20~40歳代女性の間で近年増えている、「子宮頸がん」。多くのがんは加齢とともに発症率が上がっていきますが、このがんは「若いうちから注意したいがん」の1つです。
海外では予防ワクチン(HPVワクチン)の導入が進み、罹患率が低下している国もあります。しかし、日本ではワクチン接種が進んでおらず、年間で約1万人が新たに子宮頸がんを発症し、約2,900人が亡くなっています。病気の進行度によっては、子宮全摘出という決断を迫られる場合もあります。どうしたら自分の身を守れるのか。子宮頸がんという病気や予防のためのHPVワクチン、子宮頸がん検診について理解を深めてみませんか。
- 教えてくれるのは・・・
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- 稲葉 可奈子先生
- 産婦人科専門医、医学博士、みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表
京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、現在は関東中央病院産婦人科医長、双子含む四児の母。産婦人科診療の傍ら、病気の予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報とリテラシー、育児情報などを、SNS、メディア、企業研修などを通して効果的に発信することに努めている。
子宮頸がん発症のメカニズム
HPVに感染したとしても、9割の人は免疫の力で自然排出されます。しかし、残り1割では感染が長期間持続することがわかっていて、特にハイリスクHPVが長期間持続感染すると、子宮頸部の細胞に「異形成(前がん病変)」という異常をきたすことがあります。異形成になったら必ず進行するわけではなく、一部はがんにならずに自然に正常に戻ることもあります。
つまり、HPVに感染してもすべての人ががんになるわけではありません。HPVに感染した人のうち、ごく一部の方が、数年から数十年をかけ、いくつかの段階を経て子宮頸がんに進行します。
※病変…病気の前兆として現れる、体や組織の変化
なぜ20~40歳代は要注意なの? 妊娠や出産に影響はある?
近年、20~40歳代の子宮頸がんの罹患率が増加傾向にあります。2004年に子宮頸がん検診の推奨が30歳以上から20歳以上に引き下げられたことで、20歳代で早期発見される人が増えた、というのが原因の1つです。
妊娠や出産への影響ですが、子宮頸がんの場合、出産を迎える時期と罹患年齢のピークが重なっており、子どもを残して亡くなる方もいることから「マザーキラー」とも呼ばれています。問題は、進行した前がん病変や子宮頸がんの段階で見つかると手術が必要になり、手術の内容によっては、のちに妊娠したときに早産のリスクが高まったり、子宮を失い妊娠や出産ができなくなったりするケースもあり得るということ。子宮頸がんは発見や治療が遅れてしまうと命にも関わります。妊婦健診で子宮頸がんが見つかった場合には「産むか、子どもをあきらめるか」というつらい選択を迫られる女性もいます。
HPVワクチンは打ったほうがいいの?
病原体に感染しないようにするため、またはかかっても症状が軽くて済むように接種する薬が「ワクチン」です。子宮頸がんの主な原因はウイルスなので、ワクチンでHPVの感染を予防すれば、子宮頸がんになるリスクを減らすことができます。
日本では、HPVワクチンが小6~高1の女子を対象とした定期接種となっており、対象者は公費(無料)で接種することができます。この年齢層が公的補助の対象とされているのは、初めての性交渉よりも前に接種するのが、感染予防効果が最も高いと期待されているためです。対象者には自治体から案内が届くしくみで、内科、産婦人科などで接種可能です。もし案内が届いていない場合には、自治体に確認をしてみましょう。
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HPVワクチンの種類:2価(ワクチン名:サーバリックス)・4価(ガーダシル)・9価(シルガード/2023年4月から定期接種の対象)の3種類があり、「価」は予防できるHPV型の数を意味します。
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現在、定期接種の対象年齢期間に接種を逃した人への、キャッチアップ接種が行われています。平成9年度~平成17年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)で接種を逃した、または合計3回の接種を完了していない場合に、無料でHPVワクチンが受けられます(期間は2025年3月まで)。このほか、平成18・19年度生まれの女性は、公的接種の対象年齢を超えても2025年3月末まで接種可能。さらに2023年以降は、9価ワクチンが定期接種の対象になります。
大人はどうする?
HPVワクチンは、定期接種の対象年齢外である大人の女性も接種できますが、その場合費用は全額自己負担となり、4価HPVワクチンで合計約5万円、9価HPVワクチンで合計約10万円の費用がかかります。
また、女性だけではなく、男性もHPVワクチンを接種することにより中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマなどの病気を予防する効果が期待できます。より大勢の人が接種することで「集団免疫」も期待できるでしょう。
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HPVワクチンの適応は、日本では9歳以上の女性のみでしたが、2020年12月25日に4価(ガーダシル)の9歳以上の男児・男性への適応も厚生労働省による承認がおりました。2023年3月末現在、男性への接種は年齢にかかわらず任意接種(全額自費)となっていますが、産婦人科・小児科や内科などでも受けられます。
大人世代は検診を受けよう
子宮頸がんでつらい思いをしないために、私たちができることは「ワクチン接種」と「検診」の2つ。検診の目的は、がんになりかけたとしても早期発見・早期治療できるようにすることです。子宮頸がんはHPV感染から何年もかけて発症してくるものであり、今は罹患していないから心配ない、ということではありません。
また、前がん病変である子宮頸部異形成の段階では自覚症状がないことが多く、子宮頸がん検診をきっかけに発見されることがほとんど。言い換えれば、この病気は子宮頸がん検診を受けていなければ、見つけることができないのです。ワクチンで防げないHPV感染もあるため、ワクチン接種をしたかどうかに関わらず、20歳を過ぎていて、性交渉の経験がある人は定期検診を忘れずに受けましょう。
子宮頸がん検診の対象者は、20歳以上の症状のない女性で、2年に1回定期的に検診を受けることが推奨されています(生理の日は避ける)。また、妊娠した場合には子宮頸がん検診が含まれる妊婦健診も忘れずに受けましょう。検査後に「異常あり」という結果を受け取った場合には、必ず精密検査を受けてください。
定期接種の対象年齢外だった大人世代は、定期検診が必須です。「自分の体は、自分で守る」を実践していきましょう。