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ゆりかごから墓場まで?「年代別」骨と筋肉のトラブル

骨や筋肉は、私たちが生まれてからずっと、その体を支えるために日々働いています。なにをするにも骨や筋肉は必要不可欠となるため、気づかぬうちに負荷が蓄積しやすく、その分トラブルに見舞われやすいという側面も。本記事では、各年代で起こりやすい骨と筋肉のトラブルについて、その症状や原因、対処方法などを紹介していきます。

そもそも骨・筋肉が持つ役割とは

骨や筋肉は、私たちの体を支え、動作に必要な部位を動かすという、とても重要な役割を担っています。

そのため、骨と筋肉にトラブルが起きてしまうと、日常生活で非常に不便を感じます。では、実際にどのようなトラブルが起こり得るのか、年代ごとに見ていきましょう。

【0~6歳ごろ】気づかぬうちにトラブルが起きていることも

股関節脱臼

太ももの骨と骨盤にあるくぼみが噛み合うことで安定する股関節において、くぼみから太ももの骨の端が外れるなど、本来の位置関係がずれてしまった状態です。乳児健診で発見されるケースも多いため、必ず生後3~4か月の健診を受けるようにしましょう

  • 原因は?:先天的に構造に異常があり、脱臼してしまうケースが多く見られます。また、足をまっすぐに伸ばすような力が加わると脱臼を誘発します
  • 治療法は?:多くの場合、装具を用いた治療が行われます。早期発見をして関節を正常な位置に戻すことが重要です。
  • 予防法は?:横抱きのスリングを使用する際には、両足がM字型に曲げられる状態になるよう、十分に注意しましょう。おむつや洋服も、両足をM字に曲げられる余裕があるか、着せすぎなどで脚の動きを妨げていないかを確認しましょう

肘内障(ちゅうないしょう)

肘関節を構成する靭帯(輪状靭帯:りんじょうじんたい)から前腕(肘から手首まで)の親指側にある橈骨(とうこつ)の端が外れかけることで起こります。靭帯や骨が柔軟性に富んでいる3歳ごろまでに特に起こりやすいとされています。子どもが急に腕を上げられなくなったり、「バイバイ」のように手を振れなくなったりした場合には肘内障の可能性があります

  • 原因は?:多くの場合、手を引っ張ることで起こります。子どもが転びそうになった際につないでいた手を引っ張る、手を握ってジャンプのタイミングで腕を引っ張り上げるときなどに注意しましょう。
  • 治療法は?:整形外科で骨の位置を元に戻すことが可能です。
  • 予防法は?:一度肘内障になった子どもは再発しやすいため、急に腕を引っ張らないように気をつけましょう。

【6~20歳ごろ】運動能力の低下による「子どもロコモ」に注意

子どもロコモ(ロコモ=ロコモティブシンドローム)

近年子どもたちに起こっているのが、運動能力(筋力・バランス力・柔軟性等)の低下です。朝礼時に立っていられない、転んだ際に手がつけずに顔を打ってしまうなどのケースも見られ、年々子どもの骨折率が高くなっているというデータもあります。

  • 原因は?:生活様式の変化や新型コロナウイルス感染症の流行によって、屋内外で遊ぶ機会や、体育の授業で運動する時間が激減したことによる運動不足などが考えられます。
  • 治療法は?:成人のロコモでは原因によって薬物治療を行うこともありますが、子どもロコモは薬物治療ではなく、きちんと体を動かす機会を増やし、筋力やバランス力などをつけていきます
  • 予防法は?:適度な運動や規則正しい生活・栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。

「ロコモティブシンドローム」については下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。

大人も子どもも要注意!ロコモティブシンドロームとは
みなさんは「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」という言葉を聞いたことがありますか? なんだかかわいらしい響きに聞こえますが、ロコモとは、筋力低下や骨の病気などに伴い、立ったり歩いたりする能力が低下している状態を指します。自分はまだ若いから大丈夫! と思った方も要注意。近年は新型コロナウイルス感染症の影響や生活様式の変化により、「子どもロコモ」など、高齢者以外の世代でもロコモが懸念されています。ロコモが進行すると将来、介護が必要になるリスクが高まってしまうので、若い世代から予防を意識することが大切です。

本記事では、子どもから大人まで誰もがなり得るロコモについて、基礎的な情報を解説します。
https://helico.life/monthly/230304bonemuscle-locomo/

成長痛

成長期に起こる四肢の痛みの総称として使われ、特に夕方から夜にかけて下肢(膝周辺など)に痛みが出ます。「成長痛」という名称がついているものの、骨の成長に伴って痛みが発生することは医学的には証明されておらず、痛みの原因ははっきりしていません。3歳ごろから小学校低学年ごろに現れることが多いとされています。また、小学校高学年~中学生ごろに見られる下肢の痛みなどを「成長痛」と呼ぶこともありますが、それらは多くの場合、スポーツ障害(高強度の運動をやりすぎることによる慢性的なけが)であり、「成長痛」とは異なります

