私たちは、起きている間も眠っている間も、どんなときでも無意識に呼吸を繰り返しています。普段はなかなか意識することがない呼吸ですが、ひどい咳が続いたり、長時間同じ姿勢で居続けたりすると、肩や背中が凝り固まって呼吸が浅くなり、息苦しさを感じやすくなります。
それだけではなく、呼吸は感情とも密接に関係しているため、緊張や不安、怒りなどのストレスを感じた際にも、呼吸が浅くなってしまうのです。呼吸の質が低下すると、体中に酸素が行き渡らなくなって疲れやすくなるだけではなく、不安やイライラなどメンタルにも悪影響が出始めます。
呼吸を整えることができれば、心身ともに良い状態をキープしやすくなる。本記事では、呼吸筋を柔らかくすることで息苦しさやストレスを和らげる、「呼吸筋ストレッチ」をご紹介します。
- 教えてくれるのは…
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- 本間 生夫先生
- 昭和大学名誉教授 東京有明医療大学名誉教授
1973年に東京慈恵会医科大学を卒業後、スウェーデンのカロリンスカ医学研究所やウプサラ大学へ留学。その後、昭和大学医学部の教授(現在は同大学の名誉教授)、東京有明医療大学の学長を得て、現在は名誉教授。「呼吸筋ストレッチ体操」の生みの親として、正しい呼吸を広める活動を精力的に行っている。安らぎ呼吸プロジェクト理事長を務める。
[監修者]本間 生夫先生:https://yasuragi-iki.jp/about#greeting
HP:https://yasuragi-iki.jp/
肺を取り囲む「呼吸筋」を柔らかくしよう
私たちが口や鼻から吸い込んだ空気は肺に入りますが、肺はみずから膨らむことができません。肺を取り囲むさまざまな筋肉の働きによって、肺はその大きさを変化させることができるのです。
この肺を取り囲む筋肉こそが「呼吸筋」です。吸うときに使う「吸息筋」と、吐くときに使う「呼息筋」に分けられ、20種類以上もあります。

高齢になってから衰えると思われがちな肺や呼吸の機能は、じつは20代をピークにじわじわと低下していきます。また、緊張やストレス、長時間のデスクワーク、運動不足といった現代ならではの環境は、私たちの呼吸を浅くする要因になっているといわれています。「自分はまだ大丈夫」という人も、若いうちからきちんと呼吸筋を意識して肺の機能を保っておくことで、将来の呼吸機能低下のリスクを下げることができます。
呼吸筋ストレッチは、呼吸筋を伸ばしたり縮めたりすることで呼吸筋を柔らかくする運動です。つらい咳が続いて肺機能の弱まりを感じている人はもちろん、自分の呼吸の浅さが気になっている老若男女すべての人におすすめのストレッチです。呼吸筋ストレッチを続けて、呼吸の質を上げましょう。
少しずつでも「毎日やる」のがおすすめ!呼吸筋ストレッチの方法
呼吸筋ストレッチは、「吸息筋(息を吸うときに働く筋肉)」と「呼息筋(息を吐くときに働く筋肉)」をほぐすストレッチです。1回で行う回数や時間は少なくてもOK。1日数回、毎日続けることや、どの筋肉に効いているのかを意識して実践することが大切です。時間がないときには、特に気持ちよいと感じるストレッチだけを取り入れればよいので、無理せず実践していきましょう。
呼吸筋ストレッチ3つのポイントと基本姿勢
呼吸筋ストレッチを行うとき、以下の3つのポイントを意識してください。まずはどのストレッチも1回3セットを目安として始めてみましょう。
1呼吸はゆっくりと
吸うときはゆっくりと鼻から、吐くときはゆっくりと口から、リラックスして緩やかな呼吸で行いましょう。
2メリハリを大切に
筋肉を伸ばす、縮めることを意識しながら動きにメリハリをつけましょう。
3無理は禁物
力の入れ過ぎや、無理な姿勢によって痛みが生じてしまうことも。決して無理せず心地よい範囲で行いましょう。
ストレッチは基本姿勢も大切です。立って行うほうが動きやすい場合が多いですが、シチュエーションや体調などに合わせて、座って行ってもOKです。
立って行う場合
両足を肩幅に開き、背筋を伸ばしてリラックスした状態で立ちます。かかとはしっかり地面につけてストレッチを行いましょう。
座って行う場合
少し浅めに姿勢よく座り、足は肩幅に開いて足の裏を床につけます。
肩のストレッチ:吸う筋肉をほぐす

