1

歯を失う原因「虫歯と歯周病」の基礎知識&予防のコツ

歯科医院で治療をするものといわれて、まず思い浮かぶのは、虫歯や歯周病ではないでしょうか。これらは歯科の2大疾患といわれており、歯を失う大きな原因にもなっています。また、2つに共通するのが、「予防可能な病気である」という点です。歯は一度削ったり、溶けたりしてしまうと元には戻りません。自分自身の歯を健康に保つために、虫歯や歯周病について正しく学び、日々の生活のなかで予防を心がけていきましょう。

歯を失うとどんなことが起こる?

歯を失う原因の6割以上が虫歯や歯周病といわれており、これらの予防・治療などが口腔の健康を保つためには必須であるといっても過言ではありません。では、そもそも歯を失うとどんな不都合が生じてしまうのでしょうか。

歯の役割のなかでも特に大事なのは、食事をするときに食べ物を噛んで細かくすること。歯がない、あるいは歯肉がやせ細って歯の安定感が失われた状態では、思うように食べ物を噛むことができず、結果的に食べられるものが減って栄養に偏りが生じたり、消化器官に負担がかかったりするようになってしまいます。

そのほかにも歯は、以下のようなシーンで役割を果たしています。

  • 会話のときに発音を助ける
  • 体の姿勢やバランスを保つ
  • 表情をつくる

歯がなくなることで、話しにくくなる、体を動かしにくくなる、表情が乏しくなる(あるいは見た目に自信がなくなる)などの変化が起こり、人との関わりや外出を億劫に感じ、避けるようになってしまうことも。

歯が少ない人は、歯が多く残っている人やきちんと自分に合った義歯(入れ歯やインプラントなど)を使用している人と比較して、認知症や転倒のリスクが高いこともわかってきています。歯の健康と全身の健康は、切っても切り離せないものといえるでしょう。

生きていくのにとっても大事!口のなかを徹底解剖
私たちが日々何気なく行っている食事や会話。生活をしていくうえで重要なこれらの機能を支えているのが「口腔」です。では、そもそも口腔とはどういった構造で、どのような機能を持つのでしょうか。本記事では、口腔が担う役割について解説します。歯(口腔)の健康状態は健康寿命にも影響するといわれています。口腔環境の重要性を学んでいきましょう。
https://helico.life/monthly/231112oraltroubule-kiso/

虫歯はなぜできる? どうしたら予防できる?

虫歯は老若男女問わず、誰にでも起こり得る病気です。そもそも、どのようにして虫歯ができるのでしょうか。特に注意すべき点や予防方法についても知っておきましょう。

虫歯ができるメカニズム

虫歯の原因となる細菌「虫歯菌」は、ほとんどの人の口のなかに存在しています。この虫歯菌は私たちが口にした飲食物に含まれる糖分をエサにして、粘り気のある物質を放出しながら増殖。プラーク(歯垢:しこう)と呼ばれる細菌の塊をつくります。そして、プラークがつくり出す酸によって歯の表面のエナメル質が溶かされ、虫歯が進行していきます。

じつは、歯に穴が開いただけでは痛みを感じないケースが多く、そのまま放置してしまうと、歯髄(しずい)と呼ばれる歯の神経や血管がある部分まで、虫歯が侵食していきます。歯髄に到達してようやく痛みを感じることも多く、その時点ですでに、虫歯がかなり進行している可能性が高いのです。

こんな人は虫歯に要注意! 虫歯の予防法は?

虫歯菌のエサとなる、糖分を多く含んだ飲食物を口にする機会が多い方は、それだけ虫歯のリスクが上がります。糖分が歯に付着している時間が長くなればなるほど歯が酸にさらされるため、特に糖分が多く粘着性の高いチョコレートやキャラメルなどは要注意です。また、長時間だらだらと食事を続けたり、頻繁に間食をしたりするのも歯にとってはあまりよくない習慣です。

虫歯菌を増やさないためには、歯を溶かす酸がつくられにくい口内環境をキープすることがポイントとなります。そのカギを握るのは、やはり日々の歯磨き。プラークを落とすことがなによりも重要です。虫歯が進行した歯を完全に元に戻すことはできないため、予防や、初期虫歯のうちにきちんと治療をすることを心がけましょう。

