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歯を守って健康寿命を延ばす!高齢者の口腔ケア入門

口(歯)は私たちが生きていくうえで重要な役割を担っています。歯がより多く残っている、あるいはきちんと合った義歯などを使用している人は、健康寿命が延びる可能性があるという研究データもあり、歯と健康への関心が高まっています。

また近年では、口腔機能が衰える「オーラルフレイル」によって、介護が必要になるリスクが高まるのではないかともいわれています。

本記事では、高齢者の口腔ケアの重要性やその方法、そして高齢者だけではなく、誰もが意識したいオーラルフレイル予防について解説します。

健康寿命を左右するオーラルフレイルとは

日本では、80歳になっても自分の歯を20本以上保つことを目標とする「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」が1989年から推進されてきました。歯が20本以上残っていれば、食事をする際の不具合が少なく、食生活にほぼ満足できることから、「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との意味が込められています。

8020運動開始当時、この目標を達成している人はわずか数%でしたが、2016年時点で75~84歳の半分以上(51%)が達成しています。

しかし、加齢に伴い、歯だけではなく口の機能全体にもさまざまな影響が出てきます。そのため、近年では、健康な歯を残すことだけがゴールではない、といった考え方が広まりつつあります。

加齢による口腔機能への影響の一例が、唾液の分泌量減少、歯の摩耗、歯肉のやせ、顎や舌の運動機能低下です。そしてこれらが別の口腔トラブルを招き、さらに口腔機能が衰え、最終的に食欲や栄養状態の低下、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)などを引き起こし、口だけではなく体や心まで弱ってしまう悪循環に陥る可能性があるのです。

こうした悪循環のスタート地点ともいえる、口腔機能の衰えを「オーラルフレイル」といいます。

オーラルフレイルの症状がある人は、症状がない人に比べ、2年以内に身体的フレイル(運動器の障害など)を発症する確率が2.4倍、4年以内に死亡するリスクは約2倍になるといった研究もあります。

オーラルフレイルは、滑舌が悪くなる、食べこぼしたりむせたりすることが増える、噛めない食品が増える、口のなかが乾燥するなど、些細な症状から始まるため、自分では気づきにくいことも。日ごろから、自分自身や家族の口腔機能の状態を気にかけることが重要です。

あわせて、オーラルフレイルのセルフチェックリストで、口の健康状態を確認するのもおすすめです。

高齢者のオーラルフレイルを防ぐ2つのポイント

そもそも、なぜオーラルフレイルは起こってしまうのでしょうか。

口腔機能の低下は、決して加齢だけが原因ではありません。歯周病や虫歯によって、歯が抜けたり不安定になったりすることで、噛める食べ物が減り、軟らかいものばかり食べるようになると、口の機能は衰えてしまいます。

ここでは、高齢者のオーラルフレイルを防ぐ2つのポイントをご紹介します。

ポイント1:口のなかを清潔に保つ

口のなかを清潔に保つことは、虫歯や歯周病予防につながります。歯周病は徐々に進行するもので、年齢が上がるにつれてかかる人も多くなっていきます。

また、高齢者の虫歯として特徴的なのが、根面う蝕(こんめんうしょく)といわれる虫歯です。根面う蝕は、歯周病や加齢によって歯肉が下がることで現れる、歯の根っこ(歯根:しこん)にできるものを指します。本来歯は、エナメル質という硬い組織で覆われていますが、歯根にはエナメル質のコーティングがないため、非常に虫歯になりやすいのです。

口のなかを清潔に保つためには、口腔ケアのアイテム選びも大切です。

1歯ブラシ選びのコツ

歯磨きの際に歯肉から出血することが多いため、毛が軟らかい歯ブラシを使用している高齢者も多いでしょう。しかし、歯肉からの出血は、磨き残しが原因で歯肉に炎症が起きているケースがほとんどのため、「きちんと口のなかをキレイにすること」を最優先に、歯ブラシを選ぶのが重要です。

特に、握力が落ちている高齢者の場合は、毛が軟らかい歯ブラシでは歯垢などを除去しきれないことが多いため、歯ブラシの硬さは「普通」がおすすめです。

ヘッド部分の大きさは、手先が細かく動かせるようであれば小回りがきく小さめのものを、細かい動きが難しいならば、広範囲を効率よく磨ける大きめのものを選ぶとよいでしょう。

