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年代別・健康診断「オプション」の選び方 ~男女共通編~

毎年受診する定期健康診断や人間ドックの際、迷うことも多いのが、オプション(追加)検査。「定期健康診断でいろいろ調べるのだから、オプション検査は不要では?」と思う方、あるいは「念のためつけたいけれど、何を選んだらいいのか分からない……」という方など、さまざまだと思います。

この記事では、成人以降の男女において、どのような観点でオプション検査を検討すればよいのか、年代や生活習慣を踏まえながら解説していきます。

女性編は以下の記事をご覧ください。

年代別・健康診断「オプション」の選び方 ~女性編~
健康診断・人間ドックを受診する際、オプション(追加)検査をつけるかどうか、考えたことのある方は多いのではないでしょうか。オプションにはさまざまな種類があるため、自分はどの検査を受けるのがよいのか、選択に迷うこともあると思います。特に女性は「婦人科領域」と呼ばれるような女性特有の病気があります。この記事では女性が検討したいオプション検査(気をつけたい病気)に注目して解説します。
https://helico.life/monthly/230708healthcheck-option-forwomen/

「健康診断のオプション検査」とは?

健康診断のオプション検査は、「任意」で定期健康診断や人間ドックに追加できる検査です。

例えば、会社に勤めている方が定期的に受診する定期健康診断は、基本的な実施項目が法律によって定められており、受診費用は事業主と健康保険組合で負担されることがほとんどです。

一方、オプション検査は任意の検査となるため、基本的には自費で受けることになります。医療機関によって用意されている検査が異なり、場合によっては指定する受診条件(年齢・性別等)にあてはまる方しか受けられない検査もあります。

オプション検査を選ぶ際のポイント

オプション検査は、下記のようなポイントを踏まえながら、個人のリスクや懸念に応じて組み合わせることが可能です。

  • 性別
  • 年齢
  • 家族歴(親や兄弟姉妹がかかったことのある病気)
  • 生活習慣(喫煙・飲酒などの嗜好歴)
  • 予算

ただし、どのような検査も精度が100%ではないため、病気がないのに「病気かもしれない」という結果が出るケース(偽陽性)やその逆で病気が隠れていても「異常なし」と判定されるケース(偽陰性)があることも知っておきましょう。

オプション検査は、受けることで病気を早期発見できる可能性があることと、検査によっては費用面や心身に負担がかかる可能性があること、その両方を理解しながら選んでいくことが大切です。

また、オプション検査でがんに関連した検査を受ける際に知っておきたいのが、がん検診の種類。がん検診には、大きく分けて2種類あり、自治体で実施されているのは「対策型がん検診」、医療機関が任意で提供しているものは「任意型がん検診」と呼ばれます。

「対策型がん検診」の対象となるのは胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つです。対策型がん検診では対象となる(補助を受けて実施できる)年齢や検診間隔、検査方法が定められているので、事前にお住まいの自治体のWebサイトなどで、自身が対策型がん検診の対象になる年かどうか調べておきましょう(なお、会社勤めの方が受ける定期健診では、上記5つのがん検診の項目が、会社の補助で追加されているケースもあり、この場合は任意型のがん検診となります)。

「対策型がん検診」と「任意型がん検診」の違いについては、「オプションはどのように選ぶのがいい?」でさらに詳しく説明しているのでご覧ください。

検討したいオプション:20~30歳代

肝炎ウイルス検査

各種感染症の検査は比較的若年でも検討したいもので、肝炎ウイルス検査もそのひとつです。肝炎は何らかの原因で肝臓に炎症が起きる病気で、それにより細胞が破壊され、徐々に肝臓の機能が低下していきます。治療せずに放置すると、肝臓がんなどの重大な病気につながることも。

肝炎の主な原因のひとつがウイルス感染といわれており、ウイルスの違いによってA~E型に分類されます。特に、B型・C型ウイルスに感染して起こる肝炎(B型肝炎/C型肝炎)は、慢性の肝炎を引き起こす原因に。感染していても自覚症状がないケースも多々あるため、注意が必要です。

麻しん(はしか)・風しん抗体検査

どちらもウイルスによって引き起こされる急性の感染症です。いずれも抗体を持っている(ワクチンを接種したことがある、あるいはかかったことがある)場合には再度感染する心配はあまりありません。

