「病気は早期発見が重要」とよくいわれます。しかし、実際には、初期段階では自覚症状がほぼない病気もあり、検査を行わないと早期発見が難しいケースも多々あります。そこで重要な役割を担っているのが「健康診断」。客観的な数値で体の状態をとらえる健康診断は、異常を早めに検知できる機会です。
本記事では、定期健康診断で実施する検査項目と、それらの目的などを解説します。
なぜ毎年健康診断をするの?
「体に不調がないのに健診を受けることに意味はあるの?」と思う方もいるかもしれませんが、健康診断を毎年実施することで、体の異常を早期に発見できる可能性が上がり、早い段階での治療によって完治可能な段階で病気が見つかったり、命が助かったりすることもあります。
一年検査を怠ると手遅れになる病気もあります。症状が悪化してから病気が見つかり、治療に時間やお金がかかる場合もあるため、そうなる前に定期的に体の状態をチェックすることが大切なのです。
なお、会社に勤めている方は、毎年健康診断を受診していると思いますが、定期健康診断は、事業者(会社)が労働者に対して1年に1回実施しなければならないと、法律(労働安全衛生法)で定められています。
個人事業主や専業主婦・主夫のように会社に所属していない方は、自治体が実施する特定健康診査(対象:40~74歳の国民健康保険加入者)を年に1回受診することが推奨されています(※)。
(※)ただし後述の定期健康診断に比べ内容はコンパクトになります。
主な検査項目と、検査からわかること
定期健康診断で実施する検査項目は、以下のような観点で定められています。
- 異常を放置してしまうと重大な病気につながる
- 多くの方がなりやすい異常/かかりやすい病気である
- 慢性的な異常/病気である(風邪のような一時的なものは対象としない)
- 薬や生活習慣などで治療可能である
では、定期健康診断ではどのような検査を行い、その結果から何を確かめているのでしょうか。問診から各検査まで解説します。なお定期健康診断を受ければ、国民の受診義務である特定健康診査の内容をカバーしているため、改めて受診する必要はありません。
既往歴や業務歴の確認
問診表に記載する既往歴や業務歴は、これらが原因となって検査結果の異常を生じさせているかを判断・記録するために必要となります。たとえば職業柄、化学物質や放射線物質を頻繁に扱う場合などには、それが原因で体を壊す可能性が生じます。そのため、既往歴や業務歴を定期的に記録に残しておくことが重要なのです。
自覚症状や他覚症状の確認
自覚症状や他覚症状(医師が診察を行って気づいた点)は、後述の各検査からわかる病気以外のものにかかっている可能性をみるために確認します。たとえば、聴診器を用いて心臓の音を聞き、心雑音が聞こえた場合には、心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)が疑われる、といったケースがあります。
身長・体重・腹囲の検査
身長や体重を測ることでBMI(体格指数)を算出し、「肥満」あるいは「やせ」の状態になっていないかを確かめます。肥満は、高血圧や脂質異常症、心筋梗塞、糖尿病などを含む生活習慣病を引き起こすため、そのリスクを判断することを目的としています。腹囲はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群:メタボ)の診断基準として用いられます。メタボとは、内臓脂肪型肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり、心臓病や脳卒中を起こしやすい状態のことをいいます。
一方、やせすぎも体に悪影響を及ぼします。体がだるいといった状態だけではなく、月経が止まってしまう、将来的に不妊や骨粗しょう症のリスクを高めるといった点も問題です。
視力・聴力の検査
視力は近視か否かを判断し、聴力は耳の聞こえに異常がないかを確認する目的があります。これらは大きく健康を損なう要因にはならないと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえば聴力の低下は認知症を引き起こす大きな要因にもなるため、必要に応じて補聴器の使用を検討するなど、状態を把握することで適切な対応ができる場合もあります。
胸部X線検査、喀痰(かくたん)検査
主に呼吸器(肺)に異常がないかがわかります。胸部X線では肺炎や肺結核、肺がんなどを見つけられる可能性があります。喀痰(かくたん)検査は痰を採取してその成分を確かめる検査で、がん細胞(肺がん)がないかを確かめたりすることが可能です。ただし喀痰検査は、胸部X線検査で異常が見られない等、一定の条件を満たしており、医師が検査不要と判断できる場合には省略されます。
血圧測定
高血圧あるいは低血圧になっていないかを確認します。高血圧は動脈硬化を進行させるため、脳梗塞・心筋梗塞など、血管障害による重大な病気のリスクを高めます。低血圧は主に女性に多く、立ちくらみやめまい、倦怠感などの体調不良を引き起こします。
貧血検査
血液検査のなかでも、特に赤血球に含まれるヘモグロビンの量を確認することで、貧血かどうかを判別するもので、ヘモグロビンの量が少なければ少ないほど重症です。貧血のなかでも半数以上を占めるのが、ヘモグロビンの合成に必要な鉄分が足りなくなる鉄欠乏性貧血で、特に閉経前の女性に多くみられます。
肝機能検査
血液検査によって肝臓の機能・病気を確認します。肝機能検査からわかる肝臓の病気の代表例には、肝臓内に中性脂肪が脂肪の粒として蓄積される脂肪肝、あるいはアルコールの過剰摂取によるアルコール性脂肪肝やウイルス性肝炎などがあります。
いずれも、長期間異常が続くと肝臓が硬くなる肝硬変につながる恐れがあり、肝硬変になると栄養素の分解や体内で発生する有害物質の無毒化といった肝臓の機能が低下するため、早期発見が大切です。
血中脂質検査
脂肪分や糖質の摂りすぎなどによって、血液中の脂質の量が増えることを脂質異常症といい、血中脂質検査ではこれに該当しないかどうかを確認しています。
