そのうち治るだろうと思っていた咳が長引くと、「原因はなんだろう、何か悪い病気だったら…」と不安になりますよね。風邪(上気道感染症)など感染症に伴う咳の場合には、休息を取って、自身の免疫によって細菌やウイルスを退治することが大切です。一方、熱がないにも関わらず、数日~2,3週間にわたり咳が止まらないケースも。こうした場合は何かしらの病気が隠れている可能性が高いため、医療機関を受診する必要があります。本記事では、咳の原因となる病気や医療機関にかかる目安について解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 長濱 久美先生
- メディケアクリニック石神井公園 院長
日本内科学会 認定内科医・日本呼吸器学会 専門医。岡山大学医学科卒業後、日本赤十字社医療センターや順天堂大学での診療を経て、クリニックでの訪問診療も経験。2014年にメディケアクリニック石神井公園を開院し、専門の呼吸器疾患のみならず地域のホームドクターとして患者に寄り添った診療を行っている。
[監修者]:http://medicareclinic.net/staff
メディケアクリニック石神井公園:http://medicareclinic.net/
この記事でわかること
- 咳が出るしくみと、咳の種類
- 長引く咳の対処法
- 咳が止まらない際の受診の目安
- 咳を長引かせないための予防方法
咳が出る原因・しくみとは
咳は、空気の通り道である気道に侵入した異物(ウイルスや細菌、ほこり、刺激物、痰や鼻水など)を体外に排除するために起こる、体の防御反応です。
気道の粘膜にあるセンサーが異物に反応することで、脳の「咳中枢(せきちゅうすう)」に信号が伝わります。すると咳中枢は、咳を出すように横隔膜や肋間膜(ろっかんまく)といった呼吸筋に指令を出し、咳(咳反射)が起こります。つまり、気道に異物が侵入してしまうことが原因です。
食べ物や飲み物で一時的にむせてしまうこともありますが、これは本来食道に入るべき飲食物が誤って気道に入ってしまうことで、体が飲食物を「異物」と認識して咳を引き起こしているのです。
熱が出ていない場合でも、長期間咳が止まらないと睡眠の質が下がったり、咳によって体力を消耗、あるいは咳による睡眠不足が体力の低下をもたらしたりするため、QOL(生活の質)にも影響を及ぼします。
咳が止まらない、長引く咳の原因とは
咳は気道が異物を感知したときに出るものです。原因によって咳の種類が異なります。
乾いた咳(乾性咳嗽/空咳)
痰が絡まない乾いた咳(あるいは咳の最後に少量の痰が出る咳)は、乾性咳嗽(かんせいがいそう)と呼ばれます。健康な人でも辛いものなど刺激のある気体を吸い込んだ場合や、飲食物などによってむせたときに一時的に空咳が出ることがあります。
また、熱がないものの数日~数週間乾いた咳が止まらない場合には、咳喘息やアレルギー、逆流性食道炎、マイコプラズマ肺炎のほか、精神的なもの(心因性咳嗽:しんいんせいがいそう)が考えられます。ときには、間質性肺炎、肺結核、肺がん(初期は乾いた咳、進行すると湿った咳)など重篤な病気が隠れていることもあります。
痰が絡む咳(湿性咳嗽)
喉や気道に溜まった痰を出そうとして起こる湿った咳は、湿性咳嗽(しっせいがいそう)と呼ばれます。細菌やウイルス感染によって鼻や喉に炎症が起きているときに生じるのが、最も多いケースです。そのほか、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支拡張症、肺がん、後鼻漏(こうびろう)などが原因として考えられます。
熱はないのに咳が続く
発熱を伴って止まらない咳の場合には、インフルエンザなど、何らかの感染症である可能性が高いといえます。一方で、熱はないにも関わらず2~3週間以上も長引く咳は、咳喘息や逆流性食道炎、COPDなど、さまざまな病気の可能性があります。
