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生理前に不安定になるからだとこころ 「PMS」はなぜ起こる?

生理が始まる少し前から、怒りっぽくなったり落ち込んだりといった気分の変調や、頭痛、だるさなどの不調を感じてつらいという経験はありませんか。生理前の不快な症状に悩まされているなら、それは「PMS(月経前症候群)」かもしれません。なかには家事や仕事が手につかなくなってしまう、ひどく感情的になり人間関係のトラブルに発展してしまうなど、日常、社会生活に支障をきたすケースもあります。

PMSで困っている場合、どうしたら楽になれるのでしょう。本記事では、PMSの症状や見分け方、セルフケア、治療法について解説します。自分の心と体に向き合って、快適な対処法を見つけましょう。

教えてくれるのは・・・
小川 真里子先生 
東京歯科大学市川総合病院 産婦人科准教授

産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、心身医療専門医、医学博士。女性ホルモンの変動に関係する、さまざまな心身の不調に寄り添うべく奮闘中。「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編」「OC・LEPガイドライン」などの作成に関与する傍ら、女性のヘルスリテラシーを向上させ、産婦人科受診の敷居を下げるべく講演活動なども精力的に行っている。

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INDEX
PMSってどんな症状?
PMSはどうして起こるの? なりやすい人とは?
精神症状が強く出るPMDDとは?
婦人科に相談してみよう

PMSってどんな症状?

PMS(月経前症候群)とは、生理の前になると現れる心身の不調全般を指す言葉です。具体的には「生理前3~10⽇の⻩体期(※1)のあいだ続く、精神的または⾝体的症状で、生理がくると減退ないし消失するもの」とされます(※2)。女性の95%は、生理前に大なり小なり何らかの症状を経験することがわかっており、PMSはとても身近な症状といえます(※3)。

※1 黄体期とは、排卵後から月経までの期間のこと
※2 産科婦⼈科⽤語集・⽤語解説集 改訂第4版より引用
※3 Takeda T, et al. Arch Womens Ment Health.9(4):209-212, 2006参照

PMSでよくみられる症状には以下のようなものがあります。生理前に思い当たる症状が出ていないか、チェックしてみましょう。

PMSでよく見られる症状

身体症状

□ お腹の張り・痛み
□ 胸の張り・痛み
□ 頭痛
□ 筋⾁痛・関節痛
□ むくみ
□ 体重増加

精神症状

□ イライラしたり、怒りっぽくなる
□ 倦怠感がある
□ 傷つきやすくなる
□ 気分の変動
□ 意欲や集中力の低下
□ 過⾷・特定のものを⾷べたくなる
□ 不眠や過眠
□ 自分を制御できなくなる
□ 不安・緊張・罪悪感を感じる

PMSの症状から起こる問題には、身体的なものと心理的なものがあります。それにより、家事や仕事のパフォーマンスが落ちる、家族やパートナーにつらくあたってしまう、衝動買いしたくなるなど、人間関係や社会生活にまで影響を及ぼすことがあります。

小川先生

PMSの症状は多岐にわたり、普段のちょっとした不調と似ているものがたくさんあります。見分けるポイントは、PMSは生理が始まると症状が自然に消えたり、あきらかに軽くなっていったりする場合が多いということ。生理が終わっても症状が続くようならそれはPMSではなく、ほかの原因があると考えられます。

PMSはどうして起こるの? なりやすい人とは?

PMSの原因については、まだよくわかっていませんが、生理周期をつくり出す女性ホルモンの変動が関わっていると考えられています。PMSは思春期前の小児や閉経後の女性、卵巣を摘出した女性には症状は見られません。

エストロゲンは、女性らしい体をつくるとともに、子宮内膜を厚くし、妊娠の準備に重要な役割を果たします。ほかにも自律神経のバランスを整えたり、感情を調節したりするなどの働きがあります。

プロゲステロンは、妊娠を維持しやすくするホルモンです。体温を上昇させ、月経前の眠気の原因にもなります。また、腸のぜん動運動を低下させるので、お腹が張り、便秘がちになるなどの不調も出やすくなります。

