2

ひとりで悩まないで。尿もれの原因・対処法を解説

自分の意思とは関係なく起こる「尿もれ」。頻尿と同様に、QOL(生活の質)の低下にかかわる、非常に悩ましい尿トラブルのひとつです。「知られたくない」「恥ずかしい」という思いから、医療機関に行きづらいと感じてしまう方も多いはず。しかし、40歳以上の女性の4割以上は尿もれを経験しているとの報告もあり、実際には男女問わずもっと多くの方が尿もれに悩んでいると考えられています。

本記事では尿もれのタイプや原因、対処法を解説するとともに、医療機関で行われる治療の概要についても紹介します。悩んでいる方はもちろん今は大丈夫という方も、尿もれのこと、きちんと知ってみませんか。

INDEX
尿もれのタイプは大きくわけて4つ
腹圧性尿失禁の場合は骨盤底筋のトレーニングを
タイプや重症度によって治療法はさまざま。まずは医療機関へ
「命に関わる問題ではないから」とあきらめないで

尿もれのタイプは大きくわけて4つ

一言で尿もれといっても、さまざまなタイプがあり、大きく4つに分類されます。それぞれの特徴や原因などを詳しくみていきましょう。

腹圧性尿失禁

腹圧性尿失禁は、咳やくしゃみをしたときや重い荷物を持ち上げたとき、運動中や階段を降りているときなど、お腹に力が入ったときに尿がもれる症状のこと。尿もれで悩む女性に最も多いのがこのタイプで、週に1回以上、腹圧性尿失禁を経験している女性は500万人にのぼるといわれます。

腹圧性尿失禁の主な原因は、排尿を調節する尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)を含む筋肉群「骨盤底筋群」が加齢や出産によって緩んでしまうこと。そのほか、日常的に重いものを持ち上げる機会が多い、あるいは便秘気味で排便時に強くいきむことが多いといったことも、骨盤底筋が緩む原因となります。

切迫性尿失禁

切迫性尿失禁は、急に尿意に襲われ(尿意切迫感)、トイレまで我慢できずにもれてしまうこと。時と場所を選ばずにトイレに駆け込みたくなるため、外出が不安になってしまうなど、QOLが著しく低下してしまうこともあります。

切迫性尿失禁の原因は、神経回路のトラブルがかかわっている場合とそうでない場合があり、前者は、脳梗塞(のうこうそく)や脊髄損傷など、脳や脊髄の障害が原因で起こるものです。脳から膀胱までの神経回路にトラブルが起こることで、尿の溜まり具合や尿を出してよいかどうか、膀胱や尿道を締めたり緩めたりする信号がうまく伝達できなくなり、切迫性尿失禁を引き起こします。

後者は、加齢による膀胱機能の変化が原因のひとつになることも。特に女性は閉経後、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量の低下によって膣などの粘膜の萎縮が起こると、膀胱機能が影響を受け、切迫性尿失禁や頻尿が引き起こされる場合があります。また、切迫性尿失禁のなかには、原因がないにもかかわらず、勝手に膀胱が刺激を受けて収縮し、突然尿意を感じてしまうケースも多々見られます。

そのほか、腹圧性と切迫性が混在した「混合性尿失禁」もあります。

切迫性尿失禁と頻尿は非常に密接な関係にあるため、ぜひこちらの記事もあわせてご覧ください。

1日何回トイレに行く?頻尿の定義と原因、対策を解説
日中トイレに行く回数が増えたり、就寝中に尿意を感じて何度も起きたり、「もしかして?」と思っても、なかなか人に相談しにくい「頻尿」の悩み。じつは、日中の頻尿に悩む方は約3000万人、夜間の頻尿に悩む方は約4000万人を超えるといわれています。頻尿そのものが命にかかわることはありませんが、QOL(生活の質)を著しく低下させる可能性もあり、きちんとケアをすることが大切です。

本記事では、そもそも頻尿とは何なのか、どのような原因で起こるのか、また、改善方法についても解説していきます。
https://helico.life/monthly/221112nyonayami-hinnyo/

溢流性(いつりゅうせい)尿失禁

“あふれて流れる“と書く、溢流性尿失禁。尿排出障害により、尿を出したくても出すことができないまま、溜めておくのが限界になった尿が、意図しないところで少しずつもれてしまう症状です。

尿排出障害が生じる代表的な病気に前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)があり、このタイプの尿もれは男性に多くみられます。そのほか、直腸がんや子宮がんの手術の後などに症状が見られる場合もあります。

機能性尿失禁

機能性尿失禁は、排尿機能に問題はないものの、認知症や体の動きが不自由なことで引き起こされる尿もれ。「トイレの場所を忘れてしまった」「体が思うように動かず、トイレまでたどり着けない」「着衣をおろすのが間に合わず、もらしてしまう」などのケースを指します。

腹圧性尿失禁の場合は骨盤底筋のトレーニングを

軽度の腹圧性尿失禁の場合、骨盤底筋のトレーニングによって症状が改善することがあります。骨盤底筋は、腹圧性尿失禁の説明でも触れた、骨盤の下部にある筋肉のことで、骨盤内の臓器を下から支えており、排尿や排便をコントロールする役割を持っています。尿もれが起きる前からトレーニングを実施することで、予防が期待できる場合も

ただし、骨盤底筋トレーニングは正しい方法で実施しないと効果がみられない可能性もあります。専門の医療機関を受診することで、医師や理学療法士から正しいトレーニング方法をレクチャーしてもらうことができるため、泌尿器科の受診を検討してみるのもよいでしょう。

