生理が始まる少し前から、怒りっぽくなったり落ち込んだりといった気分の変調や、頭痛、だるさなどの不調を感じてつらいという経験はありませんか。生理前の不快な症状に悩まされているなら、それは「PMS(月経前症候群)」かもしれません。なかには家事や仕事が手につかなくなってしまう、ひどく感情的になり人間関係のトラブルに発展してしまうなど、日常、社会生活に支障をきたすケースもあります。
PMSで困っている場合、どうしたら楽になれるのでしょう。本記事では、PMSの症状や見分け方、セルフケア、治療法について解説します。自分の心と体に向き合って、快適な対処法を見つけましょう。
- 教えてくれるのは・・・
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- 小川 真里子先生
- 東京歯科大学市川総合病院 産婦人科准教授
産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、心身医療専門医、医学博士。女性ホルモンの変動に関係する、さまざまな心身の不調に寄り添うべく奮闘中。「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編」「OC・LEPガイドライン」などの作成に関与する傍ら、女性のヘルスリテラシーを向上させ、産婦人科受診の敷居を下げるべく講演活動なども精力的に行っている。
PMS症状があるのはホルモンが正常に分泌されている証拠
セルフケアでPMSに備える・うまくつき合う
PMSは繰り返し起こる症状なので、うまくつき合っていくことが大切。「もしかしてこれはPMS?」と思ったら、次のようなセルフケアを取り入れてみましょう。
生理管理アプリやカレンダーなどでPMSダイアリーをつける
気になる症状が、生理周期のどのタイミングで起きやすいのかを記録します。不快な症状が出やすい時期がわかれば、仕事量を調節するなどPMSに備えやすくなります。個人差はありますが、PMSは生理前3~7日の間に現れ、生理が始めると自然に消えていくか、軽くなることが多いとされています。
栄養をきちんと摂る
血糖値の急上昇はPMS症状の誘因となるため、玄米など低GI値の食品を意識して摂るようにしましょう。現代女性が不足しがちな栄養素である、良質のタンパク質、カルシウム、ビタミンB6、マグネシウム、オメガ3脂肪酸、鉄分などもしっかり摂れるように、1日3食をバランスよく食べることが大切です。
刺激物、甘いもの、アルコールを避ける
砂糖を含む甘いものの摂りすぎに注意。朝食を抜いて昼食時にどか食いしたり、高カロリーのお菓子を食べたりすると、血糖値の急上昇を招き、疲労感や落ち込み、イライラなどを招きやすくなります。また刺激物、塩分、アルコールなどの摂りすぎも、むくみなどのPMS症状を悪化させてしまうことになるので控えましょう。
喫煙を避ける
喫煙している人はPMS症状が出やすいといわれており、受動喫煙も含めて注意が必要です。
軽い運動をする
軽い有酸素運動は、気分転換にもなりPMS症状を和らげてくれます。定期的にエクササイズしている人はPMS症状が軽いことがわかっています。
きちんと寝る
脳を休ませ、ストレスを解消するためにも、また、疲労回復や免疫力維持のためにも、質の良い睡眠をとるよう心がけましょう。
生活習慣を整えて、こうしたセルフケアをするだけでも症状を軽くすることができます。ただし、調子が悪いときには周りの人に協力を求めるなど、無理をせず心と体をいたわることがなにより大切です。
精神症状が強く出るPMDDとは?
PMSのなかでも、とくに心の不調が著しく、日常生活や社会生活に支障をきたしているような状況を、PMDD(月経前不快気分障害)と呼び、以下のような症状がみられます。
□ 重症な抑うつ状態になる、絶望感、ときに死にたくなる
□ このときだけ人が変わったようになってしまう
□ やる気が出ない
□ 人と話すのが面倒になる
□ 集中力がなくなり仕事ができなくなる
□ 過食・拒食など食行動が不安定になる
□ 不安感がつきまとう
□ 自己否定感や孤独感が強くなる
ほかに不眠、片頭痛、腰痛、疲労感やだるさなどの身体症状も起こります。PMDDの症状も、PMS同様、生理が始まって数日後には消失し、普段の精神状態に戻るのが特徴です。
PMS症状を経験している人は生理のある女性の約70~80%、そのうち患者数は、PMS(中等症から重症度)が5.4%程度、PMDDは1.2%と、数としてはそう多くはありません(※4)。しかし、こうした症状こそ、ひとりで抱え込まないことが大切です。
※4 Takeda, Tasaka Arch Womens Health 2006参照
婦人科に相談してみよう
「セルフケアでも改善しない」「PMS症状で生活に支障が出ている」「つらい症状をすぐになんとかしたい」と感じたら、婦人科(レディースクリニック、女性外来等)を受診しましょう。
個々の症状や重症度によって治療方法は変わりますが、PMSは、漢方薬、低用量ピル(ホルモンの急激な変動を抑える)、利尿薬(むくみ緩和)、抗うつ薬(精神症状が強い場合)など薬での治療が中心になります。また、生理痛(月経困難症)で悩んでいることや心配なことがあれば、PMSと一緒に治療をすることが可能です。生理周期や症状を記録している人は診察時に持参しましょう。
生理痛については、下記ページでも詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
- 鎮痛薬、ピル、ミレーナ…我慢しない生理痛の対処法
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多くの女性を毎月悩ませている生理痛。いつものことだから仕方がないと、我慢している人も少なくありません。しかし、生理痛は鎮痛薬のほか、ピルやミレーナといったアイテムを上手に取り入れることで、緩和することができます。つらい痛みを我慢せず、自分に合った対処法を見つけていきましょう。https://helico.life/monthly/230506stomachache-periodpain/
PMDDの治療法は?受診は何科?
PMDDも治療の中心は薬物療法。ホルモンの変動を抑えるための低用量ピルも有効で、症状によっては、精神安定剤や抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、抗不安薬、向精神病薬、睡眠導入剤なども用いられます。漢方薬を併用も可能です。それに、カウンセリングや認知行動療法などの精神療法を組み合わせることもあります。
PMDDの受診に適した診療科は心療内科や精神科ですが、迷った場合には婦人科で相談しても問題ありません。なお、以前から心療内科や精神科に通院している場合は、担当医に「気になる症状があり、PMDDかもしれない」と相談してみてもいいでしょう。診察の際、生理周期と症状の記録があれば持参しましょう。
PMSは症状の種類も程度も一人ひとり違います。とくに、PMSやPMDDによるイライラや意欲の低下などは疾患によるもので、あなたのせいではありません。周囲の人との関係を良好に保つためにも、医師に相談し、薬などを上手に使いながらうまく付き合っていきましょう。