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鎮痛薬、ピル、ミレーナ…我慢しない生理痛の対処法

多くの女性を毎月悩ませている生理痛。いつものことだから仕方がないと、我慢している人も少なくありません。しかし、生理痛は鎮痛薬のほか、ピルやミレーナといったアイテムを上手に取り入れることで、緩和することができます。つらい痛みを我慢せず、自分に合った対処法を見つけていきましょう。

生理痛は、子宮が収縮するときの痛み

女性の体は、毎月妊娠に備えて卵子を育てるとともに、受精卵が子宮内に着床しやすくなるよう、子宮内膜が厚くなっていきます。しかし、妊娠が成立しないと、この子宮内膜は必要がなくなるため、剥がれて体外へ排出されます。これが、生理(月経)です。

不要になった子宮内膜を体外に出す際に子宮が収縮し、その際に産生される「プロスタグランジン」が、生理痛を引き起こす原因物質です。このプロスタグランジンの産生量が多いと、生理痛は重くなる傾向にあります。

生理痛は婦人科系の病気が原因で起きることもあります。また、冷えや喫煙など、血流を悪化させるような生活習慣が要因となることも。ほかに、進学や就職、転職などの環境変化でストレスがかかり、生理痛が重くなることもあります。

出産経験があると生理痛は軽くなる傾向に

出産経験の有無や、これまでの生理の回数なども、生理痛の重さと関係があります。たとえば、経腟分娩の経験がある人は、赤ちゃんが一度通っている子宮口が広がっていて、子宮内膜が排出しやすく、生理痛が軽くなる傾向があると考えられています。また、10代よりも20~30代と年齢を重ねたほうが経験した生理の回数が増える分、子宮口が柔らかくなって生理痛が軽くなることもあります。

生理痛を我慢している時点で、月経困難症の可能性も

月経困難症とは、生理痛によって日常生活に支障をきたしている状態を指します。

月経困難症であるかどうか、医学的に明確な基準はありません。しかし、生理中にたびたび痛みがあり、仕事や学校に行けない人はもちろん、少しでも普段通りの生活が送れないと感じている時点で、月経困難症だといえるのです。

月経困難症には、婦人科系の病気が原因となっている器質性月経困難症と、病気がなくても症状が出る機能性月経困難症の2種類があります。

器質性月経困難症の原因となる病気には、子宮腺筋症や子宮内膜症、子宮筋腫などが挙げられます。子宮腺筋症とは、本来子宮のなかだけにあるべき子宮内膜が、子宮の筋肉のなかで増えてしまう病気です。

子宮内膜症は、卵管や卵巣、膀胱など本来あるべきではない場所で子宮の内膜に似た組織が増殖する病気です。出血が起きても血液を体外に排出することができないため、炎症が起こり、生理痛が悪化する原因となってしまうのです。生理痛だけではなく、排便痛や性交痛、慢性骨盤痛などを引き起こすこともあります。

子宮筋腫は子宮にできる良性の腫瘍で、女性によくみられる病気のひとつです。女性ホルモンの影響を受けて大きくなるため、性成熟期の20歳前後から閉経までの40~50歳ごろに筋腫ができることが多くなっています。子宮筋腫のできる位置や大きさによっては、経血量が極端に増えたり、筋腫がほかの臓器を圧迫して、頻尿や便秘、腰痛を引き起こしたりすることもあります。

一方、機能性月経困難症の原因は、先に述べたプロスタグランジンの分泌が多すぎるために、子宮を過度に収縮させていることや、子宮の発育不全、月経への不安や緊張などがあります。

子宮内膜症をはじめとする婦人科系の病気は、生理の回数を重ねるほど発症リスクが上がるといわれています。そのため、年齢が若い人は特定の病気がない機能性月経困難症が多く、年齢が上がるにつれて器質性月経困難症の割合が上がる傾向があります。

クラミジアなどの性病で腹痛を起こすことも

腹痛を引き起こす病気には、性病もあります。代表的な病気が淋菌とクラミジアです。生理痛のほかにも、おりものの量が増えたり匂いが気になったり、デリケートゾーンのかゆみなどが主な症状として挙げられ、排尿時痛や不正出血などが気になって受診する人もいます。

ただし、こうした症状がなく、本人が気づかないうちに感染しているケースも少なくありません。性病は、ほとんどの場合、一度感染すると自然に治ることはなく、不妊症の原因になってしまう場合もあります。性交経験があって何か少しでも気になることがあれば、一度検査を受けてみてください。

体を温めて生理痛を緩和し、鎮痛薬を上手に使おう

生理痛を和らげるにはまず、体を温めることが基本です。体が冷えて血管が収縮し、血流が滞ってしまうと、痛みの原因物質であるプロスタグランジンが骨盤内にとどまってしまうことがあるからです。生理痛を和らげるためには、骨盤の血流を促して、プロスタグランジンがとどまるのを防ぐことが大切です。

腹巻のようなショーツを履いたり、カイロでお腹を温めたりする方法は手軽で取り入れやすいでしょう。また、体を内側から温める方法もおすすめです。食事に生姜を取り入れたり、ハーブティーを飲んだりしてみましょう。

また、生理痛によくないとされていることを避けるのも大切です。カフェインの摂りすぎやストレスを溜めてしまうことは、生理痛を悪化させる可能性もあるので、できるだけ避けるようにしましょう。十分な睡眠時間を確保することや、血流を促すための軽いストレッチもおすすめです。

