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更年期を健やかに過ごすために、知っておきたいこと

女性の心と体は、毎月のホルモンの波と一生のうちのホルモンの波によって左右されやすく、さまざまな不調が現れることがあります。なかでも、急激なホルモンの変化に心も体も乱されやすいのが「更年期」。ただ、実際のところ「いつごろやって来るの?」「どんな症状が現れるの?」「寝込んでしまう人もいるって本当?」など、まだよく知らないがゆえに不安を感じている人も多いでしょう。

更年期を元気に、そして健やかに過ごしていくためにも、まずは更年期について正しく学び、理解を深めることが第一歩です。更年期にまつわるさまざまな疑問や備えるべきポイントについて、産婦人科専門医の高尾美穂先生に解説していただきました。

教えてくれるのは・・・
高尾美穂先生
イーク表参道 副院長

医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、 女性のライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、選択をサポートしている。NHK『あさイチ』をはじめメディア出演多数。近著は『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)。

INDEX
更年期っていつのこと?
更年期を迎えると、体のなかではどんな変化が起きるの? 
更年期障害ってどういうこと? なぜしんどいの?
更年期を迎える世代が、知っておきたいこと
更年期は怖くない

更年期っていつのこと?

更年期とは、閉経を挟んで前後5年ずつの合計10年間のことを指します。閉経とは医学的には卵巣の働きの終了を意味し、月経が来ない状態が12か月間続いた場合、最後の月経の年齢を「閉経年齢」と呼びます
日本人の閉経年齢の中央値は50.54歳。つまり、一般的に、40代の半ばくらいから多くの女性が更年期を迎えることになりますただ、閉経年齢にも個人差があるため、更年期といっても40~60歳くらいの人が該当します。そのとき現れる「更年期症状」も人によりさまざまです。

こんな変化が更年期の始まりのサイン

更年期の始まりがいつなのかは、厳密には閉経を迎えてみないとわかりませんが、ひとつの目安としてわかりやすいのが、「月経の変化」です。それまで順調に来ていた月経の周期が乱れて予測しにくくなったり、経血量が増えたり減ったり、日数が短くなったり、逆に長引いたりするなどの変化が見られるようになったら、そろそろ……またはもう更年期かという時期。加えて、疲れやすくなったり、ほてりや冷えのぼせ(※)、めまいなど、更年期特有の不調を自覚することで「更年期かも」と気づく人もいます。

※冷えのぼせとは…手足は冷えているのに、上半身や顔は火照っているような状態

高尾先生

40歳を過ぎたら「そろそろ更年期に入るかな?」「不調があり得るかも」と考えて準備をしておきましょう。

なお、よく混同されやすいのですが、「排卵があり、性ホルモンの分泌」が機能している、つまり卵巣機能がまだ十分にある年代の心身の不調は、閉経にともない卵巣機能が低下して起こる「更年期症状」とは違うものです。更年期よりも前の世代(俗称でプレ更年期ともいう)で起こる不調の多くは、「PMS症状などの自律神経失調症」だと考えられます。

更年期を迎えると、体のなかではどんな変化が起きるの?

一般的に30代半ばくらいまでは、順調に卵巣から女性ホルモン(エストロゲン)を分泌できていますが、30代後半〜40代にかけて卵巣機能は徐々に低下していき、エストロゲンの分泌が減少し、無排卵になることも増えていきます。その結果、月経周期の変化を感じやすくなります。

また、卵巣へ「エストロゲンを出すように」と指令を送るのは、脳の視床下部の役目。ただ、リクエストに応えられない卵巣に指示を出し続けることによって、視床下部も機能低下を起こしてしまいます。視床下部は、体温や発汗などを調整する自律神経もコントロールしているため、その視床下部がパニックを起こすことで、ホットフラッシュをはじめ、心身にさまざまな症状が現れるのです

なお、エストロゲンの分泌は、40代後半から閉経にかけて乱高下しながら減少していき、閉経後数年で卵巣からの分泌はほぼゼロになります。

更年期に現れる主な症状

月経異常:

生理不順、不正出血など

自律神経失調症状:

ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)、めまい、動悸、不眠、頭痛、肩こりなど

精神神経系症状:

倦怠感、不眠、不安、憂うつ、くよくよ、イライラ、やる気が出ない、集中力が続かない、自信がなくなる、記銘力(新しく体験して得た情報を、覚えて保持する能力)の低下など

高尾先生

更年期症状は300種類あるともいわれています。閉経後の患者さんの訴えで意外と多いのが、膝が痛いなどの「関節の痛み」です。また40代後半くらいになると「最近、理由もわからず調子が悪い」「やる気が出ない」というようなメンタル不調の訴えも増えていきます。

不調の原因は更年期特有の症状かもしれないし、加齢に伴うものであったり、疾患が隠れている可能性もあり……と判断が難しいケースも少なくありません。困っているのであれば、ぜひ一度、婦人科に相談してみてくださいね。

更年期障害ってどういうこと? なぜしんどいの?

