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食中毒を防ぐ!野上優佳子さんに聞くお弁当づくりのコツ

気温や湿度が上がるにつれて心配になるのが食中毒。特にお弁当は、気をつけてつくったつもりでも、「ご飯が冷めきっていなかった」「おかずの汁けが十分にきれていなかった」など、ちょっとしたことで食材が傷んでしまう可能性も。せっかくつくったお弁当を食べて食中毒を起こしてしまうのは悲しいこと。安心して食べられるお弁当をつくるためには、どのようなことに注意すればいいのでしょうか。

3児の母であり、お弁当づくり歴35年を超える、弁当コンサルタントの野上優佳子さんに、食中毒を防ぎながら、お弁当づくりを楽しむコツを教わりました。

教えてくれるのは・・・
野上 優佳子さん

料理家・弁当コンサルタント。中学時代から自分のお弁当をつくりはじめ、3人の子どもたちのお弁当づくりを含めると、お弁当歴は足掛け35年以上。その経験に基づいた実用性の高いレシピと工夫が好評を博し、新聞、雑誌、TV、ラジオ、Webなど多くのメディアで活躍中。著書に『スープジャーで楽するおべんとう生活』(笠倉出版社)、『野上優佳子のお弁当おかずの方程式』(ワニブックス)、『野上さんちの超ラクチン弁当』(学研プラス)など多数。

食中毒はなぜ起こる?

食中毒とは、食中毒の原因となる細菌やウイルスなどが体内に侵入し、腹痛や発熱、吐き気などが起こった状態を指します。特に、梅雨の時期から夏にかけての高温多湿な環境下では、食中毒菌が増殖し、食中毒が発生しやすくなるので注意が必要です。

「当たり前のことですが、お弁当づくりで大事なのは、“食材を傷ませないこと・菌をつけないこと・菌を増やさないこと”です」(野上さん)

買い物からお弁当を詰めるまでの間に、食中毒菌がつくリスクをできる限り減らし、そして増やさないようにすることが、食中毒予防の重要なポイントとなります。

【準備編】買い物・お弁当箱選びから食中毒対策を意識

調理前にできる2つのポイント

食中毒を防ぐために、調理の準備段階からできることがあります。

[その1]買い出しの際は「買う順番」を工夫

食材は、新鮮なものを選び、新鮮なうちに持ち帰るのが鉄則。生ものの取り扱いには特に注意が必要です。

スーパーへ買い物に行ったとき、皆さんはどんなふうに店内を回っていますか? 精肉・鮮魚売り場でメイン食材を選んでから、ほかの売り場に向かう方もいると思いますが、その順番で回ると、最初にかごに入れた肉や魚が傷みやすくなってしまいます。

買い物では、最後に肉や魚などの生ものを選ぶようにすると、傷みの原因となるドリップが出るのを防ぐことができ、食中毒のリスクを減らせます。

野上さん

精肉のなかでも、ひき肉は特に傷みやすいので、帰宅してすぐに調理できる余裕がある日に購入を。スーパーから家まで、移動に時間がかかる場合は、保冷状態で家に届くネットスーパーを頼るのもおすすめです。

[その2]お弁当箱選びも重要なポイント

お弁当箱それぞれに特徴があるので、扱いやすさや必要なサイズを考えて選びましょう。食中毒対策として特におすすめのものは以下になります。

A.お弁当箱自体に仕切りがあるタイプ

本体のなかが仕切られていて、それに合うよう、ふたにパッキンがついているタイプ。密閉性が高く、持ち運びの際の汁漏れを防ぐことができる。

野上さん

おかず同士がぶつかり合うと、水分が出やすくなり、その水分がお弁当を傷みやすくし、食中毒菌を増やす原因となる場合があります。このタイプのお弁当箱であれば、おかず同士が仕切りで区切られているため、水分が出にくいです。

