子どもが咳き込んだり吐いてしまうと、不安で胸がいっぱいになりますよね。「風邪かな?」「何か重大な病気?」と悩むお母さん・お父さんも多いでしょう。子どもは消化器官が未熟なため、咳によって嘔吐することは決して珍しくありません。しかし、ときには風邪以外の病気が隠れている可能性も。本記事では、子どもが咳によって嘔吐しやすい理由や原因として考えられる病気、嘔吐したときの対処法などについて解説します。
この記事でわかること
- 子どもの咳と吐き気の原因
- 子どもが嘔吐しそうな場合と嘔吐してしまった場合の対処法
- 咳により吐き気がある場合に考えられる病気
- 咳や吐き気症状がある際の受診の目安
- 教えてくれるのは…
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- 岡田 隆文先生
- 四国こどもとおとなの医療センター 小児内科診療部長
日本小児科学会認定小児科専門医・指導医、日本感染症学会認定感染症専門医・指導医、小児感染症認定医。小児科医であり感染症も専門としている。患者さんやその周囲の方の不安に寄り添う分かりやすい説明を心がけ、日々診療にあたっている。
[監修者] 岡田 隆文先生:https://shikoku-mc.hosp.go.jp/section/c_infant.html
四国こどもとおとなの医療センター:https://shikoku-mc.hosp.go.jp/
子どもの咳による吐き気(嘔吐)の原因は?
子どもが咳によって嘔吐する代表的な病気として、気管支喘息、風邪、気管支炎、肺炎などが挙げられます。これらは咳が出る疾患で、症状が強い場合に咳き込んで吐いてしまうことがあります。また、咳が強く長引くことが特徴的な百日咳やマイコプラズマ肺炎などでも、激しい咳により嘔吐を誘発する可能性があります。
咳き込み嘔吐
激しく咳き込むことで、食道や胃が刺激されて嘔吐することを「咳き込み嘔吐」といいます。
乳幼児は大人よりも気管支が細いため、痰が詰まりやすく、痰を排除するために咳き込みやすくなることがあります。加えて、乳幼児は胃の入口(食道と胃をつなぐ部分)である噴門(ふんもん)の筋肉が未熟なため、胃の内容物がせりあがってきやすく、咳き込んだ刺激で嘔吐しやすいのです。
感染症
風邪やインフルエンザ、マイコプラズマ肺炎、気管支炎、百日咳などの感染症でも激しい咳が出てしまい、嘔吐を誘発することがあります。また、感染性胃腸炎などもともと嘔吐の症状がある病気では、嘔吐の前に咳をすることがあり、それを咳き込んで嘔吐したと訴える場合も。感染症時の嘔吐物の処理は、感染を広げないよう気をつけて行いましょう。
消化器疾患
激しく咳き込む病気、あるいは感染性の病気以外で咳と吐き気が起こるものとして、胃食道逆流症(逆流性食道炎)が挙げられます。特に乳児は授乳量が多い場合や、授乳後にげっぷをさせずに寝かせたときに逆流が起こりやすくなります。
医療機関へは行くべき?見逃せない咳の症状チェックリスト
長引く咳や突発的な咳は、単なる風邪ではない可能性もあります。当てはまる項目がある場合には、医療機関(小児科)の受診を検討しましょう。
見逃せない子どもの咳の症状チェックリスト
□医療機関で風邪と診断を受けたが、2~3週間経っても改善しない
□ 短時間の内に咳き込み嘔吐を繰り返す(脱水の危険性がある)
□ 本人が息苦しいと訴えている、あるいは肩で呼吸するなど苦しそう
□ 「ケンケン」という咳をしたり、息を吸う際に「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音が聞こえたりする
□ 咳き込んでしまい、横になって寝られない
□ 食事中に急に咳き込んで嘔吐した(誤嚥(ごえん)や食物アレルギー)
子どもが嘔吐しそうな場合の対応方法
子どもが咳き込んで嘔吐しそうな場合には、寝ているときであれば体勢を変えてあげる、食事や水分を一度に摂らずにこまめにあげるといった工夫ができます。
寝た状態で嘔吐しそうなときは、体勢を変えてあげる
子どもが仰向けに寝たまま咳き込み、嘔吐しそうなとっさの場合には体勢を横向きに変えてあげるとよいでしょう。仰向けのまま嘔吐すると、吐しゃ物がのどに詰まり、窒息の原因になることもあるため、横向きに変えることでそのリスクを減らせます。嘔吐しそうなものの少し余裕がある場合には、無理して嘔吐を止めようとはせず、上半身を起こして座らせるなど、本人が吐きやすい体勢にしてあげてください。
食事と水分は少量ずつ摂らせる