風邪の咳じゃないサインは?あなたの咳のチェック表 当てはまったら受診をおすすめ
咳は一般的な症状だからこそ、受診するべきか、あるいは何科を受診すればよいのか迷う方もいるのではないでしょうか。鼻水や喉の痛みも伴っている場合は風邪などの感染症の可能性が高いですが、それらの症状がなく、以下に当てはまる咳が2~3週間ほど続いている場合には、ぜひ一度医療機関の受診を検討してください。
□ ペットを飼い始めてから咳が出るようになった
□ 加湿器やエアコンを使い始めてから咳が出るようになった
□ 特定の場所(職場・自宅など)で咳が出る(環境変化によって咳が出る)
□ 寒暖差によって咳が出る
□ 咳に胸やけ(げっぷや胃酸の逆流)を伴っている
□ 咳に息切れを伴っている
□ 喫煙習慣がある
熱がある場合もない場合も、診療科は呼吸器内科が望ましいですが、近所に呼吸器内科がなければ、まず内科で咳が止まらない旨を相談しましょう。
咳が止まらない原因となる病気と、その特徴
▲日本呼吸器学会「咳嗽に関するガイドライン(第2版)2016」参照
咳が出るようになってから3週間未満は「急性咳嗽」、3~8週間は「遷延性咳嗽」、そして8週間以上は「慢性咳嗽」と分類されます。急性咳嗽の原因の多くは、気道感染症です。咳の持続期間が長くなるにつれて感染症の頻度は低くなり、慢性咳嗽においては感染症そのものが原因となることは稀と考えられています。
咳が止まらない場合に考えられる病気と、その特徴について解説します。
感染症(風邪やインフルエンザなど)の特徴
風邪やインフルエンザなど感染症による咳は、発熱を伴うのが一般的です。そのほか、高確率で鼻水や喉の痛みなどが生じます。咳によって体力を消耗していたり、夜に眠れず体力が落ちていたりする場合には、咳止めを処方されることもあります。
しかし、これはあくまで対症療法となるため、しっかりと栄養・休息を取り、自分自身の免疫で感染症そのものを治すのが治療の基本です。ただし、細菌性の気管支炎やマイコプラズマ肺炎などでは、抗生物質を服用するケースもあります。
喘息(気管支喘息・咳喘息)の特徴
気管支喘息では、アレルギーによって気管支に炎症が続きます。ハウスダストや煙、冷たい空気などの刺激に敏感になることで気管支が一時的に狭くなり、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)や息苦しさ、咳が症状として現れます。夜や早朝に咳が悪化しやすいのも特徴です。
一方、咳喘息は喘鳴や息苦しさはみられず、乾いた咳が出ます。ただし、咳喘息の約30%が喘息に移行するため、定期治療が必要です。いずれの場合も、まず吸入ステロイド薬を使用して治療を行います。気管支喘息はアレルギーを抑える薬や気管支を広げる薬を併用することがあります。
- 咳が続く原因は?受診は何科?つらい咳喘息の対処法
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熱はない、鼻水や鼻づまりもない、体のだるさもないけれど咳だけがおさまらない。風邪の諸症状はとっくに落ち着いたのに咳だけが長く続いている。そんな「空咳」の症状にお困りの方、もしかしたらそれは「咳喘息(せきぜんそく)」かもしれません。https://helico.life/monthly/230102allergy-sekizensoku/
あまりなじみのない病名かもしれませんが、大人になってから発症する人が多く、放置しているとより重篤な「気管支喘息」に移行することも。花粉症などのアレルギーとも関連が深い、咳喘息の原因や対処法を解説します。
逆流性食道炎の特徴
胃の内容物(胃酸など)の食道への逆流が刺激になり、咳を引き起こします。咳だけではなく胸やけを伴うことがあります。胃酸を抑える薬を服用すると、早くて2週間ほどで改善が見られますが、胃酸で炎症を起こした食道の粘膜を治して再発を予防するためにも、2~3か月ほどの服用や生活改善を継続する必要があります。