更年期に起こるさまざまな不調を「更年期症状」といいますが、症状を自覚する人は全体の6割ほど。なかにはほとんど症状を自覚することなく過ごせる人もいますが、更年期を迎えた女性のうち約3割は、日常生活に支障をきたすほど重い不調を経験します。この状態を「更年期障害」と呼びます。

更年期がなぜしんどいのか、それにはエストロゲンの分泌低下が大きく関わっています。

女性の更年期には、エストロゲンの分泌量が大きくアップダウンを繰り返しながら減少していくため、ホルモン分泌の不安定さや変動そのものがつらさにつながることもあれば、エストロゲンが足りないことによる不快な状態も、さまざまな不調を生むと考えられます。そして症状がひとつだけということは少なく、いくつもの不調を同時に経験する方がほとんどです。また、エストロゲンは女性の髪や肌、骨、血管、そして「心」の状態にもいい影響を与えてきた”お守り“のようなホルモンで、それが減少していくのが大きな理由です。エストロゲンに守られている期間の女性の体は、さまざまなトラブルや病気になりにくいのですが、更年期になるとそのサポートがなくなってしまう、と考えるとイメージしやすいでしょう。

高尾先生

40歳以降の女性で増えてくる睡眠の問題のひとつが「中途覚醒」です。エストロゲンはリラックスするときに優位になる副交感神経に働いて感情を安定させる作用があり、不足すると睡眠にも影響が及びます。また、のぼせ・ほてりなどの症状が睡眠の妨げになることも

もともと日本の女性は世界的にも睡眠時間が短いわけですが、さらに更年期が追い討ちをかけるといった状況です。これではしんどいのも無理はありません。自分ではちゃんと眠れていると思っても、更年期には中途覚醒や睡眠が浅くなるという変化が起きている可能性があって、「目覚めたときに疲れが取れていない」と訴える患者さんも少なくありません。睡眠環境や日々の生活スタイルを見直すほかに、後述する更年期の症状を改善する治療などでも、睡眠の質が変わってくると思います。

社会全体で考えていきたい、更年期を迎える人へのサポート姿勢

更年期の症状は「女性ホルモンの低下」だけではなく、「生活環境(ストレス)」「その人の性格」の3つの要因がトリガーとなって起こります。更年期世代は、親として妻として娘として、また社会人として……といくつもの役割を担っているため、責任感が強い女性の場合、ストレスをひとりで抱えがち。何でも完璧にしなくちゃと思うあまり、症状が重くなってしまう可能性があるのです。

眠れない、気分が落ち込む、疲れやすい、激しいめまいがするなど、更年期に現れる症状はさまざまですが、なかには家事ができなくなったり寝込んでしまったり、離職に追い込まれる人もいて、更年期障害は社会問題にもつながっています。

高尾先生

1日は24時間しかありません。不調を感じているなら、周囲の人の助けを借りて自分の負担を少しずつ減らしていくことを始めましょう。パートナーや子どもに「今日は調子が悪いの」と、ちゃんと伝えることも大事です。自分をケアする時間を増やしていきましょう。

さらには、筋力低下も疲れやすさの原因になります。先々の人生のためにも、睡眠時間や運動する時間を確保できるように、更年期に入る前から環境づくりをしておくといいですね。

更年期を迎える世代が、知っておきたいこと

更年期を迎えてからの体のケアは、「いま困っている更年期症状への対処」と「閉経後に目立ち始める症状や病気に備えること」の2段構えで考えることが大切です。

エストロゲン分泌量の変動によって起こる不調

月経異常、自律神経失調症状、精神神経系症状(詳しくは上記)

エストロゲンが不足することにより徐々に起きてくる症状

皮膚の乾燥やかゆみ、口の渇き、腟の潤いやハリがなくなることによる女性器や尿のトラブル、血圧やコレステロール値の上昇、骨量(骨密度)の減少、運動器では関節の痛み・腫れや腰痛といった変化

更年期の治療法を知っておこう

更年期はホルモンケアを始めるのにいいタイミングホルモン補充療法(HRT)は欠乏したエストロゲンを補うために開発された治療法で、更年期障害の第一選択薬です

高尾先生

更年期に起こるさまざまな不調や健康の問題は、エストロゲンの分泌量の変動に体が慣れることでいずれ消えていく症状もあるものの、エストロゲン不足+加齢により続いていく症状もあるわけです。

どちらにも対応できる治療として、少量のエストロゲンを補充するホルモン補充療法(HRT)があります。これは更年期に起こるさまざまな症状改善を目指すほか、エストロゲン欠乏が影響して起こる骨粗しょう症、手指の関節の痛みや腫れ、こわばりの予防などにも役立ちます

