こんにちは。みなさんといっしょに腸活をして、体調を良くしたいと思っているコアラ女子「アラコ」です。仕事に家事に忙しい日々。体に良いものを摂って「腸活」もしてるけど、なかなか良くならないわ……ああ、悩んでたらお腹が痛くなってきちゃった……そういえば、緊張するとお腹の調子が悪くなることもあるわよね。江田先生、ストレスと腸の関係について詳しく教えてください!
- 教えてくれるのは・・・
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- 江田 証先生
- 江田クリニック院長
1971年、栃木県生まれ。自治医科大学医学研究科修了。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学専門医。米国消化器病学会(AGA)インターナショナルメンバーを務める。消化器系がんに関連するCDX2遺伝子がピロリ菌感染胃炎で発現していることを世界で初めてAGAで発表し、英文誌の巻頭論文として掲載。国内外から来院する多数の患者を胃内視鏡、大腸内視鏡で診察しているほか、テレビや各種メディアなどでもおなじみ。『腸のトリセツ』(学研プラス)、『まいにち腸日記』(池田書店)、『新しい腸の教科書』(池田書店)、『不腸リセット』(ナツメ社)、『すごい酪酸菌 病気になる人、ならない人の分かれ道』(幻冬舎)など著書も多数。
大事な場面でお腹の調子が悪くなる……こんな経験ありませんか?
「通勤電車でお腹が痛くなるから途中で降りないといけない」「大事なプレゼン前はいつも、緊張してトイレに駆け込む」「進路を左右する試験でお腹の調子が悪くなってしまった」などなど、大事な場面でこのような経験をしたことはありませんか?
日常生活に支障をきたすレベルで腸の不調に悩む人はとても多く、なんと日本には約1700万人も。その多くが「過敏性腸症候群(IBS)」といわれており、お腹の症状で消化器科を訪れる人の3割にものぼります。しかも、内視鏡検査や便潜血検査、超音波検査などを行っても、異常が見つからない場合がほとんどだというので厄介です。
(過敏性腸症候群については、『要注意!体に合わない食事で間違った腸活してない?』で詳しく解説していますので、そちらもご覧ください。)
お腹の不調はストレスが原因のことも
過敏性腸症候群の原因はさまざまですが、緊張などのストレスが原因になることもあります。本連載の第1回『まずは知ろう「腸」のこと。腸は“第二の脳”?』でもご紹介しましたが、脳と腸はどちらか一方からではなく、お互いに影響し合っていることがわかってきており、近年注目されています。緊張やプレッシャーでお腹のトラブルが起こるのは、この「脳腸相関」によるものです。
ストレスがかかると、
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脳の「前頭葉」にある一部の領域が興奮状態になり、「視床下部」にストレスの信号が伝わる
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視床下部から「CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)」が分泌される
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CRHが迷走神経を介して腸まで達すると、「脱顆粒(だつかりゅう)」(腸の中での肥満細胞の破裂)が起こる
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肥満細胞が破裂すると、ヒスタミンという物質を放出する
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ヒスタミンが腸の粘膜で炎症を起こすため、お腹に痛みが起こる
というメカニズムです。
ストレスが一時的なものであればすぐに回復しますが、長期間続くと腸の炎症が常態化してしまい、お腹の不調だけでなく、体の至るところに不調が現れるようになります。
ストレスが下痢を引き起こす
大切な場面で緊張したり、プレッシャーを感じてお腹が痛くなってしまったりするのは、過敏性腸症候群の症状の一つです。「絶対に失敗できない!」と思えば思うほど、強い不安やストレスを感じて副交感神経が働きすぎてしまい、腸の動きが活発になることで下痢を引き起こします。
楽しい旅行がストレスに?
また、旅行に行くと必ず便秘になってしまう人がいます。これは、知らない土地で無意識に不安を感じたりすることがストレスになり、交感神経が働きすぎてしまうことで腸の動きが鈍くなって起こります。旅先では、できるだけリラックスして楽しむことが大切です。
お腹の調子が悪いと心の調子も悪い
お腹の不調はメンタルヘルスにも影響があることがわかっています。脳と腸が密接に関わっているため、心の状態と体の状態もリンクしているのです。現在、コロナ禍で便秘や下痢に悩む人も増えています。
なかでも、腸と「うつ」との関係も最近の研究によって少しずつ解明されてきました。うつは、人間の心の状態を左右するセロトニンというホルモンの減少で起こることが知られていますが、その9割は腸で作られています。「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、腸のぜん動運動(腸を収縮して動かす力)を促す働きも担っています。そのため、セロトニンが不足すると腸の動きが鈍くなるため便秘になりやすく、心の状態もうつ傾向になるといわれています。お腹の状態がすぐれないと、心もすぐれません。そして、その逆もまた然り、なのです。
不調を防ぐには、考え方のクセがカギ
脳腸相関によって、お腹と心の双方に不調が起こることがわかりましたが、それは未然に防ぐことができるのでしょうか? 解決のカギを握るのが、「認知行動療法」というもの。物事が起きたときに、それに対する自分の心の反応をコントロールすることで、体の反応を和らげようという心理療法のひとつです。
例えば、何か悪いことが起きたとき、「また悪いことが起きるに違いない」など、とっさにネガティブなことを考えてしまうこともあると思います。これを「自動思考」といい、いわゆる“考え方のクセ”のようなもの。この自動思考をきちんと拾い上げて矯正していくことで、腹痛が起こりにくくなるといわれています。
極端なネガティブ思考は、過剰に不安を抱えてしまっている状態。そこに意識を向け、まずは「過剰な不安を抱えている」という自分の状態に気が付くことが大切です。そこから、「どんな考えが腹痛を起こすきっかけとなったのか」を冷静に分析してみましょう。この認知行動療法を実践することで、脳腸相関によるお腹の不調が改善されることは科学的に証明されており、多くの論文が発表されています。
日々の仕事によるストレスなどは、避けることが難しいかもしれません。だからこそ、過剰に反応することなく、発散したり、自分の時間を楽しんだりしながら、ストレスとうまく付き合っていきたいものですね。