B.保冷剤内蔵型

ふた自体が保冷剤になっているタイプ。冷気が上から下へ伝わり、お弁当をまんべんなく冷やすことができる。

C.曲げわっぱ

スギやひのきなどからつくられているため、通気性がいい。食品の余分な蒸気を逃したり、水分を吸ってくれ、食中毒菌が増殖しにくい環境を保ちやすい。

D.ステンレス製

熱伝導率がいいので冷気も伝わりやすく、ご飯やおかずの熱が冷めやすい。また、表面が傷つきにくいため、におい移りしにくく、汚れもつきにくい。

野上さん

保冷剤を使う場合は、お弁当箱の上にのせると効率よく冷やせます。見落としがちなのが、保冷剤の汚れ。保冷剤は使ったら洗い、再度凍らせるようにしましょう。

【調理編】道具は清潔に!調理の順番・食材の大きさ・水分に着目

調理道具に関する3つのポイント

調理前の手洗いはもちろん、包丁、まな板、菜箸などの調理器具も清潔なものを使いましょう。お弁当づくりでは、普段何気なくやっている動作を見直しながら、ちょっとした配慮や工夫を加えることが、食中毒の予防につながります。

[その1]スポンジはこまめに替える

スポンジは菌の温床になりやすいので、使い終わったらスポンジ自体をよく洗い、2週間に1回を目安に新しいものに変えるとよいでしょう。食器などを洗うスポンジと、肉、魚の調理で使った道具を洗うスポンジは、別にするのがおすすめです。包丁は刃の部分だけでなく、柄の部分もしっかり洗うのがポイントです。

[その2]蛇口のレバーに注意

調理中は、蛇口のレバーにも注意。生肉などを触ったその手でレバーを握ってしまうと、そこから食中毒菌が増殖する可能性があります。可能であれば、食材を触っていない腕などでレバーを操作しましょう。

野上さん

蛇口のレバーは盲点。レバー自体もこまめに洗って清潔に保ちましょう。

[その3]菜箸は使い回さない

無意識にやってしまいがちなのが、菜箸の使い回し。調理に使った菜箸を、そのままお弁当の盛りつけに使っていることはありませんか? 調理用と盛りつけ用の菜箸は分けて使用するのがベストです。2種類の菜箸を使い分けるのが面倒な場合は、キッチン用のアルコール除菌スプレーを吹き付けたペーパータオルで、菜箸の先を丁寧に拭いてから盛りつけに使いましょう。

野上さん

アルコール除菌スプレーを吹き付けたペーパータオルを用意し、お弁当箱におかずを1種類詰めるごとに、菜箸を拭くようにすると安心です。

調理に関する6つのポイント

おかずの調理で意識したいのが、
「食材から出る水分を抑えること」
「食中毒菌がつかないようにすること」
「食中毒菌の増殖を防ぐこと」
の3つ。

そのためには、調理のときに心がけたいポイントがあります。

[その1]調理する順番は「野菜」→「肉や魚」

調理は、野菜→肉や魚の順に。傷みやすい肉や魚はあとにしましょう。

[その2]食材は細かく切り過ぎない

食材は細かく切るほど、切り口から水分が出やすくなるため、大きめに切るのがおすすめです。

[その3]野菜は加熱する

野菜は生よりも加熱したほうが安心。また、ゆでるよりも焼いたほうが、水けが飛びやすいです。

野上さん

野菜はシンプルに焼くのが◎。野菜の甘みが増しておいしくなり、彩りとしても使えます。

[その4]乾物を活用する

乾物には吸水性があり、食材とあえると余分な水分を吸ってくれます。風味も増すので一石二鳥。

野上さん

とろろ昆布、かつお節、すりごま、焼きのり、砕いたナッツなどを常備しておくと便利。汁けが出そうな野菜のおひたしや浅漬けに、さっとあえる、詰める前に下に敷く、上から振りかけるなどの使い方ができます。

[その5]抗菌作用のある食材を利用する

青じそ、しょうが、レモン、梅干しなどは一般的に、抗菌効果(菌の増殖を抑える効果)があるといわれています。ただし、殺菌効果があるわけではないので、過信は禁物。

野上さん

野菜の煮物やあえものなどの味つけを、抗菌作用のある食材に変えると、おかずが傷みにくくなり、味のアクセントにもなります。上に挙げたもののほか、わさび、マスタード、お酢などもおすすめです。