特に虫歯ができやすい部分とは

プラークをきちんと落とすためにも、付きやすい部分、落としにくい部分をぜひ把握しておきましょう。

奥歯の溝などのへこんだ部分や歯の根元で歯肉に近い部分、歯と歯の間などは要注意です。特に歯と歯の間は、歯ブラシだけではプラークを落としきれないため、歯間が狭い場合にはデンタルフロスや糸ようじを、歯間が広がり始めている場合には、歯間ブラシを活用しましょう。

また、虫歯の治療で詰め物をしている場合、詰め物と歯の境目にプラークがたまり、虫歯ができやすいとされています。さらに、加齢や歯周病などによって歯肉が下がると、歯の根っこの象牙質(ぞうげしつ)と呼ばれる部分が露出します。象牙質はエナメル質よりも酸に弱く、虫歯になりやすいので丁寧なブラッシングが必要です。

歯科医院では、日々のブラッシングでプラークが落とし切れていない部分を教えてもらえたり、歯ブラシの選び方や力加減についてのアドバイスを受けたりすることができるので、ぜひ活用してみましょう。

体験レポマンガ「予防歯科って何?検診を受けてみた」
あなたは、歯に違和感や痛みを覚えてから、歯科医院に行っていませんか?

虫歯や歯周病になってから治療に通うのではなく、トラブルが起こる前にプロによる検診&指導を受けて正しいブラッシング方法を身につけ、お口の健康を守る考え方を「予防歯科」と呼びます。

予防歯科という言葉はなんとなく知っていても、歯科医院ではどんなことをするのか、あまり知らない方も多いはず。そこで、イラストレーターのマキゾウさんが、予防歯科の検診を受けてみることに。厚生労働省に認定された「かかりつけ歯科医療機能強化型歯科診療所(※)」である、ホワイトラビット歯科医院に行ってきました。

歯周ポケットの深さを測ったり、口内の細菌の様子を見たり、初めての体験の連続だったようです……!

※かかりつけ歯科医療機能強化型歯科診療所(か強診)……専門的な定期管理(予防歯科)を行う設備・スタッフを整え、患者さんの重症化予防のためのメンテナンスを長期的に行う機関。細かな条件があるため、東京都の歯科医院でたった2%とされています。
https://helico.life/monthly/231112oraltroubule-report/

全身疾患との関係に注目が集まる歯周病

歯周病は歯を支えている骨(歯槽骨:しそうこつ)や歯肉が破壊される病気で、歯がぐらついたり、抜けたりする原因となります。また近年、歯周病が糖尿病や動脈硬化、認知症などのリスクを上げる要因になることもわかってきており、虫歯や歯周病予防・治療の重要性がより増しています。

全身の健康に影響が!? 忘れず受けたい「歯」の健診
「少し歯が痛いけれど、歯科医院に行くのは面倒……」「ここ数年、歯科健診を受けていない」など、受診や口内のメンテナンスを後回しにしている方は少なくないのではないでしょうか。代表的な口内のトラブルである虫歯や歯周病は、命に関わることがないからと軽視されてしまうことも。しかしじつは、残っている歯の本数が多いほど健康寿命が長くなることや、歯周病が、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞、認知症などを悪化させてしまうことがわかってきています。

本記事では、虫歯や歯周病のメカニズムを解説するとともに、口内の健康が全身の健康に及ぼす影響、歯の健診の重要性について解説します。
https://helico.life/monthly/230708healthcheck-teeth/

徐々に進行し最終的に歯を失う

歯周病は急に歯がぐらついたり抜けたりするのではなく、徐々に進行していきます。

第一段階:歯肉炎

プラークが歯と歯肉の境目などに長時間付着することで細菌に感染し、歯肉に炎症が起こります。歯肉炎により歯肉が腫れて盛り上がることで、歯肉溝と呼ばれる歯と歯肉の間の溝が深くなり、歯肉ポケット(仮性ポケット)という隙間ができます。

