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この痛みの正体は?「腹痛」のさまざまな原因と対処法

断続的に鈍い痛みがある。刺すような痛みを感じる。このようなお腹の痛みに、不安を抱いたり、戸惑ったりしたことがある人もいるのではないでしょうか。腹痛は、日常的に起こりがちな症状のひとつですが、その原因はさまざまです。また、お腹に痛みを感じていても、じつはお腹以外の体の不調のサインであることも。この記事では、多くの人にとって身近な症状である「腹痛」について、基礎知識や受診の目安などを解説します。

INDEX
「お腹が痛い」といっても、原因はさまざま
痛みを感じる部位はどこ?
ストレスでお腹が痛くなる場合も
いますぐ受診すべき腹痛とは?
日本人の胃は丈夫になってきている?お腹の病気、いまと昔

「お腹が痛い」といっても、原因はさまざま

腹痛とは、「お腹が痛い」という症状を表す総称です。胃や腸といった消化器系のトラブル以外にも、循環器系、泌尿器系、生殖器系のトラブルによって起こることもあります。そのため、痛みの感じ方や強さ、部位、痛み以外の症状など、さまざまな要素を考慮しながら原因を特定します。また、ストレスが引き金となって腹痛が起こる場合もあるので、一口に「腹痛」といっても、原因や病気の種類は多岐にわたります。

大きく分けて3種類の痛みがある

腹痛は、大きく3つの種類に分けられます。

  • 内臓が原因の「内臓痛」…痛みの場所がはっきりしない、鈍い痛み
  • 腹膜や皮膚が原因の「体性痛」…右の下腹が痛いといったように、部位がはっきりしている痛み
  • 神経が圧迫されて起こる「神経性疼痛(しんけいせいとうつう)」…帯状疱疹や椎間板ヘルニアのような神経由来の痛み

腹痛がある場合、内臓痛と体性痛が混ざっていることが多くあります。たとえば胃が痛いと訴えている患者に対して、医師はすぐに胃の病気と判断するわけではありません。もちろん胃の病気である可能性はありますが、それ以外にも食道や十二指腸、すい臓などに病気が隠れている可能性も考えられるためです。そういったケースも考慮し、「お腹の上のほうに痛みがある状態」として診察や検査を進めていきます。

痛みを感じる部位はどこ?

腹痛の原因となる病気は多岐にわたります。ここでは、「みぞおち周辺」「おへそ周辺」の各部位ごとに考えられる病気を見ていきましょう。

みぞおち周辺の痛み

みぞおち周辺が痛いとき、考えられる代表的な病気には、「胃炎」や、胃酸などが食道に逆流して起こる「逆流性食道炎」をはじめ、胃の壁が傷つき痛みや出血を伴う「胃潰瘍」、十二指腸の粘膜に穴があく「十二指腸潰瘍」などがあります。

詳しくは下記の記事「みぞおちが痛い…原因は?胃のまわりの病気と対処法」をチェックしてみてください。

みぞおちが痛い…原因は?胃のまわりの病気と対処法
胃に関する病気は、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍など多くの種類があります。胃のトラブルを引き起こすことで知られるピロリ菌の感染率は年々減りつつありますが、食生活の乱れやストレス、薬の飲みすぎなど、さまざまな原因でこうした病気にかかる人は少なくありません。この記事では、胃やその周辺で起こる病気の基本や受診のコツを解説!心がけたい健康習慣もあわせてご紹介します。
https://helico.life/monthly/230506stomachache-stomach/

また、盲点になりやすいのが「虫垂炎(盲腸)」です。主に右下腹部が痛むとされる虫垂炎ですが、初期症状は胃の痛みであることが多く、痛みが右下に移っていくのが、典型的な経過とされています。そのため、一般的には、胃の痛みで受診した際は下腹の痛みもチェックします。そのほか「心筋梗塞」も、胸だけではなく、みぞおちの痛みとして現れることがあります。

胃の痛みで受診した場合であっても、体温や血圧、脈拍などを計測することや、病気の見落としを防ぐために骨盤あたりまでお腹を診ることが大切です。

おへそ周辺の痛み

おへその周辺が痛む場合は、「腸炎」をはじめとした、腸の病気である可能性が考えられます。

詳しくは「お腹の痛みや張り…主な腸トラブルと腸内環境の整え方」をチェックしてみてください。

お腹の痛みや張り…主な腸トラブルと腸内環境の整え方
お腹が痛いと感じたとき、その原因が腸にまつわるトラブルであることは珍しくありません。食中毒や虫垂炎(盲腸)、過敏性腸症候群など、腸に関する病気にはさまざまなものがあります。この記事では、代表的な病気の症状や原因、治療法を解説するとともに、腸を元気にするための生活習慣もあわせてご紹介します。腸の健康は、体全体の健康につながります。ぜひ参考にしてください。
https://helico.life/monthly/230506stomachache-bowel/

消化管の壁の一部が外側に飛び出て、袋状になってしまう「憩室炎」は、便の詰まりや腸の炎症によって発症することがあります。お腹の右側や左下に痛みを感じることが一般的で、血便を伴うこともあります。

また、血流が滞ることで大腸の粘膜が炎症を起こす「虚血性腸炎」は、強い痛みや血便を伴います。虚血性腸炎の原因のひとつには、動脈硬化が考えられます。心臓の血管が詰まると心筋梗塞、脳の血管が詰まると脳梗塞を起こすように、腸の血管が詰まると虚血性腸炎が引き起されるのです。