[その6]前もって仕込んでおくのも◎

肉や魚は、買ってきてから時間を空けずに調味料をもみ込んで下味をつけておくと、日持ちがしやすくなり、朝の調理時間も短縮できます。

野上さんは、カレー粉とヨーグルト、みそとみりんなどを合わせて、鶏もも肉などの肉を漬け込むことが多いそう。冷蔵で3日間保存でき、冷凍保存も可能。冷凍した場合は、夜のうちに冷蔵庫に移して解凍させておけば翌朝すぐに調理ができます。

鶏もも肉は、カット済みのものを購入すれば、包丁やまな板を使わなくて済むため、自分でカットするよりも食中毒菌の増殖を抑えることができます。

「カレーヨーグルト漬け焼き」(左)と「みそみりん漬け焼き」(右)

野上さん

肉に味がしっかりなじみ、食感も柔らかくなり、焼くだけでいいので、お弁当に限らず普段のおかずにも重宝します。ごぼうや大根などの根菜を一緒に漬け込んでもおいしいですよ!

【盛りつけ編】汁けを拭き、食材を冷ますひと工夫を

詰めるときの3つのポイント

お弁当を詰めるときにも、さまざまな工夫をこらすことで、より安心してお弁当づくりを楽しめるようになります。

[その1]汁けを拭き取ってから詰める

煮物やおひたし、ゆで野菜などを詰めるときは、必ずペーパータオルで汁けを抑えましょう。また、ご飯やおかずはしっかり冷ましてから詰めてください。温度が高いままふたを閉めてしまうと、お弁当箱のなかに蒸気がこもり、傷みやすくなります。

野上さん

ゆで野菜、浅漬け、煮物などについている汁けが、傷みの原因になる可能性があるので、必ずペーパータオルで吸い取って。

[その2]大きなバットを用意して、まとめて並べておくと◎

朝の忙しい時間に、つくりたてのお弁当を完全に冷ますのは難しい……。そんな方におすすめしたい、とっておきの方法があります。まず、朝起きたら調理を始める前に、ごはんだけをお弁当箱に詰めて、ペーパータオルをふんわりとかぶせておきます。こうすると、水分が適度にとれて、ホコリも入りません。

その後、おかずをつくったら、網を敷いたバットに並べます。網を敷くことで通気性がよくなり、すばやく温度を下げることができます。おかずが冷めたら、お弁当箱に詰めていきましょう。

野上さん

つくったおかずをそれぞれ小皿に入れるより、網を敷いたバット1枚に並べていったほうが、置き場所をとらず、おかずも冷めやすく、洗い物も減らせ、効率的です。

[その3]抗菌シートを使うのも一案

できあがったお弁当にのせて使う、抗菌シートも市販されています。抗菌シートには、「接触型」と「拡散型」があり、「拡散型」は、お弁当全体に抗菌効果を発揮。「接触型」は、接触している面のみに抗菌効果を発揮します。

野上さん

ごはんとおかずを一緒に入れた一段弁当のときは「拡散型」、ごはんとおかずが分かれた二段弁当のときは「接触型」を使うなど、お弁当箱の形状に合わせて使っても◎。

【豆知識】そのほかにも!知っておきたい食中毒予防策

意外?お弁当に不向きのNG食材

お弁当は「持ち運ぶ」という特性があるゆえ、不向きな食材もあります。

生野菜

トマト、きゅうり、レタスなど、水分の多い生野菜は避けたほうが無難。レタスでおかずを仕切るのもNGです。どうしても生野菜を摂りたい場合は、容器を別にして。プチトマトはへたの回りに雑菌がついているので、必ずへたを取り、ペーパータオルでよく拭きましょう。

