多くのアレルギー疾患は子どものころに発症しますが、小児アレルギーは大人のアレルギーとは違った特徴があります。成長にともなって自然と症状が改善していくケースもあれば、もともとかかっていたアレルギーとは別のアレルギー疾患が現れる「アレルギーマーチ」という現象が起こることも。
そうした小児アレルギーの特徴を知っておくと、子どもの様子の変化に気づきやすくなったり、対処もしやすくなったりします。本記事では、アレルギーマーチとはどういうものなのか、典型的なパターンや症状改善のために家族ができることについて解説していきます。
成長するにつれ別のアレルギーが現れる「アレルギーマーチ」
アレルギー疾患はもともと大人よりも子どもに多く、その多くは12歳ごろまでに発症します。子どものアレルギー疾患は、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合い発症していくと考えられており、なんらかのアレルギー疾患がある場合、ほかのアレルギーをいくつかあわせ持っているケースも少なくありません。
典型的なのは、0歳でアトピー性皮膚炎、ミルクを飲んで吐く・下痢をするなどの消化器症状や食物アレルギーが現れ、その後1〜2歳ごろに気管支喘息、6歳ごろからはアレルギー性鼻炎や花粉症がでてくるパターンです。このように、子どもが成長するにつれて、新たなアレルギー疾患に次々とかかっていく現象を、「アレルギーマーチ」と呼んでいます。
これらのアレルギー疾患は成長とともに治る、または症状が軽減していくケースも多いことが知られているため、アレルギーマーチを過度に恐れる心配はありません。しかし、こうした特徴を念頭に置きながら、それぞれのアレルギー疾患に対して、専門の医師による治療と管理をしっかり行っていくことが大切です。
アレルギーマーチに気づくには〜年代別の特徴を知る〜
ここでは子どもの成長にともなって現れやすいアレルギーについて、発達の時期ごとにまとめました。
乳児期から幼児早期(0〜2歳ごろ)
アレルギーマーチの始まりの時期であり、食物は最初に出合うアレルゲンといわれています。乳児期に現れやすい主な疾患は、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーです。しかし、この時期はまだ抵抗力も弱くいろいろな病気にかかりやすいため、症状がアレルギーを原因とするものなのかを判断するのが難しくもあります。
たとえば、牛乳を飲むと必ず下痢をする場合は、牛乳アレルギーではなく、牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を消化吸収のため分解する消化酵素を持ち合わせていない「乳糖不耐症(にゅうとうふたいしょう)」の可能性もあります。下痢が止まらない場合は、医師と相談をしましょう。
幼児期(2〜6歳ごろ)
消化器をはじめとする各器官が発達してくるので、乳児期のアレルギー疾患が軽くなったり治ったりすることもあります。食物アレルギーがある子どもは食べられるものが増えてくることがあるので、主治医と相談のうえ、食習慣の見直しを行いましょう。一方で、子どもの気管支喘息の約8割が3歳までに発症しているというデータもあるため、注意しておきたいところです。
学童期(6〜12歳ごろ)
幼児期に発症した喘息などのアレルギー疾患がよくなる傾向があります。一方で、活動範囲が広がることや花粉など屋外のアレルゲンに接する機会が増えることから、花粉症(アレルギー性鼻炎・結膜炎)になりやすくなります。
ただし、もちろん個人差はあり、みんなが同じ経過をたどるということでもありません。初めて発症するのがアトピー性皮膚炎とも限らず、先に花粉症や食物アレルギーを発症することもあります。気になる症状や心配なことがある場合には、小児科の主治医やアレルギー専門医に相談しましょう。
子どもの食物アレルギーについては下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
- 知っておきたい!子どもの食物アレルギーの種類と特徴
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近年増加傾向にある子どもの「食物アレルギー」。家庭ではどう対処すればいいのか、予防はできるのかなど、日々悩んでいる保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。https://helico.life/monthly/230102allergy-childfoodallergies/
アレルギーは、医師と相談しながら対処していくことが大前提ですが、家族も正しい知識を持っておくことが大切です。本記事では、子どもの食物アレルギーの種類や特徴を紹介しながら、望ましい対処法や医療機関のかかり方などについての情報をお届けします。
アレルギーマーチが起こりやすい人はいる?
アレルギーマーチは、アレルギーになりやすい体質の人に起こりやすいと考えられています。両親などの家族に、何らかのアレルギー疾患の人がいると、子どもがアレルギーを発症するリスクが高くなります。
また、アレルギーマーチの出発点は、乳児期に皮膚からアレルギーの原因物質(アレルゲン)が体内に入り込むことが一因だと考えられています。なかでも、アトピー性皮膚炎の子どもは皮膚のバリア機能が破綻しているために、ダニ、花粉、食物の成分などのアレルゲンが皮膚を介して体内に入り込みやすくなっています。
つまり、湿疹やアトピー性皮膚炎などの肌トラブルを経験した赤ちゃんは、そのときに侵入してきたアレルゲンに対してアレルギー反応を起こす準備が整ってしまい、その結果、アレルギーマーチが進行しやすいと考えられるのです。
家族にできることは「子どもの変化に敏感になること」
アレルギーマーチの進行は、体質のほかに生活環境も大きく関係しています。
乳児期から幼児期にかけて起こるアレルギーマーチのアレルゲンは、食物からハウスダストなどに変化していくケースが多いとされているため、こまめな掃除でダニやホコリなどを除去するとよいと考えられています。
さらに、ウイルス感染回避のための手洗いやうがい、運動などで体力をつけておくといった対策も取り入れると有効でしょう。まずは、無理のない範囲でできることから心がけてみましょう。
子どものアレルギー疾患は、成長にともない自然に、あるいは適切な治療によって一定の確率で治っていく可能性があります。
まずは正しい診断を受け、適切な治療に早くつなげることが重要です。そのためには、保護者がアレルギー疾患の発症の可能性に早く気づいてあげることが大切なので、子どもの変化を見逃さないように、日ごろから様子をよく見ておきましょう。
- 教えてくれたのは・・・
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- 今井 孝成先生
- 昭和大学医学部小児科学講座 教授
東京慈恵会医科大学医学部を卒業後、昭和大学小児科学講座に入局。独立行政法人国立病院機構相模原病院小児科を経て、2019年より現職。専門は小児アレルギー全般、特に食物アレルギーやアナフィラキシー。診療や後進の指導に当たりながら、厚生労働科学研究班「食物アレルギーの栄養指導の手びき」の作成委員長を務め、日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」の作成委員や、自治体の食物アレルギー対応マニュアルの監修にも携わる。近著に『こどものアレルギー基礎BOOK 心配になったら一番先に読む本』(日東書院)などがある。