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心の不安やモヤモヤを「書き出す」セルフケアのすすめ

頭のなかが不安で埋め尽くされてしまう……。ネガティブな感情で頭がぐるぐるしているとき、ノートやメモ帳アプリに書き出すだけで気持ちが落ち着いてくることがあります。この記事では、今日から始められる「書き出す」セルフケアの方法を解説していきます。自分の心をどうケアしたらよいのか悩んでいる方は、ぜひ実践してみてください。

教えてくれるのは…
増田 史先生
滋賀医科大学精神科助教 精神科専門医、医学博士

2010年に滋賀医科大学医学部を卒業後、大学院時代から徐々にうつ状態となり、精神科を受診。適応障害と診断される。休職やカウンセリングで少しずつ回復し、今も回復途上。2021年より滋賀医科大学精神科助教。児童思春期分野を中心とした臨床を行なうほか、神経発達症の感覚特性に関する研究などにも取り組んでいる。2児の母。著書に『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(ナツメ社)など。

どうして私たちは、不安になるの?

私たち人間は、急な危機に対応できるよう、何もしていないときでも脳が自動的に動く仕組みが備わっています。しかし、この仕組みが過剰に働きすぎると、ぐるぐる何度も考えてしまう思考(内省的思考・反芻思考)が生まれやすく、不安につながることも。

また、傷ついたりしんどかったりした記憶が脳のなかに残されており、それが不安として出てくるケースもあります。不安がなかなか消えないときやつらい気持ちがわきあがってくるときは、自分が「なに」に不安を感じているのか、書き出してみましょう。

この「書き出す」セルフケアは、たとえば上司に言われてつらかった一言、家族や友人との会話で気になったことなど、日常のなかで起こる不安やモヤモヤを整理する手助けになります。

不安なときにおすすめしたい「書き出す」セルフケア

書き出す方法は簡単です。なんだか気持ちが落ち着かない、ネガティブなことばかり考えてしまうと思ったら、その気持ちをそのまま書き出すだけ。思い立ったときや時間があるとき、普段よりもしんどいと感じるときなどに、ぜひ実践してみてください。

準備するもの

使う道具はどんなものでもOKです。紙にペンで書くのでも、パソコンやスマートフォンに文字入力するのでも、音声入力機能を使うのでも構いません。あとから見返したい人は、ノートや手帳、オンラインのメモツールなど、書く場所を決めておくとよいでしょう。

まずは、ありのままを書き出してみる

準備できたら、頭のなかに浮かんだ言葉をそのまま書き出してみましょう。「イライラする」「我慢の限界だ」「明日が怖い」など、なんでも構いません。

頭のなかで複数の自分がせめぎ合っていたり、会話していたりするケースもあるでしょう。その場合は、そのまま対話形式で書き出してみてください。

頭のなかが同じ考えでぐるぐるしているときには、状況を一旦整理するのがよいかもしれません。人間が一度に記憶できる容量は限られているので、書き出すことで自分の考えや思いを一旦外に出し、客観的に眺めてみましょう。それによって新たな視点を発見できたり、これまであまり意識していなかったことに気づいたりできます。

自分の思考パターンを深掘りする「セルフモニタリング」

書き出した内容を読み返して、「私は〇〇がつらかったんだ」「〇〇に生きづらさを感じていた」と気がついたり、整理できたりすると、状況に冷静に対処しやすくなります。

この方法は、認知行動療法(※)における「セルフモニタリング」のひとつ。続けていると、自分が何にストレスを感じやすいのか把握できるようになります。

※認知行動療法…認知に働きかけて、心のストレスを軽減していく治療法

5つの項目に分けると、さらに整理しやすくなる

書き出す際、
①出来事
②気持ち
③考え
④身体
⑤行動
の5つに分けると、頭のなかがより整理しやすくなります。

たとえば図のように上司に叱られたときの気持ちを5つに分類してみると、なぜこんな気持ちになったのか理解しやすくなります。頭のなかで考えているだけでは見えてこなかった自分自身の心の声に気づくことができるでしょう。

このセルフモニタリングは、繰り返し行っていくうちに「そういえばこの前も似たような気持ちになった」「また同じ行動をしている」などの傾向も見えてきます。自分の思考のクセを把握するためにもおすすめの方法です。

何を書いたらいいかわからないときは?

いざペンを持ち、ノートを開いても言葉が浮かばない……という場合は、目の前に見えたものをただひたすら書いてみましょう。たとえば、公園のベンチに座ると、以下のような言葉が書き出せます。

砂場、ブランコ、桜の木、親子、自転車、水飲み場、青い空、すずめ、雲、太陽……

視点を「いま、ここ」にフォーカスすることで、気持ちが落ち着きニュートラルな自分に戻ることができます。イライラして呼吸すら忘れていたり、不安で目の前が真っ暗に感じたりするときにもおすすめです。

ポジティブな感情を書き出すのもおすすめ

ネガティブな感情だけでなく「楽しかった」「うれしかった」などのポジティブな感情をセルフモニタリングすることもおすすめです。読み返すことでポジティブな感情を思い起こせます。また、ポジティブな感情を書き出すことを継続すると、そういった感情に着目しやすく、思い出しやすくなることも期待できます。

