自分の身に生理が起こらない男性は、生理について改めて考える機会はあまりないかもしれません。生理に対しても、「毎月起こる」「血が出てくる」「体調が悪くなることがある」といった漠然としたイメージだけをもっている人も少なくないでしょう。しかし、その理解不足が、周囲や家族、パートナーの女性の心身に負担をかけてしまったり、信頼関係を損なったりしてしまうこともあり得ます。
男性も最低限知っておくべき生理の基礎知識や、女性とのコミュニケーションで心得ておきたいことなどを、産婦人科医の重見大介先生に教えていただきます。
- 教えてくれるのは…
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- 重見 大介先生
産婦人科医。公衆衛生学修士。医学博士。研究と臨床にくわえ、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。
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男性にも知ってほしい生理の基礎知識
女性の体は妊娠に備えて、毎月排卵をして、子宮内に子宮内膜という赤ちゃんのためのベッドとなる層をつくっています。しかし、妊娠が成立しないと子宮内膜は不要となり、体外に排出されます。
このように子宮内膜がはがれ落ち、出血を起こすのが生理です。生理のことを、医学用語では「月経(げっけい)」と呼び、約1か月に1回のペースで、数日間にわたって起こります。
1回の生理は3日から7日ほど続く
子宮内膜は、はがれ落ちると血液と一緒に腟を通って体外に排出されます。経血(生理時に出る血液)は1日で出し切るものではなく、平均で3日から7日間にわたって出血が続きます。
生理は基本的に排卵(はいらん)とセットで起きている
排卵は、卵巣内で育った卵子が卵巣の外へ飛び出していく現象です。飛び出た卵子が精子と出合えば妊娠、出合わなければ妊娠せずに生理が起こります。生理と排卵はどちらも妊娠の準備に伴う現象ですので、セットで覚えておきましょう。
生理の症状は個人差が大きい
経血量や生理痛の症状は人それぞれです。いつもどおり仕事や家事ができる人もいますが、鎮痛剤が手放せなかったり、寝込んでしまったりする人もいます。もともとの体質のほか、そのときの疲労度などによっても症状の出方が大きく左右されることを知っておきましょう。
- 初経から閉経まで。生理のしくみと体の変化を知ろう
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初経を迎えてから閉経するまで、約35年から40年という長いつき合いになる「生理」。毎月訪れる生理を面倒に感じている人もいるかもしれませんが、その機能や役割を正しく理解すれば、もっと上手に、そして快適に生理とつき合っていけるはず。https://helico.life/monthly/230910period-kiso/
本記事では、女性特有のリズム、妊娠・出産とも関わってくる生理のしくみについて解説します。
「イライラ」以外にもある、生理のさまざまな症状
一般的に、「生理中の女性はイライラしやすい」といったイメージを持っている男性が多いかもしれませんが、生理に伴う症状には、ほかにもさまざまなものがあります。また、生理中だけではなく、生理前も女性ホルモンの影響で、心身ともにとてもデリケートな状態になることがあります。
生理前に起こる症状と、生理中の症状の2つに分けて解説します。
生理前の症状
生理前の3日から10日ぐらいまでの間に、以下のような不調があらわれることがあります。
- お腹の痛みや張り
- 気持ち悪さ
- 便秘
- 下痢
- 頭痛
- 乳房の張りや痛み
- 気分が落ち込む
- イライラする
- 涙もろくなる
- 集中力が低下する など
- 生理前に不安定になるからだとこころ 「PMS」はなぜ起こる?
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生理が始まる少し前から、怒りっぽくなったり落ち込んだりといった気分の変調や、頭痛、だるさなどの不調を感じてつらいという経験はありませんか。生理前の不快な症状に悩まされているなら、それは「PMS(月経前症候群)」かもしれません。なかには家事や仕事が手につかなくなってしまう、ひどく感情的になり人間関係のトラブルに発展してしまうなど、日常、社会生活に支障をきたすケースもあります。https://helico.life/series/healthcare-pmspmdd/
PMSで困っている場合、どうしたら楽になれるのでしょう。本記事では、PMSの症状や見分け方、セルフケア、治療法について解説します。自分の心と体に向き合って、快適な対処法を見つけましょう。
生理中の症状
生理中は、お腹や腰まわりに痛みや張りを感じる女性が多くみられます。これらの不調は、子宮が経血を押し出そうと収縮するときに、「プロスタグランジン」という物質が分泌されるために起こります。プロスタグランジンは血液にのって全身に運ばれるので、腹痛や腰痛だけでなく、以下のような症状が出ることもあります。
- 頭痛
- 便秘
- 下痢
- 吐き気
- 疲労感
- 食欲の減少/増加
- 気分が落ち込む
- イライラする など
男性も生理について話をしていいの?
