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身近ながん「乳がん」から命を守るためにできること

日本の女性がかかるがんのなかで、最も多いものが「乳がん」。30代後半以降に増加していくことから、子育て中や働き盛りの女性を襲う要注意のがんです。ただし乳がんは、早期の段階で治療すれば治りやすい病気でもあります。だからこそ普段から自分の乳房に関心を持ち、早期発見に有効な、乳がん検診を定期的に受診することが大切です。

今回は、適切な検診の受け方や、乳房の変化に気づくためのポイントなどについて、日本乳癌学会乳腺専門医であり、ピンクリボン活動にも尽力してきた、医師の島田菜穂子先生にうかがいました。

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教えてくれるのは…
島田 菜穂子先生
ピンクリボンブレストケアクリニック表参道 院長

筑波大学医学専門学群卒。筑波大学付属病院放射線科、東京逓信病院放射線科乳腺外来医長、イーク丸の内副院長ほかを経て現職。日本医学放射線学会放射線専門医、日本乳癌学会乳腺専門医、日本がん検診・診断学会認定医、マンモグラフィ読影指導医、認定スポーツドクター、認定産業医。東京オリンピック聖火ランナー。診療の傍ら、乳がん啓発や診療環境の改善を目指し、2000年に認定NPO法人乳房健康研究会を発足し、ピンクリボン活動を日本で始動。ピンクリボンウオークの開催や講演、出版、ピンクリボンアドバイザーの教育などをおこなっている。

乳がんってどんな病気?

乳がんは、乳房のなかにある乳腺の組織にできる悪性の腫瘍のこと。現在は日本女性の9人に1人が乳がんにかかり、年間1万4803人が亡くなっています(厚生労働省「2021年人口動態統計」)。

子宮がんになる率が29人に1人、卵巣がんで62人に1人という数字と比較すると、乳がんにかかる女性がいかに多いかがわかります。

乳がんの約90%は乳管から発生し、約5~10%は小葉という場所から発生します

乳がんは早期に見つかれば9割以上は治る病気(※)ですが、進行すると乳房以外のリンパ節や骨、肺、肝臓、脳などの重要な臓器にがん細胞が転移することもあります。

※しこりの大きさが2cm以下で、リンパ節や別の臓器に転移していない段階のI期であれば10年相対生存率は99%以上

乳がんは、ほかの臓器のがんに比べて、若い年代からかかる可能性があることも特徴のひとつ。30代半後半から増え、40代から50代前半で多く発生しています。男性にも発生することがありますが、女性の乳がんの100分の1以下ほどです。

出典元:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

主な症状は乳房のしこりで、自分で乳房を触ることで気づく場合もあります。ほかにも、以下のような症状がないかチェックしてみましょう。
□ 乳頭から分泌物が出る
□ 乳頭や乳輪がただれる
□ 乳房にくぼみができる
□ 左右の乳房の形が非対照になる

島田先生

乳房の本来の目的は母乳(乳汁)をつくること。それゆえ、普段はあまり意識することがない臓器かもしれませんが、そこに病気ができる可能性があることを忘れないようにしましょう。以前は、閉経前後に発症のピークがありましたが、最近では30代の若い世代や70代の増加も目立っています。女性が生涯にわたり注意が必要な病気です。

自分の命は自分で守る ~乳がん検診のすすめ~

乳がんは早期に発見すれば治るがんであるため、定期検診を受けることがとても大切です。

国が推奨するがん検診(集団検診)に含まれる「乳がん検診」では、対象者40歳以上で2年に1回、マンモグラフィ検査が推奨されています。まずはこの検診を必ず受けましょう。

ほとんどの市区町村では検診費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担で検診を受けることができるほか、職場や加入する健康保険組合などでもがん検診を実施している場合があります。

また、適切な検診を受けるためにも知っておきたいのが、「乳がんになりやすい人がいる」ということ。乳がんのリスクが高いと考えられる場合には、40歳以上という年齢にこだわらず検診の開始年齢を早めたり、自費での検査回数を増やしたりするなど、検診内容を個別に組み直すことが重要になります。

乳がんのリスクを高める要因とは

乳がんのリスクを高める要因については、まだはっきりしたことはわかっていませんが、いくつかの要因が考えられています。

  • 初経年齢が早い
  • 閉経年齢が遅い
  • 出産・授乳経験がない
  • 初産年齢が高い
  • 多量の飲酒習慣
  • 閉経後の肥満
  • 遺伝(血縁者に乳がんの人がいる)
  • 良性乳腺疾患の既往歴
島田先生