元気なときにつくりたい『心のお助けノート』

「書き出す」セルフケアで、もうひとつおすすめなのが『心のお助けノート』。これは米国の臨床心理学者が米軍の自殺対策のために考えた認知行動療法の手法を、日本版にアレンジしたPCOP (ピーコップ/心理的危機対応プラン)を元にしています。

本当につらくて落ち込んでいるときは、頭がうまく働かなくなってしまいます。そのため、心が危機的状況に陥ったときに役立つ情報を、元気なときに自分自身で書き出しておくのです。

先述の通り、書き出す場所はノートでもスマホのアプリでもOK。持ち運びしやすく、いつでも見返せるものがおすすめです。ひとりでは難しいときは、家族や友人と一緒につくってみてもよいでしょう。

『心のお助けノート』に書いておくのは、5つの項目です。一つひとつ、書き方の例をご紹介します。

1警告サイン

心の状態が危ういときに、自分の心や体に現れるサインを書いておきましょう。警告サインは一人ひとり異なります。思いつく限り書き出してみましょう。

書き方の例

◾️心のサイン:ネガティブな考えが止まらない、無性にイライラする、つらい思い出がフラッシュバックする、学生時代の後悔を思い出す など

◾️体のサイン:心臓がドキドキする、涙が止まらない、震えが止まらない、自傷行為をしてしまう など

2コーピングレパートリー

コーピングとは、セルフケアするための行動のこと。自分の気持ちが落ち着く行動を10個といわず、100個でも200個でも思いつく限り、質より量を意識してどんどん書いていきましょう。その都度、気分に応じて内容を入れ替えたり更新したりしておくと、より充実したリストになります。

またコーピングレパートリーは3つの項目に分けると、書きやすくなります。以下の例を参考に、自分なりのリストを、ぜひ自由な発想でつくってみてください。

書き方の例

◾️いつでもどこでもできるコーピングレパートリー

  • スキップしてみる
  • 10秒くらい息を止める
  • 次カラオケに行ったときに歌いたい曲を選んでみる
  • 頭のなかのぐるぐるした考えを紙やスマホに書き出す
  • お気に入りのふわふわしたキーホルダーをなでる

◾️ちょっと時間があるときのコーピングレパートリー

  • お気に入りのドリンクを飲む
  • 好きなラジオやポッドキャストを聞く
  • マッサージ店で体をほぐしてもらう
  • 猫カフェに行く
  • いつもよりちょっと贅沢なスイーツを買って味わう

◾️頭のなかでできるコーピングレパートリー

  • 大好きな推しを思い浮かべる
  • 一国の姫になったつもりで世の中を見る
  • 背中からペリペリと脱皮する様子をイメージする
  • 「私もあの人と同様に尊重されてよい」と考える
  • 「短い人生、いやな人のために頑張る暇なんて1ミリもない」と考える

3生きる理由

「生きる理由」と聞くと、難しく構えてしまう人もいるかもしれませんが、高尚である必要はまったくありません。たとえば「コンビニの限定スイーツを食べる」「来週、好きなアーティストのライブに行く」など、ごく短期的な視点での「生きる理由」があれば十分です。元気なうちに書いておきましょう。

4サポーター

サポーターとは、つらいときにサポートしてくれそうな身近な人のほか、思い浮かべたときにホッとしたり、クスッと笑顔になったりする人のことを広く指します。有名人や猫などの動物、アニメの登場人物やぬいぐるみなど、直接会話ができる相手でなくても構いません。自分「が」元気になるサポーターを書いておきましょう。

5緊急連絡先

本当に困ってから連絡先を探すのは大変です。身近な医療機関やカウンセリングルームの連絡先に加えて、相談窓口や119(消防救急無線)も記載しておきましょう。困っているときは、遠慮せずプロの力を借りましょう。

書いておきたい相談窓口

#いのちのSOS(NPO法人 自殺対策支援センターライフリンク)/フリーダイヤル
0120-061-338

よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)/フリーダイヤル
0120-279-338
(岩手・宮城・福島からは 0120-279-226

こころの健康相談統一ダイヤル/ナビダイヤル
0570-064-556

こころのほっとチャット~SNS~
LINE:kokorohotchat

もしも「眠れない」「食べられない(食べ過ぎる)」といった状況が2週間以上続いたり、死にたい気持ちがコントロールできないと感じたりしたら、専門の医療機関を受診しましょう。

何科に行けばよいかわからない場合はまず、かかりつけ医に相談してみてもよいでしょう。各都道府県の精神医療センターの相談窓口に問い合わせるのも方法のひとつです。カウンセリングを利用する場合は、国家資格である臨床心理士や公認心理士がいる施設を選びましょう。

 
心のなかの不安と向き合い、そして認めながらのんびりと歩んでいけることができればいいですよね。「書き出す」セルフケアをしながら、自分らしいペースで不安とつき合っていきましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:宮下和 図版:新藤麻実(linen inc.)
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