2

思春期に起こりやすい体の不調とその理由

朝起きられないことが増えた。
口を開けば「だるい」「頭が痛い」。
他人の視線を気にして鏡ばかり見ている。
体型を気にしてごはんを食べない。

思春期の体や心の急激な変化は、ときにこうした不調や困りごとに姿を変えて、私たちの前に現れます。わが子が不調や困りごとを抱えたとき、大人はどうケアするのがよいのでしょうか? 子どもの体と心の不調に寄り添い、日々診療をしている小児科医の呉 宗憲先生に伺いました。

教えてくれるのは…
呉 宗憲先生

1977年、台湾生まれ。東京医科大学を卒業後、初期臨床研修を経て東京医科大学小児科へ入局。日本赤十字社医療センター新生児科、東京医科歯科大学細胞治療センターなどで研鑽を積み、東京医科大学茨城医療センター小児科科長、東京都立小児総合医療センターへの出向を経て現職に至る。日本小児科学会代議員・専門医、日本小児心身医学会理事・認定医・次世代育成検討室長・研究委員長・各種ガイドライン作成委員、日本頭痛学会専門医・ガイドライン作成委員、子どものこころ専門医機構認定子どものこころ専門医。東京医科大学病院小児科・思春期科では「子どものこころとからだ(ここ×から)外来」を担当している。趣味はラーメン。

思春期に心身の困りごとが起こりやすいのはなぜ?

思春期は、年齢でいうと8~9歳ころから17~18歳ころまでの期間にあたります。この約10年の間に心も体も大きく成長を遂げ、子どもから大人へと変わっていきます。それこそ体のなかでは日々めまぐるしい変化が起こっているといっても過言ではありません。

思春期に心や体が不安定になりがちなのは、そうした急激な体の変化が関係しています。

自律神経のアンバランスさの影響も

思春期の体の不調や困りごとには、自律神経のアンバランスさが少なからず影響しています。自律神経は、自分の意思では調節できない体の働き――たとえば呼吸や血圧、体温などをコントロールしている神経系です。自律神経がこれらをコントロールしているおかげで、私たちは安定した体調で日々過ごすことができています。

しかし、自律神経はとてもナイーブ。ストレスなどの影響を受けると、すぐにバランスを崩してしまいます。思春期には、体の急激な成長に自律神経がついていけなくなることも少なくありません。自律神経は体内時計とも密接に関わっていて、自律神経の乱れが体内時計を狂わせ、睡眠のリズムが乱れてしまうこともあります。

また、思春期は性ホルモンの本格的な分泌も始まります。急激にホルモンの分泌が増えるので、心身のバランスが崩れてしまうこともあるでしょう。

このように思春期は、何かとバランスを保つのが難しい時期です。アンバランスな状態が重なり、体の困りごととして現れやすいのが、思春期の特徴といえます。

思春期に起こりやすい症状と親ができるケア

ここからは思春期に起こりやすいさまざまな困りごとのうち、代表的なものをいくつかご紹介します。お子さん自身や周りの大人ができる対処法も一緒に解説します。

困りごと①:朝起きられない

早起きが苦手でも、多くの人は頑張れば朝起きることができています。でも、なかには「頑張っても起き上がることができない」「午後になれば起きられるけれど、午前中はどうしても無理」という人もいます。

朝起きられないという困りごとの背景には、

  • 睡眠不足や体内リズムの後退
  • 自律神経の乱れなどによる血圧、心拍の調節障害
  • 学校生活や家庭環境でのストレス

などが積み重なっている可能性があります。こうした症状があり病院に行くと、「起立性調節障害」という血流障害の一種と診断されることもあるでしょう(※)。

最初のうちはなんとか頑張って起きられていても、あるとき、ついに頑張りがきかなくなり、症状が現れることが多いのがこの困りごとの特徴です。周囲から見ると急に起きられなくなったように見えるかもしれませんが、本当は「急に」ではなく、ちょっとずつ積み重なった結果、生じているのです。

朝起きられなくても、午後になればスッキリ起きて元気に過ごせている、食事もできているという場合は、そのまましばらく様子を見てもよいでしょう。ゆっくり体を休めて自律神経のバランスが整ったら、朝起きて夜眠るという生活が送れるようになるかもしれません。

ただし、起きた後も食欲が湧かなかったり、気持ちの落ち込みなどの抑うつ症状が見られたりする場合は、早めに病院で診てもらうことをおすすめします。

※起立性調節障害とは……思春期前後の小児に多くみられ、起立時にめまい、動悸、倦怠感、食欲不振、失神などが起きる自律神経の機能失調。立ち上がったときに血圧が低下したり、心拍数が上がり過ぎたり、調節に時間がかかりすぎたりすることで症状が起こる。

