強いストレスや不安を感じて心身に不調が出たとき、「心の専門家に診てもらう」という選択肢があります。しかし、相談先には、「精神科」「心療内科」「カウンセリング」など、さまざまな候補があり、どこに相談したらよいのかわからないこともあるのでは。そんなとき、それぞれの特徴を知っておくと、相談のハードルが少し下がるかもしれません。精神科と心療内科、カウンセリングの違いや選び方のポイントをお届けします。
- 教えてくれるのは…
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- 益子 雅笛先生
- こころとからだのケアクリニック人形町院長/株式会社M.D.PROJECT 代表取締役
医師。1994年東京慈恵会医科大学卒業後、国立病院東京医療センターで総合内科、東邦大学医学部心身医学講座で心療内科、国立精神・神経センター(現国立国際医療研究センター)国府台病院で精神科を研修。臨床に携わる一方、2016年に株式会社M.D.PROJECTを起業し、企業の健康管理やメンタルヘルス対策のサポートを行う。2022年11月には、こころとからだのケアクリニック人形町を開院。院長として診療を行っている。
精神科と心療内科はどう違う?
まずは、医療の領域である「精神科」と「心療内科」の違いを確認してみましょう。精神科も心療内科も、どちらも心に関係する診療科ですが、定義や適用される法律が異なります。
精神科
精神科は、精神疾患や精神障害、神経症などの診断と治療を専門とした医師が診療を行うところ。主に患者の心の状態を把握して、薬物療法や精神療法を含めたさまざまな治療を行う場所と定義されています。
心療内科
心療内科は、緊張やストレスなどの心理的な影響が原因で起こる体の病気(心身症)を、心と体の両面から治療するところ。「心理的な影響が原因で起こる体の病気」とは、具体的には、過敏性腸症候群(IBS)、潰瘍性大腸炎、ストレスが関与する虚血性心疾患や動悸、偏頭痛、めまいなどが該当します。つまり、体の病気を治療するために、心も一緒に治療するのが心療内科というわけです。
少し専門的な話になりますが、精神科と心療内科では関係する法律にも違いがあります。「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」という、精神障害に関する医療と福祉の法律が関係するのは精神科だけです。
精神科の患者さんのなかには、症状が重くなると自分が病気であると認識できなくなったり、治療の必要性を理解できなくなったりする人もいます。そのような場合でも、患者さんが保護され、適切な医療を受けられるように定めているのが、精神保健福祉法です。心療内科は、精神保健福祉法の対象にはなっていません。
カウンセリングってどんな場所?
カウンセリングという言葉の本来の意味は「相談」や「助言」。それが転じて、医師やカウンセラーが悩みや不安を聞き、専門家として指導やサポートを行うのが、心の診療における「カウンセリング」の役割です。カウンセリングを受けることで心が落ち着く、自分の考え方のクセや長所に気づける、抱えている悩みや問題を整理できるといったメリットがあります。
カウンセリングの利用シーンは幅広く、医師や公認心理師が病気治療の一環で行う以外に、民間のカウンセリング資格などを持つカウンセラーが担当し、悩み相談や考え方の整理、自己分析として使われることもあります。
治療のために行われるカウンセリング(心理療法の一部)は健康保険の適用になるものもありますが、それ以外のカウンセリングは、医療機関で行われるものであっても保険診療の対象にはならず、自費で受けることになります。
自費で受けるカウンセリングは、たとえるならケガをした後に行うリハビリトレーニングに近いかもしれません。通常そうしたトレーニングはケガの完治後、日常生活における不便を減らす目的で行われますが、なかには、「ケガをしていないけれど、もっと上手に歩きたいからトレーニングを受けたい」という人もいます。
それと同じで、心の病気になったときだけでなく、上手に生きるヒントが欲しいときにも受けられるのが、カウンセリングの特徴です。
どこに行けばいい? 精神科、心療内科、カウンセリングの選び方
精神科、心療内科、カウンセリング、自分のいまの不安はどこに相談すればいいのかも知っておきたいところ。では、どう選べばよいのでしょう?