そのほかには「尿管結石」「帯状疱疹」「大動脈解離」などの可能性も。女性の場合は、子宮内膜組織が子宮の外にできてしまう「子宮内膜症」、子宮の壁にできる良性の腫瘍「子宮筋腫」、卵巣にできる水が溜まったような良性の腫瘍「卵巣のう腫」など、婦人科系の病気が隠れていることもあります。

ストレスでお腹が痛くなる場合も

内臓などに異常がなくても、ストレスが原因で起こる腹痛もあります。これは、脳がストレスを感じたとき、自律神経のバランスが崩れると、胃腸の働きに影響が及ぶ場合があるためです。ストレスが原因の腹痛には、「神経性胃炎」、慢性的な胃の痛みやもたれがあるのに、検査で異常が見つからない「機能性ディスペプシア(FD)」、同じく検査では異常が見つからないのに、便通異常が続く「過敏性腸症候群(IBS)」などがあり、腹痛以外にも下痢や食欲不振を伴うケースもよく見られます。

ストレスと腹痛について詳しく知りたい人は、「不安や緊張でキリキリ…ストレス腹痛の原因と対処法」をご覧ください。

不安や緊張でキリキリ…ストレス腹痛の原因と対処法
不安や緊張を感じたり、つらいことなどがあったりすると、お腹が痛くなってしまう。それは、ストレスによる腹痛かもしれません。このような腹痛は、内臓器官の疾患ではなく、脳の反応によって起こるもの。大きな病気が原因ではないとしても、QOL(生活の質)を著しく低下させるなど、心身に影響があります。この記事では、ストレスによって腹痛が起こる仕組みや、主な病気、対処法などについて解説します。
https://helico.life/monthly/230506stomachache-stress/

いますぐ受診すべき腹痛とは?

痛みの場所が時間とともに移動するような腹痛は、過度に心配する必要はありませんが、一箇所に集中した痛みが何度も起きたり、痛みが次第に強くなったりする場合には、病院の受診をおすすめします。また、腹痛以外にも、下記を確認してみるとよいでしょう。

体温・血圧・脈拍に異常がないか

病院を受診するかどうか迷ったときには、体温や血圧、脈拍などのバイタルサインがひとつの指標になります。バイタルサインの異常は、ある程度病気の重症度を反映するためです。

たとえば腹痛に加えて37.5℃以上の発熱があったり、血圧が普段よりも著しく高かったり低かったりする場合は、速やかに病院を受診してください。脈拍は1分間に60~90回が正常な範囲内なので、脈が異常に速かったり遅かったりする場合も受診したほうがよいでしょう。

便・尿に異常がないか

便や尿をチェックすることも大切です。普段とは違う色や形をしていないか、血が混ざっていないかなどを見ておきましょう。血便や血尿が出た場合は、迷わず病院を受診してください。

痔を経験したことがあると、血のついた便に慣れてしまい、なかなか病院を受診しないケースもあります。しかし、血のついた便がすべて痔によるものとは限りません。大腸がんや虚血性腸炎、憩室炎などの可能性も考えられるため、出血が本当に痔によるものかどうかは、一度受診して確かめてもらうことをおすすめします。

日本人の胃は丈夫になってきている? お腹の病気、いまと昔

古くから多くの人を悩ませてきた腹痛やお腹の病気ですが、いまと昔では、罹患数などに変化が起きつつあります。

ピロリ菌は減少傾向

胃の痛みや病気と密接な関連を持つ「ピロリ菌」は、胃の粘膜に生息する細菌です。ピロリ菌に感染していると、常に慢性胃炎のような状態になるため、胃が弱くなってしまいます。また、胃炎の長期化にともない、胃の粘膜が薄くやせて萎縮した状態になり、胃がんになる可能性が高まるといわれています。
 
ピロリ菌に感染する原因は明確には解明されていませんが、以前は下水の整備されていない地域での生水の摂取が一因といわれていました。現在では5歳ごろまで(その多くは2歳ごろまで)の家族内感染、とくに母子感染が主な感染経路となっています。

感染している母親が、感染していることを知らずに妊娠・出産すると、生まれてくる子どもが感染してしまうことがあります。 また、保育園などでの感染があることもわかっています。感染の有無は血液・尿・便・息などから確認することが可能です。女性が妊娠・出産の前にピロリ菌検査を受けておくことが、次世代への感染を防ぐことにつながります。

ちなみに、除菌治療の普及と母親の感染率が下がってきたため、現在のピロリ菌感染者は減少傾向にあります。

胃がんは減少、一方ですい臓がんが増加中

ピロリ菌の感染率減少にともない、胃がんによる死亡者数は減少しました。一方で、なかなか減らないのがすい臓がんです。じつはすい臓がんも、お腹の痛みから見つかることがあるため、腹痛が原因の病気のなかでも、とくに注意したいものです。ただし、すい臓がんには、胃がんや大腸がんのような確立された検診方法がないため、いかに早期発見して治療を始めるかが重要な課題になっています。

 
慢性的になればなるほど、腹痛を我慢してしまう人もいるでしょう。しかし、なにかしらの病気のサインということも珍しくありません。少しでも気になることがあれば、病院を受診しましょう。

教えてくれたのは・・・
村井 隆三先生
おなかクリニック 院長

1982年、東京慈恵会医科大学卒業。元東京慈恵会医科大学外科助教授。元東京医科歯科大学大学院医療経済学非常勤講師。元町田市民病院消化器外科担当部長。元東京急行電鉄株式会社東急病院外科系担当診療部長。NPO法人二十歳のピロリ菌チェックを推進する会代表理事。日本外科学会専門医・指導医 日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。日本消化器外科学会専門医・指導医 日本ヘリコバクター学会感染症認定医。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:こつじゆい
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