女性の体はエストロゲンというお守りがなくなったあとも少しずつ変化していくので、先回りしてエストロゲンを補うことは理にかなっています。また症状によってホルモン補充療法以外にも漢方、向精神薬などの薬物治療が用いられます。代表的な治療法を知っておきましょう。

ホルモン補充療法(HRT)

飲み薬、貼り薬、ジェル、腟錠などがあり、医師と相談しながら、更年期の当事者が主体的に選択する医療です。症状が良くなればやめてもよく、中断も再開も可能。何歳までしかできない、という決まりはなく、継続することができます。更年期の対策として健康保険が適用され、薬代は、1か月あたり1000円〜が目安です(症状がなくても保険適用のため)。

※ただし、乳がん、重度の肝臓病、血栓症などを発症したことがある人は受けられません

漢方療法

イライラやうつ状態、不眠、めまい、頭痛といった幅広い症状に有効ですが、即効性よりも長く継続することで効果を発揮します。ホルモン補充療法と組み合わせて使うことも可能です。

向精神薬/カウンセリング

メンタル不調には向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬)を使うことがあります。カウンセリングが心を楽にしてくれることもあります。

また、治療以外のセルフケアとして、サプリメントの「エクオール」を取り入れるという選択もあります。エクオールはエストロゲンに似た働きをする成分で、エストロゲンが不足している状態では、エクオールを摂取することで弱いながらもエストロゲン様(よう)作用を示すと考えられています。ホットフラッシュなどの更年期症状改善、骨粗しょう症予防、メタボ予防、皮膚老化予防などの効果があるとの研究結果が出ています

更年期は怖くない

更年期は誰にでも訪れるもので、症状が起こる背景にはエストロゲン分泌のアップダウンがあり、加えてその人の性格や環境も関係していると考えられています。更年期に起こる症状は現れ方も重さも人によって違います。だからこそ、どんな症状がつらいのか、自分はどうしたいのか、自分の心や体と向き合うことが重要です

少しでも快適に、体に無理なく過ごすためにできることは、生活習慣を見直すこと(食事、睡眠、運動など)や婦人科で相談し治療を受けることなど、意外にシンプルなことばかり。正しい情報を得ておき、更年期が来たらこれまでのようにがむしゃらに走り続けるのではなく、完璧を目指さず、できるだけ休養のための時間を確保するなどシフトチェンジすることを心がけると、案外楽に乗り切れるかもしれません。

高尾先生

更年期世代の不調は多岐にわたるので、すべてを一度に解決するのは難しいケースも少なくありません。完璧を目指すよりも、6割改善したらいいなくらいの感覚で、治療やケアに取り組むほうがちょうどいいのかもしれません。これから更年期を迎える世代の方は、月経不順やPMS、生理痛などがあれば、普段からかかりつけの婦人科を持っておくと更年期の受診・相談もスムーズだと思います。

女性の皆さんに伝えたいのは、更年期につらい症状が出てきたとしても、ご自身でできることは結構あるということ。いま、「女性の生理や更年期の困難に目を向け、社会全体で支えよう」という動きがあることは歓迎すべきこと。ですが、しんどさをひとりで我慢し続けるのはまったく良いことではなく、かえって周囲に迷惑をかけてしまっている場合もある、ということも意識してほしいと思います

現代の医療を賢く活用すれば症状を軽くすることもできるし、個人でできるセルフケアもあるのです。役立つ情報をきちんとリサーチして、対策法を前向きに試してみる。良い生活習慣を続け、閉経後も望む人生を生き生きと進んでいきましょう。

高尾先生に以前ご登場いただいた、こちらの記事もぜひチェックしてください!

ジェーン・スー&堀井美香が高尾先生に聞く!女性ホルモンと乾燥の関係
年齢を重ねることで、体にまつわる悩みは変化していきます。例えば「肌や髪の乾燥」が年々気になってきたけれど、それらの原因や正しいケア方法がわからなくて、なんとなくそのままにしている……という人は少なくないのでは。

ジェーン・スーさんと堀井美香さんがパーソナリティを務める人気ポッドキャスト番組『TBSラジオ ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』にて、女性のさまざまな悩みや本音に寄り添い、加齢に伴う体の変化や戸惑いを多くのリスナーと共有するおふたりが、今まさに直面している「体の乾燥」にまつわる悩みや疑問を、イーク表参道副院長・高尾美穂先生に相談。女性ホルモンの働きと乾燥の関係とは?
https://helico.life/monthly/220910drysyndrome-interview/
CREDIT
構成・取材・文:及川夕子 イラスト:tanateasami 編集:HELiCO編集部+ノオト
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