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子どもが感じる不安の正体。大人との違いと対策法

不安を感じるのは、大人だけでなく子どもも同じです。日本財団が2023年に行った「こども1万人意識調査(全都道府県、男女10~18歳)」によると、約12人に1人の子どもが「自分自身のメンタルの状態に満足していない」と答えています。

子どもは感情を言語化することが未熟なため、不安があってもそれを言えずに我慢してしまうこともあるでしょう。また、子どもならではの不安を感じるポイントがあるかもしれません。

子どもと大人とで、不安の感じ方や症状にどんな違いがあるのでしょうか? また、子どもが不安を感じたとき、周囲の大人ができることはどんなことがあるのでしょうか? 子どもの心の診療に長年携わる児童精神科の医師に話を聞きました。

教えてくれるのは…
舩渡川 智之先生
東邦大学医療センター 大森病院メンタルヘルスセンター 精神神経科 講師

児童精神科医・精神科医。2004年に山形大学医学部医学科を卒業。初期研修医時代の小児科研修での経験が児童精神科医を志すきっかけに。2年間の初期研修後、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に入局。同医局の関連病院等を経て、東邦大学医学部精神神経医学講座の助教に就任。以来、一般精神科臨床の傍ら、児童精神科医としての臨床、精神病の予防や回復のためのデイケアの診療に携わる。

何歳から感じる? 子どもの不安の特徴

不安を感じる力は、生まれながらに備わっている能力です。もしも不安や不快な状況を感じ取れなければ、命に危険がおよぶことも。

子どもが不安を感じ始めるのは、1歳くらい(12~18か月)からだといわれています。このころは主に、親や信頼する人と離れることで起こる「分離不安」を感じています。

2~3歳になると、暗闇や大きな音などの自然現象を怖がったり、動物に対して恐怖の感情を抱いたりします。小さな子が動物を触るのを嫌がるのは、成長の証といえるのかもしれません。

その後、4~5歳で「死」への恐怖が生まれるといわれています。そのため、「パパやママが死んじゃったらどうしよう」などと突然言い出すこともあります。

6歳を過ぎ、学校に通い始めるとコミュニケーションの対象が一気に広がり、不安の感じ方にも変化が見られます。たとえば、自分と誰かが比べられることや仲間はずれにされること、恋愛など、人間関係に対して不安の念を抱くようになっていきます。

このように、幼児期から「暗やみ」「動物」「おばけ」など特定の対象に不安を感じ始め、成長するにつれ「死」「人間関係」など目に見えないものにも不安の対象は広がっていくのです。

子どもと大人、不安の感じ方はどう違う?

子どもと大人とでは、不安の感じ方にどのような違いがあるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

子どものほうが、不安を感じやすい

一般的に、大人よりも子どものほうが不安を感じやすいといわれています。子どもは大人と比べて経験が少なく、対応にとまどい不安になりやすい……というのもありますが、じつは脳の発達度合いも関係しています。

人は、見聞きした情報が自身の命に関わるものかどうかを、脳の「扁桃体」で瞬時に判断しています。もしも命に関わることがあれば、扁桃体はアラートを出して、危険を知らせます。

ですが、扁桃体が感じるままにアラートを出されてしまうと、危険を感じすぎて気が持ちません。そこで、脳の「前頭前野」という部位で、扁桃体が感じた感情を適切にコントロールしているのです。

前頭前野が発達し終わるのは、20代前半くらい。子どものうちは未発達な状態です。つまり、子どもが大人よりも不安を感じやすいのは、個人差もありますが、前頭前野が発達しきっておらず、感情のコントロールが難しいことも一因といえます。

子どものほうが、身体症状が出やすい

強いストレスを感じると、血流や自律神経が乱れて、頭痛、腹痛、めまい、不眠などの症状が出ます。これは大人も子どもも同じです。

ですが、子どものほうが大人に比べて自分の状況を言葉で表現しづらい分、ストレスにのまれやすく、大人よりも身体症状が現れやすい傾向があります。ちょっとした不安や心配ごとでも、おなかを痛がったり、眠れなくなったりするのは、そうした子どもならではの特徴が関係することもあります。

不安が子どもに与える影響

生きるうえで、不安やストレスはあって当然のもの。ですが、強すぎる不安やストレスを感じる状態が長く続くと、子どもの発達にも影響したり、健康を損ねたりすることがあります。心の不安が子どもに与える影響をいくつかご紹介しましょう。

病気にかかりやすくなる

ストレス状態が続くと、免疫の低下、不眠、食欲不振などになってしまい、その結果、病気への抵抗力が弱まってしまうことがあります。

自分に自信が持てなくなる

親など周囲の大人からの愛情を感じられず不安な状態が続くと、自己肯定感や自尊心が低下し、自信が持てなくなってしまいます。自分を大切に思えなくなり、自傷行為をすることもあります。

心の病気になりやすくなる

何をするにも不安になったり(全般性不安障害)、考えや気持ちがまとまらなくなったり(統合失調症)、強い不安感と同時に動悸やめまいが起きたり(パニック障害)といった、心の病気になることも少なくありません。