2歯磨き粉選びのコツ

高齢者は、歯肉が下がり根面う蝕ができやすくなるので、予防のために歯磨き粉も活用しましょう。虫歯予防のためには「フッ素1450ppm配合」の歯磨き粉がおすすめ。

歯磨き粉は1回で1.5~2cm程度の使用を目安にします。歯磨き粉をたくさんつけると清涼感から「磨いた気」になってしまうことがあるので、その点は要注意です。

歯磨き後のうがいは少量の水で1回程度にとどめましょう。うがいをしすぎるとフッ素など、歯磨き粉の成分が過剰に流されてしまいます。

3+αで使いたい口腔ケアアイテム

高齢者に限った話ではありませんが、通常の歯磨きだけでは口の清掃は不十分といわれています。そのため、歯ブラシ以外のアイテムもケアに取り入れるとよいでしょう。

普通の歯ブラシでは磨きにくい部分をピンポイントで磨ける「ワンタフトブラシ」や、歯と歯の間をキレイにする「デンタルフロス」、「歯間ブラシ」のほか、舌の細菌のかたまり(舌苔:ぜったい)を除去する「舌ブラシ」を1日1回は使用するのが理想的です。

また、義歯を使用している場合には、食事後にきちんと洗浄することも大切。加えて、どうしても年齢が上がるにつれて手先の器用さや握力、空間把握能力などが低下してしまうため、自分ではきちんと磨けているつもりでも、磨き残しが増えてしまいます。

そのため、日々のケアに加えて重要なのは、かかりつけ歯科医を持ち定期的にメンテナンス・チェックをしてもらうこと。口内の状態にもよりますが、高齢者の場合は2か月に1回程度が目安です。

ポイント2:口腔機能の維持・改善をする

口腔機能は、噛む、飲み込むなどのほか、発声したり笑ったり、日常のコミュニケーションの一部も担っています。機能を維持・改善するためには、口の周囲や舌、喉の筋肉を衰えさせないようにすることが重要です。

生きていくのにとっても大事!口のなかを徹底解剖
私たちが日々何気なく行っている食事や会話。生活をしていくうえで重要なこれらの機能を支えているのが「口腔」です。では、そもそも口腔とはどういった構造で、どのような機能を持つのでしょうか。本記事では、口腔が担う役割について解説します。歯(口腔)の健康状態は健康寿命にも影響するといわれています。口腔環境の重要性を学んでいきましょう。
https://helico.life/monthly/231112oraltroubule-kiso/

毎日できるオーラルフレイル予防法

オーラルフレイルの大きな特徴は、一度口腔機能が低下してしまった場合でも改善が可能であること。一方で予防・改善のためには、日々の積み重ねが欠かせません。

食事面で気をつけるべきことや、継続しやすい口腔体操について解説します。

食事は「さあにぎやかにいただく」

さまざまな食材を食べて口腔機能が衰えないようにする意味でも、バランスよく栄養を摂取して体の健康を保つ意味でも、軟らかいものだけではなく、多様な食品を食べることが重要です。

食品を選ぶときは「さあにぎやかにいただく」を参考にしてみましょう。これら10食品群のなかから、毎日7食品群をカバーできると理想的です。

目的に合わせた体操――口・舌の動きをスムーズに

口腔体操は、目的や効果によっていくつかの種類があります。ここでは、口や舌の動きをスムーズにする体操の一部を紹介します。

口の体操

(1)「う」を発音するときのように口をすぼめる
(2)「い」を発音するときのように口を横に開く
(3)1日3回以上、(1)と(2)を繰り返す

舌の体操

(1)舌を片側の頬の内側に強く押し付ける
(2)口内の舌の先を外側(頬)から指で押さえる
(3)指で押さえる力に抵抗するようなイメージで舌を頬の内側にゆっくり10回押し付ける
(4)反対の頬で(1)から繰り返す

このほか、「飲み込む力をつける」、「噛む力をつける」、「滑舌をよくする」、「舌の力をつける」といった体操もあるので、口腔機能の低下が気になる方はもちろん、予防のためにも日本歯科医師会が紹介している「オーラルフレイル対策のための口腔体操」に取り組んでみてください。

 
歯は一度虫歯になったり抜けたりしてしまうと、元には戻りません。一方で、オーラルフレイルはきちんとケアや体操を行えば、改善することができます。「口の健康」について、自分のことはもちろん周囲の人も含めて、毎日の生活から見直してみるのはいかがでしょうか。

教えてくれたのは…
中村 純也先生
国立長寿医療研究センター 歯科口腔外科部

歯科医師。2009年大阪大学歯学部卒業。兵庫県内の病院歯科で研修、勤務後、2022年より国立長寿医療研究センター歯科口腔外科部勤務。所属学会は日本老年歯科医学会、日本有病者歯科医療学会、日本歯科麻酔学会など。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:おかやまたかとし
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