生理の不調をよくあることだと思って我慢していませんか。生理痛がひどい、経血量が多い、不正出血がある……などの症状には、子宮内膜症や子宮筋腫といった病気が隠れていることがあります。なかには進行性の病気や、不妊症につながる病気もあるので、早めに婦人科を受診することが大切です。
この記事では、どんな症状が要注意なのか、生理の症状に隠れている可能性がある病気について解説します。生理が教えてくれる不調や病気を見逃さないようにしましょう。
正常な生理について知っておこう
まずは「正常な生理」とはどんな状態なのかを知り、自分の生理を振り返ってみましょう。主なチェックポイントは次の4つです。
1周期
正常範囲は25日から38日。
生理周期とは、月経が始まった日から次の生理が始まる前日までの日数のことをいいます。
2持続日数
1回の生理の日数が3日から7日。
1日から2日で終わってしまう場合や、8日以上続く場合は、何か問題が起きている可能性があります。
3経血量
経血量は他人と比べることができないので判断が難しいものですが、自分が多いと感じる日でも2時間おきに昼用ナプキンを交換すれば大丈夫、という程度なら問題ありません。
4生理痛
生理痛はあってもそれほど痛くないのが正常。
思春期や閉経前の生理の注意点
体が未成熟な思春期のころは、月経周期が定まらなかったり、経血量が安定しなかったりすることが多いので、正常範囲でなくてもあまり心配する必要はありません。また、閉経が近くなる更年期のころも、生理不順や量の変化が起こりがちです。
昔と今では違う? 生理回数の増加が病気の原因!?
現代女性は、生涯の生理回数が昔より格段に増えています。その背景には、初経年齢が早くなったこと、初産年齢が遅くなったこと、出産回数が減ったことなど、女性のライフスタイルの変化があります。そして困ったことに、生理や排卵の回数が増えたことで、子宮内膜症をはじめ、卵巣の病気や子宮体がんといった婦人科の病気になるリスクが増え、激しい生理痛や不妊に悩む女性も増えています。
生理にまつわる症状や病気の多くは、低用量ピルなどのホルモン治療で、予防や進行を食い止めることができる場合があることも知っておきましょう。
生理の様子からわかる女性特有の病気とは?
以下のような生理の症状には、将来病気になる可能性がある場合や、病気が隠れていることがあります。いつもと違う痛みなど、正常範囲の生理を超えていると感じたら、放置しないことが大切です。病気の進行を抑えたり、症状を軽減したりするためにも、早期発見・早期受診を心がけましょう。
生理痛がひどい
日常生活に支障が出るほどの強い生理痛には、体質による機能性月経困難症のほかに、病気が原因の器質性月経困難症が隠れていることがあります。月経困難症は、生理痛のほかに、頭痛、吐き気、胃痛、排便時痛などの随伴症状が起こる場合も。
大人になって生理痛が重くなった人は、子宮内膜症、卵巣チョコレートのう胞、子宮腺筋症の可能性があります。
子宮内膜症や卵巣チョコレートのう胞は、生理痛がひどく生理の回数を重ねるごとに痛みが強くなっていくのが特徴です。子宮腺筋症では、激しい生理痛とともに、経血量が異常に多い過多月経が起こります。
経血量が多い
日中に夜用ナプキンが必要なくらい経血量が多かったり、レバー状の塊がたくさん出たりする場合は、経血量が通常よりも多い「過多月経」と考えられます。年齢とともに経血量が増えてくるときは、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなどの子宮の病気や、血液凝固系異常などの病気が考えられ、婦人科で治療する必要があります。
また、過多月経の方では、出血から来る「鉄欠乏性貧血」を起こすケースが多くなります。鉄欠乏性貧血の症状には、動悸、息切れ、めまい、全身倦怠感、頭痛、爪が割れやすくなるなどがあります。
- 子宮筋腫:子宮の内側や筋層に腫瘍ができる病気。
- 子宮内膜症:子宮内膜に似た組織が子宮の筋層や卵巣、直腸の周りなどにできる病気。
- 子宮腺筋症:子宮内膜に似たものが、子宮筋層のなかにできる病気。
- 子宮内膜ポリープ:子宮内膜の細胞が異常増殖を起こし、子宮の内腔にポリープ(腫瘍)ができる病気。
- 卵巣チョコレートのう胞:本来子宮の内側にある子宮内膜が卵巣に発生することで起きる子宮内膜症の一種。
経血量が少ない
ナプキンを変える必要がないほどの少ない経血量で、1日から2日で生理が終わってしまうのを「過少月経」といいます。女性ホルモンの分泌が活発になる20代から30代で経血量が少ない場合、甲状腺の病気や卵巣機能不全(卵巣ホルモンが正常に分泌されていない状態)が起きている可能性も。放置すると不妊や子宮・卵巣の病気の引き金になるので注意が必要です。
生理が頻繁に起こる
生理周期が24日以下の状態を「頻発月経」といいます。この場合には、不妊や流産の一因にもなる黄体機能不全や無排卵月経、甲状腺の病気などが隠れている可能性があります。また、頻発月経だと思っていたら不正出血だったというケースもあります。
不正出血がある
生理以外のときに性器から出血することを「不正出血」といいます。8日以上続く出血や性交渉後の出血、腹痛を伴う出血は、子宮や腟に病気が隠れている可能性があり注意が必要です。子宮頸がんや子宮体がんの可能性もゼロとはいえません。不正出血があったら、痛みや不快感がなくても婦人科を受診しましょう。
子宮頸がんについてはこちらの記事もぜひご覧ください。
- HPVワクチン&検診で「子宮頸がん」の予防を!
