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「目が見えるしくみ」と「目の健康」について

私たちは五感を活用して、外の世界の情報を得ながら生活しています。なかでも視覚から受け取る情報はとても多く、目は重要な役割を果たしています。一方で、スマートフォンやパソコンの普及により、目を酷使している方も少なくありません。本記事では、目が見えるしくみや、目が悪くなるメカニズム、目を守るために注意したい2大ダメージについて解説します。

教えてくれるのは…
内野 裕一先生
ケイシン五反田アイクリニック 副院長

慶應義塾大学 医学部 卒業。東京電力病院 眼科科長やハーバード大学医学部などを経て、2022年慶應義塾大学眼科学教室 特任講師、ケイシン五反田アイクリニック 副院長に。

「目が見える」しくみと、「目が悪くなる」メカニズム

私たちは、目のなかに取り込んだ光を、電気信号に変えて脳に伝えることで視覚情報を得ており、その構造はしばしばカメラにたとえられます。
 
光を通して屈折させるレンズの役割を担うのが「角膜」と「水晶体」フィルムにあたるのが「網膜」です。角膜や水晶体を通過して、屈折した像のピントが網膜面上に合うことで、ものがはっきりと見える状態になります。

網膜面上にピントが合うかどうかは、角膜や水晶体(レンズ)の屈折力と、レンズ前面から網膜までの距離によって決まります。

そのほかにも、目にはさまざまなパーツがあり、それぞれが「ものを見る」ために欠かせない働きを担っています。

  • 角膜(かくまく)… 光の入り口に当たる透明な組織。光を屈折させて目のなかに送り込む
  • 水晶体(すいしょうたい)… 直径約10mmのレンズ部分。厚みが変化して焦点距離を調整する
  • 網膜(もうまく)… 光をキャッチする視細胞が集まった薄い膜
  • 虹彩(こうさい)… 伸び縮みして瞳孔を広げたり狭めたりすることで、水晶体を通る光の量を調整する
  • 瞳孔(どうこう)… 虹彩に囲まれた中心部分。光の通り道
  • 硝子体(しょうしたい)… 眼球内を満たし、球状の形を保たせているゲル状の物質
  • 毛様体(もうようたい)… 虹彩から続く組織。ここの筋肉(毛様体筋)の収縮によって水晶体の厚みが変化し、ピント調節が行われる
  • 強膜(きょうまく)… 角膜とつながる不透明な硬い膜
  • 脈絡膜(みゃくらくまく)… 網膜に酸素や栄養を送る毛細血管が豊富なところ
  • 黄斑(おうはん)… 網膜の中心部で、形や色を見分ける細胞(視細胞)が特に密集しているところ
  • 視神経乳頭(ししんけいにゅうとう)… 眼球の外に伸びる視神経が集まったところ
  • 視神経(ししんけい)… 網膜の視細胞がとらえた情報を電気信号に変えて脳に伝えるところ

私たちの目は通常、カメラでいうオートフォーカス機能が備わっており、無意識のうちにピントを調節しています。このオートフォーカス機能が働かなくてもピントが合う状態を「正視(せいし)」と呼びます。

屈折異常って、どんな状態?

一方、正視以外の状態を「屈折異常」といい、「近視」「遠視」「乱視」はこれにあたります。

近視

近視は、何らかの原因によって眼球が前後に伸び、それにより目に入ってきた光のピントが網膜の手前で合ってしまう状態です。遠くのものがピンボケ状態となりますが、近くのものははっきり見ることができます。ただし、どれほど近づければはっきりと見えるかは、近視の度合いによって異なります。

遠視

遠視は、網膜よりも後ろ側でピントが合う状態です。遠視は遠くのものははっきりと見え、近くのものが見えにくいと考えられがちですが、じつは遠近両方ともはっきりと見ることができません。

ただし、30代ごろまでは調節力(オートフォーカス機能)が強いため、遠視の状態を無意識で調節して正常な見え方を保つことができます。つまり、遠視の人であっても、遠視に気づいていないケースが多々あるのです。

乱視

乱視は、角膜や水晶体が歪むことによって、光が目に入ってくる角度ごとにピントが合う位置が異なり、1点にピントが合わず、ものが何重にも見えてしまう状態です。角膜や水晶体の歪み方は人によって異なります。

老眼(ピント調節力の低下)

40代ごろになると悩み始める人が多い「老眼(老視)」は、近くのものが見えにくい状態を指しますが、遠視とは異なります。

レンズの役割を果たす水晶体は、周囲の筋肉によって、近くを見る際はレンズを分厚くし、反対に遠くを見るときにはレンズを薄くしてピントを調節しています。しかし、この調整力は加齢とともに衰えます。そのため、40代ごろから徐々に手元の作業などで目が疲れやすくなるのです。これが、老眼です。

元々近くにピントを合わせる際により多くの調整が必要となる遠視の場合、ピント調節機能の衰えで、老眼の症状を早くに自覚します。一方、近視の場合は元々近くにピントが合いやすいため、老眼の症状を自覚するのが遅いといわれています。

成長期に外で遊ぶことで近視予防に?