骨盤底筋の鍛え方については、ぜひこちらの記事もあわせてご覧ください。

尿もれを予防&改善!無理なく続ける骨盤底筋の鍛え方
くしゃみやジャンプをしたとき、重いものを持ったときなどに、思いがけず尿がもれてしまう……。そんな症状で悩んでいませんか? これは骨盤底筋の筋力低下によって起こる尿もれで、「腹圧性尿失禁」といいます。女性に多く、ひとりで悩んでいる方も少なくない尿もれですが、症状が軽いうちならセルフトレーニングで改善が期待できます。本記事では、排尿コントロールに関わる、骨盤底筋を鍛える方法について解説します。
https://helico.life/monthly/221112nyonayami-kotsuban/

タイプや重症度によって治療法はさまざま。まずは医療機関へ

尿もれの程度やタイプによって治療法はさまざま。そのため、まずは医療機関で検査を受けることをおすすめします。診察では、「どの程度重症なのか」「体の機能は今どうなっているのか」「別の病気が隠れていないか」などを診て、治療方針を決めます。

とはいえ、泌尿器科を受診することに対してハードルが高いと感じる方もいると思いますし、実際のところ、尿のトラブルで医療機関を受診する女性は男性と比べて少なめです。しかし、外出や旅行、ひいては日々の暮らしを楽しめなくなるのは非常につらいもの。医師のもとで治療をすすめることは、豊かに日常を過ごすための第一歩になるはずです。
 
例えば腹圧性尿失禁は、先に記載した骨盤底筋トレーニングでの改善が見込めないときには、手術による治療が行われる場合も。また、切迫性尿失禁では、薬による治療のほか、下記のような生活習慣の改善を行います。

水分・塩分を摂りすぎない

水分や塩分をはじめ、利尿作用のあるカフェイン、アルコールを摂りすぎている場合は、食事内容などを見直し、改善をはかります

膀胱に尿をためるトレーニングを行う

トイレに行きたくなってもすぐには行かず、気を紛らわしながら我慢をして、膀胱を鍛えるトレーニングを行います。自宅など、すぐトイレに行ける状況で、少しずつ我慢できる時間が長くなるようにしていきます。

減量や運動を行う

肥満と尿もれは関連性があるとされているため、減量が効果的なケースも。例えば、夕方、散歩などの軽い運動をして尿もれや夜間頻尿を改善する場合もあります。

「命に関わる問題ではないから」とあきらめないで

QOLを大きく低下させてしまう可能性がある尿もれ。不安で外出が面倒になり、家にこもりがちになることで心と体の両面で健康状態に影響を及ぼすこともあります。「尿もれ自体は命にはかかわらないから」「歳だからしょうがない」などとあきらめずに、生活に悪影響が出ている場合にはぜひ医療機関(泌尿器科、内科、婦人科など)の受診を検討してみましょう。

市販の尿もれパッドなどを活用するのも一つの方法です。なお、生理用ナプキンで代用する方もいらっしゃるかもしれませんが、基本的には血液(経血)を吸収するものと尿を吸収するものとでは特性が異なるため、用途に合った製品を使い分けるのが望ましいです。

尿もれはなかなか周囲に相談しにくい悩みですが、じつは数多くの方が悩んでいます。尿もれにお悩みの方は、自身の生活がよりいっそう楽しいものになるよう、これを機に医療機関の受診を検討してみてください。

泌尿器科については下記ページで詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。

女性も安心して受診できる。「泌尿器科」はこんな場所
泌尿器科に対して、「なんとなく行きにくい」「男性の患者さんが多い」というイメージを持っている女性は少なくないと思います。でも、尿のトラブルは性別や年齢を問わず誰にでも起こりえるもの。泌尿器科は、女性はもちろん、子どものおしっこの悩みも相談できる診療科です。

そこで本記事では、女性には受診のハードルが高いと思われがちな、泌尿器科について詳しく解説します。「内診はあるの?」「診察は痛くないの?」などの疑問や不安について、女性と小児の泌尿器科「自由が丘ウロケアクリニック」院長の佐藤亜耶先生に教えていただきます。
https://helico.life/monthly/221112nyonayami-urology/
教えてくれたのは・・・
吉田 正貴先生
桜十字病院 上級顧問・泌尿器科医長

すっきりぐっすり排尿外来を開設。
1981年熊本大学医学部卒業。1987年同大学院医学研究科修了。熊本大学医学部泌尿器科准教授、国立長寿医療研究センター手術・集中治療部長などを経て、2017年より同センター副院長、泌尿器外科部長。2021年より桜十字病院上級顧問、泌尿器科医長。日本排尿機能学会元理事。「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」の作成委員長をはじめ、各種排尿障害ガイドラインの作成委員を務めた。

CREDIT
取材・文:HELiCO+ノオト編集部 イラスト:naohiga
2

この記事をシェアする

関連キーワード

HELiCOとは?

『HELiCO』の運営は、アイセイ薬局が行っています。

アイセイ薬局が掲げるビジョンに
ヘルスデザインカンパニー(Health Design Company)というものがあります。
『あなたとともに、あなたの健康を描く』
そういう思いが込められています。
健康を描くのに必要なのは「薬」だけではありません。だから、わたしたちは、調剤薬局企業でありながら、健康情報発信も積極的に行っています。

HELiCOをもっと知る

Member

HELiCOの最新トピックや新着記事、お得なキャンペーンの情報について、いち早くメールマガジンでお届けします。
また、お気に入り記事をストックすることもできます。

メンバー登録する

Official SNS

新着記事のお知らせだけでなく、各SNS限定コンテンツも配信!