正しく知って、やさしくケア。起立性調節障害 起きれネーゼは、ぐうたらじゃない
昼間や夜は元気なのに、朝になると起きられない――。一見ただのぐうたらのようですが、実はそれ、思春期に特有の病気かもしれません。
https://helico.life/hgmweb/sisyunki-konenki-okireneze/

困りごと②:頭が痛い

いわゆる「頭痛持ち」の方の頭痛は、医学的には「一次性頭痛」と呼ばれています。一次性頭痛は、脳をMRIなどの画像診断で詳しく調べても、異常が見られないのが特徴です。緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛などのいくつかのタイプに分かれます。このうち、医療機関を受診する頻度が高いのは片頭痛です。片頭痛は、頭の片側または両側のこめかみ付近に脈打つような痛みが繰り返し起こるのが特徴。吐き気を伴うこともあります。

思春期には、自律神経のアンバランスの影響のほか、ストレスや心の葛藤が頭痛という症状になって出てくることがあると考えられています。思春期に始まった片頭痛は、大人になるにつれてよりはっきりとした症状となってあらわれます。片頭痛に悩まされている大人の方の話を聞くと、始まりが思春期だったというケースが少なくありません。

片頭痛の背景にも、睡眠不足や睡眠のリズムの乱れ、「また頭が痛くなるかもしれない」という不安などが隠れていることがあります。特に睡眠の乱れは、片頭痛のきっかけになることがわかっています。頭痛というと、脳や体の異常に目がいきがちですが、こうした影響によって痛みがあらわれることもあるのです。

頭痛を感じたときには、無理をしないことが大切です。まずは、ストレスや負担になっていることからいったん離れて、様子を見てみるとよいでしょう。そのうえで、頭痛が楽になるような対策を、可能な範囲でとってみましょう。頭痛の種類によっては、ゆっくり体を休めたほうが楽になる場合(片頭痛)もあれば、体を動かしたほうがよい場合(緊張型頭痛など)もあります。無理のない範囲で、対策を工夫してみるとよいでしょう。

なお、市販の頭痛薬や鎮痛剤などで症状が収まり楽になるなら、それも一つの解決策になります。用法・用量を守り、必要に応じて服用するのもよいでしょう。

その頭痛、あきらめないで!タイプ別頭痛の対処法
多くの方が経験するからこそ、「仕方のないこと」と片付けられがちな頭痛。頭痛が起こることが当たり前だと思ってしまっている方もいるのではないでしょうか。

でも、ちょっと待ってください! ひとくちに頭痛といっても、じつはいくつかのタイプに分類され、タイプによって対処法にも違いがあるのをご存じですか? 頭痛について理解を深めることで、上手な付き合い方が見つかるかもしれません。まずは、頭痛の基礎知識を一緒に学んでいきましょう。
https://helico.life/monthly/220304zutsuu-kiso/

困りごと③:周囲の視線が気になる

中学生くらいになると、興味関心の矢印が自分に向くようになっていきます。これはヒトの成長の自然な流れなのですが、なかにはその傾向が極端になり、他人の目が気になって仕方ないという困りごとを抱えることもあります。

鏡の前から動かない、前髪や髪型が決まらないと機嫌が極端に悪くなる、整形して顔を変えたいと強く希望するなども、こうした困りごとの一種と考えてよいでしょう。親や大人からすると、「気にしなくていいのに」と思ってしまうかもしれませんが、本人たちは大真面目に悩んでいます。子どもから悩んでいることを打ち明けられたら、まずは「そっか、悩んでるんだね」などと伝え、気持ちを受け止めてあげてください。

困りごとがあっても、日常生活が問題なく送れていれば、成長の一環ととらえて見守っていきましょう。成長とともに、落ち着いていくことも考えられます。

しかし、日常生活に影響することがあれば、医療の助けが必要かもしれません。たとえば、見た目を気にしてずっと鏡を見ているぐらいなら、思春期のよくある一場面ですが、それによって外へ出られなくなったり、「自分は醜いから外へ出るべきじゃない」と言ったりする場合は、医療に助けを求めるレベルといえます。

お子さんの様子に心配なことがあれば、子どものこころ外来や思春期外来などのある小児科への相談を考えてみてもよいでしょう。心療内科や精神科のクリニックのなかにも、対応してくれるところがあります。ホームページなどを確認して、問い合わせてみるとよいでしょう。

