長引く咳や、寝るときに不意に出始める咳などに悩まされてはいませんか? 温度や気候の変化、風邪の治りかけなどで咳が止まらなかったりして、「この咳を早くどうにかしたい」と感じている方も多いはず。そんなとき、適切なツボを押すことによって、咳を鎮め、息苦しさを解消できたら気持ちが楽になるかもしれません。
今回は、鍼灸師の資格を持つ安野先生に、咳止めの効果が見込めるツボや、ツボ押しをする際のポイントなどについて伺いました。
- 教えてくれるのは…
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- 安野 富美子先生
- 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科・教授、同大学院保健医療学研究科鍼灸学専攻・教授(理学博士)
鍼灸師、東京大学医学部老年病学教室、財務省東京病院東洋医学センターなどを経て、2009年より現職。専門は、レディース鍼灸(妊娠期・更年期・美容など)。一般向けの著書に、『足から元気をつくる本』(講談社)『東洋医学でカラダと心をセルフケア! 』(主婦と生活社)などがある。「東洋医学ホントのチカラ」「ガッテン」「あさイチ」「NHKスペシャル」「あしたが変わるトリセツショー」(NHK総合)などに出演、鍼灸を広める活動を行っている。
[監修者]安野 富美子先生:https://www.tau.ac.jp/department/healthsciences/acupuncture/teachingstaff-s/
東京有明医療大学:https://www.tau.ac.jp/
この記事でわかること
- 咳止めに効果的なツボ
- ツボを押すときのコツや注意点
- ツボ押しの代用となるもの
咳が起こる原因
咳とは、空気の通り道である気道から、ちりやホコリなどの異物を排出させる際に生じる体の防衛反応です。ほとんどの咳は、異物が排出できれば自然に治まります。
なかには、ウイルスの感染などによる風邪や気管支炎などの呼吸器疾患で発症する咳もあります。気道の粘膜に付着したウイルスなどの病原体が増殖して起きた炎症が気道の奥のほう(下気道)にまで及ぶと、咳や痰(たん)などの症状が現れます。
なお、咳が長引く場合には、医療機関への受診を検討しましょう。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
- 咳が止まらない原因から対処法まで | 咳のセルフチェックリスト付き
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そのうち治るだろうと思っていた咳が長引くと、「原因はなんだろう、何か悪い病気だったら…」と不安になりますよね。風邪(上気道感染症)など感染症に伴う咳の場合には、休息を取って、自身の免疫によって細菌やウイルスを退治することが大切です。一方、熱がないにも関わらず、数日~2,3週間にわたり咳が止まらないケースも。こうした場合は何かしらの病気が隠れている可能性が高いため、医療機関を受診する必要があります。本記事では、咳の原因となる病気や医療機関にかかる目安について解説します。
ツボ押しで咳が和らぐ理由
東洋医学における「咳」は、気候の急激な変化を受けて、呼吸器をめぐる気の流れが逆になること(気逆)によって発症すると捉えられています。
咳に関連する呼吸器全般のツボは、手の「太陰肺経(たいいんはいけい)」という経絡(けいらく)に多く所属しています。経絡とは、東洋医学における、体のエネルギーである「気(※1)」や「血(※2)」の通り道を指します。
※1:生命を維持するために必要なエネルギー
※2:気によって全身をめぐる血液や栄養素のようなもの
ツボを刺激すると、ツボを介して経絡にも刺激が伝わり、気や血がスムーズに流れ出します。それにより、経絡につながった臓腑(内臓)が活性化し、症状の緩和につながると考えられています。
つらい咳を止めるのに効果的なツボ5選
咳を止める効果が見込めるツボを5つご紹介します。
寝るときに急に出始めた咳に対処したいときや、風邪や花粉症で咳が頻繁に出て困るときなど、咳疲れしてしまう前に、自分の症状に合わせたツボを押してみてください。
呼吸調整の作用がある「尺沢」
