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学校ではどう教えてる?「性教育」の現状と家庭の役割

自己決定や人権にかかわる大切な学びでありながら、世界のスタンダードから遅れをとっているといわれる日本の性教育。いまどきの子どもたちは学校で何を学び、どんな性の悩みを抱えているのでしょう。

本記事では、日本の学校で行われている性教育の内容や課題、いま起きている変化を整理しながら、家庭で行う性教育の役割やヒントについて解説します。助産師・思春期保健相談士の櫻井裕子さんに話を伺いました。

教えてくれるのは…
櫻井 裕子さん
さくらい助産院 助産師・思春期保健相談士

大学病院産科や産婦人科医院などでキャリアを積み、助産院を開業、産前産後ケアや看護専門学校の非常勤講師なども務めるかたわら、小中学校や大学、保護者向けの性教育講演を年間100回以上行っている。また自身のブログでは、メールや電話番号を公開して思春期の子どもたちからの性の相談も受けている。近著に『10代のための性の世界の歩き方』(時事通信社)がある。
Blog:https://ameblo.jp/sannba-sakurai/

日本の性教育の遅れの一因とされる「はどめ規定」って何?

多くの課題があるといわれる日本の学校現場の性教育。たびたび話題にのぼるのが「はどめ規定」です。日本の小学校・中学校・高校では、文部科学省が出している学習指導要領に基づき、体育や保健体育、道徳、特別活動などを通じて、性に関する指導を実施しています。しかし、小学5年生の理科で「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」、中学校の保健体育で「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という2つのはどめ規定があり、小・中学校では性交や避妊については原則、授業では取り扱わないとされています。

文部科学省は、はどめ規定について「決して教えてはならないものではなく、現状に合わせて発展的内容を教えることは問題ない」としていますが、実際には、はどめ規定があることでより踏み込んだ性教育を行いにくい現状があるのです。

適切な性教育を求める世間の声

2023年夏に日本世論調査会が行った「子どもの安全」を巡る全国郵送世論調査に注目してみましょう。全国の18歳以上の男女3,000人を対象者とした調査の結果、「妊娠の経過は取り扱わない」とする中学の学習指導要領の「はどめ規定」をなくすべきだとの回答が88%にのぼりました。包括的性教育についても64%の人が「導入したほうが良い」と回答。また性教育を始める適切な時期については「小学校高学年」とする回答が52%で最多でした。多くの人が、子どものうちから正しい知識を得られる性教育の導入を望んでいることが伺えます。

性交・避妊には触れない日本の性教育

それでは、学校で子どもたちは具体的にどのような性の指導を受けているのでしょうか。以下に学習指導要領の主なポイントをまとめました。

小学校で習うこと

●3、4年生

  • 体の清潔、男女の体の発育・発達、プライベートゾーン、初経と精通、異性への関心など

●5、6年生

  • 命の誕生、感染症、特にHIV(エイズ)について

※エイズ学習は差別をしてはいけないことを学ぶ道徳教育に近いものになり、感染症予防のためのコンドームの話題は出てこない

これらに加えて、小学5、6年生の女子児童には宿泊学習前に「月経の対処法」を指導する時間が設けられています。「月経の授業を男女別で受けた」と記憶している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

中学校で習うこと

●1年生

  • 生殖にかかわる機能の成熟と、それに伴う異性への尊重や適切な行動について
  • 射精、月経、受精と妊娠、性衝動、異性の尊重、性情報への対処

※「性交」についての記述はなし。また、あくまでも「異性間(男女)」に限定される

●3年生

  • 性感染症(感染経路と予防)
  • 感染を予防するには、性的接触をしないことやコンドームを使うことが有効である

※性交には触れず性的接触と表現

高校で習うこと

  • 受精、妊娠・出産、家族計画、人工妊娠中絶について
  • 性感染症を含む感染予防、および社会的な対策の必要性について

性教育にかかわる授業は、小・中学校では担任や養護教諭、高校は体育教諭が行うことが多いようです。一方で、櫻井さんのような外部講師を招き、内容を広げて教える学校も増えています。地域や学校によって性教育で重視する内容は変わりますが、性の多様性を学ぶ授業としてLGBTQ(性的マイノリティ)の講師を招いている学校や、生徒主導で男子生徒向けの「生理セミナー」を実施している私立の高等学校もあります。

