東洋医学では、季節ごとに「体に悪い影響を与えるもの=邪気(じゃき)」が存在するという考えがあります。冬の邪気は『寒邪(かんじゃ)』といい、冷えを感じやすいこの時期に保温や防寒が足りないと、心身に不調が生じるとされています。また、冬は尿や汗といった体内の水分の動きに影響を与える『腎(じん)』が弱るとも。
元気に冬を乗り切るためには、腎の働きを補う食材を上手に摂ることが大切です。スーパーで手に入る身近な食材を使った、「おうち薬膳」レシピを料理家・齋藤菜々子さんに教えていただきました。
- 教えてくれるのは・・・
-
- 齋藤菜々子さん
- 料理家・国際中医薬膳師
「今日からできるおうち薬膳」をモットーに、身近な食材のみを使ったつくりやすいレシピにこだわり、家庭で毎日実践できる薬膳を提案している。著書に、『体にいい食材帳』『基本調味料で作る体にいいスープ』(以上、主婦と生活社)などがある。
冬は体内の水分を司る「腎」が弱る! ダメージを補う食材は?
東洋医学では「寒邪(かんじゃ)」といって、寒さや冷えが体に悪い影響をもたらすとされる、冬。ぎゅっと縮こまる体のなかで、とくにダメージが蓄積されるといわれるのが「腎(じん)」です。
ここでいう腎は、西洋医学における「腎臓」の働きだけを指すのではなく、成長、発育、生殖に関する働きを生涯にわたって支える概念を含み、具体的には、泌尿器や生殖器などの働きも入ります。
齋藤さんによれば、腎が弱ることで、頻尿などの尿トラブルが起きたり、髪の水分が失われてパサついたり、耳鳴りがしたり、足腰がだるくなったりするなど、老化現象のような体の不調のサインが出始めるとのこと。
「季節に合わせて体をケアする薬膳の世界では、冬は腎の気を補える『補腎(ほじん)』の食材を摂ることをすすめています。鶏肉や豚肉、根菜類(長いも、れんこん、ごぼう)、ニラ、くるみ、エビのほか、黒ごまやキクラゲ、昆布といった黒色の食材をぜひ食べてほしいですね。いずれも、乾燥しやすい季節にうるおいを与えたり、滋養強壮に働きかけてくれたりする食材です」(齋藤さん)
「生薬が必須というわけではなく、季節や体調に合わせた食材をいただくだけでも薬膳になりますよ」と教えてくれた齋藤さん
日頃の食事にこれらを取り入れることで、おいしく「腎」の養生ができるそう。今回は、代表的な補腎の食材を使いつつ、尿をつくる腎臓のために意識したい“減塩”も同時に叶えてくれる「薬膳レシピ」を、3つ教えていただきました。
レシピ①:蒸し鶏のニラだれがけ
薬膳食材&減塩でおいしく味付けるコツ
■鶏肉:胃腸に負担がかかりにくく、体を温めて気を補う。
■ニラ:体を温め、発散作用によって気血の流れを良くする。
■味付け:香味野菜を使って香りを豊かにし、酢を効かせることで味にメリハリをつける!
材料(2人分)
- 鶏もも肉 小1枚(250g)
- ニラ 1/2束 (50g)
- 長ねぎ 1/3本
- もやし 1/2袋
- にんじん 1/3本
- 長ねぎの青い部分 1本分
- しょうが(薄切り) 3枚
- 酒 50ml
<A>
- 白いりごま 大さじ1
- しょうが(すりおろし) 小さじ1
- しょうゆ 大さじ1
- 酢 大さじ1と1/2
- 砂糖 大さじ1
- ごま油 大さじ1/2
つくり方
1.ニラは3mm幅、長ねぎはみじん切り、もやしはひげ根があればのぞき、にんじんは長さ5cmの細切りにする。ボウルにAを合わせ、ニラ、長ねぎを混ぜて「ニラだれ」をつくる。
2.鶏肉は、肉からはみ出た皮や表面についた余分な脂身を取りのぞく。厚い部分に浅く切り込みを入れて、厚さを均一にする。さらに、肉の繊維を断つように、数か所に浅く切り込みを入れる。
厚みを均一にすることで火がまんべんなく通り、繊維を切ることで肉が縮まずに仕上がる
3.フライパンに、もやしとにんじんを広げ、鶏肉の皮面を上にしてのせる。
水分が出やすいもやしを下に敷くことで焦げつきを防ぐ
4.長ねぎの青い部分、薄切りのしょうがをのせ、酒を振る。強火にかけ、煮立ったら蓋をして弱めの中火で8分加熱する。
蓋をしたら、強火から弱めの中火にして蒸し焼きに
5.もやしとにんじんの水気を切って、器にのせる。その上に食べやすい大きさに切り分けた鶏肉を盛り、ニラだれをかけて完成。
鶏肉の断面を見せるように盛りつけると見栄えもアップ
レシピ②:豚肉とキャベツのカレー煮込み
薬膳食材&減塩でおいしく味付けるコツ
■豚肉:体にうるおいを与え、肌やのどの乾燥をやわらげる。滋養強壮に優れ、スタミナアップにも。
■味付け:食材を焼き付けることで香りが増し、食べごたえアップ。カレー粉のスパイスで味にパンチを!