乳がんの発生には、女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。生理の回数が多い方や、婦人系疾患の治療のために使用するホルモン剤(※)が低用量より高用量の方は、乳がんリスクが高くなっている可能性があります。
 
その場合、過度に恐れる必要はありませんが、乳がん検診を毎年受けるなど、検診の回数を見直してもいいでしょう。乳腺科にかかりつけ医を持っておくと、相談しやすいので安心です。

※月経困難症やPMS治療のための経口避妊薬(ピル)や、閉経後の長期のホルモン補充療法など

遺伝性乳がん卵巣がん症候群とは

乳がんのなかには、乳がんになりやすい体質をもともと持っている「遺伝性乳がん」と呼ばれるものがあり、この遺伝子異常があると20代での発症も珍しくありません。

代表的なのは「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」という病気で、一般的に200人から500人に1人が該当。がん発症を抑制する働きがある遺伝子BRCA1またはBRCA2に病的な変異があり、一般の人よりも乳がんや卵巣がんにかかりやすくなります。

男性では乳がん、前立腺がん、すい臓がんを発症しやすいといわれています。診断には、BRCA1/2遺伝子の遺伝的検査が用いられます(保険適応)。

島田先生

父方と母方双方の近親者(祖父母・父母・きょうだい・おじ、おばなど第1度、第2度近親者まで)が乳がんにかかった人は、遺伝的に乳がんにかかりやすい可能性があります。
 
そうした患者さんには「乳がんにかかったことのある家族のなかで、一番若くして乳がんになった人の発症年齢からマイナス10歳を検診スタートの目安にしましょう」とアドバイスしています。たとえば母親が35歳で乳がんになっていたら、25歳から検診を始めるといいですね。

検診・検査の種類と受診のしかたを知っておこう

乳がん検診の目的は、がんを早く見つけて亡くなる人を減らすこと。そのため、死亡率減少効果が明らかな検査方法としてマンモグラフィ検査が推奨されています。

問診+マンモグラフィ検査という組み合わせが基本(現在、視触診は推奨されていません)。そして特に異常がなかったとしても検診は一度きりではなく、定期的に続けることが大切です。

なおマンモグラフィ検査は放射線被ばくがありますが、乳房だけの部分的なもので健康上の影響はほとんどないと考えられています。

島田先生

検査の回数については、特にリスクがない場合でも、1年に1度程度であれば、被ばくを心配する必要はなく、やりすぎというほどではありません。ご自身の選択で必要に応じて検診をプラスしていくと良いでしょう。忘れないように、誕生日月に毎年受けると決めておくのもおすすめですね。

乳がん検診・検査ごとの主な特徴

マンモグラフィと超音波検査では、それぞれ特徴が異なります。

マンモグラフィ(乳房のX線検査)

  • 乳腺の全体像をとらえやすく、経年変化を比較しやすい
  • 早期乳がんのサインである“石灰化”の検出と診断が得意
  • 検診受診の継続によって、乳がん死亡率が低下することが統計学的に証明されている
  • 妊娠中は胎児の被ばくを避けるためX線を用いるマンモグラフィ検査は勧めらない
  • 授乳中はX線で乳房内が透過しづらく、詳細な診断ができないためマンモグラフィは適さない

超音波(エコー)検査

  • 被ばくや痛みがなく、妊娠中でも検査可能
  • マンモグラフィでは病変の検出が難しい若い世代や高濃度乳房(乳腺が多い乳房)での病変の検出にも適している
  • 手で触ってもわからないような数㎜のしこりを見つけやすい
  • 妊娠中や授乳中の方におすすめ
  • 石灰化の検出や診断は不得意
島田先生

乳がん検診はマンモグラフィ検査が国際基準ですが、高濃度乳房(デンブレスト)の場合、マンモグラフィ検査ではがんが見えにくいという課題があるため、それを補うために、超音波検査との組み合わせも多く用いられています。乳房の状態や年齢、リスクに応じて適切な検査の組み合わせを行うのが重要です。30代ぐらいまでの乳腺が発達している方には超音波を、40代以上では「マンモグラフィ」+「超音波検査」という組み合わせを勧める場合が多いです。

高濃度乳房とは

乳房は乳腺組織と脂肪組織によって構成されていますが、乳腺の割合が多い乳房を高濃度乳房(デンブレスト)または高濃度乳腺といいます。日本人は比較的高濃度乳腺の割合が高いことがわかっています。

マンモグラフィの痛みを軽くする工夫

乳房が張りやすい人は生理前を避けて受診しましょう。ゆったりとした気分で体の力を抜くことも大切です。頑張って耐えようとするよりも、いっそ「検査技師さんにゆだねてしまおう」と気持ちを切り替えると、緊張が解けて楽に受けられるかもしれません。

島田先生

マンモグラフィ検査は、病変をより鮮明に写し出すために、乳房を圧迫して撮影します。痛くて嫌と思われるかもしれませんが、しっかり圧迫し乳腺を薄く広げることで、しこりが写りやすく、検査で受ける放射線被ばくを少なくできるので、つまりお得なんです! 
 
