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不安を軽くするために。「思考のクセ」を見直そう

同じことを体験しても、不安を感じやすい人と、あまり感じない人がいます。不安の感じ方には個人差があり、それには「思考のクセ」が大きく影響していると考えられています。

たとえば、たまたまタイミングが合わなかっただけなのに、「あの人は私を避けている」と感じたり、順調に仕事が進んでいるのに、「この先ミスをしてしまったらどうしよう」などと考えたりすることはありませんか? なぜ、こうした不安を招くような思考のクセがついてしまうのでしょうか。また、それを見直すにはどうしたらよいのでしょうか。

本記事では、不安を感じやすい人の思考のクセやパターンを紹介し、いまよりも少しだけ安心して生きるためのヒントを解説します。

教えてくれるのは…
中尾 睦宏先生
昭和大学ストレスマネジメント研究所所長

医師、公衆衛生学修士。ベンソン-ヘンリー心身医学研究所客員研究員(旧ハーバード大学心身医学研究所)。東京大学医学部卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了(MPH)。ハーバード大学で心身医学研究所講師を勤めたのち、帰国して帝京大学に赴任。平成30年より国際医療福祉大学医学部心療内科学教授。令和5年10月より現職。日本行動医学会理事長、日本心理医療書学会連合副理事長、日本心身医学会理事、日本うつ病学会理事。専門は心身医学、行動医学、職場のメンタルヘルス。

「思考のクセ」ってなんだろう?

思考のクセとは、「学習(経験や見聞き)によって得た考え方のパターン」のこと。人間は事実や根拠のあるなしにかかわらず、これまでの体験から、ある一定の思考になってしまうことがあります。

よくある例として、あまり知らない相手なのにちょっとした言動によって「あの人は●●な人だ」と決めつけてしまったり、ささいな失敗をしただけで「もう終わりだ」と途方に暮れてしまったりするのは、思考のクセが影響しているといえます。

「クセ」というとややネガティブなイメージがありますが、成功体験というポジティブな出来事がクセを生み出すこともあります。たとえば、「笑顔で接してくれた! こうしたら人は喜んでくれるのか」と考えるのも思考のクセのひとつです。思考のクセは、ポジティブに働く場合もあれば、ネガティブに働く場合もあるのです。

思考のクセによって不安になりやすいのは、なぜ?

思考のクセは、私たちの感情にも少なからず影響を与えていて、ときには不安を感じやすくさせることもあります。そこには大きく2つのパターンがあると考えられています。

1つは、生まれつき不安を感じる能力の高い人が、思考のクセによってさらに不安を感じやすくなっているパターンです。

不安を感じる能力は、人間に生まれつき備わった力です。不安を感じるということは、体や心を害するような危険を本能的に察知しているということ。ただし、そこには個人差があり、生まれつき不安を感じやすい人もいれば、あまり感じない人もいます。その差はいわば、不安センサーの感度の違いのようなものです。生まれつきセンサーの感度が高いことが考え方にも影響し、さらに不安を感じやすい思考のクセが身についてしまうことがあります。

もう1つのパターンは、環境による影響です。不安センサーの感度は、生まれ持った精度に加え、過ごしてきた環境によっても変化することがわかっています。たとえば、あまり治安のよくない地域に暮らしているなど、不安の多い環境で過ごすと不安センサーは敏感に反応していきます。その結果、不安を感じやすい思考のクセが身につくことがあります。

不安を感じやすい人は、この2つのどちらかのパターン、もしくは両方の影響によって、不安になりやすい思考のクセが身についた可能性が考えられます。

HSPも不安センサーの感度が高い?

不安センサーの感度に影響を与えるのは、思考のクセ以外にもあります。たとえば、近年話題になることの多い、HSP(Highly Sensitive Person:ハイリー・センシティブ・パーソン)と呼ばれる気質の人も、危険を察知する不安センサーの感度が高い傾向にあることが多いです。

HSPは、非常に感受性が強く、敏感な気質を持った人を表す便宜上の分類で、病名ではありません。HSPの人は、周囲から良い影響も悪い影響も受けやすいため、ストレスを感じやすく、「生きづらい」と思うことが多いといわれています。そのため、不安センサーの感度も高くなっていて、不安で心が落ち着かない状態が続く傾向があります。

不安になること自体は悪いことではありません。ですが、その状態が長く続くと心がつらくなってしまうこともあるので、バランスが大切です。

不安を感じやすい、よくある思考のクセとは?