一度にたくさんの食事・水分を摂ると、咳き込んだ反動で嘔吐しやすくなります。そのため、咳き込んで嘔吐しそうな場合は、少量ずつこまめに食事・水分補給をしてあげることが望ましいです。
子どもが咳き込んで吐いてしまった場合の対応方法
子どもが咳き込んで嘔吐してしまった場合、優しく声がけをして、熱の有無などに関わらず感染を予防する前提で嘔吐物の処理をするのがベストです。また、水分補給や食事量の調整、場合によっては医療機関受診の検討などがあります。
子どもへの声かけと嘔吐物の処理
咳き込んで嘔吐した直後は子ども自身も驚いているため、まずは優しく声をかけて安心させましょう。嘔吐物の処理は、特にインフルエンザや感染性の胃腸炎(ノロウイルス)などが考えられる場合は、注意して処理しましょう。
感染を広げない嘔吐物の処理方法
1. 使い捨てのマスクやガウン、手袋などを着用する
2. ペーパータオルなどで静かに拭き取り、塩素消毒後、水ぶきをする
3. 拭き取った嘔吐物や手袋などは、ビニール袋に密閉して廃棄する。その際、できればビニール袋のなかで1000ppmの塩素液に浸す
4. しぶきなどを吸い込まないようにする
5. 終わったら、丁寧に手を洗う
(参考:厚生労働省―ノロウイルスリーフレット)
※嘔吐物がついてしまった布類の洗濯方法ついてはこちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
https://helico.life/hgmweb/shokuchudoku-ouchigee/
食事は消化が良く、常温もしくは温かいものを
嘔吐後はすぐに食事を摂るとまた吐いてしまう可能性があるので、食事は水分が摂れたあとに少量ずつ食べさせてあげるのが望ましいです。食事は、できるだけ消化によいお粥や煮込みうどん、バナナやすりおろしたりんごなどがおすすめです。冷たいものは胃に刺激を与え嘔吐しやすくなることもあるので、常温、もしくは温かいものが望ましいといえます。
水分は様子を見ながら。食事が摂れない場合は経口補水液を
何度かに分けて嘔吐することもあるため、嘔吐の直後に水分を与えることは避け、吐き気が治まったあとに様子をみながら少量ずつ水分補給を促しましょう。食事と同様に冷たいものは刺激になるため、常温もしくは温かい飲み物を与えてあげるとよいです。
なお、食事があまり摂れていない場合には低血糖になることもあり、それによってさらに吐き気をもよおすことも。食事が摂れずに少しぐったりしている様子が見られた場合には、経口補水液(なければスポーツドリンクや薄めたりんごジュースなど)を飲ませてあげましょう。
咳と吐き気が起こりやすい呼吸器疾患
気管支喘息
空気の通り道である気道が慢性的に炎症しており、何らかの理由で発作が起こると、気道が狭くなって咳き込んだり、息苦しくなったりする病気です。風邪などがきっかけで慢性的な炎症を起こすこともあれば、アレルギーによって生じることもあります。
よくある症状として、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった喘鳴(ぜんめい)と呼ばれる症状が発生します。夜間から早朝にかけて発作が起こりやすいのも特徴です。
咳と吐き気が起こりやすい感染性の疾患
感染性の疾患の原因や症状はさまざまですが、基本の感染予防対策は石鹸を使用した丁寧な手洗いです。特に、調理の前やトイレのあとは注意が必要です。また、手洗い後は必ず清潔なタオルで拭きましょう。
感染性胃腸炎
ウイルスや細菌への感染が原因で起こる病気です。原因となる病原体によって、ウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎に分けられます。ウイルス性胃腸炎ではノロウイルスやロタウイルスなどが原因となることが多く、細菌性の場合にはカンピロバクターやブドウ球菌などが原因として挙げられます。ウイルス性は冬に、細菌性は夏に流行しやすいのが特徴です。
嘔吐や下痢、発熱などが見られますが、鼻水や咳など風邪のような症状が見られることも。咳き込んだ反動で嘔吐することがあるため、嘔吐物の処理には注意が必要です。
インフルエンザ
インフルエンザウイルスの感染後、1~3日程の潜伏期間を経て発症します。症状は約1週間で軽快することが多いですが、子どもの場合は中耳炎を引き起こしたり、熱性けいれん、気管支喘息などを誘発することがあります。
よくある症状として、38℃以上の発熱や、頭痛、全身の倦怠感、筋肉・関節の痛み、咳、鼻水などが見られます。
気管支炎
主にウイルスが気管支に感染して起こる病気で、発熱や咳、鼻水といった風邪の症状から始まり、数週間で軽快します。
