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第4回「薬はどこに置いておく?保管方法と注意点」

みなさんは、処方薬や市販薬をどう保管していますか? 保管場所まではあまり気にかけないことが多いかもしれませんが、適切な環境で保管できていなければ、薬の品質が低下して効果を十分に得られないだけではなく、服用することでかえって健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。

とくに子どものいるご家庭では、子どもが間違って口に入れたり触ったりしないよう、絶対に手が届かない場所で保管することが大切です。とはいえ、具体的にどこに薬を置けば安全といえるのか、迷うこともあるかもしれません。

“知っているようで知らない”薬に関する基礎知識や、薬との上手な付き合い方についてお伝えする、本シリーズ。第4回目は、薬の正しい保管方法と保管時の注意点について、薬の劣化のサインや使用期限なども踏まえてわかりやすく解説します。

教えてくれるのは・・・
笠原 志乃さん
株式会社アイセイ薬局 薬剤師 アイセイ薬局東十条店

研修認定薬剤師/スポーツファーマシスト
患者さんのお話を親身になってお聞きすること、患者さんとの信頼関係を築くことを大切にしている。

INDEX
薬を安全に保管できる場所は?
薬の保管時に気をつけたいこと
注意したい、薬の劣化のサイン
薬の保管期限はいつまで?

薬を安全に保管できる場所は?

薬の置き場所については、戸棚やリビングの引き出しなど、なんとなく決まっているというご家庭は少なくないと思いますが、薬は安全に保管することが大切。とくに指定がない場合は、直射日光が当たらず、湿気が少ない涼しい場所での室温保管が基本とされています。一方で、保管に不向きなのは、薬の変質を招く場所です。

笠原さん

お薬は、温度や湿度、光の影響を受けて品質が低下してしまうことがあります。温度が上がりやすい暖房器具の近くや車の中、直射日光が当たりやすい窓際のほか、湿度が高くなりやすいキッチンや洗面台、浴室の近くも、お薬の保管場所には向いていません。

なかでも、粉薬や錠剤、カプセル剤は湿気に弱いため、瓶などの密閉容器で保管するとよいでしょう。その際に、乾燥剤を一緒に入れておくと湿気を防げます。梅雨の時期や夏場はとくに湿度が高くなるので、十分に注意してください。

また、シロップ薬や坐薬、点眼薬、注射薬などで冷蔵での保管が指定されるものがあります。

冷蔵保管が指定されている薬は、冷蔵庫内での置き場所にも気を配ることが大切です。冷蔵庫の奥のほうは冷気が直接当たりやすく、凍結する可能性があります。また、冷蔵庫の扉部分も開け閉めの際に温度変化が起こりやすいため、避けたほうがよいでしょう。

笠原さん

常温よりも冷所のほうが安全だろうと、冷蔵保管の指定がないお薬を冷蔵庫に入れておく方もいらっしゃいますが、じつはよくないこともあります。お薬を冷蔵で保管したからといって使用期限が延びるわけではありませんし、結露による湿気で変色するなど、かえって悪影響を及ぼすことがあります。指定された保管方法を必ず守るようにしましょう。

ちなみに、医薬品の規格基準書「日本薬局方」では、室温は1℃~30℃、冷所は1℃~15℃、常温は15℃~25℃と定められています。薬の添付文書や袋に記載された保管方法に目を通して、適切な環境で保管できるようにしましょう。

薬の保管時に気をつけたいこと

薬の保管は、場所だけではなく、保管の仕方にも気を配りたいところです。温度や湿度の変化、光の影響を防げる場所で薬を保管できていたとしても、管理の方法が間違っていると、使用期限内であっても品質の低下やトラブルを招きかねません。

笠原さん

まず、ごく基本的な注意点として、液状の薬や塗り薬などは、容器の蓋をしっかりと閉めて保管することが大切です。閉め方がゆるいと、中身がこぼれてしまったり、お薬の品質が変わりやすくなったりします。

また、錠剤やカプセル剤などシート状のお薬を一つずつ切り離して保管していると、場合によっては包装シートのまま誤って飲んでしまう恐れがあります。そうした誤飲を防ぐために、お薬のシートのミシン目は一つずつ切り離されないように工夫されていますので、ハサミなどで切り離さずに保管することをおすすめします。

子どもの誤飲を防ぐために

子どもが大人用の医薬品を誤飲してしまうケースは多く、薬の保管においてとくに気をつけたいことのひとつですが、子ども用のシロップ薬など、甘い味がつけられた薬を服用したことで「おいしいもの」として認識し、自ら誤飲してしまった事例も見られます(※1)。
※1:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 「医薬品・医療機器等安全性情報 No.330」参照

笠原さん

お菓子の缶のなかにお薬を入れて保管すると、子どもがお薬をお菓子だと勘違いして口にしてしまうおそれがあります。小さなお子さまがいるご家庭では、密閉できるタッパーなどでお薬を保管するのもおすすめです。

また、お薬と食品を同じ場所に保管することはもちろん、防虫剤など体に有害なものと一緒に保管するのも避けましょう。

ほかにも、「あとで飲もう」と一時的にテーブルの上などにお薬を置いておくと、ちょっと目を離した隙に子どもが誤飲してしまう可能性もあるので、十分注意が必要です。

まだ手が届かないだろう、口にしないだろうという油断が、思わぬ誤飲を招くことも考えられます。実際に、棚など高い場所に保管していた医薬品を、子どもが自分で足場を持ってきて誤飲した事例もあります(※2)。向精神薬や気管支拡張剤、血圧降下剤、血糖降下剤など、子どもが口にすると重い中毒症状を引き起こしかねない薬もあるので、十分に気をつけましょう。
※2:一般社団法人 日本病院薬剤師会 「子どもによる医薬品の誤飲事故に注意」参照

