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全身の健康に影響が!? 忘れず受けたい「歯」の健診

「少し歯が痛いけれど、歯科医院に行くのは面倒……」「ここ数年、歯科健診を受けていない」など、受診や口内のメンテナンスを後回しにしている方は少なくないのではないでしょうか。代表的な口内のトラブルである虫歯や歯周病は、命に関わることがないからと軽視されてしまうことも。しかしじつは、残っている歯の本数が多いほど健康寿命が長くなることや、歯周病が、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞、認知症などを悪化させてしまうことがわかってきています。

本記事では、虫歯や歯周病のメカニズムを解説するとともに、口内の健康が全身の健康に及ぼす影響、歯の健診の重要性について解説します。

歯の健診でどんなことがわかるの?

現在日本では、1歳半と3歳、小学生から高校生までの間、成人後は一部の職業の方において歯科健診が義務づけられていますが、それ以外の方は特に歯科健診の受診に関する決まりがありません。

自治体によっては成人の歯科健診への補助を行っている場合もありますが、「虫歯や歯痛がなければ歯科健診は受ける必要がない」と考え、健診を受けていないという方もいるのではないでしょうか。

しかし、歯科健診は虫歯の有無だけを確認しているわけではありません。

  • 残っている歯の本数
  • 歯並びやあごの関節の状態
  • 歯肉の炎症の有無
  • 口内の粘膜の状態(口腔がんの有無)

など、さまざまなことを確かめているのです。

また、歯が多く残っている方、あるいは歯が少なくてもきちんと義歯を入れている方は、そうでない方と比較して健康寿命(健康上の理由で日常生活が制限されたり、なんらかの助けを必要としたりせず、健康に生活を送れる期間)が長くなるという研究結果が出ており、以前にも増して、より歯の健康の重要性に関心が高まっています。

2大トラブル・虫歯と歯周病、それぞれどんなことが起きている?

歯のトラブルといえば、虫歯と歯周病が代表的です。それぞれ口内でどのようなことが起きているのでしょうか。

【虫歯】虫歯菌がつくり出す酸で歯が溶けた状態になる

虫歯とは、虫歯菌(ミュータンス菌)が口のなかの糖質をエサにしてつくり出す酸によって、歯が溶けた状態になることです。歯は、歯の神経と呼ばれる歯髄(しずい)、歯の主な成分である象牙質(ぞうげしつ)、歯の表面を覆うエナメル質という大きく3つの組織で構成されており、虫歯になると、いちばん外側のエナメル質から徐々に溶かされていきます。

なかでも乳歯は、歯の表面を覆うエナメル質や歯そのものが弱く、虫歯になりやすいため要注意です。「乳歯はいずれ生え変わるから」と考える方もいるかもしれませんが、虫歯を放置してしまうと永久歯の質や生え方(歯並び)に影響がでるため、きちんと治療する必要があります。

また、一度虫歯になった歯を完全に元に戻すことはできないため、予防に努めることや初期虫歯のうちに治療をすることがとても重要です。

虫歯菌は、口のなかに長時間糖質が残ることによって酸を生み出すため、歯磨きをおろそかにすることはもちろん、糖分が多く粘着性の高い食べ物(チョコレートやキャラメルなど)を頻繁に口にする、長時間、食べ物を口に入れ続けるといった習慣は虫歯を引き起こしやすいといえます。

【歯周病】歯肉に炎症が起き、歯を支える骨が溶けることで歯を失う

歯周病は、徐々に症状が進行し、最後には歯が抜けてしまう病気です。

まず、食べかすをエサにする微生物が集まってできる歯垢(しこう)が口のなか、特に歯と歯肉(歯ぐき)の境目に長時間残ることで細菌に感染し、歯肉に炎症が起こります(歯肉炎)。

すると、歯と歯肉(歯ぐき)の間の歯肉溝の溝が深くなり、歯周ポケットといわれる隙間が広がっていきます。さらに進行すると歯肉が破壊され、歯周炎に進行してしまうのです。歯周炎になると歯を支える歯槽骨(しそうこつ)が溶け、歯がグラグラしたり、抜けたりする原因となります。

厚生労働省の「令和4年歯科疾患実態調査結果」によれば、溝の深さが4ミリ以上の歯周ポケットを持つ人は47.9%。年齢が上がるにつれ、割合が増加することもわかっています。

歯周病のリスクを下げるためには、日々の適切な歯磨きで歯垢をきちんと取り除くことが重要です。

負の連鎖が起こることも!? 歯周病は全身の健康に影響する

歯周病の恐ろしいところは、歯が抜けてしまうからだけではありません。近年、歯周病がさまざまな全身疾患などと密接に関係していることがわかってきています。場合によっては、命に関わるような病気のリスクを高めてしまうことも。具体的にどのような病気と関係するのかを解説していきます。

糖尿病

歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を与えるため、負の連鎖が起こることがあります。

糖尿病の患者さんは血中の糖の増加によって免疫が低下する傾向にあるため、感染性の病気である歯周病にかかりやすくなります。また、糖尿病の症状である唾液の分泌量の低下も、歯周病を招いたり進行を早めたりする原因となります。