妊婦さんが麻しんにかかった場合には重症化しやすく、流産や早産の頻度が高まるともいわれています。同じく、妊娠20週までの妊婦さんが風しんにかかると、先天性風しん症候群の子どもが生まれてくる可能性が高まります。先天性風しん症候群では白内障や難聴、先天性の心疾患などがみられます。

麻しん、風しんの罹患歴やワクチン接種歴が分からない場合には、抗体検査を実施し、抗体がなければワクチン接種を検討してみてもよいでしょう。

なお、各自治体でも、妊娠を予定・希望している女性やその同居者のワクチン接種をサポートしています。麻しん、風疹ワクチンはいずれも妊娠中には接種することができないので、該当する方はぜひお住まいの自治体の情報を確認し、早めの接種を検討しましょう。

上記のほか、1962~1978年生まれの男性も、各自治体で風しんの抗体検査と予防接種を無料で受けることができます。

検討したいオプション:40歳代

前立腺がん(PSA)検査 ※男性のみ

男性特有のがんである前立腺がんは近年増加傾向にあります。発症する方が多いのは50歳代以降ですが、任意型がん検診であれば、40歳代から検査を検討してよいでしょう。

標準的な診療指針をまとめたガイドラインでは、一度検査を受け、数値的に問題がない場合には3年後に検査を行えばよいとされていますが、数値によっては1年後の検査が推奨されることもあります。検査結果を踏まえ、次回どのタイミングで検診を受ければよいか、検査を受けた医療機関で確認してみましょう。

検討したいオプション:50歳代

骨密度(骨粗しょう症)検査

骨密度が低下し骨粗しょう症になると、自身の体重を支えられず、あるいはちょっとした衝撃で骨折してしまいます。それにより、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されずに過ごせる期間)が短くなってしまうことも考えられます。

特に女性は、閉経後から女性ホルモンの影響で急激に骨密度が低下する可能性が高く、50歳代からの検査が望ましいといえます。男性の場合は60歳代後半~70歳代を目安に骨密度検査を検討しましょう。特に喫煙・飲酒歴がある方は要注意です。

また、自身の体重を支えられず骨折してしまうなど、通常であれば骨折を起こさないような小さな外力でも骨が折れてしまった経験(病的骨折)がある場合には、年齢にかかわらず一度骨密度検査を実施することが望ましいといえます。

骨密度検査は自治体でも行われていることがあります。費用が公費負担となっている場合もあるため、お住まいの自治体の情報を確認してみるのもよいでしょう。

脳ドック(脳MRI/MRA、頸動脈エコー検査)

無症候性脳梗塞・脳出血(脳の細い血管が詰まったり出血して起こる、症状が現れない脳梗塞・脳出血)や未破裂の脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)、脳腫瘍が見つかることがあります。特に、くも膜下出血や脳動脈瘤の家族歴がある(親や兄弟姉妹がかかったことがある)場合には、40歳代から検討してみてもよいかもしれません。

動脈硬化(血管)検査 (血圧脈波検査、頸動脈エコー検査)

動脈の血管が硬くなり、血管が詰まるリスクを高める動脈硬化は、一般的に50歳代からリスクが高まります。動脈硬化を放置すると、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を引き起こすことも。

特に、喫煙や高血圧、高LDLコレステロール、高血圧、糖尿病、肥満、運動不足などは動脈硬化を進行させる要因となるため、あてはまるものがある方は、頸動脈(脳へ血液を送る血管)エコー、血管年齢や全身の血管の硬さを測定する血圧脈波検査などを検討してみてください。

PET(PET-CT)検査

一度の検査でほぼ全身のがんリスクを確認することができるのがPET(PET-CT)検査です。特定のがんではなく、がんをまんべんなく調べたい場合に有用といえます。

ただし、検査費用が高価な点、被ばくのリスクがあること、PET-CTではスクリーニングが困難ながん(胃がん、腎臓がんや早期の小さながん)もあるため、良い点、悪い点をきちんと理解したうえで検査を受けるようにしましょう。

ロコモティブシンドローム(ロコモ)検査

高齢化が進むなかで注目されているのが、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の検査です。ロコモは、人が立ったり歩いたりするために必要な身体能力(移動機能)が低下した状態を指し、健康寿命にも影響することが分かっています。筋力や骨密度の低下によって引き起こされるため、筋力をつけるための簡単な運動などを実施することが重要です。まずは、自身の筋力やバランス能力が衰えていないか定期的に検査をするところから始めてみましょう。

