逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで炎症を起こすもので、「胃食道逆流症」に含まれる病気です。胸やけや酸っぱいものが上がってくるような感覚、食後の胸やみぞおちの痛みのほか、慢性的な咳や喉の違和感が生じることがあります。本記事では、逆流性食道炎(胃食道逆流症)がどのような病気なのか、予防や改善のためにどんなことが重要なのかを解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 三輪 洋人先生
- 川西市立総合医療センター 総長
1982年に鹿児島大学医学部を卒業後、消化器内科医として順天堂大学で23年間診療や研究に従事。アメリカのミシガン大学内科への留学を経験したのち、兵庫医科大学の消化器内科主任教授や同大学の副学長や、同大学病院の副病院長などを務め、現在に至る。医療情報をより分かりやすい内容で発信することを大切にしている。
[監修者]三輪 洋人先生:https://www.kawanishi-hospital.jp/about/greeting.php
川西市立総合医療センター:https://www.kawanishi-hospital.jp/
胃酸の逆流で食道にただれが生じる「逆流性食道炎」
口から入った食べ物は食道を通り、まず胃に入ります。この際、食べ物の消化などで必要となるのが胃酸(胃液)です。胃の入口には逆流を防止するための弁(下部食道括約筋)があるため、胃酸は胃のなかにとどまっているのが正常な状態です。
しかし、何らかの理由で胃酸が逆流して食道が胃酸にさらされる時間が長くなると、粘膜が溶けて、「びらん」と呼ばれるただれや炎症が生じることがあります。こうした状態が内視鏡などで確認できると、逆流性食道炎と診断されます。

逆流性食道炎は「胃食道逆流症」の一種
逆流性食道炎は「びらん性胃食道逆流症」ともいい、胃食道逆流症(GERD)に含まれます。胃食道逆流症は炎症や自覚症状の有無によって、以下の3パターンに分類できます。
1.食道のびらん(ただれ)がなく、自覚症状がある場合(非びらん性逆流症)
2.食道のびらんがあり、自覚症状がある場合(逆流性食道炎)
3.食道のびらんはあるが、自覚症状がない場合(逆流性食道炎)

生活の質に影響を及ぼす胃食道逆流症の症状とは?
逆流性食道炎を含む胃食道逆流症は、命に関わる病気ではありません。しかし、放置することでQOL(生活の質)に影響を及ぼしてしまうため、生活習慣の改善や服薬など、適切な方法で対処することが大切です。
胃食道逆流症の症状としてよく挙げられるのは、胸やけや呑酸(どんさん:胃酸が逆流することで、酸っぱさや苦味を感じたり、げっぷが出たりする症状)です。こうした症状が食後2~3時間以内や就寝中に特に起こりやすいとされており、これによって食事を楽しめなくなったり、睡眠の質が下がってしまったりするのです。
また、夜間の慢性的な空咳、喘息の発症・悪化、胸の痛みが生じることもあります。
胃食道逆流症で咳が出る理由とは?
胃食道逆流症によって咳症状が出る理由は、以下の2つが考えられます。
1. 胃酸の逆流によって食道の後ろ側を通っている副交感神経が刺激されるため
2. 胃酸が食道の上部までせり上がってくることで、酸っぱいものを嗅いだときにむせるのと同様に、酸を吸い込むことで咳が誘発されるため
現在は後者の説が正しいという意見が多くなってきています。いずれにせよ、慢性的な夜間の空咳には、咳喘息などの呼吸器系疾患だけでなく、消化器系疾患である胃食道逆流症が隠れている可能性もあるのです。
胃食道逆流症の人が増加している理由
胃食道逆流症は、1990年代後半から患者の数が増加しており、現在は日本の成人の10~20%程度ともいわれています。その原因は大きく、「社会的な背景」と「生活習慣や体の状態」に分類されます。
社会的な背景による胃酸分泌の増加
胃食道逆流症増加の原因とされる社会的な背景は、大きく2つあります。
食事の欧米化
胃酸は、肉などに含まれるアミノ酸によって分泌が促進されます。時代の移り変わりとともに、日本人の食卓が欧米化して肉の摂取量が増え、栄養状態も良くなったことで、胃酸の分泌が増え、結果的に逆流が起こりやすくなりました。
ピロリ菌保有率の減少
ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)という胃の粘膜に生息する細菌の保有率が減ったことも、逆流性食道炎の増加につながっています。
ピロリ菌は胃の粘膜に感染してダメージを与えるため、ピロリ菌を保有していると胃炎が起こり、胃酸の分泌が減少します。しかし、社会的に衛生状態が改善したことなどによって、以前よりもピロリ菌を保有している人の数は減りました。これにより、胃酸分泌の増加、ひいては胃酸の逆流につながったと考えられています。
逆流が起こりやすい人の特徴
個人の生活習慣や体の状態によっても、胃酸が増加したり逆流したりすることがあります。
・食べすぎ:胃がパンパンになることで、胃と食道の間で胃酸の逆流を防止している弁が開きやすくなり、逆流を起こしやすくなる
・高脂質の食事:ホルモンの働きによって弁が開きやすくなる
・姿勢が悪い/肥満/締めつけの強い服を着ている/妊娠している:胃が周囲から押されて逆流が起こりやすくなる
そのほか、胃酸の分泌量が元々多いなど、生まれながらの体質的な部分も1つの要因となります。