では、このような屈折異常はなぜ起こるのでしょうか。近視は、眼球が前後方向に長くなり、ピントの位置が網膜からズレることで起こりますが、眼球が伸びる要因は厳密にはまだわかっていません。

ただ、眼球が伸びやすい時期はわかっており、いわゆる成長期と同時期だと考えられています。そのため、一般的には20歳ごろまでに近視にならなければ、その後近視になる可能性は低いとされています。

また、近視は遺伝的な要因が非常に大きく、両親が近視の場合は子どもも近視になる可能性が高いことがわかっています。

詳細なメカニズムはまだ解明されていませんが、近方作業(目に近い位置で作業をすること)で眼球が長くなり近視の原因になることも事実です。スマホやPC、ゲームなどで目が疲れたときは意識して遠くを見て、目を休めてあげるようにしてください。

また最近は、屋外で過ごす時間が長いと近視になりにくいこともわかってきています。屋外にいると自然と遠くを見るため目によいという側面もありますが、近視予防に最も大きな影響を与えているのが、太陽光に含まれる「バイオレットライト」です。バイオレットライトは、紫外線に近い波長を持っています。この光が目に入ることで、近視の進行を抑える遺伝子が活性化されることがわかっています。

しかし、多くの窓ガラスは紫外線を遮断すると同時に、波長が短いバイオレットライトも遮断してしまうため、屋内にいる場合は窓を開けないとバイオレットライトを浴びることはできません。近視が起こりやすい成長期に、しっかりと屋外で過ごすとよいでしょう。

目の2大ダメージ「紫外線」と「乾燥」に注意

ただし、日常生活において目にダメージを与える2大要因は「紫外線」と「乾燥」といえるため、屋外で過ごす際、紫外線には注意が必要です。

とはいえ、紫外線を避けるために毎日サングラスをして過ごす必要はありません。じつは、頭上からの紫外線が目に入る量はそこまで多くはないのです。特に注意すべきなのは、雪のなか、あるいは海でレジャーを楽しむ際の、下(雪面や海面)からの反射による紫外線です。

長時間紫外線にさらされると、角膜や結膜が炎症を起こし、雪目(雪眼炎)を発症します。紫外線を浴びた直後にはあまり自覚症状はありませんが、数時間後に目の異物感、まぶしさや痛み、結膜炎による充血などを引き起こすほか、涙が止まらなくなることなどもあります。

スキー場や海水浴場、標高が高い場所に行く際には、紫外線をカットできるサングラスやゴーグルなどを着用するようにしましょう。

乾燥が起きやすい「3つのコン」

また、目に傷がつきやすくなるため、乾燥にも要注意。特に乾燥が起きやすいシチュエーションといわれているのが「エアコン」「コンタクトレンズ」「パソコン」の「3つのコン」です。

夏はクーラーの風や除湿器などで空気が乾燥します。また、冬は元々空気が乾燥しているところにさらに暖房などをかけることで、より乾燥した状態になります。

コンタクトレンズは目の表面の水分を奪ってしまうため、着用は最長でも1日12時間ほどにとどめましょう。

パソコン作業は、集中しているとまばたきが減るほか、モニターを置く位置によっては目線が上がり、目が乾燥しやすい状態となります。パソコンによる目への影響については、VDT症候群に関するページで詳しく紹介していますので、そちらもご覧ください。

乾燥は目の疲れなど、さまざまな症状を招きます。環境を整える、あるいは眼科を受診し、ドライアイの治療を受けることを検討してみるのもよいでしょう。

目の疲労が体や心にも影響する!?「VDT症候群」とは
私たちの生活に欠かせなくなったパソコンやスマートフォン。毎日長時間、これらの画面と向き合わざるをえない職種もたくさんあります。日々のディスプレイ作業が原因で、目だけでなく全身や精神面にまで影響を及ぼすのが「VDT症候群」です。本記事では、少しでも負担を減らすための「仕事環境改善のポイント」なども交えながら、VDT症候群に関する基礎知識をお伝えします。
https://helico.life/monthly/240910eyetrouble-vdtsyndrome/

ものが見える日々は、目の健康あってこそ!

目は、とても繊細な調整をおこない、私たちの暮らしを支えてくれています。しかし、視覚情報にあふれた環境によって、あなたも知らずしらずのうちに目を使い過ぎているかもしれません。HELiCOの今特集「見すごさないで、目の不調」を通じて、あらためて目の健康について一緒に考えていきましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:福田玲子
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