ロコモについて、さらに詳しく知りたい方は、「大人も子どもも要注意!ロコモティブシンドロームとは」をご覧ください。

大人も子どもも要注意!ロコモティブシンドロームとは
みなさんは「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」という言葉を聞いたことがありますか? なんだかかわいらしい響きに聞こえますが、ロコモとは、筋力低下や骨の病気などに伴い、立ったり歩いたりする能力が低下している状態を指します。自分はまだ若いから大丈夫! と思った方も要注意。近年は新型コロナウイルス感染症の影響や生活様式の変化により、「子どもロコモ」など、高齢者以外の世代でもロコモが懸念されています。ロコモが進行すると将来、介護が必要になるリスクが高まってしまうので、若い世代から予防を意識することが大切です。

本記事では、子どもから大人まで誰もがなり得るロコモについて、基礎的な情報を解説します。
https://helico.life/monthly/230304bonemuscle-locomo/

喫煙習慣がある場合に検討したい検査

肺がん検査

喫煙は肺がんの大きなリスクです。日本人の喫煙者と非喫煙者で肺がんでの死亡リスクを比較すると、男性では喫煙者が約4.7倍、女性では約3.2倍も死亡リスクが上がることが分かっています(※)。喫煙を続けている年数が長く、本数が多いほど肺がんにかかるリスクは高まっていきます。

※引用文献:Zha L,et al. J Epidemiol. 2019;29:11-7.

定期健康診断で必ず実施する、胸部X線検査も肺がんを発見するための検査で、対策型がん検診でも胸部X線検査が行われていますが、非喫煙者よりも肺がんのリスクが高い重度喫煙者(1日1箱以上の喫煙をする方)では、胸部CT検査での死亡率の減少が報告されているので、胸部CT検査を検討するのもよいでしょう。

動脈硬化検査

喫煙者では動脈硬化のリスクが高まります。高血圧や糖尿病、脂質異常症やメタボリックシンドロームを合併する場合は特に、先ほど「50歳代で検討したいオプション」でも紹介した動脈硬化検査をおすすめします。

また、本人が喫煙をしない場合も、受動喫煙によって肺がんのリスクが高まってしまうので注意が必要です。

オプション検査を検討するときに、気をつけたいこと

選択に迷うなら相談を

オプション検査の選択に迷う場合には、まずはかかりつけ医に相談してみるのがよいでしょう。すでに診断や治療を受けている病気がある場合、不要と思われる検査、逆に受けておいたほうがよい検査が出てくることもあります。かかりつけ医がなければ、検査を受ける医療機関に相談しましょう。

また、できるだけ毎年同じ医療機関で健診を受けることも重要なポイントです。同じ機関で定点的にデータを確認することで、余計な検査をせずに済むなどの利点があります。

受けること=ゴールではない

健診はあくまで健康かどうか、病気のリスクを測るためのものです。そのため、健診は決して受けることがゴールではありません。健診を活用することで、できるだけ病気を早期発見する、あるいは発症リスクを減らすための対策をとれる可能性も出てきます。結果を受けて、生活改善や治療などにつなげるところまでを健診の意義としてとらえることが重要です。

なお、すでに何らかの症状がある場合には、健診ではなく、より専門的に疾患を特定できる適切な診療科を受診するようにしましょう。

 
生活スタイルや病気のリスクは人それぞれのため、自分自身に合った健診オプションを選ぶことが大切です。健診は自身の体の状態を知るための重要な機会となるため、上手に健診やそのオプションを活用していきましょう。

教えてくれたのは・・・
松本 知沙先生
東京医科大学病院 健診予防医学センター

2011年 Harvard 公衆衛生大学院 疫学修士。2011~2013年 Harvard 大学医学部、Brigham and Women’s Hospital Fellow。専門領域は内科、循環器内科、予防医学、循環器疫学。人間ドック健診専門医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本高血圧学会認定専門医・指導医、米国心臓病協会フェロー、American Heart Association Fellow (FAHA)。病気の早期発見や予防を目標に、受診者ひとりひとりに寄り添った人間ドックの案内を目指す。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:きりふみこ
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