不安の感じやすさに影響を与える思考のクセには、以下のようなものがあります。

■深読み思考:自分勝手に深読みし、事実無根の結論を導き出す
(例:メールの返信がない。私はきっと嫌われている)

■白黒思考:白か黒、全か無など両極端に考える
(例:今度仕事で同じミスをしたら、この職場を辞めるしかない)

■べき思考:「~するべき」と常に考えて追い詰める
(例:私は母親なのだから、これくらいは当たり前にこなさないといけない)

■過度の一般化:わずかな経験をすべての事象に当てはめて結論づける
(例:以前この方法で成功したのだから、次も成功するに決まっている)

■拡大視と縮小視:悪い部分を誇張し、良い部分を過小評価する
(例:自分は短所ばかりで、人にアピールできるような長所なんて見当たらない)

■自己関連づけ:自分とは無関係なことまで自分に結びつける
(例:SNSで噂話をしている人たちに、自分の悪口を言われている気がする)

■レッテル貼り:行動する前から自分勝手に結果を決めつける
(例:自分にこんな大きな役割をこなせるはずがない)

■感情的決めつけ:自分の感情が真実であると決めつける
(例:あの人と少し話すだけで不愉快になるので、きっと悪い人だと思う)

■ポジティブ否認:物事が順調に進んでいるのに、わざわざ悪い部分を探し出す
(例:契約の話がとんとん拍子に進んでいるけれど、このあと悪いことが起きそうな予感がする)

■選択的抽出:都合のよい情報だけを選び出し、それ以外は無視する
(例:あの人はさっき笑いかけてくれたので、自分を評価してくれているのだろう)

こうした思考のクセによって、本来は感じずに済んだはずの不安な気持ちが生まれたり、それが大きくなったりしてしまう可能性があります。

必要以上に不安な気持ちにならないためには、自分が持っている思考のクセに気づくことが大切。そこに気づけると、自分の考えに対して、「本当にそうかな?」「これ以外の考え方はない?」と客観的な視点を持てるようになり、不安の軽減につながります。

思考のクセと上手につき合う方法

思考のクセに気づければ、不安な気持ちを軽減させることも可能です。たとえば、こんな感じにちょっと考え方を変えてみるだけで、気持ちがラクになるかもしれません。

例1:「深読み思考」のクセがある場合

自分勝手に解釈して独り相撲をとらず、まずは事実だけを認識しましょう。たとえば、Aさんにあいさつをしたのに、リアクションが返ってこなかった場合に、「無視された! Aさんに嫌われているんだ!」と考えてしまうのは思考のクセです。

この場合の事実は、「Aさんがリアクションを返さなかった」ということだけです。もしかしたら単にAさんがあいさつに気づかなかっただけかもしれません。「何か事情があったのかも」と、いったん受け流すなどすると、不安な気持ちを感じにくくなるでしょう。

例2:「白黒思考」のクセがある場合

じゃんけんでずっと連勝し続けることがないように、やることすべてがずっとうまくいくことはありません。たったひとつの失敗で「ダメだ」と考えてしまうと身がもたないので、悪いところだけでなく、よかったところにも目を向けてみましょう。

そうすると「たしかに失敗だったかもしれないけれど、この部分は次に生かせるぞ」という建設的な考えが生まれ、不安に陥りにくくなるはずです。

例3:「べき思考」のクセがある場合

べき思考のクセがある人は、比較的真面目な人が多いかもしれません。真面目であるがゆえに、「ルールは守るべき」と思い込んでしまい、ルールから逸脱しそうになると不安になり、ルールを守れない自分や他人を責めてしまいがちです。

ルールを守るのは大切なことですが、常に「~すべき」と考えるのではなく、ときには「できたらいいな」「少しでも~できるようにしよう」と考え方をやわらげてみて。少し余白をつくるだけで、気持ちが落ち着くでしょう。

 

思考は2か月ほどでゆっくりと変えていくことができるといいます。また、不安を感じるようなことがあったら、なるべくその日のうちに誰かと話したり、気持ちを書き出したりするだけでも、心がラクになっていくはず。無理なくできる範囲のことを少しずつ試して、不安を感じやすくしている思考のクセをほぐしていきましょう。

人はほぼ誰もが、何かしらの思考のクセを持っています。ですが、考え方のクセが強すぎると、社会で生きづらいと感じることが少なくありません。

あなたがいま、心が不安になりやすく、生きづらさを感じているのなら、まずは自分自身の思考のクセに気づくところから始めてみてはいかがでしょう。そして、自分の思考のクセをほぐす方法を知り、どうやったら上手につき合っていけるのかをぜひ考えてみてください。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:岡田 丈
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