【エッセイ】万城目流、頭痛との付き合い方
私と頭痛との付き合いは、結構長い。
小学校に入学して早々に、頭痛持ちである己を認識した。小二の頃から子ども用の頭痛薬を飲んでいた。頭痛は二時間ほどで治まるが、半年に一度くらいどうにも堪忍ならぬ頭痛に襲われるときがあって、そういう場合はこっそりと学校のトイレで吐いた。吐くと頭痛がすうと消えていく。それが私の頭痛のパターンだった。
私は猫背である。
これがすべての原因であると思っている。
肩と首で必要以上に血管と筋肉にストレスを与え、それが脳に訴えとして届き、結果、「この状態やめてください!」と頭痛というかたちで脳が知らせてくる。
生まれてこのかた頭痛になったことがない、という人がいる。その手の人はほぼ100%の確率で姿勢がいい。
私見であるが、猫背の人間はよくも悪くも味があることが多い。私は味のある男でいたいから、猫背をこの先も続けていく。頭痛は「MY WAY」の望まれぬ伴走者ということだ。
頭痛を止めるためのいちばんの処方。
それは明白である。
仕事をしないことだ。
毎日パソコンを睨みつけ、同じ姿勢でうんうんとうなっていることが、目に、首に、肩に、背中に、不健康な負担を与え続ける。その証拠に、旅に出てみる。
パソコンの前から離れた途端、頭痛の気配が雲散霧消することに、見立ての正しさを実感する。
だが、人は寅さんのようには生きてはいけない(いや、寅さんも働いているけど)。いかにして、頭痛と付き合うか。そのために知恵を絞らなければならぬ。
現在、私は三つの手段を用いて、頭痛に立ち向かっている。
一つ目は、頭痛薬。
いくつかの市販薬を試し、いちばん自分に効き目が高いものを常備している。ちなみに仕事をしているときは飲まない。なぜなら、頭痛薬が効き、痛みがやわらぐ――。それはつまり、脳の感覚が鈍くなった証だからだ。喜怒哀楽の感情もいくらかセーブされるらしい。小説を書くためには、頭をフル回転させないといけない。ハンデを背負って挑むことはできないので、執筆仕事の際は頭痛薬を飲まないようにしている。
二つ目は、週一で整骨院に通う。
以前、どれだけ薬を飲んでも、一週間近く朝から晩まで頭痛が取れないときがあって、その原因は執筆の緊張から肩と首がガチガチに固まってしまったことにあった。以来、整骨院に通っている。おかげで長期間続く頭痛はなくなった。
整骨院に通う場合は、同じ人に担当してもらうことをお勧めする。首や肩へのその日のアプローチがどう効いたか、というフィードバックを伝え続けることで、同じ時間でも、より効果的な施術を受けられるようになる。
三つ目は、メガネの調整。
これは日々のパソコン仕事から来る頭痛に苦しんでいる、メガネ使用者への提案だ。
せいぜい五十センチ先のモニターを見るために、必要以上に度の強いメガネをかけてませんか? それが目への負担になってませんか? ということで、パソコン仕事用にあえて視力0.7くらいの、度を抑えたメガネを作る。さらにはフレームを軽くする。岸田総理のメガネのフレームは何と驚異の1.8グラム。私も欲しい。でも、フレームだけで七万円近くするらしい。
これらを組み合わせることで、私は毎日パソコンに向かって仕事していても、頭痛薬の使用を月一、二度程度まで下げられた。
もっとも、いちばんの頭痛予防は運動。血流をよくして、肩と首まわりの筋肉をやわらかくすること。それだけは間違いありません。
万城目 学(まきめ・まなぶ)
1976年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。2006年のデビュー作『鴨川ホルモー』を始め、『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』など映画化・テレビドラマ化された作品も多い。2022年発行の最新エッセイ『万感のおもい』(夏葉社)の中では自身の頭痛についての著述がある。
ヘルス・グラフィックマガジンvol.47
「頭痛」より転載(2023年3月15日発行)