医療機関を受診したときや薬局で薬を受け取るとき、いつも飲んでいる薬やサプリメントがないか聞かれたことはありませんか? それは、飲み合わせによっては薬の効果が強く出すぎたり、弱まったり、副作用が生じたりする可能性があるため。また、薬やサプリメントに限らず、日ごろ口にする食べ物や飲み物との組み合わせにおいても思わぬ健康トラブルを招くことがあり、注意が必要な場合もあります。
とはいえ、薬を受け取るときに、これから口にするだろう食品をすべて薬剤師に伝えるのは難しいもの。では、薬と食べ物の組み合わせによるトラブルを防ぐためには、どんなことに気をつければいいのでしょうか。
“知っているようで知らない”薬に関する基礎知識や、薬との上手な付き合い方についてお伝えする、本シリーズ。第2回目は、知っておきたい薬と食べ物の組み合わせについて、よく見られる例を挙げながらわかりやすく解説します。
- 教えてくれるのは・・・
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- 中間葉子さん
- 株式会社アイセイ薬局 薬剤師 アイセイ薬局千歳台店 店長
研修認定薬剤師/スポーツファーマシスト
地域の方々が気軽に相談に来ることができるような薬局を目指し、日々のホスピタリティを大切にしている。
複数の薬の飲み合わせで、効き目が変わる?

薬と薬の飲み合わせによっては、体に悪影響を招く可能性があることはご存じの方も多いかもしれません。こうした影響を「相互作用」といい、薬の効果をしっかり発揮させるうえで、十分に注意する必要があります。
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中間さん:身近な例では、解熱鎮痛薬、いわゆる頭痛薬と、総合かぜ薬との同時服用に注意が必要です。それぞれのお薬に入っている解熱鎮痛成分が重複すると、効果が強く出すぎて不調を起こしたり、副作用が生じたりすることがあります。ほかには、アレルギー用の内服薬と、総合かぜ薬や鼻炎薬などを同時に服用すると、成分が重複することによって眠気が強く出ることもあります。
とくに、複数の医療機関からお薬を処方されている場合は、医師や薬剤師に確認すると安心です。
なお、市販のお薬については、添付されている説明書の注意事項を確認してから服用することをおすすめします。
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意外と知らない!? 薬と食べ物の避けたい組み合わせ
では、薬と食べ物との組み合わせについてはどうでしょう。こちらも、場合によっては薬の効果を十分に得られないどころか、かえって健康を害するケースも見られます。
食べ物の種類によっては、服用する薬の作用を邪魔してしまったり、逆に過剰に作用してしまったりすることがあるので気をつけたいところです。
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中間さん:たとえば、血液を固まりにくくしてサラサラにする「ワルファリン」というお薬を、ビタミンKを多く含む納豆やクロレラ、青汁と一緒にとると、お薬の効き目が弱まることがわかっています。ほかにも、ほうれん草やブロッコリーも、たくさん摂取するとワルファリンの効き目を弱めてしまう可能性があります。
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組み合わせに注意が必要な食べ物
そのほか、身近な食品のなかで特に注意したい組み合わせとして、以下のような例が挙げられます。
<薬の効果が弱まる>
- 【抗菌薬、抗生物質】×【牛乳、ヨーグルト】
- 【免疫抑制剤、強心剤】×【セントジョーンズワート(サプリメントの成分)】
など
<薬の効果が強く出すぎる/副作用のリスクを上げる>
- 【カルシウム拮抗薬、催眠鎮静剤、精神神経薬】×【グレープフルーツ】
- 【抗結核薬】×【マグロ、チーズ】
- 【パーキンソン病治療薬】×【チーズ、チョコレート】
など
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中間さん:また、グレープフルーツやグレープフルーツジュースは、薬との組み合わせに特に注意したい食品です。飲み薬の代謝には酵素(こうそ)が必要ですが、グレープフルーツはその酵素の働きをおさえてしまうためです。ご紹介した以外にも、グレープフルーツとの組み合わせを避けたいお薬は少なくありません。
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薬を代謝する働きがおさえられると、体外に排泄される薬の成分量が減ってしまい、結果として薬の効果が強く出たり副作用が生じたりするリスクが高くなります。薬とグレープフルーツとの組み合わせの影響は、長いときには数日にわたって続くこともあり、はっさくやいよかん、夏みかんなども同じような作用を持つといわれています。
一方、かんきつ類でもレモンやカボス、温州ミカンは問題ないとされています。普段グレープフルーツや柑橘系の果物をよく口にする方など、組み合わせが不安な場合は、医師や薬剤師に相談するとよいでしょう。
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中間さん:ただ、薬と食べ物との組み合わせを気にするあまり、さまざまな食品を必要以上に避けてしまうと栄養バランスが崩れ、かえって健康によくない影響を与えることもあるかもしれません。
注意したい組み合わせについては、お薬をお渡しするときに薬剤師が説明しますので、気になることがあれば気軽に質問してくださいね。
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薬の服用時も要注意。気をつけたい飲み物は?

