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生きていくのにとっても大事!口のなかを徹底解剖

私たちが日々何気なく行っている食事や会話。生活をしていくうえで重要なこれらの機能を支えているのが「口腔」です。では、そもそも口腔とはどういった構造で、どのような機能を持つのでしょうか。本記事では、口腔が担う役割について解説します。歯(口腔)の健康状態は健康寿命にも影響するといわれています。口腔環境の重要性を学んでいきましょう。

口腔ってどこのこと? 各部位とその機能を知ろう

「口腔」とは、唇や頬、口内の天井部分である口蓋(こうがい)、床部分となる口腔底(こうくうてい)で囲まれた口のなかの空間を指し、主に7つの部位で構成されています。

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歯は、口のなかに入れた食べ物を飲み込めるようになるまで細かくするのに欠かせません。通常、乳歯は20本、永久歯は親知らずを除いて28本あり、それぞれの歯の形は異なります。これは食べ物を噛み切る、切り裂く、すりつぶすなど、歯ごとに役割が違うためです。また、歯は私たちが話したり表情をつくったりする際にも大きな役割を果たしており、生活の根幹を支えているといっても過言ではないでしょう。

近年は、歯が多く残っている(あるいはきちんと合った義歯などを使用している)と、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されない期間)が延びる可能性があるという研究結果が発表されているほど、歯は大切なものなのです。

2顎骨(がっこつ/がくこつ)

顎骨はその名のとおり顎(あご)を形成する骨で、上顎骨(じょうがくこつ)と下顎骨(かがくこつ)に分けられます。特に下顎骨は、顔の骨のなかで、唯一自分自身で動かすことができ、食べ物を噛んだり、飲み込んだりするときに活躍する部位。乳歯から永久歯に生え変わるタイミングで少しずつ骨が成長して、徐々に大人の形になっていきます。

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舌は筋肉でできた組織で、頬の筋肉と連動して食べ物を噛んだり、飲み込んだりするための重要な役割を持っています。また、味覚や知覚を感じ、胃に入っていくものを選別する働きも担っています。私たちが声を出す際には舌の位置を無意識に動かして発音しているため、舌の筋力が衰え、動かしにくくなると滑舌が悪くなってしまいます。

4歯肉(しにく)

歯の根っこである歯根(しこん)と歯槽骨(しそうこつ/歯根がはまっている骨)を囲む組織が歯肉です。歯肉は、食べ物を噛む際に、歯にかかる衝撃から守ったり、食べ物(食べかす)や細菌などが歯槽(しそう/歯根がはまっている穴)に入り込むのを防いだりしています。健康な場合にはきれいなピンク色をしていますが、炎症が起こると赤くなり、歯ブラシなどのちょっとした刺激で出血を起こすようになってしまいます。また、歯周病の進行や強すぎる歯磨き、歯ぎしり・食いしばりなどによって歯肉が下がってしまうこともあります。

虫歯や歯周病が気になる方はこちらの記事もぜひご覧ください。

歯を失う原因「虫歯と歯周病」の基礎知識&予防のコツ
歯科医院で治療をするものといわれて、まず思い浮かぶのは、虫歯や歯周病ではないでしょうか。これらは歯科の2大疾患といわれており、歯を失う大きな原因にもなっています。また、2つに共通するのが、「予防可能な病気である」という点です。歯は一度削ったり、溶けたりしてしまうと元には戻りません。自分自身の歯を健康に保つために、虫歯や歯周病について正しく学び、日々の生活のなかで予防を心がけていきましょう。
https://helico.life/monthly/231112oraltroubule-major/

5口蓋(こうがい)

口蓋は口腔の天井部分で、硬い部分(硬口蓋)と柔らかい部分(軟口蓋)に分けられる、口腔と鼻腔(びくう)の境目です。発声や発音、食べ物などを飲み込む際に重要な役割を果たしており、軟口蓋の筋肉がきちんと機能することで、食べ物が鼻に流れてしまうことを防いでいます。

6唾液腺

食べ物を食べやすくしたり、口内の細菌増加を防いだりする役割を持つ唾液。この唾液を分泌しているのが唾液腺です。耳の前下方や舌の側面、顎の側面あたりに存在しています。

唾液はストレスや疲れ、薬の副作用のほか、加齢などで分泌量が低下します。唾液の分泌量が減ると、食べ物が飲み込みにくくなる、会話(発音)がしにくくなるだけでなく、口臭の原因になってしまうこともあります。

口臭の原因や対策はこちらの記事で解説しています。

ケア不足?病気のサイン?口臭の種類と原因を解説
「口臭」は、自分自身では非常に気になっているものの、周囲は気にならない場合もあれば、自分自身ではまったく気にしていなくても、家族などから指摘されて気づく場合もあります。

においの強い食べ物を食べたあと、あるいは起床後などは、誰でも一時的に口臭が起こり得るので、あまり思い悩む必要はありません。しかし、口臭は歯周病や全身の病気が関係している場合もあるため、適切にケアしていくことも大切です。

この記事では口臭の種類や原因、改善方法など、なかなか人には聞きにくい口臭について解説します。
https://helico.life/monthly/231112oraltroubule-badbreath/

7口唇(こうしん)

口唇(唇)は口のなかと外の境界となる、いわば門番のようなものです。私たちは普段何気なく食べ物を口にしていますが、口唇に食べ物が触れることでその食品の硬さなどを判断し、口に含む量を瞬時に変えるなど、非常に複雑なことを行っています。たとえば、水分量の多いものを口に入れたとき、口の外に食べ物や水分がこぼれ出ないようにしているのも、口唇の機能によるものです。