また、処方薬については、家族間での共用、誤飲を避けるために、各々が別々の容器に保管することをおすすめします。

注意したい、薬の劣化のサイン

これまでお伝えしたように、薬は温度や湿度、光の影響を受けて品質が変わりやすくなります。では、薬の劣化に関しては、具体的にどのような変化に注意すればよいのでしょうか。

笠原さん

シロップ薬では容器に沈殿物が生じたり、お薬の色が変化したりすることがありますし、粉薬が湿気で変色して固まったりすることもあります。使用期限内だからと油断せずに、お薬を使用するときには色や形、においなど、気になる点がないかを必ずチェックしましょう。なんらかの異変を感じた場合は、すぐにお薬の使用を中止して、薬剤師に相談してください。

薬の劣化を防ぐうえでは、薬の容器や包装シートの役割を知っておくことも大切です。

笠原さん

お薬の容器や包装シートは、お薬の品質を守るためのものでもあります。例えば、目薬を処方されるときに、「遮光袋」という色のついた袋に入った状態で渡されることがあります。遮光袋はその名の通り、光をさえぎるための袋で、光の影響を受けやすいお薬に用いられます。

錠剤やカプセル剤が入っている包装シートも、湿気や光などの影響からお薬を守り、清潔な状態で服用できるためのものです。このほかのお薬の容器についても、薬効を守るために用いられることが少なくありません。ですので、自己判断でお薬を包装シートから取り出してほかの容器に移すことはやめましょう。雑菌が混入する恐れもありますし、容器に使用方法が書かれている場合は、誤用を招きかねません。もし、ほかの容器に移したい場合は、事前に薬剤師に相談をしてください。

薬の保管期限はいつまで?

そもそも薬はいつまで保管できるのでしょうか。また、使わずに余ってしまった薬はどうすればよいのでしょうか。

笠原さん

市販薬については、お薬や外箱に記載された使用期限を守りましょう。ただし、その期限内に使用できるのは、未開封の状態で適切に保管していた場合に限られます。

個包装のお薬の場合、きちんと管理されていれば使用期限内は使うことができますが、シロップ薬や目薬などはとくに変質しやすいお薬です。添付文書に記載された、開封後の保管方法を参考にしてください。

薬局で処方された薬については、処方時に指定された日数が使用期限です。使わずに残った薬があっても、使用期限を過ぎたものは基本的に処分しましょう。

笠原さん

もし飲み忘れでお薬が残っている場合は、お薬の効果を十分に得られていない可能性があるため、まずは薬剤師に相談してみてください。薬剤師から医師に相談することもできますし、今後、お薬を服用する回数や量を調整するといった対応につながることもあります。

市販薬と処方薬のどちらにおいても、使用期限を過ぎたものを使うと思わぬ病気や不調を招く可能性があります。保管しているお薬は、使用期限とともに品質が低下していないかを定期的にチェックしたうえで、使用期限が切れたものはその都度廃棄するなどして、こまめに整理しましょう。

薬は安全に使用してこそ、本来の効果を得られます。薬をどこに保管すればよいかわからないとき、薬の異変に気が付いたとき、薬が余ったときなど、困った際に気軽に相談できるかかりつけの薬局があると安心です。

笠原さん

以前、お薬の中身をすべて取り出して、ケースに入れて保管されている患者さんがいらっしゃいました。飲み忘れがないようにとの思いから、そのような方法になったとのことでしたが、お薬の品質が低下してしまうリスクがあることをお伝えして、包装シートのまま保管していただくようにお願いしました。

このように、薬局での何気ない会話から、患者さんがどのようにお薬を保管されているのかがわかることもあり、日々コミュニケーションの大切さを実感しています。お薬に関する不安や疑問があれば、薬剤師に気軽に相談していただけるとうれしいです。

お薬をきちんと服用するために、患者さんもいろいろな工夫をされていると感じます。薬剤師としても、少しでもお薬を快適に使っていただけるようにサポートできればと思っています。

子どもに薬を飲ませるときの注意点については、本シリーズの第3回でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

第3回「子どもに薬を飲ませるときの注意点とコツ」
「子どもが病気になったとき、薬を飲ませるのに苦労した」。そんな経験はありませんか? 薬を飲むのを嫌がられると「無理やり飲ませても……」とためらってしまうこともありますが、正しく服用しなければ薬の効果を十分に得られず、病気が長引いたり悪化したりしかねません。

薬の味や食感など、子どもが薬を嫌がる理由はさまざまですが、ちょっとした工夫で飲みやすくなることもあります。

“知っているようで知らない”薬に関する基礎知識や、薬との上手な付き合い方についてお伝えする、本シリーズ。第3回目は、子どもに薬を飲ませるときの注意点や、上手な飲ませ方などをわかりやすく解説します。
https://helico.life/feature/medicinebasics-child/

「薬剤師が教えます!お薬のキホン」第5回目は、おくすり手帳の活用法について解説をします!

CREDIT
取材・文/藤田幸恵 イラスト/Mariko Fukuoka 編集/HELiCO編集部
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