血中の脂質を表す項目は、
- LDL(悪玉)コレステロール
- HDL(善玉)コレステロール
- 中性脂肪(トリグリセリド)
の3つがあります。
悪玉コレステロールは肝臓でつくられたコレステロールを全身に運ぶ役割があり、増えすぎると動脈硬化を引き起こし、その状態を放置すると心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まってしまいます。
一方、善玉コレステロールは、体内をめぐりながら余分なコレステロールを回収する働きがあるため、動脈硬化を抑えてくれます。悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やすためには、食生活の見直しが重要です。オリーブオイルやあじ、さんま等に含まれるDHAやEPAは、善玉コレステロールを維持しながら悪玉コレステロールを減らす働きがあります。
また、中性脂肪は増えすぎると動脈硬化の原因となるほか、内臓脂肪として蓄積されていきます。
血糖検査
血液中に含まれる糖(ブドウ糖)の量を確かめて、高血糖・糖尿病の可能性を探ります。血糖値は食事を摂ってから30分程度で上昇しますが、健康な方は大体2時間以内には元の数値に戻ります。しかし、糖尿病の場合には血糖値が下がらなくなってしまうため、空腹時の血糖値を測定することで糖尿病の疑いがあるか否かを確認できるのです。より正確な数値で判断するためにも、「健康診断の前に数時間食事を摂らない」という指示はしっかり守るよう心がけましょう。
尿検査
尿は腎臓でつくられるため、尿に含まれる成分を調べることで腎臓や尿路の異常が確認できます。尿たんぱくがみられる場合には腎臓に異常があると考えられます。また、体内の血糖が増加し、尿中に糖が排出されるため、尿糖がみられた場合には糖尿病(高血糖)が疑われます。
心電図検査
心臓が発する電気信号を検出することで、心臓が正常に機能しているかどうかを確かめるのが心電図検査です。この検査では、脈が不規則に打つ、あるいはゆっくり/速く打つ不整脈や、心筋(心臓を動かす筋肉)に血液が届かなくなる心筋梗塞などがないかがわかります。
それぞれの項目における詳しい検査結果の見方や改善方法、詳細は「この数値ってどんな意味?健診結果の見方を解説」も参考にしてみてください。
- この数値ってどんな意味?健診結果の見方を解説
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健康診断は、多くの方がかかりやすく、放置すると命に関わる病気の兆候がないかを確かめています。しかし、健康診断を受けるだけで満足している、あるいは結果を見ても自分の体がどんな状態か、どのようなことに気をつけたらよいかわからないという方もいるのではないでしょうか。https://helico.life/monthly/230708healthcheck-results/
本記事では、健康診断で行う主な検査項目と目的、それぞれの数値の見方、日々の生活で気をつけるべき点などについて解説します。
このほか、自治体などで補助が受けられる「対策型がん検診」があります。対策型がん検診は、受診できる年齢や間隔が法律で定められており、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんを対象として検査(検便やバリウム検査など)が実施されます。
対策型がん検診については「年代別・健康診断「オプション」の選び方 ~女性編~」でも紹介しているので、ぜひご覧ください。
- 年代別・健康診断「オプション」の選び方 ~女性編~
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健康診断・人間ドックを受診する際、オプション(追加)検査をつけるかどうか、考えたことのある方は多いのではないでしょうか。オプションにはさまざまな種類があるため、自分はどの検査を受けるのがよいのか、選択に迷うこともあると思います。特に女性は「婦人科領域」と呼ばれるような女性特有の病気があります。この記事では女性が検討したいオプション検査(気をつけたい病気)に注目して解説します。https://helico.life/monthly/230708healthcheck-option-forwomen/
なお人間ドックなどに含まれるがん検査は「任意型がん検診」とよばれ、「対策型がん検診」のように年齢などによる縛りはありませんが、費用は高額となります。
健康診断を「受けるだけ」では意味がない!
健康診断は、いわば模擬試験や定期試験のようなもの。こうした試験は受けるだけでは不十分で、きちんと返ってきた答案を見直し、できなかった問題を解き直すのが重要であるのと同様に、健康診断も検査結果を踏まえてきちんと生活改善や治療を行っていくことが、もっとも重要です。改善のためにどのようなことに気をつければよいかわからないという方は、健康診断を受けた医療機関等で質問をしてみるのもよいでしょう。
これまで何気なく健康診断を受けてきた方もいるのではないでしょうか。定期的に受ける健康診断、その検査結果をきちんと理解することは、自分の体の状態を知ることにつながります。結果を踏まえて、よい部分は維持をできるように、数値に異常がみられた場合にはきちんと生活の改善や治療を行い、「意味のある」健康診断にしていきましょう。
- 教えてくれたのは・・・
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- 和田 高士先生
医学博士。1981年、東京慈恵会医科大学卒業、85年同大学大学院修了。同大学第4内科講師、同大学附属病院総合診療室診療医長、東京慈恵会医科大学健康医学センター長、日本人間ドック学会副理事長、日本生活習慣病予防協会副理事長などを経て、2023年より現職。東京慈恵会医科大学 客員教授。日本健康・医療情報研究所所長。