食欲の秋がやってきました。食べ物がおいしい季節を存分に楽しみたいですよね。しかし、なかには「ちょっと食欲がないな……」「胃腸が疲れているかも」という人もいるかもしれません。じつは秋は、胃腸の調子を崩しがちな時期でもあります。冷たい食べ物や飲み物を口にすることが多い夏の疲れが、秋になって出てきやすいためです。
そんなときのために知っておきたいのが、胃腸の働きを改善する「ツボ」。どのツボをどんなふうに刺激するとよいのか、解説していきます。
食物の吸収にかかわる「脾」と「胃」
消化機能にかかわるといえば、「胃」と「腸」が真っ先に思い浮かぶと思いますが、東洋医学では、食物の吸収には「脾」と「胃」がかかわり、脾や胃の持つ働きを高めることで、消化機能を改善できると考えられています。
ただし、ここでの脾と胃は、臓器としての「脾臓」や「胃」とイコールではありません。東洋医学でいうところの臓腑(ぞうふ)、いわゆる「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」は、臓器そのものを指すだけではなく、各臓器が持つ働きや思考、精神活動なども含めた概念的なものです。ちなみに、五臓は「肝・心・脾・肺・腎」の5つを、六腑は「胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦」の6つを指しています。
「脾」と「胃」がうまく働かないと、どうなる?
脾は四肢、唇、涎(よだれ)、口などと関連があります。そのため、脾の持つ働きが損なわれれば、食べ物の味がわからなくなったり、涎が多くなったりといった症状が出ます。さらに脾は、全身に気血を巡らせる働きもあります。そのため、食欲不振が長く続くと、水分代謝も悪くなり、むくみや吐き気なども現れやすくなります。
ツボ押しによる日々のセルフケアで、脾と胃の機能を整えていくことが大切です。関連するツボの場所と刺激法について、解説していきましょう。
ツボ刺激のやり方は?
ツボ押しの方法は「軽く押して、離す」という3~5秒程度の刺激を5回ほど繰り返します。押すときに爪を立てると皮膚を傷つけてしまいますので、指の腹を使いましょう。
大切なのは、くれぐれも気持ちがよい範囲にとどめること。「症状を改善させたい」と思うあまりに、押す力が強くなったり、ツボ押しの回数が多くなりすぎたりすると、体に思わぬ負担をかけてしまうので注意してください。
ツボ押しのよいところは「いつでも、どこでも行えること」。胃腸の調子がすぐれないときは、ぜひツボ押しを試してみてください。ただし、食後すぐには行わないこと。食事を終えてから少し間を空けて行うようにしましょう。
胃腸をいたわるツボ5選
胃腸に痛みやもたれを感じるときや、食べすぎてしまったときなどに効果を発揮する5つのツボをご紹介します。ツボの周辺で「押すと痛いけれど、気持ちよい」場所があれば、そこがポイントです。体の反応を見ながら、ツボを探してみてください。
ツボ①:胃の働きを改善する「中脘」
ツボとツボを結んだ線を「経絡(けいらく)」と呼び、胃に影響する経絡のことを「胃経(いけい)」といいます。胃経に関係するツボのなかでも重要とされるのが、「中脘(ちゅうかん)」です。
中脘はみぞおちとヘソの中間点に位置しています。胃の調子が悪いときに軽く押してあげると、胃腸の働きが改善されます。
ツボ②:食べすぎには「不容」
みぞおちの付け根に、肋骨のカーブの頂点があります。そこから肋骨に沿って指3本分下がったところに「不容(ふよう)」は位置しています。
食べすぎてしまい、胸が詰まった感じがするときには、不容のツボ押しがオススメです。中脘とセットで刺激すると、よりよいでしょう。
ツボ③:胃酸の分泌を促す「足三里」
胃経のツボで、胃の活動を促進するのが、「足三里(あしさんり)」です。すねの外側で、膝の皿の外側のくぼみから指4本下で小指があたるところに位置しています。
足三里への刺激は、胃酸の分泌を促します。「胃の調子が悪いな」と感じるときに押してみましょう。
ツボ④:急な痛みには「梁丘」
「梁丘(りょうきゅう)」は膝の皿の外側で、上端から指3本分上のところにあるツボです。胃が差し込むように痛いときや下痢がひどいときなど、急性期には、梁丘のツボを刺激してみてください。症状の緩和が期待できます。
ツボ⑤:胃痛や下痢には「公孫」
足のツボ「公孫(こうそん)」は親指側の側面で、親指の横にある骨の出っ張りから、かかとのほうに指3本分の位置にあります。胃が痛く、しかも下痢もしているようなときには、公孫へのツボ押しを行ってみるとよいでしょう。
胃腸をいたわるおすすめの養生法
胃腸を健康に保つためには、なんといっても普段から「腹八分」を心がけることが重要です。胃に負担がかかる暴飲暴食は避けましょう。
注意したいのは、あまりにも食欲不振が長引いたり、体重が減少し続けたりするケース。この場合、悪性腫瘍など重大な疾患が隠れている可能性があるので、消化器内科を受診するようにしましょう。
東洋医学では、それぞれの臓腑が感情にも影響を及ぼすと考えます。脾の場合は「思慮」で、思い悩みが過ぎると、胃に不調をきたします。悩み事があるときに食欲がなくなるのは、まさに脾の働きが損なわれているからにほかなりません。気持ちをリフレッシュさせる時間を意識的にとることもまた、養生の一つといえそうです。
今回は、胃腸をいたわるツボ押しや日々の養生を解説しました。日々のセルフケアを行うことで胃腸の調子を整え、味覚の秋を楽しみましょう。
- 教えてくれたのは…
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- 髙田 久実子先生
- こどもと女性のためのめぐり鍼灸院 院長
鍼灸師、全日本鍼灸学会認定鍼灸師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー。25年以上東京女子医科大学東洋医学研究所鍼灸臨床施設に勤務(現在は非常勤)、2019年に千葉県松戸市で「こどもと女性のためのめぐり鍼灸院」開院。現代医学と東洋医学の観点から患者さんに適した施術を行う。痛みやコリだけでなく女性のライフステージに合わせた施術や小児はり、顔面神経麻痺の鍼治療にも力をいれている。