後鼻漏の特徴
後鼻漏は、鼻や副鼻腔(ふくびくう)が慢性的に炎症を起こすことによって生じる膿や鼻水が、喉の奥に垂れる病気です。仰向けに寝ると喉の奥に垂れ込んだ膿や鼻水が刺激となって、咳や痰を引き起こします。アレルギー性鼻炎がある場合にはアレルギーを抑える薬を服用したり、痰を出しやすくする薬などが治療に使われます。
マイコプラズマ肺炎の特徴
肺炎マイコプラズマといわれる細菌に感染すると発症します。潜伏期間は2~3週間程で、初期症状として発熱や全身の倦怠感、頭痛などが現れます。咳は発熱など最初の症状が現れた3~5日後くらいから始まることが多く、はじめは乾いた咳が出ます。時間経過とともに咳はひどくなり、熱が下がったあとも3~4週間ほど咳が止まらないのも特徴です。また、5歳程度の子どもや中高生~20代前半くらいの方は、徐々に湿った咳となるケースが多く見られます。治療では抗菌薬が用いられます。
咳が止まらないときの対処法
咳が止まらないことで、体力を消耗したり寝られなくなったりすることも。自分でもできる対処法やセルフケアをご紹介します。
温かい飲み物・はちみつ入りの飲み物で咳を抑える
咳が止まらない場合には、冷たい飲み物よりも温かい飲み物がおすすめです。温かい飲み物をゆっくりと飲むことで、湯気によって鼻や喉がうるおい、痰を出しやすくなることが期待できます。また、はちみつには咳を鎮める効果のある成分が含まれているといわれています。
湿度調節で気道の乾燥を防ぐ
乾燥した空気は気道の粘膜を乾燥させます。それにより刺激に反応しやすくなるため、咳も出やすくなってしまいます。部屋の湿度は40~50%くらいに保つとよいでしょう。ただし、加湿器はきちんとお手入れをしないと内部でカビが発生し、アレルギー性の咳を誘発することもあるので注意してください。
ツボ押しで咳症状を抑える
咳に効果的といわれているツボは「尺沢(しゃくたく)」、「孔最(こうさい)」などがあります。詳しくは、2025年1月15日(水)公開の記事「咳止めに有効なツボ5選!咳のつらさを和らげたいときの対処法」でご紹介します。
ストレッチで息苦しさを軽減させる
咳が止まらないときに感じる息苦しさを改善するには、呼吸筋ストレッチもおすすめです。呼吸筋ストレッチのやり方は、2025年1月22日(水)公開の記事「20代から衰える!?ストレッチで「呼吸筋」を鍛えよう!」で詳しくご紹介します。
咳が止まらない際の受診の目安は?
咳が止まらない期間がどの程度続いたら、何科を受診するのがよいのでしょうか。風邪などの一般的な感染症でも、咳が4週間ほど続くことはあります。しかし、咳が続くと体力も奪われ、生活に影響が出ることもあるため、2~3週間ほど咳が止まらなければ受診を検討しましょう。2~3週間を待たずとも、咳によるつらさや息苦しさなどを感じた場合には、すぐに受診してください。咳症状がひどい場合の受診先は呼吸器内科がベストですが、近所にない場合は内科を受診しましょう。
咳が止まらないとき一般的に行われる検査
咳が止まらないときに受診をすると、どのような検査が行われるのでしょうか。
胸部レントゲン検査
代表的な検査として、胸部レントゲンが挙げられます。患者への負担が少なく、検査自体も簡便でさまざまな情報を得られるため、数週間〜1か月程咳が続いている場合などには、まずレントゲン検査を行うケースが多いといえます。レントゲン検査で何か疑わしい所見がある場合には、別途詳細な検査を行うこともあります。
呼気NO検査(こきえぬおーけんさ)
呼気に含まれる一酸化窒素の濃度を測定する、簡便な検査です。気道に炎症が起こると一酸化窒素の産生が増えるため、呼気に含まれる一酸化窒素濃度を測ることで、気道に炎症が起きているかどうかや、起きている場合の重症度を確認できます。喘息やアレルギー反応で一酸化窒素が増加するため、これらの病気かどうかを診るために実施されることがあります。
