食事やお酒を楽しんだあと、大事な会議や試験といった緊張する場面など、日常生活のふとした瞬間に私たちにしのびよる「腹痛」。なぜ腹痛が起こるのか? その原因を知っていれば、これらの痛みを事前に防ぐことができるかもしれません! 多くの人が一度は経験したことがある身近な腹痛と、その腹痛に関連したソボクな疑問について、原因や対処法を解説します。
Q:早食いをするとお腹が痛くなるのは、どうして?
A:食べ物の消化が不十分になるからです。
急いで食事を摂っているときは、よく噛まない状態のまま食べものを飲み込んでいます。噛まないことで消化を助ける唾液が十分に出ず、食べものが細かく砕かれていないまま胃に入るため、消化が不十分になります。そのため胃に負担がかかり、腹痛を引き起こすことがあるのです。
また、早食いをすると胃が短時間でふくらむほか、食べすぎによって胃がパンパンの状態になり、胃酸が食道へ逆流してしまいます。その結果、逆流性食道炎を発症しやすくなります。胃や食道に必要以上に負担をかけないために、早食いは避けてよく噛み、腹八分目を心がけましょう。
Q:大量のお酒を飲むとお腹がゆるくなるのは、どうして?
A:主に冷たさによる血流悪化とアルコールによる刺激です。
冷たいものをたくさん飲むと、お腹が冷えて血流が悪くなったり消化酵素の働きが鈍くなったりして、下痢の原因になります。また、アルコールは胃腸の粘膜を荒らしたり、食べものを胃から腸へ送るぜん動運動を低下させたりして、消化不良や腹痛を引き起こすこともあります。お酒の飲みすぎによる下痢を防ぐためには、お酒を飲んでいる間に、白湯や常温の水もしっかり飲むようにするといいでしょう。
ちなみに、複数種類のお酒を同時に楽しむこと(ちゃんぽん)については、腹痛とは直接関係はないと考えられます。
Q:走るとお腹が痛くなるのは、どうして?
A:内臓が振動するからです。
走るとお腹が痛くなるのは、筋肉が未発達だったり、衰えていたりして、内臓が振動するためです。たとえば上半身と下半身をつなぐ腸腰筋(ちょうようきん)や骨盤の底にある骨盤底筋など、内臓を支える筋肉が緩くなっていると、走ったときに痛みをともなうことがあります。臓器は部位によっては非常に重量があり、肝臓などは重さが1kg以上あることも。そのような重い臓器が体のなかで揺れるため、その衝撃を痛みとして感じることがあるのです。この痛みは、大人だけではなく、筋肉が発達途中の子どもも感じやすいようです。
一方で、日ごろからスポーツをしている人や体を鍛えている人は、走ってもあまり痛みを感じることがありません。これは、筋肉でしっかり内臓を支えることができていて、走っても内臓が揺れることが少ないからだと考えられます。運動に慣れていない人が、いきなり過度の負荷をかけるのは禁物! 徐々に筋肉を強くしていきましょう。
Q:緊張するとお腹が痛くなるのは、どうして?
A:脳と腸が互いに深い関係を持つ、「脳腸相関」が影響していると考えられます。
脳と腸は人間にとってどちらもなくてはならない臓器で、互いが密接に関係しているといわれています。たとえば、不安を感じると腸の働きが悪くなったり、反対に腸の不調によって不安を感じたりすることがあります。緊張感による腹痛を防ぐためには、試験や面接など、緊張するシーンが想定できる日は、あらかじめ食事を軽めにしておくのがポイントです。たくさん食べると胃腸がその分、消化吸収のために普段よりも活動しなければならなくなり、胃腸にとってストレスがかかった状態になります。それが脳に伝わって、さらに緊張感が高まってしまうかもしれないので気をつけましょう。
Q:残便感があっても出ないことがあるのは、どうして?
A:腸内の便は一気に出ることはないためです。
排便でお腹のなかにある便が一気にすべて出ることは基本的にありません。腸内では、排便したらまた次の便が送られてくることの繰り返しが絶えず起こっています。排便後にまだ便が残っているように感じたり、残便感を覚えることがありますが、これは特に心配する必要はありません。もし残便感があってもトイレには長居せず、3分経ったら1回出て、便意を感じたらまたトイレに行くようにしましょう。
トイレに長くこもっていきんでいると、脱肛(だっこう)という、本来は肛門のなかに収まっているはずの直腸の粘膜が排便時に飛び出てしまう痔や、ひどくなると直腸の粘膜が肛門の外に出たままの状態になってしまうことがあります。こうした状態を防ぐためにも、排便は1回3分以内を目指しましょう。排便時間が長く、1回にどれくらい時間をかけているかわからない人は、ストップウォッチなどを利用して確認してみてもいいかもしれません。
Q:下痢止め薬をなるべく飲まないほうがいいのは、どうして?
A:下痢はなるべく出し切ることが大切だからです。
お腹の健康を考えるうえで、下痢止め薬はあまり使うべきではありません。なぜなら、下痢は基本的に体外へ悪いものを排出しようとする、体にとって必要な反応だからです。たとえば感染症腸炎による下痢などの場合、下痢止め薬で無理に排出を止めてしまうと、かえって体に悪影響を及ぼすことも考えられます。
下痢になったときは、絶食してスポーツ飲料や経口補水液で水分補給をしながら、出し切るようにしましょう。そのうえで必要であれば、整腸剤や抗生剤などの薬による治療を行います。
慢性的になるほど、腹痛を我慢してしまう人もいるかもしれません。しかし、腹痛はなにかしらの病気のサインということも珍しくありません。少しでも気になることがあれば、病院を受診しましょう。
- 教えてくれたのは・・・
-
- 村井 隆三先生
- おなかクリニック 院長
1982年、東京慈恵会医科大学卒業。元東京慈恵会医科大学外科助教授。元東京医科歯科大学大学院医療経済学非常勤講師。元町田市民病院消化器外科担当部長。元東京急行電鉄株式会社東急病院外科系担当診療部長。NPO法人二十歳のピロリ菌チェックを推進する会代表理事。日本外科学会専門医・指導医 日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。日本消化器外科学会専門医・指導医 日本ヘリコバクター学会感染症認定医。