痰の絡んだ咳のほかに、発熱や鼻水といった風邪の症状を伴うことが多く、気管支喘息と同様に「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった喘鳴が聞こえます。
マイコプラズマ肺炎
肺炎マイコプラズマという病原体に感染することで発症します。2~3週間ほど潜伏した後に発症し、症状も段階的に変化していきます。
よくある症状として、発症初期は発熱や全身倦怠感、頭痛などが見られます。咳は最初の症状が出てから3~5日後くらいで現れることが多く、最初は乾いた咳が出ます。経過とともに咳は激しくなり、熱が下がったあとも咳だけが3~4週間ほど続きます。特に5~6歳ほどの子どもでは、徐々に湿った咳に変化していく場合があります。
百日咳
百日咳菌という病原体に感染することで発症します。7〜10日程度の潜伏期があり、風邪のような症状から始まり、徐々に咳が強くなっていきます。
よくある症状として、顔を真っ赤にしてコンコンと激しく発作性に咳き込み、最後にヒューと音を立てて息を吸う発作がみられます。乳児の場合、無呼吸発作など重篤になることがあり、生後6か月未満では命に危険がおよぶ可能性が高い疾患です。成人では、咳は長期間続きますが、比較的軽い症状で経過することが多く、受診・診断が遅れることがあります。
咳が長引く場合に考えられるその他の疾患
胃食道逆流症(逆流性食道炎)
胃の内容物が食道に逆流して、さまざまな症状を引き起こします。子どもの場合は特に生後2~6か月ほどでよく見られ、生後7か月以降は減っていくとされています。
授乳後にげっぷをさせずにすぐに寝かせてしまうと、嘔吐をすることがあります。また、嘔吐をしていない場合でも、胃の内容物が食道に逆流することで胃酸が食道や気道を刺激するため、咳を引き起こすことがあります。
アレルギー性鼻炎
花粉やほこり、ペットの毛などによってアレルギー症状が起こる病気です。
よくある症状として、水のような鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの鼻に関する症状が出るほか、寝ているときに鼻水が喉の奥へ入り込むことで咳を引き起こすことがあります。アレルギー性鼻炎の症状とともに咳が見られる場合には、アレルギー性鼻炎の治療を行うことで咳症状も改善する可能性があります。
心因性の咳
心理的なストレスによって、風邪やそのほかの原因がないにも関わらず咳が2週間以上続く場合には、心因性の咳の可能性があります。周囲のことがよく分かってくる(物心がつく)5歳以降くらいから生じる可能性が高まります。
熱などの風邪のような症状は見られず、痰の絡まない乾いた咳が出ます。就寝時には咳は出ず、日中に咳が出るケースが多いとされています。
子どもの咳き込み・嘔吐に関する、よくある質問
市販の咳止め薬は飲ませてよいの?
咳によって眠れない、咳き込み嘔吐で食べ物を口にできない場合などに、用法用量を守ったうえで一時的に咳止めを活用するのはひとつの手段です。しかし、咳止めはあくまで咳症状を和らげるもので、根本的な原因を治すものではありません。
また、咳は体が異物を排除しようとする防御反応でもあるため、咳止めを使わずに痰などと一緒にウイルスを体外に出したほうがよいケースもあります。
夜中に子どもが咳き込んで嘔吐したら、夜間救急などで病院を受診するべき?
小さい子どもは消化器官が未熟なため、咳き込んだ刺激で嘔吐してしまうことは珍しくありません。そのため、咳き込んで1~2回ほど嘔吐したあとでも、顔色や機嫌が問題なく、少し時間をあけて水分などがきちんと摂れている場合には、救急受診はしなくてもよいケースが多いと思われます。しかし、前述のチェックリストに当てはまる場合には、救急受診も検討しましょう。
たまに咳き込み嘔吐をするものの基本的には元気な場合、どれくらい咳が続いたら受診すべき?
咳き込み嘔吐後に元気な様子が見られる場合には、救急で受診する必要はあまりありません。しかし、咳き込み嘔吐が頻繁に見られる場合には、胃食道逆流症などの可能性もあるため、一度小児科を受診してみるのがよいでしょう。
まずは慌てず、子どもに言葉をかけてあげるのが大切
子どもが咳き込んで嘔吐してしまう原因として、気管支喘息などの呼吸器疾患や、インフルエンザなどの感染性の疾患などをご紹介しました。子どもの咳き込み嘔吐は珍しくないため、まずは慌てずに子どもに言葉をかけてあげることが大切です。また、その後の様子をきちんと観察して、必要に応じて病院の受診なども検討してください。