鎮痛薬の服用は痛みを感じる前に

多くの方が活用している鎮痛薬は、痛くなり始めたら早めに飲んでおくのがポイントです。鎮痛薬はプロスタグランジンの産生を抑える働きがありますが、すでにプロスタグランジンが大量につくられてから飲んでも、あまり効果が見込めません。また、用法・用量を守っていれば、生理期間中に鎮痛薬を服用し続けても、効かなくなったり体に悪影響を及ぼしたりする心配はありません。

ピルで生理痛が軽減される仕組みとは

月経不順の改善や避妊薬として使うイメージがあるピルも、生理痛の緩和につながることがあります。

一般的な生理周期では、卵巣で卵胞が育ち始めてから、約2週間で排卵が起こります。排卵後の卵胞は黄体という部位に変化し、女性ホルモンの一種であり妊娠の維持などに関わる黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌し始めます。この黄体ホルモンの働きにより、受精卵の着床に向けて厚くなった子宮の内膜が維持されます。

ピルは排卵を抑制することで、ホルモンの変動を鎮めます。ピルを服用している間は、排卵や子宮内膜が厚くなるのを抑えられるため、痛みの原因となるプロスタグランジンの産生が減少し、結果的に生理痛の緩和につながります。

さらに、剥がれ落ちる子宮内膜の量が減るので、生理による出血量の減少も期待できますし、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの分泌量の変化が一因とされる、月経前症候群(PMS)にも効果的です。

子宮内膜が厚くなるのを抑えることで、子宮内膜症の発症を抑えたり、症状の悪化を防いだりする意味でも、ピルは非常に有用な薬といえるでしょう。

なお、ピルの長期間服用で妊娠しにくくなることはなく、ピルの服用をやめれば9割の女性は、3か月以内に排卵が再開するといわれています。

ピルは毎日飲むことが必要、飲み忘れがデメリットに

ピルを服用することにはメリットがある一方、デメリットもあり、大きく3点挙げられます。

  1. 薬を毎日同じ時間に飲む必要があること。習慣になるまでは少し煩わしく感じるかもしれません。また、飲み忘れてしまうと効果が低下してしまいます。
  2. 1か月あたり1,000~3,000円程度の薬代がかかること。
  3. 飲み始めの数か月間は、吐き気や頭痛、だるさ、不正出血などの副作用が起こる可能性があります。ただし、時間が経過すれば自然に改善していくことがほとんどです。

血栓症について知っておこう

ピルによる副作用で、最も注意したいのは血栓症です。血管内に血液の塊ができてしまう病気で、ピルを飲むことで血栓症のリスクは上がるといわれています。

とはいえ、ピルを飲んでいない人が血栓症になる確率が1万人に1~5人であるのに対し、ピルを飲んだ場合は1万人に3~9人。確かにリスクは上がりますが、必要以上に恐れることはありません。ただし、40歳以上の方、喫煙者やBMI値が高い人、家族に血栓症の既往歴がある人などはリスクが高いため、主治医とよく相談しましょう。

費用を抑えて飲み忘れも起こらないミレーナ

ピル以外にも、生理痛を緩和するために最近注目され始めたのが、ミレーナです。もともとは子宮のなかに直接入れて使う合成樹脂の避妊器具でしたが、現在では、月経困難症や月経過多の治療においても有効と認められ、保険適応となっています。

ミレーナから放出される黄体ホルモンが、子宮の内膜に直接作用することで内膜が厚くなるのを防ぎ、月経量が少なくなることで、月経困難症や月経過多の改善が期待できます。ピルと同じく不正出血などの副作用がありますが、黄体ホルモンしか含んでおらず、しかも子宮内膜に局所的に作用するため、血栓症のリスクはありません。

ミレーナは、一度子宮のなかに装着したら5年間そのままで、数か月に一度定期的に通院して検診をします。保険適用で挿入時に1万5,000円程度の費用(検診費はのぞく)で済むため、ピルを5年間飲み続けるよりも、費用は抑えられるでしょう。

ただし、子宮内に直接装着して使う薬であることから、経膣分娩を経験していない人や、子宮の形によっては、うまく挿入できないこともあります。また、生理周期を整えたり、生理日をコントロールしたりすることはできません。ピルのようにホルモンバランスをコントロールする薬ではないため、PMSに対する効果も限定的です。

「PMS」については下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。

生理前に不安定になるからだとこころ 「PMS」はなぜ起こる?
生理が始まる少し前から、怒りっぽくなったり落ち込んだりといった気分の変調や、頭痛、だるさなどの不調を感じてつらいという経験はありませんか。生理前の不快な症状に悩まされているなら、それは「PMS(月経前症候群)」かもしれません。なかには家事や仕事が手につかなくなってしまう、ひどく感情的になり人間関係のトラブルに発展してしまうなど、日常、社会生活に支障をきたすケースもあります。

PMSで困っている場合、どうしたら楽になれるのでしょう。本記事では、PMSの症状や見分け方、セルフケア、治療法について解説します。自分の心と体に向き合って、快適な対処法を見つけましょう。
https://helico.life/series/healthcare-pmspmdd/

ピルにもミレーナにも、それぞれメリットとデメリットがあります。それぞれの年齢やライフスタイルにあわせたセレクトで、生理痛を上手に和らげていきましょう。もし慢性的な生理痛に悩んでいるならば、まずは病院で相談してみることも大切です。

教えてくれたのは・・・
竹元 葉先生
Sowaka women’s health clinic院長

順天堂大学医学部卒。産婦人科専門医、医学博士、女性ヘルスケアアドバイザー、妊産婦食アドバイザー、ガスケアプローチ認定アドバイザー。現代女性の健康意識改善に注力。気軽に相談できる医師をモットーに活動中。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:トモマツユキ
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