熱はない、鼻水や鼻づまりもない、体のだるさもないけれど咳だけがおさまらない。風邪の諸症状はとっくに落ち着いたのに咳だけが長く続いている。そんな「空咳」の症状にお困りの方、もしかしたらそれは「咳喘息(せきぜんそく)」かもしれません。
あまりなじみのない病名かもしれませんが、大人になってから発症する人が多く、放置しているとより重篤な「気管支喘息」に移行することも。花粉症などのアレルギーとも関連が深い、咳喘息の原因や対処法を解説します。
この記事でわかること
- 空咳とはどのような症状であるのか
- 空咳の症状が見られる主な病気
- 咳喘息の主な症状・原因
- 咳喘息が疑われるときには何科の病院に行くべきなのか
- 教えてくれるのは・・・
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- 新実 彰男先生
- 名古屋市立大学大学院 医学研究科 呼吸器・免疫アレルギー内科学 教授
名古屋市立大学病院 呼吸器アレルギー内科 部長
日本咳嗽学会 理事長
咳喘息、気管支喘息の治療指針である『喘息予防・管理ガイドライン2024』の作成副委員長、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2024』の咳嗽部門委員長も務める、慢性気道疾患のエキスパート。
空咳とは?症状の特徴や疑われる病気
空咳とは
空咳とは、「コンコン」という、痰が出ない乾いた咳の症状です。「ゴホゴホ」「ゲホゲホ」といったような、痰が絡む湿った咳とは区別されます。
刺激のある気体を吸い込んだり、誤って飲み物が空気の通り道(気道)に入ってむせたりすると、健康な人であっても一時的に空咳が出ることがあります。
空咳が出るときに疑われる病気とは
空咳は以下の病気にかかっているサインかもしれません。
- 咳喘息
- かぜ
- インフルエンザ
- アトピー咳嗽(アレルギー)
- 胃食道逆流症 など
これらの病気の症状として、空咳が多く出るといわれています。
本記事では、そのなかでも、かぜの症状が落ち着いたあとも空咳が続く場合にしばしば疑われる「咳喘息」に焦点を当てて詳しく解説します。
咳喘息とは? 症状を解説
「咳喘息」とは、慢性的に続く空咳だけを症状とする喘息です。発熱が見られないことも特徴です。
一般的に「喘息」というと、気管支喘息をイメージすることが多いかもしれません。気管支喘息は、空気の通り道(気道)である気管支が狭くなって、呼吸する際にゼーゼー・ヒューヒューという音(喘鳴/ぜんめい)がしたり、息苦しさを感じたりします。
一方、咳喘息は気道が気管支喘息ほど狭くはならないため、空咳だけが出るのが特徴です。
大人になってから発症する場合も
咳喘息は子どもよりも30~60代くらいの世代に多く、男性よりも女性の患者数が多い病気です。大人になってから発症する人が多いので、子どものころに喘息と縁がなかったからといって、咳喘息にならないとは限りません。
なお、気管支喘息もじつは成人になってから発症する割合が多く、これまで「喘息は子どもの病気」だと思っていた人は、この機会に認識をアップデートしましょう。
咳喘息が起こる原因は?
咳喘息の原因は、6割程度がアレルギーによるものです。花粉やダニ、ホコリなど、アレルギーを引き起こす原因物質(アレルゲン)が気道内に侵入し、炎症を起こして腫れぼったくなることで気道が狭くなり、咳が出やすくなります。アレルギー以外にも、風邪などのウイルス感染や空気中に存在する刺激物質が原因となって発症あるいは悪化することがあり、深夜や早朝に咳き込みやすくなるのが咳喘息の特徴です。
また、気道が炎症を起こしていると、外から入ってくる刺激に対して過敏に反応するようになり、湯気や冷たい空気、たばこの煙、香水などを吸い込んだときにも咳が出ることがあります。
ほかにアレルギー症状があると咳喘息になりやすい?
咳喘息を患っている人のうちの半数程度が、花粉やダニ、ホコリによるアレルギー性鼻炎を合併しています。また、家族に咳喘息を含めたアレルギー疾患の人がいると、咳喘息にかかりやすいことがわかっています。
ただし、犬や猫などのペットがアレルゲンである場合は、咳喘息よりも気管支喘息にかかりやすい傾向があります。
咳喘息でもほかのアレルギー疾患の場合でも、日頃から症状に対する適切な治療ができていれば、併発しやすい病気を抑えられることも多いので、放置せずに治療を受けることが大切です。
何科に行けばいい? どんな治療をするの?
もし咳が長引いたら、風邪をひいたときのように「内科」や「耳鼻科」を受診すればよいのでしょうか。ここからは、受診の目安や診察の内容、咳喘息と診断された場合の治療について解説します。
何科に行けばいい?