健康な歯肉がピンク色なのに対し、歯肉が赤くブヨブヨとしていたり、ブラッシングやデンタルフロスの使用などですぐに出血したりする場合は、歯肉に炎症が起きている可能性が高いため要注意です。

歯肉炎の段階であれば、正しいブラッシングや歯石の除去で改善可能です。

第二段階:歯周炎

歯肉炎が進行すると、歯と歯肉の境目が徐々に破壊されていき歯周ポケット(真性ポケット)が形成されます。すると、歯周ポケットにさらにプラークが入り込み、炎症が進むと歯を支える歯槽骨までも破壊していきます。それにより徐々に歯がグラグラするようになり、最終的には歯を失ってしまう可能性もあるため、クリニックでの治療が必須になります。また、歯周炎が進行すると口臭の原因にもなります。

歯周病はさまざまな要因が複雑に関係する

歯周病にかかりやすくなる因子は、大きくわけて以下の3つがあります。

  • 細菌因子:プラーク中の歯周病菌の存在
  • 環境因子:噛み合わせ、歯ぎしりや食いしばり、喫煙、ストレス、食生活などの日常生活を取り巻く状況
  • 宿主(しゅくしゅ)因子:年齢や遺伝、歯の数や糖尿病の有無など、本人の体に関わること

複数の因子が重複することで歯周病を発症するリスクがより高まるため、環境因子など当てはまる項目が多い方は特に歯周病にかかりやすいといえます。

予防の基本は歯磨きと生活習慣の改善

虫歯同様、歯周病予防で重要なのは日々の歯磨きです。特に歯と歯肉の間にプラークが残らないよう、毎日丁寧な歯磨きやデンタルフロス・歯間ブラシの使用を心がけましょう。歯磨きをする際には、どこからどのような順番で磨くのかをきちんと決めておくと、磨き残しが少なくなります。

また、前述のとおり環境因子(生活習慣)によって歯周病のリスクは高まります。できる限り禁煙に努めましょう。繊維の多い野菜などを食べることでも口内が清掃され、プラークが落ちるので、口にする食材も重要です。ストレスも歯周病のリスクを高めてしまうため、ストレス解消法を見つけておくのもよいでしょう。

歯肉炎の段階で早いうちに気づき、ケアの方法を改善したり治療を行ったりすれば、健康な状態に戻すことは可能です。症状が悪化してからでは歯や歯肉は元の状態に戻せないため、日々歯肉の状態を観察し、早期対処することが大切です。

 
虫歯と歯周病は予防が可能な病気です。日々の歯磨きや生活習慣の改善で口内環境を整え、虫歯や歯周病のない健やかなお口を目指し、全身の健康を守っていきましょう。

教えてくれたのは…
和泉 雄一先生
東京医科歯科大学 名誉教授/総合南東北病院 オーラルケア・ペリオセンター長/福島県立医科大学 特任教授

東京医科歯科大学歯学部、ジュネーブ大学医学部歯学科、鹿児島大学歯学部などを経て、2007年に東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授に就任、2018年より名誉教授、2019年よりオーラルケア・ペリオセンター長、2021年から福島県立医科大学特任教授。2015年~2017年には日本歯周病学会の理事長を務めた、歯周病の治療・研究のスペシャリスト。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:killdisco
1

この記事をシェアする

関連キーワード

HELiCOとは?

『HELiCO』の運営は、アイセイ薬局が行っています。

アイセイ薬局が掲げるビジョンに
ヘルスデザインカンパニー(Health Design Company)というものがあります。
『あなたとともに、あなたの健康を描く』
そういう思いが込められています。
健康を描くのに必要なのは「薬」だけではありません。だから、わたしたちは、調剤薬局企業でありながら、健康情報発信も積極的に行っています。

HELiCOをもっと知る

Member

HELiCOの最新トピックや新着記事、お得なキャンペーンの情報について、いち早くメールマガジンでお届けします。
また、お気に入り記事をストックすることもできます。

メンバー登録する

Official SNS

新着記事のお知らせだけでなく、各SNS限定コンテンツも配信!