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男性が感じる心の不安 その実態と解決のヒント

近年、「男性らしさ」を求められることの苦しさや、家庭の事情、健康問題などから、不安やストレスを感じる男性が増えているといわれます。転職や結婚、離婚といった人生の転機や体調の変化によって、心が不安定になるのは、男性も女性も同じ。しかし、男性の不安については世間の理解があまり追いついておらず、不安を感じていても気づかないふりをする、もしくは適切な対応がわからないという男性は少なくないかもしれません。

本記事では、男性の心の不安やその背景、そして不安を和らげるヒントについて、一般社団法人 日本男性相談フォーラム代表理事の福島充人さんに話を伺いました。

教えてくれるのは…
福島 充人さん
一般社団法人 日本男性相談フォーラム代表理事

臨床心理士、公認心理師。2013年甲南大学大学院修了。30歳の時に重度の病を発症し、一時、仕事から離れる。その際、男性相談に救われた経験から病状回復後、自らも相談員に。2019年から、「日本男性相談フォーラム」の代表理事になり、各地の相談所をまとめたポータルサイトの運営にも携わっている。

現代の男性は、どんな不安を感じているのか

毎月3回、夜19:00~21:00の2時間、男性からの悩み相談を受けつけている場所があります。男性が悩みを相談するための電話窓口として、日本で初めて開設された相談機関、『男』悩みのホットラインです。一期一会の相談枠に、連日多くの相談が寄せられていますが、近年その内容が変化しているそうです。どのように変わっているのでしょうか。

約30年続くこの相談窓口を運営している「日本男性相談フォーラム」の代表理事であり、日々男性たちの相談に応じている、福島充人さんはこう話します。

福島さん

以前は、自分の身体的特徴や性的指向など、性に関する悩みが多く寄せられていました。その割合が最も多かったのが、2010年前後です。寄せられる相談の4割から5割を占めていました。
 
しかし2015年ころからは、仕事や性格、自分自身の生き方に関する悩みの件数のほうが上回っています。いわゆる「男らしさ」を求められることに生きづらさをおぼえたり、一方で従来のような男らしさを求めたいのに、時代がそれをよしとしないがためにロールモデルがなくなり、どう生きたらよいのかわからなくなったりするといった相談が増えています。

仕事、子育て、介護などの悩みを抱え不安やストレスを感じているものの、本音を打ち明けられる相手が周囲にいないため、孤立してしまう男性は珍しくありません。『男』悩みのホットラインはそうした人からの相談が多いといいます。

福島さん

仕事に関する相談は多く、なかにはいじめやハラスメントとされる内容も含まれます。また、家庭にまつわる相談ごとは夫婦間の関係性についてが主で、子育てについてもお悩みの方が多いです。効率が求められる仕事と違い、子育てには正解がありません。だからこそ、どうしたらいいのかわからないパパさんから相談が寄せられます。
 
悩みの内容はさまざまですが、その多くに共通しているのは、「しんどくても、男ならそれを乗り越えるのが当たり前。そうすることで周囲に認められてきた」と考え、それができない自分をダメだと思い込んでしまっていることです。自分を追い込んで、余計に孤立してしまうことも少なくありません。

男性特有の不安の問題点

男性の心の問題は、深刻化する傾向があります。なぜ深刻化してしまうのかというと、男性には「他人に弱さを見せるのが難しい」という特性が出やすいことが関係しています。小さいころから「男なのに人前で泣くな」と言われ、泣く=つらい感情の表現を我慢するよう強いられた人もいるのでは。また、人より優位に立つことが強さ=男性としての理想の姿という思考の人もいて、自分の弱みを他人に話すなんて恥ずかしくてできない、と一人で抱えたまま、身動きが取れなくなってしまうこともあるようです。

厚生労働省が発表した「令和3年度自殺対策に関する意識調査」によると、「悩みを抱えたときやストレスを感じたときに、誰かに相談したり、助けを求めたりすることにためらいを感じる」という質問に対し、「そう思う」「どちらかというとそう思う」と答えた人の割合は男性が43.4%、女性が34.7%と、男女で10ポイント近く差がありました。

その理由について尋ねると、男女ともに「家族や友達など、身近な人には相談したくない(できない)悩みだから」と答えた人が最も多いという結果になりました。

身近な人に相談したくない背景としては、「過去に、身近な人に相談したが、解決しなかった(嫌な思いをした)から」が男性で10.1%、女性で21.0%、「過去に、病院や支援機関等に相談したが、解決しなかった(嫌な思いをした)から」が男性で4.2%、女性で10.6%でした。男女では多少背景が異なることもわかっています。

福島さん

多くの男性は、威厳を保ちたいという気持ちから、失敗を誰かに話して気持ちをラクにしようと考える人がそもそも少ないのが特徴です。うつになって医療機関に通院しているのに、担当の医師にすら、自分がうつになった本当の原因を話せない人もいます。
 