また、口唇は発音や表情をつくることにおいても重要な役割を果たしています。

歯や舌、頬の筋肉、それぞれの連動が大切! 生活を支える、口腔の働き

このように、さまざまな部位から構成される口腔は、それぞれが連携し、役割を果たすことで私たちの生活に欠かせない働きをしています。その具体的な働き・役割について知っておきましょう。

咀嚼(そしゃく)

咀嚼とは、食べ物を噛み砕いたりすりつぶしたりして、飲み込みやすいかたまり(食塊)にすることです。先述のとおり、咀嚼には、歯や口唇、舌、頬、顎骨、歯肉など、あらゆる口腔の部位が関わっています。食べ物を細かくするだけでなく、食べ物を噛むことで唾液や消化液の分泌を促し、それによって食べ物が消化・吸収されやすくなります。

虫歯や歯周病などで歯を失ってしまうと、咀嚼機能は低下します。食べ物を十分に噛まないまま飲み込むようになると、消化器官に負担がかかり、栄養の吸収にも影響があり、最終的に全身の不調へとつながってしまいます。

嚥下(えんげ)

固形物や液体を飲み込み、胃へ送るのが嚥下機能です。普段何気なく行っていますが、歯や口唇、口蓋、舌のほか、さまざまな筋肉や神経などが連携して行われている、非常に複雑なものです。嚥下機能が低下すると、食べ物が飲み込みにくくなる、むせやすくなるなどの症状が出てきます。それにより食事を満足にとれなくなってしまうと、栄養状態が悪くなり体が弱る原因となります。

味覚

食べ物などの味を感じることも口腔の重要な機能のひとつです。味覚の大部分は舌にある味蕾(みらい)という小さな器官で感じ取っており、味蕾は年齢を重ねるごとに減少していきます。味覚は「体を守る」という役割もあり、毒に多い味(苦味)や腐ったものに多い味(酸味)に対しては、本能的においしいと感じられない場合があります。子どもが苦味や酸味の強いものを嫌うことが多いのは、このためだと考えられています。しかし、年齢(経験)を重ねることで「安全な食べ物」と認識すれば、その味を「おいしいもの」と感じられるようになるのです。

また、食事を楽しむうえでも味覚は大切です。味を感じなくなることで、結果的に食事量が減り、栄養状態が悪くなってしまうこともあるため、味覚も人間にとって非常に重要な機能といえるでしょう。

唾液

唾液は、食べ物の消化を助けたり、嚥下をしやすくしたり、細菌などの外敵から身を守ったりする役割を担っており、健康な成人では、1日およそ1リットル~1.5リットルも分泌されるといわれています。唾液の分泌量が低下すると、嚥下や咀嚼、味覚や発音に影響を及ぼします。また、食べ物の残りかすなどを洗い流す力も落ちてしまうため、虫歯や歯周病などが発症・進行しやすくなってしまいます。

構音(こうおん)

言葉を話すために脳からの指令などによって音をつくる過程を構音(発音)といい、私たちが言葉を発するには、口唇や舌、口蓋、下顎骨などの働きが必要不可欠です。舌に口内炎ができたときに痛みを回避しようとして話しにくくなるのは、構音において舌が重要な役割を果たしているためです。構音に問題が生じると言葉(話)が伝わりにくくなるなど、コミュニケーションに支障をきたしてしまう場合があります。

顔貌(がんぼう)

顔貌とは、顔つきのこと。口唇や歯、顎骨は顔貌にも大きな影響を及ぼしています。例えば同じ年齢の方でも、歯が抜けている部分が多かったり、歯肉が下がり歯の隙間がスカスカに見えたりすると、より年齢を重ねているように見えてしまうという調査結果も。健やかな口元を保つことで、若々しい印象を与えられるかもしれません。

口腔の健康が全身の健康につながる

ここまで紹介してきたように、口腔が担う機能は、いずれも全身の健康に非常に多くの影響を及ぼします。特に、一度削った・抜いた歯や、歯を支えている歯槽骨が溶けたことによって下がってしまった歯肉は完全に元に戻ることはありません。そのため、日々の生活のなかで口腔をきれいに保ったり、バランスの良い食事を心がけたり、会話などで口をよく動かし筋力を保ったりすることが重要です。

「歯科医院はトラブルがあってから行くもの」と考える方もいるかもしれませんが、ぜひ定期的な受診で口腔トラブルの予防や早期発見・治療を心がけましょう。

口腔はどのように構成されているのか、そして無意識のうちにいかに複雑なことをしているかについて解説しましたが、新たな発見はあったでしょうか。健康な体をつくるためには、まずは健口(けんこう)から。今回の特集を通じて、改めて自分自身の口腔の健康に目を向けてみてください。

教えてくれたのは…
和泉 雄一先生
東京医科歯科大学 名誉教授/総合南東北病院 オーラルケア・ペリオセンター長/福島県立医科大学 特任教授

東京医科歯科大学歯学部、ジュネーブ大学医学部歯学科、鹿児島大学歯学部などを経て、2007年に東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授に就任、2018年より名誉教授、2019年よりオーラルケア・ペリオセンター長、2021年から福島県立医科大学特任教授。2015年~2017年には日本歯周病学会の理事長を務めた、歯周病の治療・研究のスペシャリスト。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:福田玲子
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