櫻井さん

子どもたちが性的な情報に簡単にアクセスできる時代になっているにもかかわらず、小・中学校の授業で『性交』『避妊』『中絶』について具体的に教えることは避けられています。たとえば、コンドームの正しい使い方について講師が子どもたちに教えたくても、学校側から『生徒が興奮するから実物を見せないで』と言われることも。学校側が保護者からのクレームを恐れている場合もあります。『もしクレームがあったら、私が保護者対応をします』というと、踏み込んだ内容を教えることを許可してくれるケースも実際にありました。学校側の対応もさまざまです。その背景には、先ほども述べたように学校側のおびえのようなものを感じます。

 
私の講演では、まだまだ不十分だとは思いますが、包括的性教育の実践を目指して、人権・多様性・ジェンダー平等を基本に置くよう心がけ、自分と自分の大切な人の、いまと未来の健康と幸せのために知っておいてほしいことを伝えています。ユネスコが提唱する包括的性教育のガイダンスでは、学習目標の最初のテーマが人間関係。『家族にはさまざまな形がある』というところから学んでいきますが、日本の性教育では、体の成長や月経の話題に終始することが多いです。また原則、夫婦=男女、恋愛=異性カップルという捉え方です。多様性をどう盛り込んでいくかも今後の課題のひとつでしょう。

多様性の時代を背景に変わりゆく教科書

学習指導要領の改訂は10年に一度行われていますが、2024年度から使われる小・中学校の教科書で、ジェンダー平等やLGBTQなど性の多様性への言及が大幅に増えることがわかりました。カラフルなランドセルや出席簿の名簿が男女混同になってきていることなど、ジェンダーをめぐる変化を取り上げたり、「異性が気になる」という表現を「異性など、好きな人が気になる」という表現に変えたりした教科書も。また小学校の保健体育で性の多様性を取り上げたのは、前回は出版社5社中2社でしたが、今回は6社すべてが触れています。

ほかにも、男女差別や男女平等について社会や道徳で扱う教科書が増えたり、海外にルーツのある子どもや障害のある子どもが国語や社会の教科書に登場したりするなど、さまざまな教科と教科書にSDGsや包括的性教育の視点が反映されているようです。

2023年から始まった「生命(いのち)の安全教育」とは?

2023年度から全国の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校で「生命の安全教育」の導入が始まっています。これは内閣府の「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を踏まえてスタートした教育プログラム。対象が幼児から大学生までと幅広く、自分の体を大切にすることや、性暴力に対する正しい認識を身につけることで、子どもが性暴力の被害者、加害者、傍観者になることを防いでいこうというものです。

たとえば小学校の教材には、以下のような学習内容が含まれます。

  • 水着で隠れる部分(プライベートゾーン)は自分だけの大切なところであること
  • 相手の大切なところを見たり、触ったりしない、嫌な触られ方をした場合の対応(からだの自己決定権)
  • SNSを使うときに気をつけること(高学年)

中学校になると、

  • 自分と相手を守る距離感について(バウンダリー)
  • 性暴力とは何か(デートDV、SNSを通じた被害の例示)
  • 性暴力被害にあった場合の対応

などを学びます。教材はインターネットで公開され、誰でも見ることができます。

自分が受けている性被害に気づいたり、必要な支援につながったりするスキルを学ぶ意味は大きいでしょう。しかし、性暴力や防犯の必要性を伝えながらも、やはり性交については触れられていません。性暴力の例として紹介されるのは、電車内の痴漢や盗撮といった行為にとどまっています。

思春期の子どもはこんなことで悩んでいる

櫻井さんは性教育の専門家として、電話やSNSのDMなどを公開し、主に思春期の子どもたちからの相談を受けています。性の悩み相談の9割は男の子からで、内容は男性性器に関することがほとんど。一方、女の子からの相談で多いのは、妊娠の不安や中絶に関することです。「コンドームをつけてもらえなかった(避妊をしてもらえなかった)」「緊急避妊薬を買うお金がない」「妊娠したが彼にも親にも相談できない」「彼にオーラルな性行為を強要される。嫌だけど、ほかの女性に取られてしまいそうで嫌と言えない」といった相談も寄せられるそうです。