尺沢(しゃくたく)は、東洋医学における「肺」の働きや呼吸を調整する作用があるとされるツボで、咳をはじめ、痰が絡む、喉が痛む、喘息などの症状に用いられることが多いです。反対の手の親指をツボに当て、息を吐きながらゆっくり押していきましょう。
尺沢は、肘を曲げたときにできるシワの上、肘を曲げたときにできる腱のすぐ外側にあります。
肺の働きや呼吸を整える「孔最」
孔最(こうさい)は、東洋医学における「肺」の働きや呼吸に急変が生じた時に用いるツボとして知られており、風邪による急性の喉の痛みを伴う咳、喘息などに用いられます。
孔最は、尺沢から手首に向かって3寸(およそ指4本分)のところにあります。親指を当てるとズーンとした痛みを感じる場所です。
反対の手の親指をツボに当て、息を吐きながらゆっくり押していきましょう。当てた指で軽く揉むようにするのもOKです。
呼吸機能を高める「中府」
中府(ちゅうふ)は、「肺」の気が集まる場所にあるツボで、東洋医学における「肺」の働きや呼吸の機能を高める働き、呼吸筋の緊張を和らげる作用があるとされており、咳のほか、呼吸を楽にしたいときに用いられます。
中府は、鎖骨の外端の下のくぼみから親指1本分下に降りた場所にあります。もしくは、鎖骨を内側から触っていき、腕の骨とぶつかったところから親指1本分下の位置。触るとズーンとするような感覚があります。
押すときは、ツボと反対の手の中指を当て、呼吸に合わせてゆっくり押していきましょう。息を吸うと胸が広がり、吐くと胸が沈むのを感じながらゆっくりと刺激します。3~5呼吸ほど押したら、反対側も押しましょう。
反応が出やすいツボなので、咳が出ているときに押すと痛く感じることがあります。強く押しすぎないように気をつけてください。
寒気をやわらげる「大椎」
大椎(だいつい)は、邪気を追い払い、寒気をやわらげるといわれており、風邪のひき始めに刺激すると良いとされています。花粉症対策のツボとしても用いられるほか、肌荒れにも効果が期待できます。
大椎は、頭を前に倒すと突出する骨(第7頸椎)とその下(第1胸椎)の間のくぼみにあります。
中指をツボに当てて、息を吐きながらゆっくり数回押してみましょう。
また、大椎は温めることが効果につながりやすいツボです。押しにくいときには、カイロなどでツボの周辺を温めるとよいでしょう。
呼吸器の調子を整える「肺兪」
肺兪(はいゆ)は、咳などで凝り固まった背中の筋肉をゆるめ、呼吸器の調子を整えるのに役立ちます。体力のない方や体質的に呼吸器が弱いとされる方でも、このツボを刺激すると咳が治まることがあります。
肺兪は、左右の肩甲骨と背骨の間、肩甲骨の中心と同じ高さにあります。
誰かに押してもらうときは、上記の説明やイラストを参考にツボを押してもらいましょう。セルフケアの場合は、床に置いたテニスボールなどで刺激するとよいでしょう。
カイロを貼ったり、お灸をしたりするのもおすすめです。じんわりと温めるだけでも呼吸が楽になり、咳が治まることがあります。
ツボの正しい押し方とコツ
ツボを押す手順
① ゆっくり垂直に3~5秒かけて押す
② 3秒程度持続する
③ 3~5秒かけてゆっくりゆるめる
④ 3~5秒休む
⑤ ①~④を3~5回繰り返す
ツボ押しのコツ
ツボ押しをするときは「垂直」「持続」「集中」という3つの原則を意識してみましょう。
垂直:体の表面に対して垂直に指や手を当てることで、最も効果的に刺激が伝わる
持続:いきなり強く押すのではなく、ゆっくり段階的に押し、「気持ちよい」と感じる強さで3秒程度、持続させてから、再びゆっくりと段階的に力をゆるめていく
集中:押す部分に気持ちを集中させる
ツボ押しの注意点
ツボを押す際は、「強く押しすぎないこと」と「爪を立てて押さないこと」に注意しましょう。痛いけど気持ちよいと感じる程度の力で、指の腹で押すことを心がけてください。
また、他者のツボを押してあげる場合は、相手の呼吸に合わせて、吐くときに押し、吸う時に緩めるようにしましょう。特に高齢者へのツボ押しは、圧迫骨折や皮下出血を起こさないよう、強い力で押しすぎないよう注意してください。
下記に当てはまる場合、ツボ押しは避けたほうがよいでしょう。
・急性の病気で、症状が強い
・発熱症状がある
・出血性の病気を持っている
・皮膚に異常がある
・怪我が治っていない
・傷や炎症が起きている部位がある
・飲酒時、空腹時や満腹時
※妊娠中の方や血圧が高い方は、ツボを刺激する前にかかりつけ医に相談してください。
咳を止めるツボをつねに刺激したい、ツボ押しの代用となるものはある?