妊娠が成立しなければ、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量は低下します(黄体期後期)。それにより、脳の視床下部が司る感情面や食欲、性欲、自律神経系などにも影響が出ると考えられています。

生理痛がもともと重い人や、タバコやアルコールなど嗜好品の摂取が多い人、性格面では真面目で頑張りやすい人や几帳面な人に、PMS症状が強く出やすいといわれています。また、ストレスの多い状況では、症状が重くなることがあります。年代別では、思春期から生理のあるすべての世代にある症状です。

小川先生

PMSの原因には諸説ありますが、有力な説として、黄体期後半のエストロゲンとプロゲステロンが急激に低下する時期に、脳内のホルモンや神経伝達物質への反応が過敏になることが原因と考えられています。

産後うつや更年期症状も、エストロゲンとプロゲステロンが急減する際に起きてくることを考えると、女性ホルモンのバランスが変化するとき、体がその変化に対応しきれず、心身が不安定になることは十分考えられます。ただし、脳内のホルモンや神経伝達物質はストレスなどの影響を受けるため、PMSは、女性ホルモンの変化以外にも多くの要因から起こるとされています

PMS症状があるのはホルモンが正常に分泌されている証拠

小川先生

PMSについて「ホルモンの乱れが原因」という説は誤りです。そもそも生理が毎月きちんとあるのは、ホルモンが正常に働いているからで、エストロゲンやプロゲステロンの分泌量が変動するのも、卵巣や脳が正常に機能して、女性特有のリズムをつくり出しているからです。それは、きちんと排卵している証拠でもあります。

なお、更年期に入りホルモン分泌の働きが弱まってくると、PMSは自然に治っていきます。更年期症状もPMS症状に似ていますが、更年期症状はPMSのような周期性はありません。また、閉経後や卵巣を摘出した場合、PMSは起こりません。

セルフケアでPMSに備える・うまくつき合う

PMSは繰り返し起こる症状なので、うまくつき合っていくことが大切。「もしかしてこれはPMS?」と思ったら、次のようなセルフケアを取り入れてみましょう。

生理管理アプリやカレンダーなどでPMSダイアリーをつける

気になる症状が、生理周期のどのタイミングで起きやすいのかを記録します。不快な症状が出やすい時期がわかれば、仕事量を調節するなどPMSに備えやすくなります。個人差はありますが、PMSは生理前3~7日の間に現れ、生理が始めると自然に消えていくか、軽くなることが多いとされています

栄養をきちんと摂る

血糖値の急上昇はPMS症状の誘因となるため、玄米など低GI値の食品を意識して摂るようにしましょう。現代女性が不足しがちな栄養素である、良質のタンパク質、カルシウム、ビタミンB6、マグネシウム、オメガ3脂肪酸、鉄分などもしっかり摂れるように、1日3食をバランスよく食べることが大切です

刺激物、甘いもの、アルコールを避ける

砂糖を含む甘いものの摂りすぎに注意。朝食を抜いて昼食時にどか食いしたり、高カロリーのお菓子を食べたりすると、血糖値の急上昇を招き、疲労感や落ち込み、イライラなどを招きやすくなります。また刺激物、塩分、アルコールなどの摂りすぎも、むくみなどのPMS症状を悪化させてしまうことになるので控えましょう。

喫煙を避ける

喫煙している人はPMS症状が出やすいといわれており、受動喫煙も含めて注意が必要です。

軽い運動をする

軽い有酸素運動は、気分転換にもなりPMS症状を和らげてくれます。定期的にエクササイズしている人はPMS症状が軽いことがわかっています。

きちんと寝る

脳を休ませ、ストレスを解消するためにも、また、疲労回復や免疫力維持のためにも、質の良い睡眠をとるよう心がけましょう。

生活習慣を整えて、こうしたセルフケアをするだけでも症状を軽くすることができます。ただし、調子が悪いときには周りの人に協力を求めるなど、無理をせず心と体をいたわることがなにより大切です

精神症状が強く出るPMDDとは?