材料(2人分)
- 豚バラ薄切り肉 150g
- キャベツ 1/4個(250g)
- まいたけ 大1株(120g)
- にんにく 1かけ
- サラダ油 大さじ1/2
- 粗びき黒こしょう 適量
<A>
- だし汁 150ml
- しょうゆ 大さじ1
- カレー粉 小さじ2
- 酢 小さじ1
つくり方
1.キャベツはざく切りにする。まいたけは食べやすい大きさにほぐす。にんにくはみじん切りにする。豚肉は長さ4cm程度に切る。
2.フライパンに、サラダ油、にんにくを入れて中火で熱し、豚肉を加えて炒める。
豚バラ肉の代わりに豚こま切れ肉やロース薄切り肉などを使ってもOK
3.肉の色が8割ほど変わったら、キャベツ、まいたけを加えて炒め合わせる。全体をフライパンに広げて強火にし、あまり触らずに焼き付ける。
8割の目安。うっすらとピンク色が残る状態になったら……
腸を整え、体の巡りを助けてくれるキャベツとまいたけを投入
4.ところどころに焼き色がついたら、Aを加えてさっと混ぜ、煮立ったら蓋をして弱火で10分煮る。器に盛りつける際に、粗びき黒こしょうを振って完成。
カレー粉で味に深みを出すのも減塩対策に
レシピ③:ごぼうとにんじんのくるみみそ和え
薬膳食材&減塩でおいしく味付けるコツ
■くるみ:耳鳴りや膝の痛み、腰痛、髪のパサつき、肌の老化などに働きかける。
■味付け:くるみの食感と香りで食べごたえアップ!
材料(つくりやすい分量)
- ごぼう 1/2本(100g)
- にんじん 1/2本(80g)
- くるみ(素焼き、食塩無添加) 50g
- ごま油 大さじ1
<A>
- 本みりん 大さじ2
- みそ 大さじ1
つくり方
1.ごぼう、にんじんは長さ5cm程度の細切りにする。くるみは食感が残る程度に小さく刻む。
2.フライパンにくるみを入れて弱めの中火にかけ、乾煎りする。
ここでしっかり香りを出しておくのがポイント。少ない調味料でも食べごたえのある一品に
3.香りが出てきたらAを加えて中火にし、みりんのアルコールが飛ぶ程度にさっと煮立てる。
みりんは糖度が高いため、焦げないように注意して
4.別のフライパンにごま油を中火で熱し、ごぼう、にんじんを加えて炒める。
5.しんなりしたら、火を止めて3を加え、さっと和えれば完成。
食材それぞれの食感が楽しめる一品です
おいしい「腎」ケアメニューで、ポカポカ&うるうるの毎日を過ごそう
今回の3品に用いた補腎の食材(豚肉・鶏肉・ニラ・くるみ)は、いずれもスーパーで手に入るものばかり。これらを食べることで、体がうるおい、温まり、巡りも良くなって、さらには美容にまで働きかけてくれるとあれば、冬だけでなく、一年を通じて上手に取り入れていきたいもの。
尿トラブルや腎臓のケアを意識した“減塩”アイデアも満載の薬膳レシピで、今日からおいしい「腎」ケアを始めませんか。