花粉症は、鼻だけではなく目の症状もつらいもの。花粉が飛ぶ時期は目のかゆみや涙目に悩まされ、「目が疲れやすい」「眠れない」「仕事や勉強に集中できない」などとお困りの方も多いでしょう。花粉以外にも、ダニやホコリが原因で、同様の症状に悩まれている人もいるのではないでしょうか。
アレルギーによる目のかゆみは、原因を回避しながら点眼薬をうまく使えば、症状をある程度コントロールしていくことができます。本記事では、目のアレルギー症状を少しでも楽にするために注意すべきことや、点眼薬の上手な使い方、眼科での治療法、家庭でできることについて解説していきます。
花粉症による目のかゆみは「季節性アレルギー性結膜炎」
花粉症はアレルギー疾患のひとつであり、花粉の飛散時期にだけ起こる目のアレルギーを「季節性アレルギー性結膜炎」といいます。一般に広く「花粉症」と呼ばれているのはスギ花粉によるものですが、アレルギーの原因となる花粉は日本国内で50種類以上あるとされ、飛散時期も春先だけとは限りません。
一方、季節に関係なく目のアレルギー症状を引き起こすものは「通年性アレルギー性結膜炎」といい、ダニのフンや死骸、ホコリ、動物(ペット)の毛や分泌物などが原因となって引き起こされます。
季節性、通年性ともに、アレルギー性結膜炎がもたらすトラブルで代表的なものは、目のかゆみ。そのほか、充血、まぶたの腫れ、白目の浮腫(むくみ)、涙があふれる、サラサラした目ヤニが出ることなどもあります。
なぜアレルギーで目がかゆくなるの?
花粉やホコリなどでなぜ目がかゆくなるのかというと、目は外界と接しているために、アレルゲン(花粉、ダニなどのアレルギーの原因となる物質)が侵入しやすいことが挙げられます。
目の表面をおおう薄い透明な粘膜、「結膜」には「マスト細胞」と呼ばれるアレルギーを引き起こす免疫細胞がたくさんあります。アレルゲンが結膜に侵入しアレルギー反応が起こると、マスト細胞からはヒスタミンなどの化学物質が大量に放出されます。
このヒスタミンが「かゆみの元」となり、結膜の表面の神経を刺激して、強いかゆみを引き起こします。さらに結膜の血管に作用することで、充血や目の腫れなどのアレルギー症状が現れます。
なお、鼻から入った花粉が目の症状を引き起こすこともあるため、花粉症対策では、目と鼻、両方からの侵入を防ぐことが大切になります。
アレルギー性鼻炎については下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
- 症状が出る前に対策を!アレルギー性鼻炎のケアと治療
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早ければ1月下旬から飛散が始まるスギ花粉。「まだ真冬なのに、鼻がムズムズし始めた」という方もいるのではないでしょうか。なかには1年を通じて「風邪ではないのにくしゃみが出る」「サラサラとした透明な鼻水が止まらない」などの症状で困っている人もいるかもしれません。アレルギー性鼻炎は、花粉の飛散時期だけ症状が出る場合もあれば、年間を通じて症状が出る場合もあり、それぞれ適切なケアが大切です。https://helico.life/monthly/230102allergy-rhinitis/
この記事では、アレルギー性鼻炎の基本や治療法などについて詳しく解説します。つらい症状が少しでも軽くなるよう、アレルギー性鼻炎に関する理解を深めて、しっかり対策をとってみませんか?
「初期療法」で先回り。花粉シーズンを今年こそ楽に過ごそう
目のアレルギー症状をやわらげるための重要なポイントは2つあります。まずは、日常生活のなかで、アレルゲンを目や体に侵入させないこと。もうひとつは、目のかゆみなどの諸症状は点眼薬で軽減させること。とくに花粉対策は、花粉の飛散開始前から始める「初期療法」が有効です。
初期療法とは、花粉飛散開始予測日の約2週間前、または少しでも症状が現れた時点で抗アレルギー薬の点眼を開始するというもの。保険診療として認められており、症状の出る時期を遅らせる、症状が軽くなるといった効果が期待できます。
毎年、花粉症の時期に目の症状が出やすい人は、1月から花粉飛散情報をニュースなどでチェックして、飛散が始まる前に眼科を受診し、医師に相談してみましょう。
市販と処方薬どちらを選ぶ? 点眼薬の活用ポイント
抗アレルギー点眼薬は、薬局やドラッグストアでも入手できます。ただ、市販薬は処方薬に比べて効き目がゆるやかなのが特徴です。種類も多いので、自分にあった点眼薬がわからないときには薬剤師や登録販売者に相談してみるとよいでしょう。
また、下記のようなときには眼科を受診しましょう。
□市販の点眼薬を使っても症状がよくならないとき、点眼薬が目にしみるとき
□充血、まぶたの腫れ、痛みがあるとき
□花粉症の初期療法を受けたいとき
□ドライアイの症状があるとき
ドライアイで涙の量が減ると、アレルギー症状も悪化しやすいため、花粉症と並行して治療を受ける必要があります。また、花粉症の症状が出ているときでもコンタクトレンズを使用したい人は、医師や薬剤師に必ずそのことを伝えるようにしてください。
点眼薬を使うときの注意点は?