ツボは温めたり、お灸(温灸)や円皮鍼(貼る鍼)などで刺激したりしても効果を実感できることがあります。
ツボを温める
カイロ、ホットタオル、ドライヤーなどでツボを温めるのも有効です。ただし、やけどには要注意。心地よいと感じる温度でも、低温やけどの危険があるので、長時間温め続けるのは避けましょう。
また、ペットボトルの1/3に常温の水を入れ、沸騰する直前のお湯を2/3注ぎ(先にお湯を入れるとペットボトルが変形するので入れる順番に注意)フタをしっかり閉め、ツボ付近に力を入れずに軽く当て、「熱い」と感じたらすぐ肌から離すことを3〜4回ほど繰り返すのもおすすめです。
お灸を使用する
市販のお灸が手軽でおすすめです。煙の出ないものや火を使わないものもありますので、好みのものを探してみるのもよいでしょう。
円皮鍼を使用する
円皮鍼(えんぴしん)とは、丸いテープの真ん中に短い鍼(はり)がついた、貼る鍼の一種です。ツボに貼ることで、一定の強さで持続的にツボを刺激することができます。
咳を止めるツボに関する、よくある質問
ツボ押しで止まる咳、止まらない咳はある?
ツボ押しの効果が期待できるのは、気道の軽い炎症やストレス、乾燥や冷え、疲労などによって起こる咳です。こうした咳は、ツボを刺激すると、気道が潤ったりゆるんだりして止まりやすいと考えられています。
一方、高熱が出ている、咳が数週間以上続いている、夜間に汗が出る、胸が痛む、体重の減少や血痰、息切れなどがある咳には、ツボ押しの効果は期待できません。医療機関を受診しましょう。
咳を止めるのに即効性のあるツボはある?
手の太陰肺経上にあるツボは、東洋医学における「肺」を活性化し、咳を鎮めやすいといわれていますが、即効性については個人差があり一概にはいえません。
なお、咳は体の凝りや冷え、疲労、寝不足、ストレスなどにも影響されるといわれています。ツボ押しに加えて、規則正しい生活やストレス解消も心がけると、咳が止まりやすくなることもあるでしょう。
咳が止まらないときに、ツボ押し以外でできるセルフケアは?
咳は、喉の乾燥や刺激がきっかけで出やすくなるといわれています。水分で喉を潤す、マスクをつけるなどの対策で、気道の刺激となる乾燥や異物の侵入防止になり、咳が治まる効果が期待できます。空気が乾燥しやすい冬場には、喉をより潤しやすい市販の濡れマスクを使うのもよいでしょう。
喉が冷えている場合も、気道粘膜が刺激に敏感になって、痰や咳が出やすくなることがあります。タオルやネックウォーマーで首やのどを温めたり、胸にカイロを当てたりするのもおすすめです。
セルフケアでは咳が止まらないときは、必要に応じて医療機関の受診や、市販の咳止め薬の服用をしましょう。
咳を和らげるツボ押しに効果的なタイミングはいつ?
咳を和らげることを第一目的としてツボを押す際は、「咳が止まらない」「息苦しい」「痰が絡む」などの呼吸器症状が出ている、そのときに押すのがよいでしょう。
ただし、基本的には、ツボ押しは心身がリラックスしている状態で行うのが効果的。入浴後や就寝前などがベストタイミングです。
ツボ押ししてからどれくらいで効果を実感できる?
ツボ押しは、体が持つ自然治癒力をもとにしているため、体の状態によって効果の現れ方が異なります。
なお、ツボは繰り返し刺激すると効果が現れやすくなるといわれていますが、あまり頻繁に刺激すると慣れが起こり、刺激に対する反応が悪くなりますので、間をあけることが大切です。症状の状態に合わせてツボ押しを行って下さい。
咳がつらいときには、ツボ押しを活用しつつ、必要に応じて受診を
なかには深夜や早朝に咳がひどくなる方もいるでしょう。たとえば気管支喘息や咳喘息は、夜間や早朝に悪化しやすいといわれています。大人や高齢になってから喘息を発症した方は、喘息であることに気づかず、つらい咳を我慢している可能性もあります。なかなか治まらない咳にお困りの場合は、医療機関を受診してみましょう。