1.息をゆっくり吸いながら、肩をゆっくり上げる
2.息をゆっくり吐きながら、肩を後ろに回して下ろす。このとき肩の力は抜くよう意識!
3.1~2を1セットとして、3回繰り返す
首のストレッチ:吸う筋肉をほぐす

1.体は正面に向けたまま、息をゆっくり吸いながら首を右に回す
首の動きと呼吸のリズムを合わせるとGOOD!
2.息をゆっくり吐きながら、首を正面に戻す
3.反対側も同様に行う
背中・胸のストレッチ:吸う筋肉をほぐす

1.胸の前で両手を組み、ゆっくりと息を吸いながら腕を前に伸ばし、背中を丸める
(立って行う場合には、かかと重心で軽く膝を曲げるとやりやすい)
2.手の先を見ながら、大きなボールを抱えるようにしてお腹をへこませる
3.左右の肩甲骨を開くイメージで背中を丸めきったら、ゆっくりと息を吐きながら腕と背中を最初の状態に戻す
体幹のストレッチ:吐く筋肉をほぐす

※腕を上げると肩に痛みが出る場合は無理に行わないでください
1.頭の後ろで両手を組んでゆっくりと息を吸う
2.ゆっくりと息を吐きながら、手の甲を上に向けた状態で両腕を上げて背伸びをする。目線は斜め下を見る
3.ゆっくりと息を吐きながら、腕を後ろに引く
※腕を引くと痛みが出る場合には1~2のみでOK!
4.元の姿勢に戻ってゆっくり呼吸をする
腹部・体側のストレッチ:吐く筋肉をほぐす

1.右手を頭の後ろにあて、息をゆっくりと吸う
2.ゆっくりと息を吐きながら肘を上げ、体を倒し、胸からお腹の側面を伸ばす。このとき、肘から足のラインが一直線になることを意識する。ただし、体は倒しすぎないように気をつける
3.ゆっくりと息を吸いながら、元の姿勢に戻る
4.反対も同様に行う
胸壁のストレッチ:吐く筋肉をほぐす

1.腰の後ろで両手を組み、ゆっくりと息を吸う
※後ろで両手を組めない場合は、手を組まずに行ってもOK!
2.左右の肩甲骨を閉じるようなイメージで、ゆっくりと息を吐きながら両腕を後ろに伸ばす
手は押し下げるようにしながら、胸を張るとGOOD!
3.元の姿勢に戻り、ゆっくり呼吸する
呼吸筋ストレッチは正しい呼吸法で実践しよう
呼吸筋ストレッチでは、呼吸法がとても大事なポイント。胸の下部や体側部を動かす際には息を吐き、胸や背中の上部を動かす際には息を吸うことで、より筋肉に刺激が入り、ストレッチ効果が高まるのです。息を吸うタイミングや吐くタイミングが普通のストレッチと逆では…?と思う方がいるかもしれませんが、ストレッチと呼吸を連動させながらゆったりと行いましょう。
深い呼吸で心の安定をコントロールしよう
近年の研究では、不安や緊張などのストレスで呼吸の効率が下がると、呼吸は浅く、速くなり、それによってさらに不安や緊張が増加するという悪循環が生み出されることがわかってきました。
これは呼吸を司る脳の部位である「扁桃体(へんとうたい)」が、情動(感情)にも影響することが理由です。このように、情動と呼吸が連動することを情動呼吸と呼びます。
これは逆に考えれば、ゆったりと深い呼吸ができれば、不安や緊張、怒りなどを和らげられるということ。自身の呼吸に意識を向けることで、ある程度心の安定をコントロールできます。呼吸が私たちの心身に及ぼす影響は、想像以上に大きいものなのです。
リフレッシュも兼ねて毎日こまめにストレッチを!
呼吸筋ストレッチのステップは、どれもとてもシンプルです。デスクワーク中や家事や育児で体が固まってしまったとき、不安を感じて息苦しさを感じたときなど、日々の生活のなかで上手に取り入れていくのがおすすめです。毎日こまめに呼吸筋ストレッチを行い、呼吸の質を上げていきましょう。