呼吸器内科を受診するのがいいでしょう。ただし、内科とだけ標榜している医療機関でも、専門的な検査ができる場合があるので、一概にはいえません。また、アレルギー科と表記している医療機関のなかにも、咳喘息のような呼吸器の病気を診察している医療機関はあります。
呼吸器の病気の診察ができるかどうかを確認したいときは、各医療機関のホームページをチェックしてみるとよいでしょう。「どんな病気を診られるのか」「どんな検査をしているのか」が詳細に記載されていることがあるので、受診前にチェックしてみると参考になります。
どのくらい咳が続いていたら医療機関を受診したほうがいい?
咳以外に症状がなく、3週間以上咳が続いて良くならない場合、咳喘息が疑われます。咳が長引くと、睡眠不足や体力の消耗などが起こりやすく、QOL(Quality of Life=生活の質)の低下にもつながりますし、職場などでは周囲の目が気になって心苦しく感じることもあるかもしれません。つらいと感じたら、我慢せずに医療機関を受診してください。
咳が出る病気はほかにもたくさんあるため、医療機関では、咳喘息なのか別の病気なのかを判断するための診察と検査が行われます。検査では胸のエックス線撮影に加えて、肺機能(肺活量)検査や吐く息に含まれる一酸化窒素の量を測る検査なども行われ、症状とあわせて医師が咳喘息かどうかを診断します。
咳喘息と診断された場合には、ステロイドと気管支拡張薬を吸い込んで服用するタイプの薬(吸入薬)が処方されます。
咳喘息でつらいときに自分でできることは?
咳喘息が続いてつらいときには、早急に受診をするのが望ましいですが、自分ですぐにできる対処として、以下のようなことが挙げられます。
- 加湿器などで部屋を加湿する
- 温かい飲み物を飲む
- のどを温める
- トローチ、のど飴、ハチミツを舐める
咳が出やすくなる原因の一つは、乾燥した空気や冷気などで気道が刺激されることです。そのため、加湿や温かい飲み物を飲むことによってのどが潤い、気道への刺激が抑えられると、咳喘息の症状が和らぐ可能性があります。
ただし湿度を上げすぎてしまうと、カビの発生やダニの増殖につながり、かえって悪化させてしまうことがあるので、注意しましょう。
咳喘息は治る?
咳喘息は慢性の病気なので、多くの人が年単位の長期にわたって症状と付き合っていくことになります。治療によって咳と気道の炎症が収まったら、少しずつ薬を軽くしていきますが、風邪などが引き金となってまた症状が悪化する可能性も。
症状が軽くなったからといって自己判断で薬の服用をやめてしまうと、症状の再発や肺の呼吸機能が落ちてしまうことにつながりかねないので、医師の診察のもと、しっかり治療を続けることが大切です。
もっと知りたい咳喘息Q&A
ここからは、咳喘息に関するよくある疑問についてお答えします。
Q.「咳喘息」から「気管支喘息」に移行する可能性はある?
【A】咳喘息を治療せずにいると、そのうち3割程度は気管支喘息に移行する可能性があるといわれています。気管支喘息は、咳喘息よりもさらに気道が狭くなり、気道の奥にある気管支にも炎症が広がって狭くなるため、喘鳴(ぜんめい)や息苦しさが症状として現れます。移行してしまうと症状がより重篤になるので、早めの治療が大切です。
Q.咳喘息で仕事・学校を休む目安はどのくらい続いたとき?
【A】咳の症状が3週間以上続くことが咳喘息の目安とされていますが、つらいと感じた時点で、無理せず会社や学校を休んで医療機関を受診しましょう。
咳が止まらず、寝不足になってしまったり、仕事や勉強がままならなかったりと、生活に支障が出ているのであれば、なおさら早急に対処することをおすすめします。
Q.咳喘息を予防する方法はある?
【A】自身に花粉やダニなどのアレルギー疾患があるとわかっている場合は、アレルゲンを避けることが予防策となりますが、現実的には完全に避けるのが難しい場合も多いでしょう。
アレルギー疾患に加えて、風邪や過労が引き金となって咳喘息の症状が出る場合もあるので、健康的な生活習慣を心がけることも予防のひとつとなり得ます。いずれにしても症状が出たら早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
Q.新型コロナの感染と咳喘息の関係は?
【A】新型コロナウイルス感染症は、オミクロン株による感染が大多数を占めるようになってから、のどの痛みや咳の症状を訴える人が一層多くなりました。
咳喘息の症状を悪化させる要因のひとつは、ウイルスによる感染症です。新型コロナウイルスもその一種のため、新型コロナウイルス感染がきっかけとなって咳喘息の症状が悪化したり、咳喘息を発症したりすることもあります。なお、気管支喘息についても同じことがいえます。
咳喘息は、治療が長期にわたる病気です。咳がつらいときは我慢せずに医療機関を受診し、信頼できる医師と一緒にじっくり治療に取り組んでいきましょう。