櫻井さん

男の子の悩みの中心は、自分の性器の大きさや形(包茎含む)、セルフプレジャー(自慰)のことが多いです。『自分のサイズでは女性を満足させられないのではないか』『モテないのでは』と悩む子もいます。私が『女性の腟はそれほど長く大きくない、勃起時に5センチあれば役に立つと泌尿器科のドクターが言ってたよ』と伝えると、驚きながらもいったんは納得します。でもまた電話をかけてきて『性器がでかいやつが偉そうにするんだ』というんですね。『ほとんどの女性はセックスのときに男性器の大きさなんて気にしていないし、センチ単位の大きさはわからないものだよ。女性の腟はむしろ鈍感にできていて、そうでなければ出産などできない』と繰り返し伝えることもあります。

家庭での性教育、大人は何ができる?

学校の性教育だけでは、避妊や性感染症予防の実践的なことを学ぶ機会は少ないという現実があります。性教育における家庭と学校それぞれの役割を考えると、保護者(大人)はどうすべきなのでしょう。

櫻井さん

学校でしかできないこと、家庭やそれに代わる場所でしかできないこと、またそれぞれの得意技があると思います。

 
たとえば、学校にはいろいろな先生、児童・生徒がいて多様な存在に出会ったり、さまざまな意見を聞いたり、交わしたりできますね。性教育の講演会をすると、終了後に子どもたちが性についてあれやこれやと話し合いながら帰っていく。そうした面は学校の良さだと感じます。

一方、家庭やそれに代わる場所で得意とすることは、子どもとそれまで続いている関係性があること。

櫻井さん

親子でこれまでの育ちを時々振り返ってみることはできるはず。家族の状況にもよりますが、自分が大切にされてきた経験を振り返るだけでも、愛情や人間関係、相手を大切に思うことを学んでいけますね。性教育については親自身ができそうならやってみる、できないときは無理しないでいいと思います。具体的なセックスについて教えるのは難しくても、月経や射精に備えてあらかじめ『パンツを自分で洗おう』という働きかけならできるかもしれません。

 
初経・精通を経験した子たちのなかには、セルフプレジャーの悩みや、妊娠したかも・させたかもという不安に直面する子も出てきます。そうした悩みや不安を持つ子たちの多くは『親には言えない、困らせてしまうし迷惑をかけるから』と話すことがほとんど。だから子どもにそう思わせなくていいように、日頃からできるだけ遠慮のない関係を築くことも大事です。特に若年妊娠では周囲への相談が遅れて選択肢が少なくなる場合があります。新生児遺棄などの事件になってしまった事例もあります。

家庭でできるのは、たとえばこんなこと!

言葉の意味を教える

避妊や性行為について教えるのは難しくても、月経、射精、プライベートゾーン、性的同意といった言葉の意味について教えることはできます。直接話すことが難しかったら動画コンテンツや性教育の書籍を渡して「見ておいてね!」などのコミュニケーションでもいいのです。

いつも味方であることを伝える

大人(親)は、可能な限り信頼される大人でい続けるという心構えと身構えでいましょう。そのためには家庭で「困ったときには必ず力になるからね」といったメッセージを繰り返し伝えることが大切です。話したいことや苦しさをただ聞いて寄り添うだけでいいのです。親からのアドバイスはむしろ「してほしくない」場合も多いと頭の片隅に入れておきましょう。

トラブルが起きたら手を差し伸べる

子どもが妊娠・性感染症などのトラブルや、性暴力などの被害にあったら、どうしたら助けられるか、どんな支援ができるかを寄り添って一緒に考えましょう。保護者も一人で抱え込まずに頼れる誰か、相談先を確保するため、『当事者になる前に』あらかじめ探しておきましょう。

家庭以外でSOSを出せる場所を共有する

親にSOSを出せない場合を想定しておくことはとても大切です。信頼できる相談先につながれるように、いざというときに頼れるリスト(公共の相談ダイヤル等)を共有しておきましょう。

