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大人も子どもも要注意!ロコモティブシンドロームとは

みなさんは「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」という言葉を聞いたことがありますか? なんだかかわいらしい響きに聞こえますが、ロコモとは、筋力低下や骨の病気などに伴い、立ったり歩いたりする能力が低下している状態を指します。自分はまだ若いから大丈夫! と思った方も要注意。近年は新型コロナウイルス感染症の影響や生活様式の変化により、「子どもロコモ」など、高齢者以外の世代でもロコモが懸念されています。ロコモが進行すると将来、介護が必要になるリスクが高まってしまうので、若い世代から予防を意識することが大切です。

本記事では、子どもから大人まで誰もがなり得るロコモについて、基礎的な情報を解説します。

ロコモ=「移動能力」の低下

ロコモ(ロコモティブシンドローム)とは、年齢を重ねるにつれて起こる筋力低下や、骨・関節に関わる病気などに伴い、立ったり歩いたりする移動能力が低下している状態を指します。英語で「移動」の意味をもつ「ロコモーション(locomotion)」と、移動能力があることを示す「ロコモティブ(locomotive)」からなる造語で、「運動器症候群」とも呼ばれます。

日本では高齢化が進むにつれ、同一の高齢者が整形外科領域のさまざまな病気やけがで入退院を繰り返す傾向が強くなりました。そこで、「1人が複数の整形外科的な病気を抱えている」、あるいは「1つの病気・けがが連鎖的に悪影響を及ぼす」という可能性をふまえ、1つの病気だけに注目するのではなく、「自分で移動できる能力があるか」という観点から総合的に考えようと、2007年に日本整形外科学会が提唱した、比較的新しい概念になります。

ロコモが進行すると、将来介護が必要になる可能性が高くなるので、高齢化が進み続ける日本においては、特に問題視されています。健康寿命(健康上の理由で日常生活が制限されたり、なんらかの助けを必要としたりせず、健康に生活を送れる期間)を延ばすためにも、「ロコモ対策」はとても重要です

また、ロコモと合わせて「フレイル」や「サルコペニア」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。これら3つの言葉にはそれぞれ関連性があります。

フレイルとは「年齢とともに筋力、心身の活力が低下した虚弱な状態」のこと。高齢者の身体的な側面だけではなく、精神・心理的、あるいは社会的な面など、さまざまな角度から問題を捉える概念で、ロコモの身体的な問題と深く関係しています。サルコペニアは、加齢にともない筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能の低下が生じる状態をいい、こちらも進行するとロコモと同様に、介護が必要になる可能性が高くなります。

じつは、ロコモは高齢者だけの問題ではありません。近年、子どもたちに起こっているのが、運動能力の低下です。これは、生活様式の変化や新型コロナウイルス感染症の流行によって、屋内外で体を動かす機会が激減したことによる運動不足が原因のひとつ。運動能力の低下により、和式トイレでしゃがめない、朝礼時に立っていられない、転んだ際に手がつけずに顔を打ってしまうなど、日常生活に支障をきたすケースが以前よりも多く見られていて、年々子どもの骨折率が高くなっているというデータもあります。大人のロコモとは少し異なるものの、子どものこうした状態は「子どもロコモ」と呼ばれています。

運動能力の低下による子どもロコモが懸念される一方で、幼いころからスポーツクラブなどで運動に励む子どもたちにおいては、運動のしすぎによるけが(スポーツ障害)も増えていて、いま運動における二極化が起きています。多くの子どもたちは、運動不足や運動のしすぎが自分の体にどのような悪影響を及ぼすかを理解しているわけではないため、周囲の大人がサポートしながら、適切な運動量を確保できるようにするのが望ましいでしょう

あなたは大丈夫? 誰でも簡単「ロコモをチェック」

ロコモは、症状に早く気づけば対処が可能です。一般的に、筋力は40歳ごろから徐々に低下し始めるといわれていますが、エスカレーターやエレベーター、電車やタクシーなど、さまざまな移動手段がある現代では、そもそも自分自身の筋力の衰えに気づけないことがほとんどです。まずは、筋力や移動能力に意識を向けることがなによりも重要になります。

ロコモであるかどうかの判定は、3つのテスト(ロコモ度テスト)を行い総合的に判断します。自分の状態を知るために、ぜひチェックしてみましょう。

ロコモ度テスト1:立ち上がりテスト

立ち上がりテストでは、両脚あるいは片脚でどの程度の高さの椅子(台)から立ち上がれるかをチェックし、それによってロコモ度を判定します。このテストでは、移動機能にとても重要な下半身の筋力を確認しています

ロコモ度テスト2:2ステップテスト

できるだけ大股で2歩歩き、その距離を測るのが2ステップテストです。歩幅を調べることで、下半身の筋肉だけではなく、バランス能力、柔軟性など、歩行に必要な能力を確認することができます

ロコモ度テスト3:ロコモ25

体の痛みや普段の生活習慣など、25の質問に答えることで、体の状態や生活状況からロコモ度を測ります

※立ち上がりテストと2ステップテストは転倒の危険があるため、無理をせずできる範囲で行いましょう

これら3つのテストのうち、どれか1つでもロコモ度1以上に該当するものがあればロコモとなります。テスト方法の詳細はロコモチャレンジ!推進協議会のページをご覧ください。https://locomo-joa.jp/check/