抗アレルギー点眼薬は、継続して使用すると、かゆみの軽減と予防に対する安定した効果が得られます。自己判断で中断することなく、点眼の用法・用量を守って、使い続けることが大切です。
昨シーズンの点眼薬が余っていても使い回しはせず、シーズンごとに新しいものを使用しましょう。アレルギー性鼻炎も併発している人は、飲み薬や点鼻薬を併用すると症状が軽減しやすくなります。飲み薬には眠くならないタイプもあるので、車の運転をする必要がある、重要な仕事や試験などがあり眠くなると困るといった場合には、医師に相談してみてください。
意外と知らない? 簡単・正しい点眼薬のさしかた
①片方の手で下まぶたをやさしく下に引いて、1滴を確実に点眼します。
②点眼後はしばらくじっと目を閉じておきます。
③あふれた液をティッシュで拭き取ります。
点眼薬は基本的に1滴で十分目に行き渡ります。使いすぎると目のまわりの皮膚がかぶれるなど、副作用を起こすこともありますので、決められた用法・用量を守ってさしましょう。
知っておこう。処方薬の点眼薬
花粉症治療で用いられる処方薬の点眼薬は大きく分けて、「抗アレルギー点眼薬」(ヒスタミンH1受容体拮抗薬やメディエーター遊離抑制薬)と、炎症が強いときに用いられる「ステロイド点眼薬」があります。通常は抗アレルギー点眼薬を花粉の飛散が終息するまで継続して使うことで、花粉シーズンを快適に過ごせます。ステロイド点眼薬には眼圧上昇などの副作用があり、使用するときは医師への相談が必要です。
かゆみ目対策にすぐ役立つセルフケア
アレルギー対策として、日ごろから生活環境を整えておくことも大切です。「抗原回避」と呼ばれる、アレルゲンを目や鼻に侵入させないための対策は、つらい症状を回避するための基本のキ。治療と並行してセルフケアを取り入れることで、症状を引き起こすリスクがぐっと下がります。
日常にぜひ取り入れてほしい、セルフケアのポイントをご紹介します。
ポイント1:アレルゲンを避ける
外出時にメガネをかけるだけでも、目に入る花粉の量は半分以上カットできます。花粉症用メガネならさらに効果的。コンタクトレンズの人はダテメガネを活用しても◎。そのほかにもマスクやつばのついた帽子、ツルツルした素材のコートなどを着用して花粉との接触を避けましょう。
できるだけ花粉を家のなかに持ち込まないようにするため、帰宅時には、玄関前で花粉を払ってから室内に入り、すぐにうがいと洗顔を。目に花粉が入ったと思われるときは、防腐剤フリーで涙の成分に近い人工涙液(涙に近い成分の液体)などを使って目を洗いましょう。
ポイント2:体調・室内環境を整える
疲労やストレスをためないように、睡眠や休養を十分にとって体調を整えて過ごしましょう。また、乾燥は目にとって大敵。加湿器で室内環境を良好に保つのも目をいたわることにつながります。
通年性アレルギー性結膜炎を患っている場合には、居住空間からダニやホコリをなるべく排除することが大切です。こまめに掃除をする、空気清浄機を活用する、ダニの住みかになりやすいぬいぐるみを処分する、防ダニ効果のある布団に替えるなど、ダニ、ホコリ、カビなどを減らすことを心がけましょう。
ポイント3:かゆくても目は強くこすらない、がまんできないときは冷やす
目をこするとマスト細胞が刺激され、かゆみがさらに悪化したり、角膜に傷がついたりすることがあります。また、炎症や感染症につながる可能性や、圧迫によって目の水晶体や網膜がダメージを受ける場合も。つらくてもあまり目はこすらないようにしましょう。
かゆみを引き起こす神経は、結膜や目のまわりの皮膚にあります。どうしてもかゆい場合には、応急処置として清潔なタオルを冷水で洗い、目にあてて目の周りを冷やすと、かゆみが楽になることがあります。
ポイント4:コンタクトレンズはメガネと使い分けるとベター
花粉症シーズンは、コンタクトレンズをひと休みすることも検討しましょう。清潔にしているつもりでも、コンタクト装用中は涙の量が少なくなり、目に花粉がとどまりやすくなります。
コンタクトの汚れや刺激によって起こるアレルギー性結膜炎のひとつ、「巨大乳頭結膜炎」は、まぶたの裏にブツブツができる疾患。この状態まで進んでしまうと、コンタクトレンズの使用を中断して治療する必要が出てきます。
最近では、花粉などの汚れがつきにくいコンタクレンズや、抗アレルギー薬配合のコンタクトレンズも出ていますので、眼科医と相談のうえ、つらい時期だけそうしたコンタクトレンズを選ぶのもよいでしょう。
ポイント5:洗眼時の注意点とおすすめの洗い方
いくら花粉が気になるとはいえ、何度も目を洗ったり市販の点眼薬を使いすぎたりすると、目のトラブルにつながりやすいので要注意。点眼薬に入っている防腐剤は、健康な人にとっては影響がなくても、重症のドライアイ、コンタクトレンズの長時間使用者、緑内障患者のような、複数の点眼薬を使用している人には悪影響が出る場合があります。
おすすめは防腐剤が入っていない市販の人工涙液。これを適量使用することで、目の表面を洗うことができます。人工涙液は、コンタクト装用時にも使えます。
目は、日常のなかで重要な役割を果たす感覚器官だからこそ、かゆみなどの不快な症状があるとなおさらつらいもの。適切な治療と日々のセルフケアで、できるだけ快適に、健やかに過ごしていきましょう。
- 教えてくれたのは・・・
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- 海老原 伸行先生
- 順天堂大学医学部附属浦安病院 眼科教授
順天堂大学医学部を卒業。丁寧・わかりやすい説明をモットーに日々患者さんの診療に取り組む。眼の炎症疾患であるアレルギー性角結膜炎・ブドウ膜炎・糖尿病網膜症の病態解明や新規治療薬の開発に尽力している。医学博士。日本眼科学会 眼科専門医・眼科指導医。日本眼科アレルギー学会理事長。日本アレルギー学会常務理事。