野上さん

食中毒のリスクを考えるなら、無理して生野菜を持っていかない、というのも選択肢のひとつです。

練り製品

ちくわやかまぼこ、カニカマなどの練り製品は、あくまでも冷蔵品。常温で数時間たってから食べるお弁当には不向きです。定番の「ちくわきゅうり」は、生野菜と練り物の組み合わせなので、夏場は特に避けた方がよいでしょう。

野上さん

ちくわは要冷蔵なのに、それを忘れてお弁当のおかずに入れてしまいがち。必ずチリチリ音がするまで加熱してから入れましょう。

チャーハン

ハムやソーセージ、野菜など、細かく切った具材が入っているため、時間の経過とともに水分が出やすく、食中毒菌が増殖しやすいというリスクがあります。

冷凍したおかず

家で冷凍したおかずを、凍ったまま詰めて保冷剤代わりにするのは避けて。解凍するうちに、食中毒菌が増殖する可能性も。お弁当に入れるなら、お弁当用に開発された「自然解凍OK」の表示がある冷凍食品を使いましょう。

手づくりと市販品のハイブリッド型もあり

家からおにぎりだけをつくって持って行き、市販のスープやコンビニのサラダを組み合わせる。あるいは、汁ものを入れたスープジャーを持って行き、おにぎりはコンビニで買うなど、手づくりと市販品を組み合わせた「ハイブリッド型」弁当もおすすめ。特に夏場は、食中毒にならないことを第一に考えましょう。

野上さん

食事は毎日のことだからこそ、無理をしすぎないことが大切。栄養バランス100点満点のお弁当を目指そうとしなくてOKです。

【番外編】野上流!見栄えするお弁当の詰め方

お弁当は詰め方が大事! コツをつかめば、おかずカップや仕切りを使わなくても、バランスよく詰めることができます。「お弁当箱におかずを詰めていくことが何よりも大好き」という野上さんならではの、アイデア満載の詰め方を教えていただきました。

ごはんのあとは、おかずを「立てかける」「差し込む」方式でととのえる

  1. ごはんをお弁当箱の半分くらい詰める。
  2. 肉巻き、卵焼きなど、形がしっかりしているおかずを、ごはんに斜めに立てかける。
  3. ゆで野菜や焼き野菜を、残りのスペースに差し込むように詰める。
  4. 野菜と野菜の間に、かつお節などの乾物を差し入れて水分を吸わせる。
  5. ごはんの彩りが寂しければ、黒ごまなどをふる。
  6. ごはんの脇に、ごはんのお供になるような酢の物や漬け物をのせる。
野上さん

すべてのおかずが見えるように配置するのがポイント。コンサート会場のように、観客(おかず)の顔がすべて見える配置にすると、見た目がグッとにぎやかになり、食欲がわくお弁当になるんです。どんな形のお弁当箱でも基本は同じです。

野上さん

おかずの味移りが気になる場合は、青じそや焼きのりを仕切りとして使いましょう。

 
何よりも大切にしたいのが、「お昼に食べたお弁当で、夕方まで元気に過ごすこと」と野上さん。愛情をかけて手づくりしたつもりなのに、お弁当が原因で食中毒になってしまったら元も子もありません。

安心してお弁当を食べてもらうためには、たとえば、「生野菜が心配ならお弁当に入れない」「凝ったおかずは入れず、極力シンプルにする」「彩りのためのプチトマトはやめて、紅しょうがや梅干しに。または彩りはこの際、気にしすぎない!」など、割り切って考えることも重要です。まずは、体調を崩さないことを優先しましょう。

また、おかずの種類が少なくても、同じ色のおかずが並んでいてもいいのがお弁当。「食べたいものを入れること」も、午後の活力につながる重要なポイントです。

「お弁当で摂れなかった栄養は、朝と夜で食べればOK」。そんなおおらかさも、お弁当づくりを毎日続けるための秘訣。食中毒に気をつけながら、「おいしかった!」と喜んでもらえる、もしくは自分自身が楽しめるお弁当を目指しましょう!

CREDIT
取材・文:川端浩湖 写真:藤原葉子 編集:HELiCO編集部+ノオト
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