ただ実際には乳房だけではなく、大胸筋も一緒に挟むので、緊張して筋肉に力が入ってしまうと痛みが出やすいです。ですから、いかに力を抜くかが大事。「できるだけ、リラックスして力を抜くこと」を心がけると良いでしょう。

「要精密検査」という結果が出たら…

本当に乳がんかどうかを、詳しく調べることになります。追加の画像撮影や超音波検査、細胞診、組織診などを組み合わせて検査をします。「症状がないから」と自己判断せずに、必ず精密検査を受けましょう。

異常に気がついたら、すぐ受診を

乳房に異常があることに気づいたときには、次の定期検診を待たずに乳腺科や乳腺外来を受診しましょう。

島田先生

がんと診断されると治療前に、がんの広がりや転移を調べるために、超音波検査やマンモグラフィに加えて乳腺MRI検査、CT検査、PET検査といった検査を用いることもあります。一方、病気を発見するための検査(検診)としては上記のどの検査方法もそれぞれ特徴があり、どれか一つだけですべての乳がんが検出できるわけではありません。どの検査の組み合わせが自分の検診に適しているのか、かかりつけの乳腺科の医師に相談してみるといいでしょう。

大切にしたい乳房を意識する生活「ブレスト・アウェアネス」

日頃から自分の乳房の状態に関心を持ち、乳房を意識して過ごす生活習慣のことを「ブレスト・アウェアネス」といいます。

ブレスト・アウェアネスの4つのポイント

  1. 自分の乳房の状態を知る
  2. 乳房の変化に気をつける
  3. 変化に気づいたらすぐ医師へ相談する
  4. 40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける

乳がんを見逃さないためには、定期的な検診に加えて自分の乳房の状態を普段から知っておくことが大事。セルフチェックも取り入れましょう。乳房に「何か異変がないか」「様子がいつもと変わりないか」どうかをチェックするために、自分で触ったり目で見たりして行うものです。入浴時に乳房を手で洗う、お風呂上がりにボディクリームを塗るなど、日常のなかで自然に乳房に触れる習慣があると変化があったときに気づきやすいでしょう。

乳房の様子が「いつもと違うな?」と感じたら、早めに医師に相談することが大切。そのためにも、婦人科だけではなく乳腺科にもかかりつけ医を持っておくと安心です。定期的に受ける乳がん検診は、そのきっかけにもなるので忘れずに受けましょう。

島田先生

セルフチェックのポイントとしては、見た目にしても感触にしても「あれ、いままでこんなのあった?」というご自身の感覚を大事にしてください。
 
いつも生理前にだけ起こるという症状ならほぼ大丈夫。そうではなく、異常に気づいて2週間ぐらいしても症状が消えない、ずっと続いている、だんだん悪くなってきたというような場合には、乳腺科クリニックなどを受診してください。ネットであれこれ調べて自分で判断し、受診しないのはNG。せっかく気づいた病気のサインを見送ることになるかもしれません。安心するためにも勇気をもって受診しましょう。

セルフチェックは、できれば日常の何気ない動作の流れで習慣として行うのがベストですが、生理前には胸が張って触れないという人もいるかもしれません。その場合には、生理が始まって1週間後が比較的痛みも軽く乳房も柔らかくしこりを見つけやすい時期なので、これを目安にするといいでしょう。

島田先生

もし仮に乳がんが見つかっても、乳がんは早く見つけて治療すれば治る確率が高いがんです。早く治療ができれば、妊娠・出産も仕事もあきらめずにすみますし、治療費等の経済的な負担も少なくすみます。早期発見のきっかけをつくるのは自分自身であることを忘れないでくださいね。

乳がんを予防する方法はある?

「これをすれば乳がんにならない」という確実な予防法は、いまのところありません。ただし、定期的な運動は乳がんの発症リスクを下げ、再発予防にもなることがわかってきています。乳がん診療ガイドラインによれば、週にトータル1時間程度のジョギング、または2時間程度の息が上がるくらいの強度でウォーキングなどの定期的な運動で、乳がん予防効果があるとのこと。運動は健康づくりの基本でもあるので、ぜひ習慣にしましょう。

CREDIT
構成・取材・文:及川夕子 イラスト:tanateasami 編集:HELiCO編集部+ノオト
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