予防・改善のために気をつけたい日常生活でのポイント
逆流性食道炎(胃食道逆流症)は日常生活の過ごし方が大きく影響するため、誰にでも起こり得る病気です。予防や改善のためにどのようなことに気をつけると良いのでしょうか。
根本的な改善のためには生活習慣の見直しが必須
胃食道逆流症を根本的に改善するためには、生活習慣を見直す必要があります。取り組みやすいものから徐々に実践してみましょう。
生活面で気をつけたいポイント
□ 腹部の締めつけが強い服装をやめる
□ 重いものを持ったり、前かがみになったりしないようにする(姿勢に気をつける)
□ 肥満傾向の場合は、改善をする
□ 喫煙をやめる
食事面で気をつけたいポイント
□ 食べすぎと高脂質の食事には気をつける
□ 刺激物(アルコールやチョコレート、カフェイン、炭酸)をできるだけ控える
□ 30回以上噛んでゆっくり食べる
なお、就寝時には左側を下にして寝ると胃酸が逆流しにくくなることがわかっています。

必要に応じて服薬治療を行うことも
根本的に治療をする意味では生活改善が重要ですが、症状や重症度によって胃酸の分泌を抑える薬や酸による刺激を弱める薬、消化管の働きを改善する薬が処方されることもあります。
服薬によって症状が改善した場合でも、勝手に服薬をやめることで再度症状が現れ、繰り返すうちに症状が悪化していく可能性が高いため、服薬は必ず医師の指示に従って行うようにしましょう。
悪化しないよう、医師の診察を受けることが大切
逆流性食道炎が悪化すると、食道粘膜が出血や炎症を起こし、最終的には食道が硬く狭まります。さらに、食道粘膜の炎症が治る過程で、食道の粘膜が胃酸に負けないよう胃に似た粘膜に置き換わる「バレット食道」になることも。バレット食道は食道腺がんのリスクとなる可能性があります。
特に重症度の高い逆流性食道炎もしくはバレット食道と診断を受けている人は、必要であれば主治医の指示に従い、定期的に経過を診てもらうようにしましょう。
夜間の慢性的な咳は胃食道逆流症の症状かも
消化器の病気が呼吸器の症状につながるとは思ってもみなかったという方もいるのではないでしょうか。夜間の慢性的な空咳に悩まされている方で、胸やけや呑酸の症状もあるという場合には、胃食道逆流症の可能性が高いといえます。一度、医療機関の受診を検討してみてください。