コミュニケーション力の低下・欠如

不安な気持ちを持っていることに気づかれたくないと思い、コミュニケーションの機会を避けるなどした結果、他者との関係を築く力が欠落してしまうこともあります。

不安を感じた子どもに、周囲の大人ができること

子どもが健やかに発達していくためには、不安な気持ちを持ち続けないことが大切です。子どもは不安やストレスを感じていることに気づきにくいため、周囲の大人が気づき、早めに対応していきましょう。

といっても、具体的にどうすればよいのか悩ましいですよね。まずは、子どもの注意を不安な気持ちからそらすことを考えながら、以下のことを一緒にやってみてください。

呼吸を整え、リラックス

不安やストレスなどで緊張した状態になると、呼吸が浅く速くなりがちです。一方、リラックス状態では、深くてゆったりとした呼吸をしています。体の状態と呼吸には密接な関係があるのです。子どもが不安や緊張を感じていると思ったら、ゆっくり大きく呼吸することを意識させてみましょう。

リラックス状態に導く呼吸法

  1. 体の力を抜き、おへその下あたりに手を当て、鼻からしっかりと息を吸う
  2. 口からゆっくりと長く、おなかを凹ませるようにして息を吐く
  3. おなかを膨らませるようにして、鼻から息を吸う
  4. この呼吸を5~10分程度続ける

そのほか、肩を耳に近づけるように持ち上げてグーッと力を入れ、10秒たったら一気に脱力するというように、筋肉の緊張と弛緩(しかん:ゆるめること)を繰り返すことも、不安な気持ちの解消に役立ちます。

体を動かす

体を動かすと、不安やストレスから注意がそれて、気持ちが落ち着きやすくなるといわれています。体を動かすといっても、買い物がてら一緒に散歩をする程度で十分。歩きながら空を見上げたり、道ばたの草花を観察したり、いつも見過ごしていた場所に注目して歩くのもよいですね。もちろん、運動が好きな子ならスポーツをするのもおすすめです。

日記や絵(イラスト)をかく

強い不安やストレスにのまれないうちに、日々感じたことを日記にしたためるのも効果的です。学校によっては三行日記や一言日記を毎日の宿題にしているところもありますが、それには子どもが心の不安を吐き出す場所をつくる意図があるのかもしれません。絵を描くことが好きな子なら、文章の代わりに絵を描くのもよいでしょう。子どもが好きなノートやペンなどを大人も一緒に選んで、たとえば「毎日10分、親子で日記をしたためる時間を過ごす」のもよさそうです。

生活リズムを整える

朝になったら起きて、夜になったら寝る。睡眠時間をしっかりとる。決まった時間に食事をするなど、生活リズムを整えることは、心の不安解消の基本です。

ストレスや不安を感じると、不眠になって生活リズムが乱れてしまうことがあります。そんなときには、生活リズムのルーティンを決めてみましょう。心が落ち着かないときでもルーティンがあると、子どもは安心して行動できるようになります。

起床時間、起きてからのルーティン(服を着替える、歯みがきをする など)、食事の時間、就寝時間などを子どもと話し合い、無理のない範囲で生活の時間割を決めてみてはいかがでしょう。乱れたリズムが整っていくはずです。

ほどよい距離感を保つ

子どもが不安を抱えていることに気づくと、「なんとかしてあげたい」と思うあまり、大人が過干渉になってしまうことが多々あります。ですが、そんなときにもグッと我慢して、子どもに干渉し過ぎないことも大切です。

先回りしすぎず、子どもができそうなことはなるべく子どもに任せる。子どもが「ここからは踏み込んでほしくない」という雰囲気を出しているときには手を出さないなど、大人がほどよい距離感を保って見守っていきましょう。

第三者と連携する

子どもと大人の二者だけで解決しようとすると、ときに行き詰まることがあるかもしれません。そんなときは、専門の相談機関などの第三者と連携し、対応するのもひとつの方法です。学校のスクールカウンセラーや自治体・NPO法人などの相談窓口、子どもの心を診察してくれる医療機関などに相談し、大人も子どもも一緒にストレスをやわらげていけるとよいですね。

子どもが安心して過ごせる環境づくりを

特別なことをしなくても、子どもと一緒に他愛のない話をしたり、子どもの話にじっくりと耳を傾けたりするだけで、子どもの心が落ち着くこともあります。いつもの生活を客観的に振り返り、子どもが安心して過ごせるような生活や環境作りができているかどうかを確認してみるのもよいでしょう。

じつは子どもが抱えるストレスの半分は、親のストレスが原因になっている場合もあります。親が仕事や日々の暮らしにストレスを抱え、余裕がなくなってくると、それが子どもにとっても大きなストレスになることも。ときには大人の側が頑張り過ぎないことも大切です。

子どもは大人よりも不安な気持ちになりやすいもの。そのことを念頭に置き、子どもの不安やストレスを自分だけでなんとかしようとせずに、少しずつできることから取り組んでみてください。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:青山 和代
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