こうした特有の傾向が、男性の心の不安を深刻化させる一因となっていることもあるでしょう。

自分の希望よりも、ジェンダーロールに応えてしまう

福島さんは、男性がしんどさを感じやすい理由がもうひとつあると話します。それは男性が、自分のやりたいことよりも、ジェンダーロール(社会生活において「男とはこうあるべき」「女とはこうあるべき」など固定的な役割)をまっとうしようとしてしまうからだといいます。

福島さん

たとえば夫婦関係でも、「男性は大黒柱として家族を養うべきだ」という役割をまっとうしようとするがゆえに、頑張って働きすぎてつらくなってしまうケースがあると思います。そうなったときに、それは自分が本当にやりたいことなのか、それとも、社会から求められているからやっていることなのかに気づくことは大切です。
 
求められる役割を果たすことはとても大切なことですが、そればかりではつらくなってしまいますよね。役割をそっと横に置いてよいならどんなふうにしたいですか? と相談でお伝えすることもあります。

男性の不安を和らげるヒント

不安を感じたら、誰かに話して共有するとラクになりやすいです。ですが、誰かに話すことが難しい――そんな男性が自身の不安を和らげるには、考え方を少し変えてみるとよいかもしれません。

助けを求めるのは普通! と考える

こんなふうに考えてみてはどうでしょうか?

抱えられないほどの荷物を持って歩いていたら、バランスを崩していつか転んでしまいます。転ばないように荷物を減らそうと、助けを求めるのは何も特別なことではありません。同じように、不安な気持ちをたくさん持っているのなら、それを減らすために誰かに相談するのは当たり前。弱さを見せても、人としての魅力が減ることはありません。

結論を急がず、先延ばしする

男性の特徴として、「答えを急ぐ傾向がある」と福島さんは話します。男性からの相談を受けていて感じたことのひとつが、一度の相談で何かしらの結論を出そうとする傾向だったそうです。結論を出すことが必要なケースも、もちろんあります。ですが、あえて先送りにすることで心の不安が和らぐこともあるでしょう。

福島さん

たとえば、夫婦やパートナー間でお互いの意見が合わないことがあると、多くの男性はどちらか一方が正しいと結論をつけがちです。ですが、結論を出そうとすればするほど意見の相違が増えたり、相手に感情をぶつけてしまったりして冷静な話し合いが難しくなり、反対に不安や悩みが増してしまうことがあります。
 
そんなとき、「先送りすること」をひとつの結論にすると、あとで冷静になってから考えることができ、お互いにとって良い結論が見つかることもあるでしょう。急いで答えを出す必要がないことは、結論を先延ばししてみるのも、自分の心や、相手との関係を守るための大切な選択といえます。

周囲の人ができるサポート

不安を感じている男性に対し、周囲の人たちが何かできることはないかと考えることもあるでしょう。その場合、こんなふうにしてみてはどうでしょう。

寄り添って話を聞く、または相談窓口を紹介する

もしも、男性が感じている不安や悩みについて、話を聞けるようであれば聞いてみてください。相手の発言にあまり口を挟まず、相づちを打ちながら聞きましょう。

ただし、一部の男性は、大切な相手にこそ、自分自身の心がしんどいことを打ち明けられない傾向があります。そんなときは、『男』悩みのホットライン、または自治体の相談窓口などに悩みを相談するよう、背中を押しましょう。

福島さん

相談=「男らしくない」という考え方を持っている人には、「悩みを吐き出すことは恥ずかしい行為ではない」「あなたが大切な存在だからこそ、誰かに話してほしい」「テレビに出ていた有名な先生が相談することを勧めていた」といったように大義名分を持たせると、相談しやすくなるかもしれません。

なお、食事が喉を通らないとか眠れないというように、日常生活に支障が生じている場合は、医療の出番です。ためらわず、精神科または心療内科の受診を促しましょう。

弱みを見せるのは恥ずかしいことではない

本音や弱みを見せることは決して恥ずかしいことではありません。かといって、必ずしも弱みを見せなければいけないというわけでもありません。弱音を吐きながら前に進むのも、強くありたいという気持ちを持ちながら頑張るのも、どちらもその人の生き方です。

何をどこまで、誰に話すのかは自分で決めて構いません。しかし、話すことで少なくともつらさは軽減されますし、考えが整理され、解決の糸口になることもあるでしょう。親しい人だから話せることもあれば、そうではない人だからこそ相談できることもあるはずです。身近な人や相談窓口に胸の内を話して、一人で抱えていた心の荷物を軽くしていきましょう。

日本男性相談フォーラム

『男』悩みのホットライン

06-6945-0252
※毎月第1・2・3月曜日の19:00から21:00まで

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:深川優
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