櫻井さん

私自身は、自分の子どもから体や性に絡む話を質問されるたびに丁寧に答えていたつもりでした。当然、伝わっているはず……と思い込んでいたのですが、いつの間にか学校で友達に聞いたトンデモない情報を信じていたのです。親が与えた知識は『友達によっていとも簡単に上書きされる』という事実を思い知ってから、子どもたちがみんなで正しい知識を得ることが大切だと確信。学校での性教育講演に力を入れるようになりました。

 
『正しい知識はあっても失敗するのが人間。だから転ばぬ先に性教育、転んだ後にも性教育』がモットーです。性の話は1回で終わりではなく、子どもたちが成長する間に何度も繰り返し伝えていくことが大切です。

避妊について、子どもにどう伝える?

保護者の心配事は、子ども同士の交際や性交、避妊や性感染症予防だと思います。女性が選択できる避妊法には低用量ピル、IUS(子宮内避妊システム)、緊急避妊薬(アフターピル※緊急時のみ)などがありますが、日本での避妊法は男性主体のコンドームが最もポピュラーです。しかし、学校の性教育ではコンドームという言葉は出てきますが、つけ方を練習するところまでは行われないことがほとんどです。家庭で教えられたらいいですが、ハードルが高いと感じる保護者も多いでしょう。

櫻井さん

私の講演会では実際のコンドームを指や模型、身近にあるスティックのりなどにつけてみる『装着練習』をすることがあります。その際、包みを開ける段階から間違っている子も大勢います。そもそも裏表がわかりにくいし、想像していたよりもつけるのは難しいとの意見が多いです。高校生、大学生の講演でだいたい6割は、外袋の切り方を間違えます。『コンドームに触ったことすらない』という子も多くいます。

 
実物のコンドームを使って練習を始めると、会場からは『いやこれ、いきなりじゃマジ無理っす』といった声が聞こえてきます。練習の必要性を実感するシーンです。コンドームを正しく使用した場合の避妊効果は約85%から98%ですが、外れることや破れることもあるし、片手でつけようとして失敗する場合もあるので両手で装着することの大切さも知ってほしい。講演後に『コンドームはエログッズだと思っていたけれど考え方が変わった。自分とパートナーを守るための衛生用品だなっていうことがよくわかった』という声をもらったことがあります。

櫻井さん

性教育に対して構えすぎる必要はありません。性のことは口に出して言いにくいこともあると思いますが、無理せず、自分の言葉で誠実に話したら子どもたちはしっかり受け止めてくれます。自信がない部分はそれを補う何かを探せば良いのです。学校や保護者の皆さんには『もっと子どもを信頼していいし、大人も一人で全部を抱え込まなくて良いですよ』と伝えたいですね。

参考文献資料

人権、幸福、からだ。大人も知るべき「包括的性教育」
いま「大人世代こそ性教育を学び直そう」という動きが広がっています。

性教育=子どもたちに「男女の体の違い」や「月経や射精」について教えるものと思っている大人は、少なくないかもしれません。しかし、いまの時代に必要なのは人間関係や性の多様性、暴力の防止、ジェンダー不平等をなくす方法、性を安全に楽しむ知識など、さらに幅広いテーマを学ぶ「包括的性教育」です。

「性」にはポジティブな面がもっとあってもいい。大人自身が価値観をアップデートすることで、周囲の大切な人や子どもと向き合うヒントが見つかるかもしれません。50年にわたり性教育に取り組んでいる村瀬幸浩さんの解説で、私たちが本当に学びたい性教育について考えてみませんか。
https://helico.life/monthly/240102sexeducation-kiso/
どう選ぶ?どう使う?コンドームソムリエAiさんが伝授
性感染症予防、そして避妊のためのアイテムとして身近なコンドーム。誤った方法で使用すると、目的をしっかり果たすことができなくなるにも関わらず、肝心な選び方や正しい使い方について、学ぶ機会がなかったという方がほとんどなのではないでしょうか。

今回は、現役の保健室の先生でもあり、コンドームについて豊富な知識を持つコンドームソムリエAiさんに、コンドームの選び方や正しい使い方をお聞きしました。
https://helico.life/monthly/220708aboutsex-condom/
CREDIT
取材・文:及川夕子 編集:HELiCO編集部+ノオト イラスト:園内せな
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