ロコモの原因により対処法はさまざま

テストを実施し、ロコモ度2以上に当てはまる場合は、整形外科の受診を検討しましょう。どこの医療機関に行けばいいかわからないときは、住まいの近くなどにある、ロコモアドバイスドクターが在籍する医療機関を探してみるのもよいでしょう。

ロコモアドバイスドクターはこちらから検索できます。https://locomo-joa.jp/advice_doctor/

ロコモは、骨粗しょう症や変形性関節症などの運動器(骨や筋肉、関節、神経などが連携して体を動かす仕組み)の病気や、バランス能力、筋力などの衰えのほか、運動器の痛みなど、さまざまな要因が関連しています。そのため、ロコモであると診断された場合には、それぞれの原因にあった対処法を行うことが大切です。

たとえば、骨粗しょう症や変形性関節症など運動器の病気が原因の場合には、薬物療法や手術による治療が有効です。そのほか、運動器の能力の衰えには筋力・バランス能力トレーニングが、痛みに対しては痛みを抑える治療が適しているといえます。ロコモは、いち早く気づき、その原因をきちんと把握して対処することで回復するため、日々、自分自身の体の状態に気を配ってみましょう。

特に骨粗しょう症は「転倒して骨折して初めて、骨がもろくなっていたことに気づく」というパターンが多くあります。女性は40~50歳、男性は65歳になったら、 医療機関で自分自身の骨密度を測定してみましょう。

「骨粗しょう症」については下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。

すべての女性が気をつけたい「骨粗しょう症」
「骨粗しょう症」という病名は聞いたことがあるけれど、高齢者の病気だろうし自分にはまだ関係ない。そう思っている人は多いのではないでしょうか。重篤な病気ではないととらえている人もいるかもしれませんが、骨粗しょう症による骨折が引き金となって寝たきりになったり、骨折を繰り返したりすることもあり、健康への影響はかなりのもの。また、骨量や骨密度は女性ホルモンの影響を大きく受けるため、とくに40代以降の女性は気をつけたい病気です。

骨粗しょう症予防は、症状が出る前からの対策がなによりも重要です。正しい知識を身につけて、生涯自分の足で歩ける丈夫な体づくりを目指しましょう。
https://helico.life/monthly/230304bonemuscle-osteoporosis/

運動しているのに筋肉が減る? 栄養面にも気を配ろう!

骨の健康を保つうえで欠かせないのが栄養面での配慮です。骨といえばカルシウム、というイメージが強いかもしれません。もちろん、骨にとってカルシウムは重要な栄養素のひとつですが、骨の約半分はコラーゲンでできているため、コラーゲンの元となるタンパク質の摂取も重要です。

また、骨がつくられる際に欠かせないのがビタミンD。しかし、ビタミンDは食事からの摂取がなかなか難しい栄養素といわれています。日光(紫外線)を浴びると体内で生成されますが、季節や地域によっては12時間も外にいないと十分な量が生成されない場合も……。そんなときには、ビタミンDを含んだサプリメントをうまく活用しましょう。

筋肉においては、やはりタンパク質が重要です。筋肉量を増やすために運動を行っている人も多いと思いますが、食事面にも意識を向けましょう。タンパク質はもちろんですが、適度な炭水化物や脂質などの栄養を摂らずに運動をすると、筋肉がつくどころか、逆に筋肉が破壊されてしまうこともあります。きちんと運動し、きちんと栄養を摂取する、そのバランスを大切にしましょう

カルシウムやビタミンD、タンパク質を含め、より多様な食品から栄養を摂取するほうが、運動機能の低下が少ないといわれています。どのような食品を摂取すればいいのかは、下記の表を参考にしてください。合言葉は「さあにぎやかいただく」です

これらの食材を1つでも多く食卓に取り入れられるように意識しながら、毎日の食事を楽しみましょう。

「骨と筋肉のつくり、役割」については下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。

骨と筋肉のしくみ・役割とは?体のつくりをわかりやすく解説
私たちが生きていくためには、呼吸や水分・食事の摂取、睡眠が欠かせません。では、こうした行動ができるのはなぜでしょうか。それは、骨や筋肉が私たちの体を支えたり、動作に必要な部位を動かしたりしてくれているからです。

いま、あなたがこの文章を読んでいる間も、骨が体全体を支え、呼吸や目を動かすための筋肉が働いています。本記事では、私たちの日々の生活の動作に欠かせない「骨」と「筋肉」について解説します。
https://helico.life/monthly/230304bonemuscle-kiso/

ロコモは正しく予防・対策をすれば、症状の進行を防ぎ、回復できる点が大きな特徴ではあるものの、骨や筋肉は一朝一夕では丈夫になりません。将来慌てることのないよう、いまのうちからコツコツと対策を始めてみてはいかがでしょうか。

教えてくれたのは・・・
大江 隆史先生
NTT東日本 関東病院 院長

1985年東京大学医学部卒業。東京大学整形外科入局。東京大学医学部附属病院のほか関東圏を中心とした関連病院で整形外科全般の診療経験を積む。得意分野は手の外科、マイクロサージャリ―(顕微鏡下の微細手術)。ロコモティブシンドロームの提唱者の一人で、その研究・啓発活動にも力を入れている。2021年から現職。日本整形外科学会整形外科専門医。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:オガワナホ
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