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20~40歳代女性の間で近年増えている、「子宮頸がん」。多くのがんは加齢とともに発症率が上がっていきますが、このがんは「若いうちから注意したいがん」の1つです。https://helico.life/series/healthcare-cervicalcancer/
海外では予防ワクチン(HPVワクチン)の導入が進み、罹患率が低下している国もあります。しかし、日本ではワクチン接種が進んでおらず、年間で約1万人が新たに子宮頸がんを発症し、約2,900人が亡くなっています。病気の進行度によっては、子宮全摘出という決断を迫られる場合もあります。どうしたら自分の身を守れるのか。子宮頸がんという病気や予防のためのHPVワクチン、子宮頸がん検診について理解を深めてみませんか。
生理がこない
妊娠の可能性がないのに3か月以上生理が来ていない状態を「無月経」といいます。無月経を起こす病気としては、卵巣機能不全、多のう胞性卵巣症候群(PCOS)、高プロラクチン血症、早発閉経などが考えられます。
- 卵巣機能不全:脳のホルモンが正常に分泌されていない(視床下部性、下垂体性)ことや、卵巣自体が機能不全を起こしている状態。
- 多のう胞性卵巣症候群:成長途中の卵胞が排卵せずに卵巣内にとどまってしまう病気。
- 高プロラクチン血症:出産や授乳を行っていないのに、乳腺刺激ホルモンであるプロラクチンの値が高くなる病気。機能的な異常だけでなく下垂体腺腫の場合もあり、画像検査が必要なことがある。
- 早発閉経:40歳未満で無月経(月経が3か月以上ない)状態になること。
極端なダイエットや低体重(極端なやせ)、精神的なストレス、激しすぎるスポーツは、生理不順や無月経の原因に。体がエネルギー不足になると、脳は生殖機能を抑制し、女性ホルモンの分泌をストップさせて命を守ろうとします。卵巣機能不全の原因で最も多いのはエネルギー不足によるものです。
思春期の若い世代で女性ホルモンの分泌がストップしてしまうと、骨量が増やせずに将来の骨粗しょう症につながる可能性が高まります。また、無月経を放置することは将来の不妊や病気のリスクにもつながります。早めに婦人科に相談したうえで必要な治療を受けましょう。
保護者の方へ ~子どもの初経が早く来た・初経が来ない場合の対処~
10歳6か月よりも前に初経が来た場合には「思春期早発症」の可能性があり、治療が必要になることがあります。かかりつけの小児科や婦人科で相談を。また、15歳を過ぎても初経が来ない場合には、婦人科を受診しましょう。
生理の異常やつらい症状は婦人科へ
正常範囲ではない生理のなかでも、「ひどい生理痛」「経血量が多い」といった症状がある場合には、不妊の原因にもなる子宮内膜症や子宮筋腫の可能性が考えらます。これらは“早く手を打ちたい2大症状”といえるので、検診などの機会を上手に活用しましょう。また、婦人科受診をスムーズにするためにも、日ごろから気軽に相談できる、かかりつけ医を持っておくと安心です。
- 教えてくれたのは…
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- 善方 裕美先生
- よしかた産婦人科 院長
横浜市立大学産婦人科客員准教授。医学博士。女性ヘルスケア専門医として、月経にまつわる様々な悩みに対しカウンセリング、内分泌療法(ホルモン治療)、漢方薬、食事、運動、代替医療など多方面のアプローチで治療をおこなう。また、NHK健康チャンネルの出演や健康セミナーなどで更年期診療の認知を広める活動にも尽力。近著に『女医が教える閉経の教科書』(秀和システム)、『女性の生き方を左右する 子宮のきほん』(池田書店)など。日本産科婦人科学会専門医・日本女性医学学会専門医・日本骨粗鬆症学会認定医評議員。2014年日本女性医学学会において、妊娠授乳期のビタミンDに関する研究で優秀演題賞受賞。