  • 原因は?:骨などに炎症が起きているケースがあるほか、明確な原因がわからずに起こること、心理的なもの(かまってほしいという気持ち)が原因になることもあります
  • 治療法は?:柔軟性を保つために、運動前後にストレッチやアイシングなどを行うことが治療であり、予防にもつながります。

オスグッド・シュラッター病

成長期の子どもによく見られるけがで、膝のお皿(膝蓋骨:しつがいこつ)とすねの骨(脛骨:けいこつ)を結ぶ膝蓋腱(しつがいけん)が未熟なすねの骨を引っ張ってしまうことで、軟骨に炎症が起こります。

  • 原因は?:過度な運動を繰り返し行うことで骨に負荷がかかり、発症します
  • 治療法は?:まずは実施している運動を一定期間休むことが重要です。また、症状緩和のためには膝のアイシングも有効です。
  • 予防法は?:前太もも(大腿四頭筋)のストレッチを運動前後にきちんと行うことが、最も効果的な予防法です。

【20~65歳ごろ】生活習慣が原因となるものも

アキレス腱断裂

最も太い腱である、かかと部分のアキレス腱が断裂するけがです。30~40代に起こりやすく、スポーツ中のほか、階段などで足をくじいた際に断裂してしまうケースもあります。

  • 原因は?:ダッシュやジャンプなどの動作でふくらはぎの筋肉が急激に伸び縮みした際、その動きに腱が耐えられなくなることが原因です。
  • 治療法は?:手術を行わずにギプスなどで固定して治療する場合と、断裂した腱を縫う手術を行う場合があります。
  • 予防法は?:腱は使わないと柔軟性が失われ断裂しやすくなるため、日ごろからストレッチなどを行い、運動前にも入念に伸ばしておく、久々に動くときには無理をしすぎないことを心がけましょう

妊娠・授乳関連骨粗しょう症

妊娠中や出産後(授乳期間)、母体は赤ちゃんに栄養を送るため、低栄養状態となることがあります。それにより骨がもろくなり、骨粗しょう症となることを指します。

  • 原因は?:妊娠中は胎盤を経由して、出産後は母乳からカルシウムなどの栄養が赤ちゃんに送られます。もともとやせ型だったり、妊娠中に適切な食事をとっていなかったりする場合に、母体が低栄養状態となり、骨粗しょう症になってしまいます
  • 治療法は?:骨粗しょう症は薬物治療が可能ですが、妊娠・授乳期には薬物が使用しにくくなるため、食事療法(ビタミンDの摂取など)が行われます。
  • 予防法は?:やせすぎは骨粗しょう症のリスクを高めるため、妊娠前から、「やせ型志向」になりすぎず、BMI値なども参考にしながら、適度な体重を保つことが大切です

腱鞘炎

骨と筋肉をつなぐ腱を包んでいる腱鞘(けんしょう)が、腱とこすれ合うことで炎症を引き起こします。

  • 原因は?:手首や指の使いすぎによって起こります。パソコンのキーボードやマウスなどで何度も同じ動きをする、スマートフォンの長時間操作のほか、赤ちゃんの抱っこなど、仕事や育児の場面での負荷・反復動作が原因となることがあります。
  • 治療法は?:まずは、患部を安静にし、炎症が引くまで待つことが重要です。症状が出始めた初期の段階であれば、アイシングも効果的です。悪化・進行した場合には手術を行うケースもあります。
  • 予防法は?:同じ動作を長時間繰り返さないように(休憩を挟んでストレッチをするなど)心がけましょう。また、授乳時に授乳クッションなどのアイテムを用いることもよいでしょう。

五十肩(四十肩)

40~50代によく見られるもので、正式には肩関節周囲炎といいます。肩関節を動かす際に痛みが生じ、服の着脱などが不便になることもあります。

  • 原因は?:明確な原因はわかっておらず諸説ありますが、肩関節を構成している骨や靭帯、腱などが老化(摩耗)することで、その周辺組織に炎症が起こるという説があります。
  • 治療法は?:多くの方は自然治癒しますが、日常生活に不便が生じることも多いため、痛みが強い場合には鎮痛剤の内服や注射、痛みが落ち着いてきたら温熱療法(患部を温める)、電気治療、運動療法などが行われます