困りごと④:食事をしない

思春期には、スリムな体型に憧れてダイエットを始める人も増えてきます。食べたい気持ちのほうが勝り、途中でやめてしまうことが多いのですが、まれに食事を摂らない、食べても全部吐いてしまうといった極端なダイエットに走るケースもあります。

ダイエットは、自分の頑張りが体重という数字に反映されるため、結果が見えやすいという特徴があります。そのため、体重が減ることに快感を覚えてしまい、「もっと減らしたい」と極端な方法に走りやすい傾向があるのです。真面目で頑張り屋さんの子ほど、極端なダイエットをしてしまうというケースもよく目にします。

絶食、毎日数時間ランニングをするなどの過剰な運動、のどに指を入れて無理に吐くといった様子があれば、摂食障害という病気の可能性が高いといえそうです。摂食障害は患者さんの95%が女性といわれています。体重の減少が続くと、無月経、低体温、低血圧などの症状が現れ、命に関わることもあります。

もしも心当たりがあれば、ぜひ医療の力を頼ってください。親や周囲の大人は、お子さんと正面から向き合って心配していることを伝え、医療機関を受診してください。

思春期の困りごとについて考えるときに大切なこと

私たちは、体に不調や困りごとが起こると、「何が原因でこんなことになったんだろう」と、原因を突き詰めたくなります。ですが、じつは「原因はこれです」とはっきり言い切れるケースはごくわずか。不調や困りごとの多くは、さまざまな要素が絡み合って起きています。

心身ともにバランスを崩しやすい思春期は特に、さまざまなことが複雑に影響しあって、体の不調や困りごとが出ていることが多々あります。

しかも、それらはもとを正せば「成長」や「体の変化」という、避けることもどうにかすることもできないことがきっかけです。ですから、思春期に不調や困りごとが起きたときには、原因ばかりに意識を向けないほうがよいでしょう。

原因を考え始めると、「あのとき対応を変えていればよかったのかもしれない」と、後ろ向きな考えにとらわれてしまいがちです。しかも頑張り屋さんの子ほど、不調を抱えやすい傾向があります。親も子も、うまく対応できなかった過去の自分を責めてしまうこともあるでしょう。

原因を意識するよりも、「不調や困りごとはあるけれど、どうしたらいまより一歩、よい生活ができるか」を考えてみませんか? 不調の改善策を考えるというよりは、不調があっても進める方法を考えてみるというイメージです。それができると、結果として不調も減ることが多いと感じています。過去よりも、これからできること、変えられることに目を向けてみてください。

そうした工夫の一つとして、医療に頼るという選択肢があってもいいのかもしれません。

親子ともども頑張り過ぎないで

思春期の子どもたちは、幼児のときから比べるとずいぶん大人に近づいたとはいえ、まだ言語化能力も十分ではありません。なおかつ自我も確立しきっていない時期です。そんなとき、心のSOSは体の症状として出てきます。朝のだるさも、頭の痛みも仮病ではなく、本当につらいのです。

また、ある日突然、症状が現れるように見えますが、じつはその前に多くの予兆があります。たくさんの予兆が集まった結果、大きな症状となって出てくるのです。

そんな不調や困りごとを抱えた子どもたちを目にすると、励まそうとしてつい、「気にしすぎだよ」「大したことないから大丈夫だよ」と、意図せず問題を小さくするような声かけをしたり、一方で心配するあまり、大げさな対応をとったりしてしまうこともあるでしょう。ですが、それらは得てして逆効果になりがちです。まずはお子さんのサインをしっかりと受け止めましょう。

受け止めた後は、しばらくお子さんの様子を見守ってみましょう。元気そうな様子が見られたら、いつも通りに接していってください。少しずつでも調子が上向きになっているようであれば、困りごとが改善に向かうという希望が見えてきます。

しかし、なかなか改善が見られなかったり、気持ちがふさぎ込んでいるなど、心配な様子があったりする場合は、早めに専門の医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。

親子だけで抱え込まないほうがいいこともあります。子も親も、頑張りすぎずにいきましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラストマンガ:原あいみ
2

この記事をシェアする

関連キーワード

HELiCOとは?

『HELiCO』の運営は、アイセイ薬局が行っています。

健康を描くのに必要なのは「薬」だけではありません。だから、わたしたちは、調剤薬局企業でありながら、健康情報発信も積極的に行っています。

HELiCOをもっと知る
  • TOP
  • 連載
  • 思春期に起こりやすい体の不調とその理由

Member

HELiCOの最新トピックや新着記事、お得なキャンペーンの情報について、いち早くメールマガジンでお届けします。
また、お気に入り記事をストックすることもできます。

メンバー登録する

Official SNS

新着記事のお知らせだけでなく、各SNS限定コンテンツも配信!