呼吸機能検査(スパイロメーター検査)
レントゲンの画像から間質性肺炎が疑われる場合や、喫煙習慣があってCOPDが疑われる場合には、呼吸機能検査を行います。肺活量や1秒間に吐くことのできる空気の量、肺に取り込める酸素量などを確認します。
胸部CT検査
レントゲンで何かしらの病気の疑いがある場合に詳しく調べるために、胸部CT検査が用いられます。また反対に、レントゲンをはじめとするいくつかの検査を行っても原因がわからないときに、実施することもあります。
血液検査
白血球やCRP(C反応性たんぱく)などの数値などから、肺に炎症が起きているか、起きている場合はどのくらいのスピードで進行しているか、あるいは、喘息が疑われる場合にはアレルギー体質かどうかなどを判断します。
咳を長引かせないための予防方法
普段から咳を予防する、あるいは咳が止まらなくなったときにできるだけ長引かせないためには、どのようなことに注意するとよいのでしょうか。
十分な睡眠と栄養の摂取
睡眠や栄養は健康を保つために欠かせません。睡眠や栄養の不足によって体力が低下すると感染症にかかりやすくなったり、かかった場合に治りにくくなったりするため、日ごろから規則正しい生活を送ることが大切です。
適度な運動
日ごろから適度な運動を心がけ、免疫力を保っておくことも大切です。仮に風邪をひいた場合でも、免疫力があるほうが治りは早いため、症状を長引かせないことにつながります。また、肥満が喘息の発症、悪化のリスクを高めることもわかっているため、運動や食事管理によって肥満を解消することも咳の予防となります。
禁煙
喫煙習慣がある場合には、禁煙が非常に重要です。咳を引き起こす病気の1つである「COPD」はタバコ病ともいわれ、患者の90%以上が喫煙者ということがわかっています。COPDではなくても、タバコの煙などが喉への刺激となり、咳を引き起こす原因となります。
「咳」に関するよくある質問
Q.市販の咳止め薬は飲んでもいいの?
A.咳による不眠などで体力が低下すると回復が遅れることがあります。そのような場合に、市販の咳止め薬を活用するのは1つの手段です。しかし、咳止め薬はあくまで対症療法であること、また、咳は異物を体外に排除する体の防御反応であるため、むやみに服用するのではなく、状況に合わせて上手に取り入れるようにしましょう。
Q.咳が出ているときにお風呂に入ってもいいの?
A.発熱を伴う咳が出ている場合にはお風呂に入らないほうがよいと考える方もいると思いますが、起き上がるのもつらい状況でなければ、お風呂に入ることは問題ありません。ただし、熱によって発汗量が増えていることもあるため、脱水には気をつけましょう。
Q.症状が治ったら薬の服用は止めていい?
A.症状が軽快したタイミングで抗生物質などの服薬を止めてしまう方がいますが、抗生物質は途中で服薬を止めたり、飲んだり飲まなかったりと不適切な服用をすると、薬剤耐性菌(薬が効かなくなる菌)が現れ、以降、抗生物質が効きにくくなってしまいます。必ず指示通りに最後まで服用してください。
Q.2週間以上咳が止まらない場合は医療機関を受診したほうがいい?
A.鼻水や喉の痛みも伴っている場合は風邪などの感染症の可能性が高いですが、咳が続くことで体力が奪われ、生活に影響を及ぼすことがあります。そのため、2週間以上咳が止まらなければ医療機関の受診を検討しましょう。また、2週間以上経っていなくても、咳によるつらさや息苦しさなどを感じた場合はすぐに受診してください。
咳が止まらないときは、しっかり休養を。つらさを感じたら、我慢せずに医療機関へ
咳が出るしくみのほか、発熱を伴う咳や熱がない場合の咳、それぞれについて考えられる病気、咳が止まらない場合の対処法や咳の予防方法について紹介しました。2~3週間ほど咳が止まらない場合は、医療機関の受診を検討してみてください。