精神科と心療内科は、どちらでもOK
心の不調が原因で日常生活に支障が出ている場合の相談先は、医療機関が適切です。受診するのは精神科でも心療内科でも、どちらでも構いません。
最初の説明の通り、「心身症」と呼ばれる、心が原因の体の病気は心療内科の領域ですが、その症状が本当に心身症かどうか見極めるのは簡単ではありません。自分で「ストレスのせいで、体に異常が起きている」と思い心療内科を受診したら、じつは別のところに原因があったということもあります。
「精神科で診てもらったほうがいい」「心療内科で総合的に治療しよう」という治療方針は医師が判断すること。患者さんが受診先を選ぶ時点で精神科がいいか、心療内科がいいかと考えを巡らせなくて大丈夫です。そもそも精神科と心療内科、両方の診療科を掲げている医療機関も多くあります。まずは受診しないことには体調はよくなっていきません。直感で好印象を抱いた医療機関を受診してみましょう。
受診のポイント
上手にまとまらなくてもよいので、まずは以下の要点を自分なりに伝えましょう。診察室でいきなり話そうとすると緊張してしまう人も多いので、紙に書き出しておくのがおすすめです。
- いつから、どんなふうに自分の体や心に変化が起こったか
- どうして受診しようと思ったのか
- 何を相談したいのか
洋服や身だしなみも、診察する医師にとって大切な情報なので、飾らないいつもの自分で受診するようにしてください。
治療よりカウンセリングが向いている場合は?
心身に不調がある場合は、まず医療機関を受診するのがよいですが、どうしても抵抗がある場合や、治療の前に考えを整理したいときは、カウンセリングを先に受けるという選択肢もあります。
ただし、「相談内容を話そうとしても考えがまとまらず、言葉がうまく出てこない」「考えようとしても頭が真っ白になってしまう」というときは、カウンセリングに向かないタイミングといえます。脳や心がとても疲れていて、言葉を紡ぎ出す余裕がないときにカウンセリングを受けると、かえって体調によくないこともあります。カウンセラーの前で話ができる状況にあるときに受けることが大切です。
カウンセリングは、カウンセラーが答えを出すのではなく、話を聞いて相談者自身が考えを整理し、自分と向き合って答えを見つける場所です。それができるだけの余裕があるかどうかがポイントとなります。
相性のよい医師、カウンセラーを見つけるには?
精神科や心療内科、カウンセリングでは、自分の内面をさらけ出す話をするため、医師やカウンセラーとの相性が気になるという声もあります。相性のよい医師やカウンセラーをどうやって見つけたらよいのかも、気になるところ。
ポイント1:情報収集
よい相談相手に巡り会うためにまず大切なのが、「情報収集」です。病院やクリニック、施設のホームページ、口コミなどを見て、情報を集めましょう。医師やカウンセラーのメッセージから感じる印象も大事にしてみてください。精神科専門医や心療内科専門医であれば、日ごろから知識をアップデートしているひとつの目安となるでしょう。
ポイント2:コミュニケーション
印象のよさそうなところが見つかったら、受診してみましょう。そのときに重要なのは、「大切な情報がちゃんとやり取りできるか」ということ。担当の医師やカウンセラーに、自分の伝えたいことがしっかり伝えられて、相手がそれをきちんと受け止めてくれる、そんなコミュニケーションが取れれば、きっと治療もうまくいきやすいでしょう。
ポイント3:通いやすさ
相性と同時に大切なのが通いやすさです。精神科や心療内科での治療は、1回の受診で完結しないことがほとんど。複数回の通院が前提になるので、通いやすい場所かどうかは重要なポイントです。遠いところだと通院が大変で通わなくなってしまうこともあります。ぜひ、アクセスのよさも重視してください。
誰かに話したい不安があれば、まずは相談
心が原因で不調になるのは、孤立の影響が大きいといわれています。不安を誰かに話して共有できると孤立した状態ではなくなり、結果的に心の不調を防ぐのにもつながります。身近な相手に相談するのをためらう人は少なくありません。だからこそ心強い相談先があるといいですよね。「こんなことを話してもいいのかな」と思わず、頼ってみては。
精神科も心療内科もカウンセリングも、特定の人だけがお世話になる場所ではありません。体の調子が悪ければ病院に行くように、心の調子が悪ければ精神科や心療内科を受診する。体の健康を保ちたかったらジムに行くように、心の健康を保つのにカウンセリングに行く。そんなふうに、心の悩みを専門家に相談することが当たり前になると、もっと生きやすくなるかもしれませんね。