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お坊さんにも不安はあるの?心が軽くなる不安とのつき合い方

誰かに不安や悩みを打ち明けたいけど、話せる人がいない……。将来やお金の不安、家族や職場の人間関係などの悩みが出てきたとき、私たちは不安とどう向き合い、解決していけば良いのでしょうか?

今回は「寺カフェ代官山」でお悩み相談を行っている、浄土真宗の僧侶・三浦 性曉(みうら しょうきょう)さんに、不安との上手なつき合い方を教えていただきました。

教えてくれるのは…
三浦 性曉(みうら しょうきょう)さん

1955年、奈良県生まれ。浄土真宗本願寺派信行寺衆徒。
僧侶となって50年、寺院住職23年の経験、また、布教使として40年余りの布教活動の実践と学びをもとに、現在は「寺カフェ代官山」で人びとの悩みに応えている。著書に『お坊さん、「女子の煩悩」どうしたら解決できますか?』(青春出版社)、『お坊さんが教える不安のトリセツ』(株式会社エクスナレッジ)がある。

不安の答えを見つけ出せるのは、本人だけ

―「寺カフェ代官山」は、お坊さんに悩みを相談できるカフェとして有名ですね。どんな悩みを抱えている人が多いのでしょうか?

三浦さん

いろいろなお悩みを聞きますが、最終的には人間関係にたどりつくことが多いように思います。たとえば「上司とうまくいかないから転職したい」という相談の場合、表面的には仕事の悩みですが、深くお話を聞いていくとじつは家族との問題を抱えていたり、年上の人に対するトラウマがあったり、転職するだけでは解決できない根本的な原因が見つかることもあるんです。
 
寺カフェでは1時間という限られた時間で相談者の話に耳を傾け、不安や悩みを整理していきます。たまに「私はどうしたらいいですか?」と不安への答えを求められるのですが、お坊さんは占い師ではないので、未来は見えない。ですからお答えできないんです。

―私も「どうしたらいいですか?」と聞いてしまいそうです(笑)

三浦さん

答えを期待する気持ちもわかります。しかし、最終的に決めるのはご本人です。自分で悩みの原因に気づいてもらい、自分で不安に対しての答えを見つけ出す。そのために話を聞いて、答えにたどり着くお手伝いをすることが、私の役割だと思っています。

不安があって当たり前

―悩んでいるときって、なかなかひとりでは決めきれないこともありますね。

三浦さん

テストではないので、答えはどれを選んでも正解なんですよ。たとえば転職をする・しないの2択で悩んでいたとしても、どちらが良い or 悪いではありません。じゃあどっちを選べばいいの? と迷ったときは、リスクを受け入れてでもやり切る「覚悟」があるかどうかを考えてみてはいかがでしょうか。

―覚悟ですか……。覚悟なんてできないまま、ここまで生きてきました。

三浦さん

大丈夫。私だってそのひとりですよ。リスクを受け入れる覚悟なしにただ生きている。でも覚悟をしないからってリスクがなくなるわけでもなければ、覚悟したからって悩みや不安が解消されるわけでもありません。だから私も不安だし、悩みもあれば、愚痴もこぼします。
 
未来を考えることは、何も見えない暗闇のなかを歩くようなもので不安でしかないんです。「不安があって当たり前」「思うようにならないのが世の中」そう思っておくと、心が軽くなりますよ。

―ネガティブなような、ポジティブのような……。

三浦さん

「思うようにならない」と聞くと悲しいかもしれませんが、逆にすべて思い通りになったらとっても怖い世の中になりますよね。「あいつが憎らしい」「あいつさえいなければ」と他人への妬みまで思い通りになったら、この世から人が消えてしまうかもしれません(笑)。

―そんなぁー!(笑)

三浦さん

思い通りにならないからこそ、この世の中を楽しめている部分もあるでしょう。仏教には「縁起」という言葉があります。この世の中にあるすべてのものは「因」と「縁」が重なり生まれているという意味。自分と関係のないことなんかひとつもありません。どんな道を選んだとしても、そこで得たものは必ずどこかでつながってくるはずですよ。

話して、不安を放す

―「不安があって当たり前」と思っていても、眠れない夜を過ごしたり、1日中気がかりになってしまうこともあります。どのように不安と向き合えばよいでしょうか?

三浦さん

まず不安を取り除くことは無理だ、と認めることですね。見えない未来を想像して「この先に何があるのだろうか」と考え出したら、不安になるに決まっています。不安を持っているのは悪いことだという思い込みも捨てましょう。
 
それでも不安でソワソワする人は、誰かにその不安を話してみましょう。「話すことは、放すこと」とも言われます。話すことで、余計な不安や恐怖を手放せますよ。

―人に話すだけでいいんですか?