次に、薬と飲み物との組み合わせについてお聞きしました。水なしで服用できるタイプの薬を除き、基本的に薬はコップ一杯程度の水で服用するのがよいとされています。それは、なぜなのでしょうか。
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中間さん:処方薬も市販薬も、どちらもコップ1杯の水と一緒に服用することを前提につくられています。もし水以外の飲み物と服用した場合、体質や健康状態にもよりますが、思わぬ相互作用が出る可能性があります。
お湯と一緒に服用する場合は、37℃くらいのぬるま湯がおすすめです。熱すぎるとお湯を少しずつしか飲めませんし、お薬が必要以上に早く分解されてしまう可能性もあります。逆に、冷たすぎるとお薬が溶けるスピードが遅くなってしまうので注意しましょう。
また、炭酸水で飲むのはおすすめできません。同じ水とはいえ、炭酸の泡でお薬を飲み込みにくくなりますし、炭酸が胃酸のpHを変化させてお薬の吸収に影響してしまう可能性があるからです。特に、胃薬と一緒に飲むと、本来の目的である胃酸を中和する効果が期待できなくなります。
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組み合わせに注意が必要な飲み物
このほか、注意したい飲み物には次のような例が挙げられます。
<薬の効果が弱まる>
- 【抗菌薬、抗生物質】×【牛乳】
- 【貧血治療薬】×【緑茶、紅茶、ウーロン茶】
- 【骨粗しょう症薬】×【牛乳】
など
<薬の効果が強く出すぎる/副作用のリスクを上げる>
- 【咳止め、総合かぜ薬、精神神経薬】×【カフェイン】
- 【総合かぜ薬、睡眠薬、解熱鎮痛剤】×【アルコール】
- 【降圧剤】×【グレープフルーツジュース】
など
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中間さん:お薬を服用しているときにアルコールを摂取してはいけない、ということをご存知の方は多いと思います。アルコールは中枢神経の働きを抑えたり、薬の吸収や代謝の速度を変えてしまうことがあるからです。特に、かぜ薬や頭痛薬などと一緒に飲むと、お薬の効果が出すぎて強い眠気が生じたり、お薬の種類によっては肝機能障害を引き起こしたりすることもあります。
また、もともとの体質やその日の体調によっても、組み合わせの影響は異なります。今回ご紹介した例以外にも、注意が必要な組み合わせはあります。そのようなケースでは、お薬の効き目になるべく影響しないよう、薬の服用のタイミングが食間になっていたりすることもあります。
このような理由からも、お薬は、指定された用法、用量を守って服用することが大切です。心配なことがあれば、自己判断せずに身近な薬剤師に相談してみてくださいね。
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体調管理にも役立つ「おくすり手帳」を活用しよう
薬と食べ物の組み合わせによるトラブルを防ぐうえで役立つのが、「おくすり手帳」の活用です。薬局で受け取った薬だけではなく、市販薬を服用したり、サプリメントを飲んだりしたときにも、こまめに記録を残しておくのがおすすめです。
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中間さん:薬局でお薬を受け取ったとき、おくすり手帳に処方内容を記載したシールを貼りますが、おくすり手帳の役割は処方薬の管理だけではありません。市販薬を服用されたとき、サプリメントを飲まれたとき、お薬を飲んで体調に変化があったときなどに記録を残しておくと、医師や薬剤師ときちんと情報を共有できますし、お薬のことも相談しやすくなりますよ。
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おくすり手帳には、どんな種類の薬をいつ、どれくらい服用したかを記録するだけではなく、副作用やアレルギーの有無、病歴などをメモしておくのも、上手に活用するポイント。
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中間さん:たとえば、はじめて血圧に作用するお薬を飲んだときに、血圧が下がりすぎてめまいが起きたりすることがあります。お薬の調剤も薬剤師の仕事ですが、お渡ししたお薬がどのように効いているかを確認するのも、私たちの大切な役割です。気になる体調の変化があれば、おくすり手帳にメモしたうえでご相談いただけると、医師への情報共有や、お薬の見直しもスムーズに進みます。
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また、おくすり手帳があると服用中の薬の種類を正確に伝えられるため、災害時や緊急時、旅行時にも有用です。
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中間さん:病院や薬局に行かれたときに、伝えなければいけないことを忘れてしまったり、副作用について聞かれたときに正確に答えられなかったりした経験はありませんか? 普段から、服薬状況や体調をおくすり手帳に記録する習慣をつけておけば、お見せいただくだけで必要な情報を共有できるのでとても便利です。
頭が痛くなったのでこの薬を何錠飲んだ、この漢方薬を飲んだらこんな変化があったなど、そんなふうにおくすり手帳を健康手帳のように活用していただくと、お薬の管理に限らず、体調管理にも役立ちますよ。
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おくすり手帳については、下記のページでも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
おしえて薬剤師さん!第2回「おくすり手帳」
薬が効くメカニズムについては、下記のページでも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
第1回「薬はどう体を巡るの?薬が効くメカニズム」