そのほか、歯周病によって炎症性の物質が体内で増加・活性化して、血糖値を下げる役割をもつインスリンの働きが阻害され、血糖のコントロールが難しくなり、糖尿病が悪化してしまうケースも多くみられます。

動脈硬化(心筋梗塞・脳梗塞)

歯周病菌が口内から血中に入り込むと、血管の内側(血管内膜)にくっつき、炎症を引き起こします。すると、そこにお粥状の物質(アテローム性プラーク)が蓄積されていき、動脈硬化へとつながります。結果的に、血管が詰まりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞など、命に関わる病気のリスクを高める場合があります。

認知症

認知症と歯周病も関連性があるといわれています。認知症にはいくつかのタイプがあり、最も多いのがアルツハイマー型認知症と呼ばれるものです。この認知症では、アミロイドβ(ベータ)という物質が脳に沈着することで神経細胞が死滅し、脳が萎縮するといわれています。近年、このアミロイドβの生成・沈着が歯周病菌によって増加することがわかってきています。

関節リウマチ

歯周病菌は、関節リウマチの進行にも密接に関わっています。また、関節リウマチに罹患すると、手や指が動かしにくいという症状が出ることもあるため、歯磨きが十分にできず、歯周病を悪化させてしまうケースもあります。どちらも相互に関係しているため、並行して治療を実施していくことが望ましいです。

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

本来、食道を経由して体内に入るべき食べ物や唾液が、何らかの原因で気管に入ってしまうことがあります。その際、歯周病菌を中心とした口内の細菌が一緒に肺に到達し、感染することで起こるのが誤嚥性肺炎です。特に高齢者に多く起こります。

早産・低体重児出産

これまでは、歯周病によって炎症性物質が血中に増えると、子宮を収縮させる作用のある物質(プロスタグランジン)の分泌が促され、それにより胎児が十分に成長する前に子宮が収縮し、早産につながるといわれていました。

しかし近年は、妊娠中に歯周病が悪化することで、歯周病菌が血液中をめぐって産科器官に到達し、子宮の血行を阻害することによって早産を誘発する、あるいは歯周病による腸内細菌への悪影響が早産の原因になっているのではないかといわれており、現在も研究が進められています。ただしこれらは動物実験レベルで確認されていることであり、人間でも同様のことが起きているのかは、これからの研究で明らかになっていく部分といえます。

肥満

肥満の方は歯周病が重症化してしまうケースが多いといわれています。脂肪細胞は炎症性物質を多く分泌するため、血液を介して口のなかに物質が到達すると、炎症をさらに悪化させてしまうためです。なお、歯周病になると肥満のリスクが高まることは、動物実験において確認されていますが、人間においても同様かどうかはまだ明らかになっていません。

予防の基本は日々の歯磨きと+αのケア

虫歯や歯周病は、歯磨きや食生活などを含めた「生活習慣」を見直すことで予防が可能です。そこで最も重要となるのが、日々のオーラルケア。歯ブラシの選び方や適切な磨き方は年齢等によっても異なります。日本歯科医師会が紹介している年代ごとに適切な歯磨きの方法も、ぜひ参考にしてみてください。
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また、歯の生え方、磨き方の癖などによっても注意したいポイントが変わってきます。健診後、改めて歯科医院を受診し、自分に合ったブラッシングの方法を指導してもらうとよいでしょう。

なお、ブラッシングだけで歯垢を取りきることはできません。歯間が狭い場合にはデンタルフロス(糸ようじ)を、歯間が少し広がり始めている場合には歯間ブラシ等を併用した+αのケアがとても重要です。加えて、舌の上にも細菌などが多く残っていることがあるため、舌磨き用のブラシなどを使用するとよいでしょう。

「予防」のためにも、まずは定期健診を!

口腔内のトラブルを予防するには、自身の口内の状態を知ることが重要です。遺伝的に歯周病になりやすい方は、10代後半から20代前半で歯肉炎や歯周炎などが急速に進行することがあります。そのため、最低でも1年に1回は歯の健診を受けるようにしてみましょう。60代以降は半年に1回程度が望ましいです。

ただし、理想的な健診スパンは口内の状態などによっても変わるため、まずは一度歯の健診を受け、どのくらいの頻度で健診を実施するのがよいか、歯科医と相談してみるのがよいでしょう。

「歯医者での治療は嫌い」という方こそ、「虫歯や歯周病になる前の健診」を心がけて、治療をしなくて済む状態を目指すことをおすすめします。

 
「歯」の健康に関して、新たな発見はありましたか? 虫歯や歯周病などは多くの場合、予防ができるものです。トラブルが起きてから治療をするのではなく、定期的な歯の健診を通して口内の健康を保っていきましょう。

教えてくれたのは・・・
和泉 雄一先生
東京医科歯科大学 名誉教授/総合南東北病院 オーラルケア・ペリオセンター長/福島県立医科大学特任教授

東京医科歯科大学歯学部、ジュネーブ大学医学部歯学科、鹿児島大学歯学部などを経て、2007年に東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授に就任、2018年より名誉教授、2019年よりオーラルケア・ペリオセンター長、2021年から福島県立医科大学特任教授。2015年~2017年には日本歯周病学会の理事長を務めた、歯周病の治療・研究のスペシャリスト。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:石山好宏
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