PMSのなかでも、とくに心の不調が著しく、日常生活や社会生活に支障をきたしているような状況を、PMDD(月経前不快気分障害)と呼び、以下のような症状がみられます。

□ 重症な抑うつ状態になる、絶望感、ときに死にたくなる
□ このときだけ人が変わったようになってしまう
□ やる気が出ない
□ 人と話すのが面倒になる
□ 集中力がなくなり仕事ができなくなる
□ 過食・拒食など食行動が不安定になる
□ 不安感がつきまとう
□ 自己否定感や孤独感が強くなる

ほかに不眠、片頭痛、腰痛、疲労感やだるさなどの身体症状も起こります。PMDDの症状も、PMS同様、生理が始まって数日後には消失し、普段の精神状態に戻るのが特徴です。

PMS症状を経験している人は生理のある女性の約70~80%、そのうち患者数は、PMS(中等症から重症度)が5.4%程度、PMDDは1.2%と、数としてはそう多くはありません(※4)。しかし、こうした症状こそ、ひとりで抱え込まないことが大切です。

※4 Takeda, Tasaka Arch Womens Health 2006参照

婦人科に相談してみよう

「セルフケアでも改善しない」「PMS症状で生活に支障が出ている」「つらい症状をすぐになんとかしたい」と感じたら、婦人科(レディースクリニック、女性外来等)を受診しましょう。

個々の症状や重症度によって治療方法は変わりますが、PMSは、漢方薬、低用量ピル(ホルモンの急激な変動を抑える)、利尿薬(むくみ緩和)、抗うつ薬(精神症状が強い場合)など薬での治療が中心になります。また、生理痛(月経困難症)で悩んでいることや心配なことがあれば、PMSと一緒に治療をすることが可能です。生理周期や症状を記録している人は診察時に持参しましょう。

小川先生

PMSをはじめ、生理まわりのことで日常生活に支障をきたしているなら、婦人科ではすべて治療対象です。最近は、低用量ピルの服用で生理の回数を減らす「連続投与」という⽅法もよく使われており、「ホルモンの変動をおさえて生理の回数を減らす」ことで、PMSが軽くなるうえ、生理の出血量も少なくなり生理痛も軽くなるといった効果があります。生理日そのものの調節もできますので、これまで生理で悩まされてきた人も相談してみてください。いずれにしても、女性のみなさんには、普段から、婦人科のかかりつけ医を持っておくことをおすすめしたいですね

生理痛については、下記ページでも詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。

鎮痛薬、ピル、ミレーナ…我慢しない生理痛の対処法
多くの女性を毎月悩ませている生理痛。いつものことだから仕方がないと、我慢している人も少なくありません。しかし、生理痛は鎮痛薬のほか、ピルやミレーナといったアイテムを上手に取り入れることで、緩和することができます。つらい痛みを我慢せず、自分に合った対処法を見つけていきましょう。
https://helico.life/monthly/230506stomachache-periodpain/

PMDDの治療法は?受診は何科?

PMDDも治療の中心は薬物療法。ホルモンの変動を抑えるための低用量ピルも有効で、症状によっては、精神安定剤や抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、抗不安薬、向精神病薬、睡眠導入剤なども用いられます。漢方薬を併用も可能です。それに、カウンセリングや認知行動療法などの精神療法を組み合わせることもあります。

PMDDの受診に適した診療科は心療内科や精神科ですが、迷った場合には婦人科で相談しても問題ありません。なお、以前から心療内科や精神科に通院している場合は、担当医に「気になる症状があり、PMDDかもしれない」と相談してみてもいいでしょう。診察の際、生理周期と症状の記録があれば持参しましょう。

PMSは症状の種類も程度も一人ひとり違います。とくに、PMSやPMDDによるイライラや意欲の低下などは疾患によるもので、あなたのせいではありません。周囲の人との関係を良好に保つためにも、医師に相談し、薬などを上手に使いながらうまく付き合っていきましょう。

CREDIT
構成・取材・文:及川夕子 イラスト:tanateasami 編集:HELiCO編集部+ノオト
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