三浦さん

そうです。でも、日ごろから悩みを口に出せる人はいいですが、身近に相談する相手がいない、悩みを口に出すのが怖いと思っている人は、話す練習をしておくのが良いでしょうね。まず「悩んでいます」「不安です」って口に出して言えるかどうかがポイントです。

―言おうとすると、一瞬ためらってしまう自分がいました。どうしたら自分の悩みをうまく相談できるようになるでしょうか? 相談相手がいない場合もありますよね。

三浦さん

不安に思っていることを、ありのままに相談してください。悩みや不安は、うまく説明できるものではないですからね。原因がわからなくてモヤモヤしているから不安なんです。
 
相談相手については、家族や友人に悩みを話すのが苦手という方も多くいらっしゃいます。それはなぜか? 気の知れた方の場合、「また同じことで悩んでいるの?」と言われてしまうこともあるからです。どこか否定されたように感じてしまいますよね。
 
そんな時は、寺カフェへいらしてください。私が寺カフェでお話を伺う際には、複数回利用されている方にも「同じ話でもいいですよ、最初から教えてくださいね」とお伝えするんです。

―そう言ってもらえると話したくなりますね! 相談される人が心がけておくことはありますか?

三浦さん

無理に悩みを引き出す必要はありませんが、コミュニケーションのきっかけとして「自分は〇〇について悩んでいるんだけど、どう思う?」と自分のことから話すのがいいでしょう。いきなり「悩んでるでしょ?」とか「悩みあるよね?」と言われても、何を話せばいいのかわからない人が多いからです。
 
また相談された側も「解決しなきゃ」と思わなくていいんです。ただただ聞いてあげる。先ほども言ったように、最後に決めるのは悩んでいる本人ですから。
 
ご友人やご夫婦など、いつもと様子が違うなと感じたら、「どうしたの?」と聞けばいいんですよ。聞かないからこちらが変に心配して、余計な不安が募ることもありますから。もしかしたら、真剣な顔をしながら「今夜の夕飯なにつくろうかな?」と考えているだけかもしれませんし。

―自分のことは自分にしかわからないし、相手の考えていることも聞かなきゃわかりませんね。

三浦さん

そうそう、早とちりをしてはいけません。私たちは人間ですから、会話をしましょう。

「他力本願」の本来の意味を知ろう

―「不安」との向き合い方が少しずつわかってきたような気がします。ちなみに、仏教的な観点から考える「理想的な生き方」とはどんなものなのでしょうか?

三浦さん

仏教では、お釈迦さまの生き方を理想と考えています。あの方は妻も子もすべてを捨てて出家し、怒りや欲も持たず、持ったのは食事をいただくための小さな鉢だけ。煩悩を捨て、悟りを開くことが「理想的な生き方」とされているので、お坊さんたちは日々煩悩を捨てるための修行を行っているんです。
 
しかし、便利で誘惑が多い現代において煩悩を捨てるなんて不可能ですよね? 話題のスイーツを一度食べてしまったら「もっと美味しいものを食べたい!」と思うのが人間です(笑)。

―想像してみましたが「煩悩だらけで無理だ……」と思いました(笑)。

三浦さん

そう、欲は捨てられませんよね。また、生きているだけで老いていくし、病気にもなるわけですから、心は苦しく煩悩は生まれてしまいます。
 
私たちは、不安や苦しみを抱えながら生きている、それに気づくことで自分らしい「理想」に近づけるようになると思いますよ。

―「不安を取り除くのは無理だと認める」とも繋がってきますね! では最後に、日々不安を抱えている読者のみなさんの心が軽くなる言葉を教えていただけますか?

三浦さん

「他力本願」についてお話しさせていただきましょうか。

―「他力本願」ですか? 自分は努力せず、無責任に他人任せにするなどあまりいい意味ではないような気がするのですが……。

三浦さん

辞書にも俗用語としての意味が書かれてあるので、「他力本願」がもともとは仏教用語だったことを知らない人のほうが多いでしょう。仏教での他力本願とは、自らの修行によって悟りを得るのではなく、仏様の仏力(ぶつりき)によって救っていただくという考え方です。他人や自然に任せることではありません。

―すごく素敵な言葉だったんですね!

三浦さん

この世の中は「自力」の世界。しかしながら、どんなに頑張ってもどうにもならないこともたくさんあります。そんなときは、仏様の間違いない力にお任せすること。不安があっていい、愚痴をこぼしてもいい、煩悩だらけでもいい、どんな自分でも、仏様がありのまま受け入れてくれる世界があるから大丈夫。背負ったまま頑張りましょう、とお伝えしたいです。

―ありがとうございます。とっても学びが多い時間でした。不安は、話して手放す。そして自力でどうにもならないことは、他力本願で! なんだか心が軽くなったような気がします。

三浦さん

お坊さんの私だって悩みながら、不安を抱えながら生きています。それでもいいんだ、と思って生きていきましょう。

CREDIT
取材・文:つるたちかこ 写真:藤原葉子 編集:HELiCO編集部+ノオト
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