男性から女性に生理の話をしていいのか、迷う方もいるのではないでしょうか。相手との関係性によりますが、家族やパートナーなどの近しい間柄であれば、男性から生理の話題を切り出してみてもよいでしょう。体のこと、体調のことを知っておけば、事前の配慮やケアなど、できることも増えるはずです。
生理について話す前に、まずは正しい知識を身につけておく
男性が生理について家族やパートナーの女性と話すとき、まず前提として、最低限の正しい知識を身につけておくことが重要です。
以下、アンケートの回答の一部を紹介します。
1「生理は毎月同じ日に1日だけ起こる」という勘違い
生理はおよそ1か月に1回のペースで、数日間にわたって起こります。1回の生理は3日から7日ほど続くため、1日で終わると考えるのは誤りです。また、生理が終わり、次の生理が始まるまでの生理周期は、25日から38日の間隔が正常といわれており、人それぞれ違います。毎月同じ日に生理になるわけではないことも覚えておきましょう。
2「出血は自分でコントロールできる」という誤解
経血は、トイレに行ったときに出すもの、と考えている男性もいるようです。そのように誤ったとらえ方をしていると、「出血は、トイレに行くまで我慢できるもの」と考えてしまうかもしれません。生理は、出血のタイミングも量もコントロールできないものです。だからこそ、女性はナプキンなどの生理用品を使用し、交換を繰り返しています。
3「生理中は絶対に妊娠をしないから性行為で避妊をしなくていい」という思い込み
生理中でも妊娠をする可能性はあります。また、出血をしており粘膜なども弱っている時期なので、感染症のリスクが高まることや、子宮内に経血が逆流して子宮内膜症のリスクが上がることなども理解し、生理中の性行為は控えましょう。
最近は、SNSや動画で、生理について気軽に知ることができるようになりましたが、情報の正しさには注意が必要です。内容によっては、公的機関や日本産科婦人科学会などの一次ソースにあたって確認することも大切です。
男性も生理について考えるのが自然な時代に
現在の30代から40代の方が子どもの頃やそれより前の時代には、「男性が生理の話をするのはタブー」といった風潮があったかもしれません。家庭や学校での性教育も、いまに比べれば不十分だったといえます。
しかし、ここ10年ほどで状況は変わってきました。例えば、健康経営や人的資本の観点から、女性の健康に注目している企業が増えて、女性の健康に関する社内研修を行う動きもみられます。産婦人科医が生理をテーマに男子校で特別授業をすることもあり、男性が生理について考えるのが自然な時代になってきました。
女性とよりよいコミュニケーションをとるには?
男性が女性と生理について話すことに対して、最初は抵抗感があるかもしれません。女性も、生理について男性と話したことがなかったり、さまざまな理由で「生理は恥ずかしいこと」と感じていたりする場合があります。
まずは、「無理をしていないか心配だから」「体調が悪いときはできるだけ配慮したいと思っている」などと、あなたのことを思って話したい、知っておきたいと伝えることが大事です。
生理の状況を伝えたい気持ちはあるけれど、顔を合わせて生理の話をすることに慣れていない女性に対しては、生理管理アプリで情報を共有してもらうのも一つの手段です。女性がよく使っている生理管理アプリは、カレンダーで生理の時期を記録・予測するほか、心身がゆらぎやすい時期を知らせてくれる機能なども充実しています。家族やパートナーの女性に直接聞かなくても、アプリを見て生理の状況を把握できるので、お互いにとってメリットがあるでしょう。
生理管理アプリの情報をパートナーと共有することで、「私は生理前に体調不良になりやすいから、来週は家事の分担をしたい」「この期間はかなりイライラしちゃうから、言葉がキツくなることがあったらごめんね」などと女性からもコミュニケーションをとりやすくなるかもしれません。