につかる時間がないときもあるはず。そんなときは、シャワー浴に足浴をプラスしてみてはいかがでしょうか。足浴で温まった血液が全身をめぐるので、シャワーだけよりも体を温めることができます。

方法はとても簡単。湯船に10~15cm、くるぶしが隠れる程度の深さでお湯をはり、足浴をしながらシャワーをするだけでOKです。たっぷりお湯をはる必要がないので、そのぶん時間を短縮できます。

足浴のお湯の温度は42℃から43℃がおすすめ。通常より熱めに設定することで、足から全身に血液が行きやすくなります。

注意点は、お湯の量が少ないのですぐにぬるくなってしまうこと。お湯をためたら時間をあけずに足浴するのが、温浴効果を高めるポイントです。

快適な入浴のために気をつけたいこと

冷えに大きな効果を発揮する入浴ですが、間違った習慣を繰り返すと、かえって体に負担をかけてしまうことも。次のポイントをおさえ、安全に入浴を楽しみましょう。

入浴前後にコップ1~2杯の水分補給を

1回の入浴にあたり、800ml程度の水分が奪われることを示す研究結果が出ています。800mlを補うのは難しいかもしれませんが、入浴の前後でそれぞれコップ1~2杯ずつ、合計500mlぐらいを目安に水分を補給しましょう。

また、アルコールには利尿作用があるため、水分補給にはなりません。お風呂上がりのビールを楽しみにしている方もいるかもしれませんが、合わせてアルコール以外での適度な水分補給も心がけてください。入浴前の飲酒もNGです。

運動や食事の前後の入浴も要注意

運動後の私たちの体では、負担のかかった筋肉に血液が集まり、老廃物の排泄を行い、筋肉損傷や疲労の回復に向かいます。そのタイミングでお風呂に入ってしまうと、集まった血液が全身に分散してしまい、疲労の回復が遅れてしまうのです。そのため運動直後の入浴は避けましょう

さらに、食事の前後も同様。消化のために胃腸に集めなくてはいけない血液が分散して、消化不良を起こしてしまう可能性があります。運動後と食事の前後、どちらも30分は時間をあけたいところです。

また、入浴後は冷えを防ぐため、体温が下がりきってしまう前に眠りにつくことも大切なポイント。食事をとってから30分から1時間後に入浴し、その1時間半後を目安に布団に入るとよいでしょう。

体調が悪いときは入浴を控えて

せっかくの入浴でかえって体調を崩したり、事故が起こったりしては本末転倒です。入浴前の体温が37.5℃を超える場合は入浴を控えましょう。

また、血圧にも注意が必要。上の血圧(収縮期血圧)が160mmHg以上、下の血圧(拡張期血圧)が100mmHg以上のときも入浴は避けることをおすすめします。片頭痛のように、ズキンズキンと脈を打つような頭痛を感じるときも、症状が悪化するため入浴は控えてください。

年齢による温度感覚の違いにも注意

小さなお子さんと湯船につかっているとき、大人の感覚ではまだ温まっていないのに、湯船から出たがることはありませんか? それは、年齢によって温度感覚に違いがあるから。そもそも、大人と子どもでは体格に大きな差があるので、全身が温まるスピードも変わります。

「しっかり温まってから出ようね」と子どもに伝えたときには、すでに十分温まっている可能性も。湯船のお湯についても、38℃~40℃の範囲で、お子さんが快適と感じる温度を設定するとよいでしょう。

また、高齢の方も注意が必要です。加齢とともに温度感覚は低下するため、熱いお湯に長時間つかってしまうこともあります。皮膚の感覚ではなく、給湯器の設定や湯温計を上手に活用して、体に負担のかからない温度で入浴することが大切です。

今回は、冷え対策を中心に、正しい入浴法についてご紹介しました。湯船につかると体が温まるだけではなく、心身ともにリラックスできます。毎日の入浴を見直して、より快適なバスタイムを過ごしましょう。

教えてくれたのは・・・
早坂 信哉先生
東京都市大学 人間科学部 教授・学部長

1993年に自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。1998年から自治医科大学大学院医学研究科にて入浴に関する調査研究を開始。現在は温泉療法専門医として診察を行ないながら、入浴や温泉の医学研究を続けている。著書に『おうち時間を快適に過ごす 入浴は究極の疲労回復術』『最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案』など。

公式サイト:https://hayasakashi.wixsite.com/bath

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部 イラスト:大川久志
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