【65歳以上】骨・関節に関わるトラブルが目立つように

ロコモティブシンドローム

年齢を重ねるにつれて起こる筋力低下や骨・関節に関わる病気などに伴い、立ったり歩いたりする移動能力が低下している状態を指します

  • 原因は?:骨粗しょう症や変形性関節症など運動器(骨や筋肉、関節、神経などが連携して体を動かす仕組み)の病気や、バランス能力、筋力などの衰えのほか、運動器の痛みなど、さまざまな要因が関連しています。
  • 治療法は?:原因によって適切な治療法が異なります。運動器の病気が原因の場合には、薬物療法や手術による治療が、運動器の能力の衰えには筋力・バランス能力トレーニングなどが選択されます。
  • 予防法は?:なによりも、早いうちから骨と筋肉を強く保つことが重要です。そのために運動習慣をつける、1日3食栄養バランスのとれた食事をきちんと摂ることが望ましいといえます

骨粗しょう症

骨量(骨密度)が減少して骨がもろく、骨折しやすくなった状態です。

  • 原因は?:女性の場合、閉経後に女性ホルモンの分泌量が低下することで骨密度が低下します。また、男女ともに長期間にわたり、やせ型だった方はリスクが高まります。
  • 治療法は?:骨量を増やすための薬物療法と並行して、食事療法や運動が実施されます。
  • 予防法は?:若いうちから骨に刺激が加わる運動を行ったり、カルシウムやビタミンDの摂取を心がけたり、太陽の光を浴びたりすることが重要です

「骨粗しょう症」「骨と筋肉、同時に鍛える!ゆるスクワット&かかと落とし」については下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。

すべての女性が気をつけたい「骨粗しょう症」
「骨粗しょう症」という病名は聞いたことがあるけれど、高齢者の病気だろうし自分にはまだ関係ない。そう思っている人は多いのではないでしょうか。重篤な病気ではないととらえている人もいるかもしれませんが、骨粗しょう症による骨折が引き金となって寝たきりになったり、骨折を繰り返したりすることもあり、健康への影響はかなりのもの。また、骨量や骨密度は女性ホルモンの影響を大きく受けるため、とくに40代以降の女性は気をつけたい病気です。

骨粗しょう症予防は、症状が出る前からの対策がなによりも重要です。正しい知識を身につけて、生涯自分の足で歩ける丈夫な体づくりを目指しましょう。
https://helico.life/monthly/230304bonemuscle-osteoporosis/
骨と筋肉、同時に鍛える!ゆるスクワット&かかと落とし
健康のために骨を丈夫に保ち、筋肉をつけることが重要なのは分かるけれど、運動の習慣を身につけるのは難しい……。そう思っている方に朗報です。

骨や筋肉を丈夫に保つためには、息が上がるほどの運動を毎日長時間行う必要はありません。ほんの数分でも、自分にとって無理のない動作を継続することが大切なのです。この記事では、今日から始められる「ゆるスクワット」「かかと落とし」の方法や、メリット、注意点を解説します。筋力や骨量の低下が気になる方は、ぜひ実践してみてください。
https://helico.life/monthly/230304bonemuscle-squatheel/

変形性関節症

関節の周辺に痛みや腫れ、違和感などが出るもので、特に膝や股関節、足などで多くみられます。

  • 原因は?:関節を構成する軟骨がすり減り、関節が変形することで痛みが生じます。そのため、体重がかかることが多い関節に起こりやすいといわれます
  • 治療法は?:まずは痛みを抑える薬物療法や、装具などを用いる治療、運動療法など、いわゆる保存療法を行います。それでも痛みが軽減しない場合には、人工関節などを入れる手術療法などが選択されます。
  • 予防法は?:適度な運動によって、筋力や体重を適切に保つことが大切です。また、反対に過度な運動にも注意が必要です

 
年代ごとに起こりやすい骨や筋肉のトラブルを紹介しました。こうした症状が見られた場合には、整形外科の受診を検討しましょう。また、ここで紹介したものはほんの一部です。トラブルを防ぐためには、まず私たちの生活に欠かせない骨や筋肉に意識を向け、きちんとした方法でいたわってあげることが大切です。

教えてくれたのは・・・
中村 幸男先生
信州大学医学部整形外科

医学博士。長野県生まれ。自治医科大学卒業後、米国ハーバード大学医学部講師を経て、信州大学整形外科・特任教授。専門は膝関節・股関節外科、骨粗鬆症、関節リウマチ。国内外の骨研究に関する賞を多数受賞。日本整形外科学会専門医、日本人工関節学会評議員、日本リウマチ学会専門医・指導医・評議員、日本リウマチの外科学会評議員、臨床遺伝専門医、日本骨粗鬆学会認定医・評議員、日本骨代謝学会評議員、日本軟骨代謝学会評議員。健康寿命延伸に向け、長野県内外におけるさまざまな活動に取り組み、骨・ロコモ対策を推進する。朝日放送テレビ「たけしの家庭の医学」など、メディアを通じても健康の重要性を訴求している。中村先生考案の ”二大寝たきり骨折” の予防体操である「かかと落とし」および「おへそ引っ込み体操」を提唱。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:フクイヒロシ
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